「そうだ、今日は鍋にしよう」
「また突然ですね」
洗濯物を畳みながら、脳裏に突如飛来するインパクト。
今日は鍋にするべき、というTASさんからの声なき主張に頷き返した俺は、今日の夕食を鍋にすることに決めたのだった。
……それはいいのだが、何鍋にしようかと首を捻ることになっていたりするのはいいのか否か。
「何鍋、ですか?」
「そう、具材はどうするかなーって話。野菜を突っ込むのは決まってても、主役を何にするのかは迷うよねーみたいな?」
白菜や人参・椎茸などなど、鍋に突っ込まれるモノは多々あれど、主役として据えられるものはそう多くはない。
なんなら味付けの方がメインで中身は適当……みたいなこともあるし、鍋というのは意外と奥が深いのだ。
「なるほど……参考までに聞きますが、今のところ一番可能性が高いモノは何になりますか?」
「んー?んー……カニ、かな」
「なんで私を見ながら言ったんですかぁ?」
ははは、その聞き返し方は寧ろわかってるでしょ。
……と、足が増えてるダミ子さんを見ながら言葉を返す俺である。冷静にならなくても見た目がキモ頭が裂けるように痛い!!?
「
「そういうダミ子さんは軽率に人を止めるの止めようよ……」
いや、色々吹っ切れすぎやろ君。
もうちょっと人間としての自覚を持ってほらほら。
……うん、前回掃除機にされたことが彼女の変な扉を開いたのか、はたまた今まで積み重なったフラグが変な方に咲いたのか。
どっちにせよ、ダミ子さんが人としての尊厳を自ら放り投げ始めたのは確かな話……いや待った何してるのMODさん???
「ん?何ってほら……カニなんだし、ね?」
「ね、じゃないんですが?なんで鮫なんですか、なんか浮いてるし」
「変な対決はB級映画の華だよ君ぃ」
「やべぇ何言ってるかわかんねぇ」
俺が注目したのは、ダミ子さんの隣にあった物体。
……最初は気が付かなかったが、よくよく見るとそれはMODさんが変身した姿だったのだ。
それも、何故か空に浮かぶ鮫の姿である。……ツッコミ処しか無いんだが俺にどうしろと?
というかだ、身体機能は再現できず・あくまでその姿で自然と起こり得ることのみ再現できるというのがMODさんの性質のはず。
となれば、どう考えても鮫が飛んでいるのはおかしい……ということになるのだが、もしかしてこれ単に鮫になっているんじゃなくて、『B級映画の鮫』に限定して変身してるから飛べる、みたいな胡乱な理由なんじゃないだろうな……?
「はははは。……やってみたらできたんだけど、私はどうすればいいんだろうね?」
「まずその姿を止めましょう、頭が生えてくるのはヤバイどころの話じゃないです」
「おおっと」
いやホントに。
その状態で自然と発揮されるモノのみ再現できる、というその性質に変化がないのなら、言い換えるとB級映画の概念をこっちに持ってきていることに他ならないわけで。
……嫌だぞ俺、物語の序盤で犠牲になる
最終的にTASさんがチェーンソー振り回して全部終わらせるんだろうなー、と容易に予測できるのも含めて。
「……?『なんでも食べる鮫』?」
「おいこら、不思議なノートを使おうとするんじゃない」
海産物な異界の神が為す術もなく鮫に食われるシーンとか誰得だからね?
……そんな感じに、こちらを不思議そうに眺めているTASさんに釘を刺す俺なのであった。
いやホント、刺しとかないと思い付きで実行されかねないからヤバイんだよねぇ……。
「因みにダミ子に足を増やしてみたら、と提案したのも私」
「
「いっぱい増やせたら天地の判定を色んなところに設定できるかなって」
「もしかして空に落ちる変態になろうとしてる?」
「ん」
「いや『ん』じゃないんだわ」
なるほど、足が増えるというのはすなわち踏みしめる地面の判定が増えるということ。
……言い換えると重力の働く方向を変えられるということで、結局のところ
いやまぁ、だからといってダミ子さんがこんなことになるのを進めるのは良くな……いや待てってことは前回の
思わず見つめる俺の視線を避けるようにふい、と横を向くTASさんの頬を掴み、俺は「ダーメーでーしょー」と叱りつけるのだった……。
「……あら、今日はカニ鍋なのですね。奉行としての腕がなる……その、ダミ子さんはどうしたのでしょうか?」
「ああうん、気にしないで。ちょっと先に食べ過ぎたようなものだから」
「????」
なお、その日の鍋は結局蟹になったのだが。
……ちょっと前の自分の姿を思い出してしまうせいか、ダミ子さんの食が細くなっていたのは些細なことである。
え?キモいとか言ってたのにお前は大丈夫なのかって?
そんなこと言ってたら、TASさんの数々の行動には付いていけないからね、仕方ないね。(闇を感じさせる発言)