「人懐っこい猪に出会った」<ブヒー
「……いや本当に人懐っこいなこいつ」
はてさて、キノコ狩りの許可が出ている山に到着した俺達は、早速その山奥へと分け入ったわけなのだけれど。
その道中、近くの草むらががさがさ言っているのを見て警戒し……暫くして出てきた一頭の猪の様子に、思わず呆気に取られていたのだった。
いやだって、この猪こちらを警戒するでも追い掛けるでもなく、鼻を鳴らしながらのそのそと近付いてくるんだもの。
そこに野生らしい警戒心は全くなく、寧ろリラックスした姿を見せてくる始末。
……もしかして、飼われていた豚が野生化したのだろうか、なんて突拍子もない予想が飛び出す始末である。
「あー、確か豚って意外とすぐ野生に帰っちゃうんだっけ?」
「そう聞くな。世代を経る必要はあるが、次第に見た目も猪に近付いて行くとか」
「……意外とヤベーな豚って」
実は牙もほっとくと際限なく伸びて行くんだって?こわー……。
とまぁ、意外と怖い豚の雑学、みたいなのは置いとくとして。
「実際問題、どうしようかコイツ?」
「連れていくしかないんじゃないかな?流石に見付かっている状態からごまかすのは無理があるし、そもそも離れる様子が一切無いし」
「うーん……とは言っても、猪を連れて歩くのはなぁ」
一向に離れる様子のない猪に、思わず困ってしまう俺達である。
もしこれがTASさんが何かした結果ならば、即刻止めさせて野に離すだけの話なのだが……確認したところ、彼女は何もしていないとのこと。
つまりこの猪は自分の意思で俺達に近付いてきたうえ、特に何をするでもなく近くにいるというわけで。
……うん、どうすりゃいいんだろうね実際?
と、首をみんなで捻っていると。
「……うぉ?なんだなんだ??」<ブヒー
「おやどうしたんだい君。まるでハーメルンに誘われる子供の如く、猪に袖を引かれているけど」
唐突に袖を引っ張られる感覚。
何事か、と視線をそちらに移せば、件の猪が俺の服の袖を引っ張っている姿が写る。
そうして俺が確認したのを悟ったのか、彼?の引っ張る力は強くなり、思わず転げそうになってしまう。
流石に無策で転けるわけにも行かないので、バランスを取るように足を動かせば──必然、猪の導く方向に向かって歩く形になるわけで。
その姿を見て面白そうな声をあげるMODさんと、それに同調するかのように俺達の後を追い掛けてくる他の面々。
この奇妙な行列はおよそ数分ほど続き……、
「お、やっと止まった」
森の中……と言うにはどうにも木々が疎らな、若干開けた場所にたどり着いたことで、その小旅行は終わりを告げたのだった。
袖を離された辺り、ここが目的地ということになるらしい。
で、そうまでして連れて来られた場所に何があったのかというと。
「……あ、栗だ」
「うに?」
「だからその話題からは離れようってば」
確かに当たったら痛いだろうけども。
……とまぁ、そこは置いとくとして、この場所はどうやら栗の木の群生地だったらしい。
緑のカーペットの上にはイガがころころと転がっており、持って帰ればそれなりの量の栗ご飯が作れそうだ。
ということは、この猪はこの栗に案内してくれた、ということなのだろうか?
……と振り返るが、肝心の猪は栗にはさほど目もくれず、栗の木の真下で何やらふんふんと鼻を動かしていたのだった。
「……あー、もしかして?」
「ん、MODさん?」
何やってるんだアイツ、的な眼差しを送る俺達とは違い、MODさんは何やら気が付いた様子。
そのまま彼女は猪の元に無造作に近付いていき、さっとしゃがみ込むと猪の鼻先の地面をぱっぱっと軽く払い……。
「──豚を野外に離して行うとある作業があるんだけど、君は知ってるかい?」
「豚を?うーん……」
「あっ、なるほど」
「あー、そういえばそうだっけか。いやでも……んん?」
「えっ、二人はわかるのか?」
何かを見付けたらしいMODさんは、それを手の内に隠したままこちらに問いを投げ掛けてくる。
内容は豚を使った何かの仕事について、だったのだが……よくわからん俺に対し、他の面々はピンと来た様子。
まぁ、生憎と俺にはさっぱりわからないわけだが……そんな俺の姿を見たMODさんは小さく笑みを溢したのち、その手の内に隠していたモノを俺に見せてくるのだった。
「なんでも、
「……あー、なるほど。
彼女が見せてくれたのは、小さな小石のような謎の物体。
二つに割って中を覗けば、そこに見えるのはマーブル模様になった菌糸の塊。
……そう、栗のようなブナ科の植物の根本に自生することの多いキノコの一瞬──食卓のダイアモンドとも呼ばれる高級食材・トリュフ……の、近縁種が彼女の手の内には握られていたのだった。