「では、代わりにどうしますか?納涼のために」
「んん……とりあえずお互いを扇いでみる?」
「まぁ、真夏日ならともかくこのくらいの気温なら扇げば涼しい……かな?」
怪談話は却下となったが、そのままだと暑いのも確かな話。
そういうわけで、暑さとは無縁そうなDMさんから再度の確認が飛んでくることになったのだが……ここは無難に扇いでみるのはどうか、という話になった。
今年の夏みたいな、体温を越える気温の中で扇ぐのならともかく、精々二十五度程度の気温であれば、風が届けば十分涼しいだろう。
そもそも夏場のクーラーもそれくらいの気温設定だし。
ってなわけで、用意しましたうちわ×人数分。
これで互いを扇いで涼しくなろう、という魂胆である。
「魂胆て」
「言い方は悪いけど……まぁ、競争めいたことになるのも目に見えてるし……ね?」
主にTASさんが目を輝かせているから、的な意味で。
自分で扇ぐのならともかく、相手のことを扇ぐのならその程度というのは難しくなる。
……難しくなるのなら競争になる、という理屈だ。
なのでTASさんが張り切るのも無理はない。張り切った結果扇ぐ力が強すぎて周囲が更地になるのも無理はない。
「そうそう無理はない……ワケねーだろっ!?」
「おお、久しぶりにCHEATがノリツッコミしてるの見た気がする」
「私は別にノリツッコミの人じゃねーからな!?」
何処から用意したのか、祭りでもなければ見ないような巨大うちわを構えるTASさん相手に、CHEATちゃんはヒートアップした姿を見せていたのだった──。
はてさて、思ったより物理的な手段で周囲を更地にしようとしていたTASさんを(結果的に)止めた俺達は、そのまま流れるように互いを扇ぎ始めたわけなのだけれど……。
「……その、TASさん?」
「なに?」
「微妙に天候操作の練習……応用?するの止めない?」
「こっちの方が涼しいよ?」
「涼しい通り越して寒いんですよ……」
だからといってTASさんが大人しくなるかと言われれば、それはまた別の話。
大きなうちわから手持ちサイズのうちわに切り換えたTASさんは、その風に乗せるようにして冷たーい冷気をこちらに送り込んで来たのだった。
……多分、例の天候操作を応用、ないしダウンサイジング……いや、結果的にそうなってるだけでどっちかというと失敗状態?……を有効活用しているのだろうけども。
うん、その気遣いはありがた迷惑というやつである。
さっきも言ったが昼は暑くても夜は寒い、すなわち
そんな思いを視線に乗せて打ち出したところ、返ってきたのは『?』という不思議そうな表情であった。
……あ、これあれだわ。拷問というか試練というか、とにかく寒いのに耐えさせることを目的としてわざとやってる、って顔だわ。
「なんでそんなことを……」
「パワーアップ版DMの加入イベントを想定した訓練。恐らく以前のあれよりエグいくらい寒い」
「あれ確か北国での話だったよね???」
朝の内だとマイナス四十度とか余裕で行くから、ダイヤモンド・ダストとか確認できるような所だったよね???
あれより寒くなるってなんだよ……南極かなんかかよ……。
あっでも、確かに彼処にあった地下遺跡内部にテレポート罠とかがない可能性はないのか!?
ってことは物言わぬ氷像にされる可能性も十二分に散見される……?!
「俺……寒さ訓練、張り切って受けるよ」<グッ
「お兄さんその調子。私達の道行きはとても明るい」<グッ
(真顔でガッツポーズしあってるけど……)
(多分お兄さんが踊らされてるだけですよねぇ)
共に戦う同士として、決意を確かめあう俺とTASさんである。
周囲のみんなはその姿を微笑ましげに見ているが……そういえば、彼女達はついてこないのだろうか?
「と、いうと?」
「いやほら、前回は俺達二人で行ったけど……別に定員が二人ってわけでもないだろ?……だったら、CHEATちゃんくらいは連れていった方がいいんじゃないかなーというか」
「ほぎゃー!?なんでそこで私を巻き込むんだ貴様ーっ!?」
思い浮かんだのは、今までの加入イベントリターンズ達について。
前回と全く同じメンバーで挑む……みたいなこともあったが、その実DMさんくらい後のメンバーにもなると、別に誰かをハブる必要もないというか。
特に、CHEATちゃん辺りは今回ハブられると後でうるさそうだなぁ、というのが容易に予測できるというか?
……などと告げたところ、当のCHEATちゃんからは抗議の声が上がったのだった。……この分だと、前回の自分の発言を忘れているらしい。
「なにが?!」
「『あわや世界遺産がおじゃんじゃねぇか』」
「……あ゛」
そう、地下遺跡。
遺跡マニアでもあるCHEATちゃんは、そういったものに目がない。
ゆえに、DMさんとのあれこれで雪の下に飲み込まれていったオリジナルの遺跡のことを大層残念がっていたのだが……どうやら、今こうして俺に告げられるまでその事を忘れていたらしい。
「……つ、ついてく!私もついてくからな!!絶対ついてくから置いてくなよな!?」
「置いてかれたくないなら勝手についてくるといい」
「なんでそんな微妙にスパルタなんだテメェ!?」
珍しく意地悪を言うTASさんと、それにムキになって突っ掛かるCHEATちゃんを眺めつつ、俺達は撤収の準備を始めるのだった……。