「私もちょっとは有名人。……まぁ、時々荒らしたりしてるから仕方ないんだけど」
「ねぇ?俺今初めて聞いたこと幾つかあるんだけど???」
「気にしてはいけない。命が幾つあっても足りない」
「なんでこの子、チャレンジ系に飛び入り参加とかしてんの???」
「……気にしちゃダメ、って言ってるのに」
事はこの辺りに一つの噂が流れていたことが原因、ということになるらしい。
なにかしらのチャレンジ企画をするたび、それを荒らしていく謎のロリっ子。
普段はその傍らに冴えない男性を侍らせているその少女は、その男性が近くに居ないと、決まって店の催し物を完膚なきまでにクリアし、景品を奪い去っていく……。
すなわち男性はリミッターであり、良心である。
ゆえに、かの男性を捕まえるようなことがあってはならない……。
という、なんかなまはげかなにかみたいな噂話になっているTASさんに戦慄しつつ、「あれ?よく考えたら俺の扱いも変?」と首を傾げること暫し。
再起動をはたした俺は、改めてTASさんの手元のスマホを覗き見る。
……最初のうちは、噂の人物を見つけ出そう、みたいな感じの話だったのが、次第に噂の人物に会おう・会って戦おう……みたいな話になっていき。
ちょっと前の投稿では、『リアルTASさんとしりとりしてみた。』みたいなタイトルの動画が現れており、そこからはずっとリベンジだのアヴェンジだの、そういう単語がくっつく感じの動画ばかりが積み重ねられていた。
ええとつまり?
彼女が俺の元にやって来ていたのは、もしかして噂の真偽を確かめるため……?
思わずTASさんを見れば、彼女は満足げにサムズアップしており。
「……うんそうだな!編集現場にでも飛び込んでやらねば、この気持ちは収まらないな!」
「そう、それが言いたかった」
つまり、向こうにうまく使われていたと。
……ならばこう、飛び入りするのも宜なるかな、だな!そっちが始めたことなんだから、そういうのもやむなしだよな!
よくわからない思考の飛び方をしつつ、今日の目的の本当の意味を知った俺である。
「……ん?いや待った、その場合はAUTOさんはどういう……?」
「そっちはまたあとで。とりあえず、スニーキングスタート、だよ」
「お、おう。……え?乱数調整は?」
「ここからは調整が難しいから、ちゃんと隠れて」
「あー……動画撮ってるからか……」
とりあえずCHEATちゃんの後を尾行している意味、というものは理解したが。……その理論で行くと、AUTOさんもなにか隠し事があるのか、という話になるわけで。
いやー、あのAUTOさんが隠し事なんてできるとは思わないんだけどなー……?
思わず首を傾げてしまう俺だが、TASさんから返ってくるのは今はそれは置いておけ、という言葉。
……なるほど、今のところCHEATちゃんに俺達のことはバレてはいないが、動画を撮影している以上は背景に写り込む、なんてことはあり得る話で。
かつそこに『二人組の怪しいヤツがいる』なんてことになれば、コメント欄にてそれを指摘される可能性もあるという……いや待った?ライブ中継なのそれ?
……ま、まぁともかく。
彼女の動画チャンネルの内、今のところ一番人気なのが『VSTASさん』シリーズ。
すなわち、画面の向こうの人々はこちらのことをよく知っている、ということでもある。
……え?顔は見えないようになってるんだから、普通ならバレないはず?残念ながらTASさんって同じ服何枚も持ってる系の人なんだよなぁ……()
服が変わると操作感が変わるから、なんて理由から彼女は同じ服を幾つも持っているわけだが、ともあれその服装を見れば顔がわからずとも『あっ、TASさんだ』みたいな気付きを得る可能性は、十二分にある。
そうでなくとも、配信中の配信者を付け回す不審者×2、である。……コメントで指摘されない、なんて楽観視はできまい。
ゆえにこその、『調整が難しい』。
先ほどまでの彼我の距離が付かず離れずであったのならば、今求められる距離は双眼鏡による観察が必要になるくらいのレベル。
そんな感じのことをTASさんから教えられた俺は、しかしてあまりこそこそしていると逆に目立つ、ということで──。
「……いや、これ逆に目立たね?」
「大丈夫。私はすっぽり隠れられるから」
「この時期にロングコート着てること自体がおかしいと思うんだよなぁ!?」
いつの間にやら──具体的にはさっきの服屋で、だが。
TASさんがこんなこともあろうかと、とばかりに購入していたロングコートを俺が纏い、その下にTASさんが隠れ潜む……という、二人羽織のような違うような、そんなスタイルでの尾行が開始されるのであった。
……まぁ、目深に被った帽子も合わせて、俺の不審者度数が跳ね上がっている気しかしないわけだけどね!
というか、コートの中に女の子隠してるって時点で、最早言い逃れようもないわけだし!!
なんて風に、「アア、オワッタ……」みたいな気分になっていたわけなのだが……あれ?周囲からの眼差しが心なしか優しい……って、あ。
「お兄さんも有名人。良かったね?」
「ナンニモヨクナイ……」
そういえばさっき、噂の大会荒らし少女のリミッターとして、傍らにいた男の話も出てきていたな……ということを思い出し、いつの間にかTASさんのお目付け役として有名になっていたことに、なんとも言えない気分を味わうこととなるのだった……。