「オンラインゲームともなれば、必要な変数はそれこそ星の数ほど。……そもそもゲーム内の他のプレイヤーの行動も見ておかなければならない関係上、RTAならともかくTASを成立させようとするのは無謀でしかないのですが……」
「でもそれより変数云々ではややこしそうな現実ではやれてるよ?」
「……という、至極もっともらしい反論が飛んでくるというわけですのね……」
はてさて、TASさんが現在てこずっている相手がオンラインゲームである、ということを明かしたわけなのだが。
それを聞いたAUTOさんは、なんとも悩ましげな表情を浮かべている。
特に、後に続いた言い訳部分が刺さったようで、うんうん唸っていたのだった。
……確かに、オンラインゲームでTASをする、というのは無理があるだろう。
本来のTASと同じようにやるのであれば、ゲーム内で実際に動いている変数は多岐に渡り、それらをキチンと合わせないと別撮りの動画は同期ズレを起こす。
……ただ、普段のTASさんの動きがそういう普通のTASと同じであるならば、寧ろオンラインゲームよりさらにややこしい『現実』という相手に普通に通用している方がおかしい、ということになってくる。
無論、これは単にTASさんの言う『同期ズレ』と普通のTASにおける『同期ズレ』が同一のモノではない、というだけの話であるのだが……。
それでもやはり、リアルでやれるのにゲーム内では不可能、という結果が直感に反したモノであると感じてしまうのは仕方のないことというのも確かな話なのだった。
「やっぱり、どう考えてもリアルの方が大変だろうからね」
「そうなると……やはり現実という世界とゲームの中という世界、二つの世界を間に介することで微細な処理落ちが発生している……とか、そういう方面の話になるのではありませんこと?」
「だよねぇ……」
そうなると、問題の理由として思い付くのは『処理がダブっているのでは?』というもの。
分かりやすくいうと、プログラムを二重に開いているのではないか?……ということになる。
本来世界という範囲においてTAS動作を行う場合、その世界を範囲としたプログラムを走らせている……と仮定できるわけだが、ゲーム内の世界がそれ相応に広くなると、結果として
「普段の彼女の動きは、ゲームそのものに対してTASを適用しているのではなく『現実における自身の動きに対して補正を掛けている』のではないか、という話ですわね。あくまでも現実の動きに対しての操作が、結果としてゲームという別の範囲にも波及している……というだけというか」
「で、そのやり方だとゲーム内の世界が広くない分にはそこまで問題もないけど、世界の中に世界がある──いわゆる入れ子構造になっている場合、隅々まで手が届かなくなる……と」
上手い例えが思い付かないが……遠隔操作で掃除機を動かして部屋を掃除している、みたいな状況が近いのかもしれない。
部屋の中がシンプルであればあるほどに部屋の掃除に苦戦することはなくなるが、その反対──部屋の中が煩雑であればあるほど、隅々まで掃除することは難しくなっていく……みたいな?
実際に部屋の中で掃除機片手に移動しているのならば、例えば四隅に合わせて掃除機の先のブラシを交換して対応する……みたいなこともできるが。
これが遠隔操作しているロボットに掃除機を持たせてやっている、となると途端に難易度が上がる。
ロボットの腕を操作して掃除機のノズルを変える──いわば間接的な操作になってしまうため、端的に言ってまどろっこしさが跳ね上がるのだ。
結果、余程ロボット自体の操作に習熟していないと満足に掃除もこなせなくなる……と。
ショベルカーで筆を持ってキャンパスに絵を描く……みたいな曲芸が凄いと持て囃されるのは、自身の手のようにそれらの機械を使いこなしていることを証明しているから。
そういう意味で、普段のTASさんも『自分を操作してゲームをクリアしている』と考えるとわりと大概なことをやっていることになったりするわけなのだが……まぁ、その辺りはとりあえず置いておく。
ともあれ、ゲームをやる時のTASさんは基本その『間接的操作』になっていると仮定すると、オンラインゲーム相手に分が悪いのもなんとなく理解できてくる。
普通のゲームなら影響範囲は一人で済むが、オンラインゲームならそれが世界中に広がってしまう。
……そりゃまぁ、拾いきれない変数が現れてもおかしくないというか。
そうなると、これはTASさんには無理難題なので諦めるしかない、みたいな結論になりそうだが……。
「そこで諦めるようなら彼女はTASとは呼べませんものね」
「……ってことは、久しぶりのTASさん成長回か……」
「ですわね……」
無理だと言われれば寧ろ燃えるのがTASさん。
となると、つまりこの出会いは必然的にTASさんが自身の殻を破る──すなわち更なる飛躍のための準備期間、ということになるわけで。
……え、まだ成長するのこの人。
みたいな思いで見つめあった俺達二人は、未だにCHEATちゃんのほっぺを引っ張ってストレス解消しているTASさんに視線を向けながら、深々とため息を吐いたのだった。
……うーん、面倒みきれ(ない)よう。