はてさて、TASさんが更なる飛躍の時を迎えている……みたいな話から早二日。
件のTASさんは変わらずイライラしつつ、それでも普段通りに日々を過ごしているのだった。
「TASさんプリン食べる?」
「食べる。そこ置いといて」
「へーい」
「TASさんなんかいるものある?」
「飲み物が欲しい。とにかく甘いやつ」
「へーい」
「TASさんマッサージとかいる?」
「肩は凝ってない。別にいい」
「へーい」
「……なんですのこの、致せり尽くせりの状況は」
「快適過ぎて羨ましさすらありますぅ」
そんな状況において俺がするべきことは、彼女のイライラの原因となるモノを可能な限り減らすことだろう。
イライラするにしても一つのことだけ、それ以外は路傍の石の如く無視できる状態にする……それにより、目の前の一点以外に気持ちを傾ける必要性を減らす、というわけだ。
無論、これが最善かどうかはわからない。
膠着した状況を動かすには外部からの刺激が必要、みたいなパターンも存在しうる以上、俺のやっていることは全て無駄……みたいな可能性も少なくはないだろう。
「だがしかし!だからといってやらない理由にはならない!俺はTASさんが成長するために、その障害となる万難を排除すると約束しよう!」
「お兄さん、うるさい」
「あっ、はい」
(黙った……)
(黙りましたわね……)
はい。……はいじゃないが?
まぁともかく、可能な限りTASさんに協力する……というのが今回の俺の方針。
ゆえに彼女の邪魔にならないように、新たなイライラの種にならないように立ち回る所存なのであった。
「……で、本音のところはどうなんだい?」
「本音?本音とはなんですかMODさん。俺は純粋にTASさんのための行動をですね……」
「なるほどなるほど、つまりはこう言い換えたらいいのかな?『多分恐らくそのうちきっとこっちも巻き込まれる羽目になるので、そのフラグが立つ前に彼女の成長イベントを終わらせよう』……みたいな?」
「…………」
(露骨に視線を逸らしましたわね……)
……まぁうん。
TASさんの成長を応援する気持ちは嘘じゃないよ?
でもほら、今回の相手ってオンラインゲームなわけじゃん?うちにはパソコン一つしかないじゃん?
ってことは半ば強制的にこの間DMさんが使ってたダイブマシン使うことになるじゃん?
それってつまり、彼女の成長イベントに俺達が介入する場合、自動的にデスゲーム式オンラインゲームに飛び込む羽目になる、ということになるわけで……。
「……え、なんで?」
「そんなのTASさんだから『死んでもいいゲームなんて温い』とか言いかねないから……」
「どこかの誰かに喧嘩を売っていませんかその台詞?」
いやまぁ、元ネタの人のはなんというか皮肉系の台詞だったんだろうけども。
それをTASさんが言う分にはほぼ確実に文字通り──経験を積むと言う意味ではリアルに勝るものなし、みたいな方向になるだろうというか。
だってほら、実のところ今まで俺達が向き合ってきたトラブルって、わりと命の危機と隣り合わせのものも多かったし。
「……言われてみると、そうですわね」
「前の時は問題なくても、今回は規模が大きくなってる……みたいなのもあるしなー」
私の時のとか、と軽く述べるCHEATちゃんである。
……ともあれ、AUTOさん他の面々も納得して頷いているように、俺達の周りで起きるトラブルというのは大小様々。
そして、大の方にカテゴライズされるものは命の危機──いや、世界の危機と言ってもいいものも少なくはない。
太陽が消えたり、はたまた冥界が地上に現れようとしていたり……みたいなのは、その中でも顕著なものだろう。
そして今回、TASさんの成長イベントの舞台として選ばれた
……それ単体ならばそこまで危険性も見えてこないが、それに
なんでかって?そういうもんだからだよ!!
「投げやりな台詞ですぅ」
「だが的を得ている。俺からも情報共有しておくが、ここで
「oh……」
そしてそんな俺の台詞を聞いて、間違っていないと頷くのはROUTEさん。
……俺の意見に賛同してくれる人がいるのはありがたいのだが、それがROUTEさんだと話が変わってくる。
あくまでも『その可能性がある』ってだけの話だったのが、『その選択肢がある』にまで実現可能性が跳ね上がった、ということになるからだ。
こうなるとマジでなりふり構ってられない。
ここでTASさんをうまいこと誘導できないと、下手するとTASさんとAUTOさんの早解き合戦が始まる可能性が……!!
「……いや、それはそれでいいのか?」
「しっかりしてくださいましー!!」
「あうべっ!?」
……クリアに躍起になるのであれば、俺達が巻き込まれたとしても引きこもるという選択肢ができるのでは?
と一瞬考えてしまった俺に突き刺さる、AUTOさんの
そこに込められた『絶対そんなにうまいこと進みませんわよ』という思いに、俺は目の覚めた思いで彼女に視線を向け直すことになったのだった──。