TASさんの目の前に広がる、まるで超新星爆発の如き情報の洪水。
さきほどまでゲーム内に溢れていたデータは、それこそゲームそのものを圧迫しかねないほどに膨張し──しかし、それでも正常に起動している。
その繊細な調整を行うため、結局大量の
……え?前回お前は『背景データを減らす』みたいなことを言ってなかったかって?
これだと寧ろ背景データは増えてるではないか、と。
その問いに関しては、こう返答させて貰うとしよう。『いいや、減ってるよ?』と。
まぁ、確かに最初他の面々に説明した時にも、似たような反応を返されたので、そういう言葉が出てくるのは仕方ないとも思っているんだけどね。
というわけで、回想行ってみよー。
「……え、データを増やすんですか?減らすのではなく?」
「ああそうだ。俺達は総力を挙げて、あのゲームが扱っている情報の大きさを可能な限り引き上げる」
「そんなことをすれば、TASさんの負担が余計に増えるだけなのでは?」
これから俺達がやろうとしていることについて、解説をしていたところ。その内容について、DMさんが驚きの声をあげた。
率先して声をあげたのが彼女だっただけで、他の面々も言外に『なんで?』とでも言いたげな色を湛えている。
……まぁ確かに、一見すると正反対の行動をしているようにしか見えないし、その結果得られるものも更なる苦難……みたいに見えるため、おかしいと感じるのは仕方のない話。
しかしそれは、そもそもこれがオンラインゲームである……ということを前提にすると、あっさり覆ってしまうものでもあるのだ。
「……オンラインゲームだとひっくり返る?」
「もう少し正確に言うと、
今回、TASさんが直面している『同期ズレ』とは、すなわちスーパープレイ/スピードランを行う際の各動き同士を繋げる部分で問題が起きている……というものである。
行動そのものは個別で成立するものの、その裏で動いている
分かりやすく説明すると……トライアスロンをTAS動画として例えた時になるか。
水泳の最速と自転車走の最速をそれぞれ記録したものの、それぞれ遠く離れた場所で撮ったものなのでそれを一連の記録とはできない、みたいな。
……これは極端な例だが、裏の数値が合わないというのはある意味で、居る場所が違うのと大差ないのも確かな話。
そしてこれは、言い換えると
「……あー、なるほど。純粋に最速を目指した場合、選択肢がそれ一つしかないのが問題なんだなこれ」
「そういうこと。裏の数値を合わせながら動けたのなら、特段問題になるはずもないことだからね」
俺の説明に、納得したように頷くCHEATちゃん。
……そう、裏の数値が合わないのは、見方を変えると
エミュレーターの扱う範囲が狭いからこそ、弄れない範囲にある数値にアクセスする手段がない……なんて不都合が起きてしまうのである。
そこまで説明すれば、なんとなくわかるだろう。
エミュレーターの性能不足が問題なのだから、その性能を上げて同期ズレの理由となっている数値に触れるようになれば、同期ズレは簡単に解消する……と。
「もし仮に問題の数値に触れられるまで拡張できなくても、それを変化させずに最速で動けるようなルートが開拓されれば問題はない。そして、そのルートを開拓するのにオンラインゲームという庭は狭すぎるんだ」
現実じゃないから、というのはそういうこと。
リアルであればTASさんは全ての数値に触れられる。
そこから狭い世界へと間接的にアクセスしているからこそ、どうにもできない数値が出現してしまった……というわけだ。
そして、データを増やそうとする理由はそれだけではない。
難易度を下げてしまってはTASさんに受け入れられないだろう。扱うデータ量を増やす──難易度を上げるからこそ、TASさんも素直にこちらの補助を受けることができるのである。
「なるほど……確かに、今回の一件はTASさんのためのもの。であるならば、TASさんに受け入れるつもりがなければ意味がありませんものね」
「そういうこと。──ゆえに俺達が目指すのは、背景データを増やしなおかつそれがゲームを進行不能にしないこと。そのためには、みんなで協力するしかないってわけなのさ」
「さぁ、道は無限に開かれた。TASさん、今こそ君の本領を発揮する時だ」
開かれた世界に、TASさんは身を踊らせる。
ラグらない、同期ズレしない、隙は多い──。
TASさんが一番力を発揮できる状況を用意し、けれどそれは単に甘いだけのモノではなく。
ゆえに彼女はほんのりと微笑みを溢し、自身の全てを以て
「最速記録達成」<フンス
「「「「「「「やったー!!」」」」」」」
見事、
うーん、城を壊したあとは乾杯したくなるZE……☆
なお後日、オンラインゲームの運営会社が突然のゲーム終了をアナウンスしたが、俺達のせいではない。ないったらない。