「ええとつまり?昨日の姿は変装のようなものである、と?」
「え、ええと……あの子にちょっとは聞いているかと思いますが、わ、私達の世界は全人類サンタの世界。そ、それゆえ皆が『サンタメタモルフォーゼ』を習得しているのです」
「サンタ……」
「メタモルフォーゼ……」
……何言ってるんだこいつ???
いやまぁ、サンタの類いが意味不明なことを言い出すのは最早お約束の類いなわけだが。
とまぁ、他人が聞いたら寧ろ俺の方こそ『何言ってるんだこいつ?』と言われそうな感想を呑み込みつつ、改めて件の女性を眺める俺。
長い黒髪はろくに手入れされてないのかぼさぼさ、そもそも食料品店でその髪の長さは行政から指導とか入りそうなものだが、本人が言うには調理中は
……わかり辛いのでもっと簡潔に説明すると、サンタの姿である限り埃も塵も髪の毛も髭も一切落とさないのだそうだ。
なんなら火に炙られても問題ないらしく、あの長い髭は調理の上で邪魔になることがまったくないとのこと。
とはいえ、そんな事情を行政が汲んでくれるのか?
……などと思わなくもなかったのだが、どうやらその辺りの説明……ごまかし?にサンタパワーを利用しているとのこと。
正確には、特殊な体質で塵や埃・その他衛生に関わるような問題を引き起こさない……みたいな説明になるらしい。
それで納得するのか、という気持ちもないではないが……行政の人には丸坊主の男性に見えるらしいので、そりゃまぁ問題になるわけもないなぁというか。
「……いや幾らなんでも無茶苦茶だろうサンタパワー?!ハゲのおっさんと髭もじゃのおっさんと目の前のこの人が全部同じとか!?」
「それ、私たちがツッコミを入れちゃダメなやつ」
「なるほど、
「…………あー」
いやでも、他の人と見え方が違えば疑問にも思うでしょ?
……という俺の疑問は、身内のせいでさっくり片付けられる羽目に。
そういえばこっちの面々も大概でしたね……。
というか、下手すると純(?)こっち産のMODさんが存在する分、説明が普通に付くんじゃないのか感すらあるというか。
「へっくしゅ!!」
「おいこら、だから言ったろうがマスクをしろって」
「いやこれは埃が鼻に入ったわけじゃなくてだね?」
……説明が付くと何かあるのかって?
そりゃ勿論、こっちに根付かせちゃいけない技術じゃないってことになって、乱用が簡単になるというか。
あれこれとごまかしやすくなる──そういった判定が成功しやすくなる、とでもいうのか。
ともあれ、目の前の彼女が今まで隠れていられたのは、ある意味MODさんのお陰であるとも言えるのかもしれない、という話である。
……話を戻して、彼女が昨日のサンタであると言うのなら、こちらとしては願ったり叶ったりである。
なのでそのまま、今回何故俺達がここにやってきたのかを説明することにしたのだけれど……。
「ええとそのぅ……できうる限り協力したいところではあるのですがぁ……」
「……その口ぶりからすると、すぐには行動できない理由がある、と?」
「ええまぁ、はい。その通りでしてぇ……」
おどおどとしながら、けれど強い意思を感じられる態度でこちらに『否』と示してくる彼女。
その言い方から察するに、サンタさんにも話していた『何らかの目的』が帰還のための障害になっている、ということになるようだ。
……となれば、こちらがすることはただ一つ。
彼女の帰還を阻む問題を片付け、大手を振って向こうに戻って貰うだけの話だ。
というわけで、早速彼女の抱える問題を尋ねてみたわけなのだけれど……。
「もう気付いていらっしゃるとは思いますが……私はこの店の店長ではありませぇん……」
「でしょうね。見た目のごまかしが効いても戸籍のごまかしは無理でしょうし」
「いえまぁ、それもやろうと思えば……」
「あれ?」
まず話題に上がったのは、彼女がこの店の店長ではないというある種見た目通りの答え。
……とはいえその理由はこちらが当初思い描いていたのとは少々違い……。
「……店長代理?」
「ええまぁ、そういうことになるのではないでしょうかぁ……他に誰も居ませんので……」
元々彼女がここに滞在するようになる前、この店を切り盛りしていたのは一人のおじいさんだったのだそうだ。
いわゆる頑固者と言われる類いの性格をしているその人物は、現在病院で入院中であるとのこと。
……別に命に関わるような病気・怪我ではないらしいが、すぐに戻って来られるほどに軽いものでもないらしい。
「……まさかとは思うのですが」
「ご、ご想像の通りですぅ。私がここに滞在しているのは、その方へのクリスマスプレゼントのため、なのですよぅ」
そして、その店長がきっかけで、彼女は店長代理になることになったと。
その理由と言うのが、彼のいない間の店を頼まれたため──そしてそれが彼にとってのプレゼントになるため、というある意味でサンタらしいものに繋がるのであった。