「……?お兄さんはなんで頭を抱えているの?」
「ええと、この世界自体にも問題がある、ということを思い出してしまった……ということではないでしょうか?」
報酬のサンマを包んで貰い、帰路に付いた俺達。
だが俺は上の空。何故かと言えば、さっきのサンマがサンマという名前の近縁種でしか無いことを思い知ったから、であった。
……有り体に言えば、こっちで解決すべき問題はまだまだ山積みであることを思い出したから、ということになるか。
いやうん、しばらく他所の世界で凄いことになってるのを見ていたから、『これに比べれば俺達の世界は平和だな!』とかバカみたいなことを思っていたなぁ、と頭を抱えたくなったとも言うわけだが。
ともあれ、他所の話と笑っている暇など無かったのだと改めて突き付けられた気分になれば、そりゃもう陰鬱にもなろうというものである。
「……?それは寧ろご褒美では?」
「そうだねTASさん的にはそうだろうね……」
なお、詳しく説明してもなお、TASさんは首を傾げていた。
……まぁうん、君はそう言うだろうね……じゃないとTASさんじゃないもんね……。
「……なんてことを言ってたのがつい先日。よもやよもや、舌の根の乾かぬ内に厄介事が大挙してくるとは思わないじゃない……(白目)」
「お気を確かに、貴方様。正気を逸してしまう気持ちはわからないでもありませんけど、ここで挫けても事態は解決致しませんわ」
はてさて、波乱のサンマ漁から少し経ったある日のこと。
今日は見事な秋晴れ、掃除やら洗濯やらの家事をこなすにはベストな日……みたいなことを思いながら家のことをしていた俺は、突然辺りに鳴り響き始めた爆音──ヘリでも飛んでいるかのようなその音に、思わず目を顰めていた。
普段ならそこまで目くじらを立てるほどでもないのだが……直前まで鼻唄でも歌いたくなるような上機嫌だったことなどが災いし、思わずカチンと来たわけである。
とはいえ、遥か上空を飛ぶヘリにこちらからできることなどなく、ゆえに俺がやったことなんて不機嫌そうに空を睨むくらいのモノだったのだけれど。
……そうして視線を上に向けた際、視界に入ってきたのは俺が予想していたものとは大きく異なっていたのだった。
ところで、話は変わるが秋の訪れを実感する時、というのはどういうタイミングだろうか?
……都会において、それは地味に実感し辛いものである。明確にこれがあったら秋、みたいなものが身近にそう多くはないからだ。
わかりやすいところで言うなら、遠景の山々の色が変われば秋……くらいのものか。
それにしたって、周囲に高層ビルの建ち並ぶような場所では早々確認できたモノではないし、かといって身近な街路樹に頼ろうにも、そういう木々は常緑樹であるというパターンも少なくはあるまい。
……というか、紅葉した木々を見て察せられる『秋』というのは、基本『秋真っ盛り』の時期のそれだろう。
訪れ、という指定でお出しするには、少々期を逸していると言うほかあるまい。
とまぁ、都会において『秋』というのは、いつの間にか始まっているものであってその訪れを感じるのは意外に難しい、ということになるのである。
さて、懸命な視聴者諸君は、この話を聞いてこう思ったことだろう。
さっきから都会は都会は……と必要以上に都会を強調しているが、その言いぶりだと
答えはイエスである。田舎の場合、
では、その秋の訪れを知らせるモノであり、かつ秋という季節を示す季語としても知られる生き物が一体なんなのかというと。
「──
「説明ありがとうAUTOさん」
そう、赤トンボ。
見た目が赤いトンボだから赤トンボ、というなんとも単純な呼び方を持つ彼らは、その存在自体が秋を象徴すると言ってもそう間違いでもない存在である。
夏の季語である『ナツアカネ』に関しても、恐らく大挙している姿を見るのは秋頃──繁殖のために雌を探す雄達が、悠々と空を飛んでいる時期になるだろうし。
……既にお察しの方は多いかと思うが、もうしばらくお付き合い願いたい。
さて、田舎では秋頃になれば大量に空を飛ぶ姿が見られる赤トンボだが、都会ではそうお目に掛かれるモノでもない、というのも間違いないだろう。
単純に彼らの生息域がない、というのがその理由なわけだが──では、それを踏まえた上で。
「……この、微妙に大きくて滅茶苦茶飛んでるトンボ達。……前回のサンマと同系統と見ていいかな?」
「残念ですが……その通りかと。さしずめ『秋の空を自分達の姿で赤く染め上げるもの』、といった風な意味合いなのではないでしょうか?」
「……夕焼けと対比されることもよくあるけど、だからって自分達で夕焼けになるやつがあるか!!!」
まるで蝗害の如く・空の青すら見えぬほどに視界を埋め尽くす赤トンボ達を見て、異常事態だと認識できない人がいるだろうか?いやいない(反語)。
見ろよこの、左右で元の空とトンボの空で色がくっきり別れてる異様な光景。
……必ず視界に入るくらいに大量発生する、とはいったが。
そこから視界を埋め尽くすレベルで増えるのは『加減しろ馬鹿』案件なんだよなぁ!!
俺は思わず、現実から目を逸らすように顔を手で覆ったのだった──。