「……あれってギャグ描写とかじゃなかったんだな」
「いや、多分ギャグで良いと思うよ?じゃないと色々頭痛くなるし」
「そういうもんかねぇ……」
俺の背後でCHEATちゃんとROUTEさんが何やら話しているが……うーん聞こえない。
なんとなく俺の話をしているような気もするが、子細がわからない以上は聞き出そうとするのもあれだろう。
というか、こっちとしてはそうやって現実逃避をする間に退路が塞がれていくため、本来はそんなことを考えている余裕は無いのだが……いやでも、この状況で現実逃避しない奴の方が珍しいだろうというか。
そんなわけで(?)突如大自然の中に現れた特別リング。
この上で今から行われようとしているのが、いわゆる俺・虐殺ショーなのであった。
「お兄さんは悲観的すぎ。勝負は時の運、誰が勝つかなんてやってみなきゃわからない」
「お、いいこと言うねー。それを言ってるのが
「──困った、言い返せない」
「そういう時はこういえば良いのですわ、TASさん。──運を捩じ伏せるのも実力の内、と」
「はっはっはっ、ほんといいこと言うなー」
逃げ場のない──いわゆるデスマッチ形式のリングの上で、思わず愚痴る俺だが……参った、TASさんだけならともかく、AUTOさんも一緒にいると口じゃあ絶対に勝てねぇ。
いやまぁ、勝ったところでなんなのか?……と言われればその通りなのだが、数少ないTASさんに反抗できるチャンスを潰されてしまうと、俺としては黙って震えてるしかないと言いますか……え?口喧嘩で勝ってもそのあと痛い目みるだけだろうって?そりゃごもっとも。
そんなわけで、前回口喧嘩で勝った時報復に顔面に熱々のチーズが飛んできたことを思い出しつつ、反対側に控える対戦相手を盗み見る俺。
対戦相手──ピー蔵はというと、なんというかこっちが驚くほどに、意気消沈とした姿で椅子に座っていたのだった。
……うん、改めて見ると凄まじくシュールな絵だなこれ?丸椅子の上で項垂れるティラノサウルスの子供って。
「大丈夫、勇気を出して。貴方はここまで大きくなった、だから絶対に勝てる、信じて」
「ピィー……、ピピッピ、ピギィー…」*1
「むぅ……思ったより重症」
そんなピー蔵に対し、セコンド役になったTASさんが励ましの言葉を贈るが……うーん、こちらが見る限りあんまり効果はなさそう。
というか率直な感想を言わせて貰えば、その姿から漂う空気感だけなら、思わず俺が勝ちを拾えそうなくらいに弱々しいというか?
「まぁ、実際に戦った場合は九割方貴方様の敗けでしょうが」
「酷ぇって言いたいところだけど、これに関しては野生動物に丸腰の人間が勝てるのか、って話だからなぁ」
そんな俺の考えを嗜めるような、セコンド役のAUTOさんからの忠告が飛んでくるが……言われなくても気のせいだと言うのはわかっている。
……うん、身近なのは家犬とかだろうか?特に大型犬。
あれに飛び付かれて倒れずにいられる人間、というのはごく少数だろう。
これはつまり、子供ほどの体重であっても彼らにじゃれつかれるのはわりと危険、ということでもある。
野生動物はこちらより小さくとも、そのスペックが遥かに人を上回っているもの。
言い換えれば、素直に対峙した場合相手の攻撃を避けるのすら困難、ということになる。
そして何より驚異的なのが、その体力。
人間がどこかを怪我するとほとんど動けなくなるのに対し、野生動物はある程度の怪我なら無視して動くことができるのだ。
腹を裂かれ内臓がまろび出ても、ある程度までなら動き回れるのだから恐ろしい話である。
これは、野生下では完全に安全な場所以外で立ち止まることが死に直結するため。
言い換えると常に死の危険に晒されている、という緊張感があるからでもある。
うっかりすると即死、みたいな環境でのほほんと歩き回れるのはTASさんくらいのものなのだ。……え?その言い方だとTASさんがヤバい人だって聞こえる?そう言ってますがなにぐぇーっ!!?
「貴方様はほんっっっとうに学びませんわね……」
「経験から萎縮してたら何もできないからね」
「素晴らしい言葉ですわね、赤くなった額を必死に擦っている姿を見なければ、の話ですが」
「そこはスルーしてください……」
地獄耳だよTASさん!
……というわけで(?)脳内での一人言が聞かれていたらしく、相手側から飛んできたボールペンが額にクリーンヒットしたりしたが、俺は元気です。……嘘すっごい痛い()
まぁともかく。
単純な野生生物でも基本的に人間は勝てないのにも関わらず、それより更にスペックが高いという疑惑のある恐竜相手だと、例えそれが子供であっても勝ちの芽はない……と判断するのが普通だろう。
……その考えをひっくり返しかねないくらい、ピー蔵の今の様子は不甲斐ないわけだが。
「……どうしたもんかねぇ」
よもや勝つわけにもいかないだろうし、早々に勝てるとも思わない。
……変な意味で予想の付かない対戦カードに、巻き込まれた側としてはため息を溢すより他ないのであった。