「め、冥界行の必要がない……?」
「そう、必要がないのさ」
唐突に告げられた、今までの前提全てを覆すかのような台詞。
それは俺の口から思わず溢れ落ち、墓守さんの言葉を聞くことのできない王女様の耳にも届き……。
「どういう……ことですの?詳しく説明してくださいませ」
「ちょっ王女様近い近い怖い怖い!!?」
能面のような表情を張り付けた彼女が、目と鼻の先ほどの距離まで近寄ってくる……という、微妙にホラーな光景を作り出すことになったのであった。王女様顔怖っ!?
そんなわけで、一度王女様に落ち着いて貰うように説得をする時間を挟んでから、改めて墓守さんに向き直る俺達である。
さっきの状況を作り出した当人である彼は、こちらの行動に何をするでもなく立っていたが……どちらかといえば現状を面白がっているような?
いやまぁ、顔とかハッキリわからないため、雰囲気でなんとなくそんな気がするなー……程度の認識であるわけだが。
「では改めて説明に戻るけど。現状、冥界行を敢行する必要性は全くない。必要はないのに冥界行をやろうとしているから、現状はどっちとも言えない……というわけだね」
「説明がさっきのそれから一ミリたりとも前に進んでない気がするんだけど?」
「おおっと、それは失礼。……とはいえ、現状の説明としてはこれ以上の必要性もない、というのも確かなんだけどね」
「はい?」
「今までの説明から理由を推測できるから、ということですわね?」
「そう、その通り」
で、その空気感のまま、彼は先ほどと同じような意味の言葉を繰り返した。
必要のない冥界行を強行しようとしているため、現在の王女様の状態が微妙なことになっている……みたいなそれは、しかしそうなってしまっている起因的なものにはまったく触れていない。
ゆえに、説明としては片手落ち……となるはずだったのだが。
AUTOさんを筆頭に、何人かはすでにこの冥界行が無意味なモノである理由に察しが付いている様子なのであった。
……ふむ、今までの説明から導き出せる、ねぇ?
「まず、冥界行は
「そりゃ……そうだな。一応、転ばぬ先の杖的なあれで、予め滅びの予兆が来る前から備えておく……みたいなこともできそうだけど」
「その場合、冥界への道は開かないよ。言ってしまえばこの冥界行、
「いわゆる『運命変転』。不運を幸運に変える効果に限定されてるけど」
「……そのネタわかる人いるのかな?」
一つ目の解説として持ち出されたのは、そもそもの冥界行の意義について。
滅びの迫った時にのみ開かれる冥界の扉は、しかし平時にはその扉を固く閉ざしている。
……冥界そのものが滅びと近しいものなのだから、逆を言えば冥界への道が開いていること自体が滅びの予兆でもあるわけで。
そりゃまぁ、なんにもない時には閉ざしているのが普通と言えば普通だろう。
代わりに、冥界にある財宝を予め地上に運んでおく、みたいなことはできないと。
また、冥界はこの世ではなくあの世、今の世界ではなく別の世界である。
本来地続きでない二つの世界が繋がることにより、一時的に
それはつまり、冥界行のやり方を工夫すれば、
……実際にそんなことをできるのかは不明だが、可能性として残る以上は警戒して然るべきだろう。
ゆえに、冥界は必要な時──国の滅びが間近であるその時にしか、その門戸を開くことはない……と。
「……ん?ってことはもしかして、扉の開閉って……」
「基本的には自動判断だよ。国が滅びそうで、かつ王族がやってきた時だけ……みたいな感じでね」
(……まさかあの皿って正常な動作だったのか……?)
ここまで話して、疑問が一つ。
今が冥界行の必要のない時──すなわち平時であるのなら、そもそも俺達はこの場所にやって来られないのではないか、というもの。
……本人は微妙にはぐらかしたが、恐らく『滅びの時に開く』以外に『彼が開く』というパターンもあるように思われる。
まぁ、それはそれとして正常な起動の時もメダルではなく皿で鍵を代用する、ってことができそうに聞こえたのは問題な気がするが。
ともあれ、必要がないのにここに居られるのは、ほぼ確実に彼が招き入れたがため。
となれば、どうして招き入れたのか、というのが問題となる。
それを説明するのが──、
「確かに、今現在国の滅びは間近にないのでしょう。──ですから、その
「……なるほど、私か」
ここにいる二人の王家の血の者、なのであった。