「さてはて、仲直り?が終わったみたいだけど……サンタさんは帰らないので?」
「帰るわよ!!すぐにでも!!」
「そんな怒らんでも……」
暫く騒いだのち、ようやく落ち着いた二人。
ほんの少し気まずげな空気は残っていたものの、サンタさんの顔からは憂いが取れているのでこれでも十分だったのだろう、多分。
……それはともかく、彼女の用事が終わったのならば、こっちとしては心苦しくもあるがさっさとお帰りになって頂きたい、というのも事実。
そのため、言い方は悪いが彼女を急かすような物言いが飛び出した、というわけである。
そうなれば向こうも売り言葉に買い言葉、嫌がられてるんだから帰るわよ!……とばかりに声を荒げたのち、懐に手を突っ込んで……突っ込んで?
「あの……どうされたので?」
しかし彼女は自身の行動に忙しいようで、こっちの言葉に答えるような素振りを見せない。
仕方なしに、彼女の動きが止まるのを待つことにしたのだが……。
「……ない」
「ない、とは?」
動きを止めた彼女はサンタらしからぬ──端的に言えば絶望そのもの、というような表情をこちらに向けながら詰め寄ってきて。
そのまま、俺の襟を掴んで前後に揺らし始めたのだった。……いやなんで?
「ないのよぉ!!私のパスポートぉ!!」
「ぱ、ぱすぽーと???」
そうして彼女の口から飛び出したのは、パスポートを紛失したという意味の言葉。
……いや、パスポートの意味がわからないってことではなく。
「ええと……パスポートを無くしたと?」
「そうよぉ!?アレないとマジでヤバイんですけどぉ!?」
「……えーと、どうヤバいのかよくわからんので、具体的な説明をお願いしたいのですが?」
「いい?!よく聞きなさい!!」
「あっはい」
パスポート、というのは読んで字の如く『
海外渡航のために必要な証明書・許可証の類いであり、これが無ければ海外への渡航は許可されない……というようなものだ。
……まぁ、いつぞやか王女様の国に行った時とか、俺達はいっさい持ち歩いてなかったんだけども。密入国だからね、仕方ないね。
ともあれ、正規の手順を踏んで海外に行く際には必ず必要になるもの、ということは間違いないだろう。
……だからこそ、この場で彼女からその言葉が出てくる、というのが少々疑念を抱かせるわけである。
彼女はそもそもこの世界とは別の世界の存在。
この世界における戸籍は持っておらず、必然パスポートを作ることもできない。
……となれば、彼女の言うパスポートというのは、
他所の世界に行くのに、そっちの世界でしか使えないものを持ってくるだろうか?
ただでさえ、こっちの世界に自身の袋を置いてきてしまったことで、余計な問題を引き起こしたあとだと言うのに。
となると、だ。
彼女の言っているパスポートとは、海外に渡航するためのモノではなく──、
「異世界渡航許可証としてのパスポートよ!私が無くしたのは!!」
「ですよねー」
この世界に来るためのパスポート、ということになるのだった。
「えーと纏めると……異世界規模でサンタクロース業を行っているのが貴方の世界だと?」
「まぁ、そうなるわね。全人類皆サンタ、というか」
「思った以上にとんでもない世界だった」
あれから暫く彼女の話を聞いていたわけだが……ああうん、こりゃ確かにこっちとは色々違いすぎて、迂闊に情報を仕入れるべきではないわ。
言葉の音節自体がヤバい、みたいな一種の神話生物扱いされていたサンタさんだったが、その扱いはまっったく間違っていなかったらしい。
彼女の出身世界であるその世界は、人民が全てサンタで構成されているという超サンタ大国。
そんな彼らの仕事は、
そして、それをその世界の人間に気取られないことである。
曰く、子供の夢を守るための処置とのことだが……こと、どこぞの青狸が『夢を叶える』と称して無茶苦茶なことをするのと同じく、彼らもまた子供の夢を守るために無茶苦茶をしているのだ。
完全ステルス機能付きワープ航法対応ソリ、などという頭の痛くなるアイテムから始まり。
件のサンタ袋──一種の願望器であり、相手の望みを写し取ってそれを構築する、ある種の万能精製機であるとか。
はたまた、周辺地区に子供がいるかどうかを探るレーダーとしての役割を持つレッドノーズトナカイ(発光機能付き)とか。
その素敵()サンタアイテムの数々には枚挙がない。
そして、そんなサンタアイテムの一つ。
サンタを求める人がいる世界を見付け出し、かつ無数の並行世界の中から自身の帰る場所と目的地をマーキングするためのもの。
それこそが、
「パスポートないと帰るに帰れないのよぉ~……」
「oh……」
異世界渡航許可証、通称サンタパスポートなのであった。
……一ついいかな?サンタって付ければなんでも許されると思ってない君の世界???