うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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サンタの道は遠く険しいかもしれない

「酷い目にあった……」

「だろうな」

 

 

 幸い突撃されたのが俺だったからよかったけど……。

 なんて風に愚痴る俺を適当にあしらいながら、ROUTEさんは洗った後のコップを拭いている。

 

 現在あと三日もしないうちにクリスマス、という日にまで迫っているわけだが、中華料理店での毎日は刺激的に過ぎる日々であった。

 どれくらい刺激的かというと、TASさんが思わず「スーパープレイだけしてたい」とか宣うくらい。

 そんなに中華が好きになったのかい、TASさん……。

 いやまぁ、好きなのはあの空気感であって、中華そのものではないわけだが。

 

 

「……そういえば、アイツって好き嫌いとかあんのか?」

「あるよーそれなりに」

「……意外だな、てっきりなんでも食べるやつなのかと」

「好き嫌いを設定しておくと乱数回す時楽なんだってさ」

「前言撤回、無茶苦茶アイツらしいわ」

 

 

 なんだっけ、好き嫌いって自己申告性だから手足が動かなくても簡単に弄れる項目として優秀……だったか。

 なお、今のTASさんの好物はエビチリ、反対に嫌いなものはタピオカである。……何故タピオカ?

 

 ともかく、わざわざ好物に中華を持ってくるくらいに彼女があの場所を気に入っている、というのは事実。

 ……となれば、彼処を離れなければならなくなる事態を嫌がるのでは?……みたいな懸念も無くはないが、意外なことにその素振りはない。

 あくまでも期間限定だからこそ得難く、それを無闇に伸ばすのは良くない……とのことであった。

 

 

「なるほど、最初言ってたことは違えない……ってわけか」

「まぁ、端的に言うとね」

 

 

 サンタが危険物なので、それを追い返すために行動している……という初心は忘れてないというべきか。

 基本好き勝手に動く類いの人だが、その辺りを間違えることはないというわけである。

 まぁ、たまに『TASけない』とかやりだすこともあるため、油断は禁物だが。

 

 

「……後学までに聞いておくんだが、アイツが助けない場合の基準ってなんだ?」

「彼女の視点で生かしていても害しかない時」

「……怖っ」

 

 

 なお、俺の言い方が悪かったのでROUTEさんは勘違いしていたが……基本的に彼女がTASけないという選択を取ることはほとんどないため、大抵の場合は単なる杞憂である。

 その数少ない例外も、助ける以前の話──こちらの手が端から届かない、みたいなことがほとんど。

 

 それでもなお、彼女が『TASけない』こともある……と嘯くのは、偏に彼女が自分をあてにして自身の研鑽を怠ることを気にしているのでは?

 ……などと考えている俺だが、その辺りを明言してもよくないので胸のうちに秘めているのであった。

 

 

 

・A・

 

 

 

「さて、今日もはりきってお仕事を……と言いたいところなのですが」<チラッ

「まさかコンロが故障するとは……」<チラッ

「私が何かした、みたいな視線を向けられるのはとても心外」<プンスカ

 

 

 はてさて、クリスマスまで残り二日目という朝。

 いつものように仕込みを終わらせて開店準備を……と思っていた俺は、そこで初めてコンロの火が点かないことに気付いたのだった。

 ……どうも大本から故障してしまったようで、仕方なく今日は臨時休業である。

 

 

店長さんも息子さんとの再会が終わったら店は閉めよう……みたいなことを言っていましたのでぇ、純粋に寿命ということなのかもしれません……

「なるほど……まぁ確かに、店の中のものは全部年期が入ってたからなぁ」

 

 

 サンタさんの言葉に、初めてこの店に入った時のことを思い出す。

 あらゆるものが古臭い……というと失礼だが、長く続けている個人店なのだろうなぁと察せられるものであったことを思えば、このコンロも店ができてからずっと手入れをしつつ使い続けて来たんだろうなぁ、という予想も付く。

 そりゃまぁ、いきなり壊れることもあるだろうし、それを見越して店を閉めようなんて話にもなるだろう。

 ……いや、もしかしたら息子さんからの連絡がなければ、それよりも前に店を閉めていたのかも?

 

 

今回はたまたま命に関わるような病気ではなかったみたいですけれど、それでもまぁ自身の体の衰えについてはご自身の方が詳しいでしょうし……

「細かな不調が積み重なった結果、ってことか……」

 

 

 そういう意味では、いい機会だったということになるのだろうか。

 そんなことを考えつつ、店の入り口に張り紙を一つ。

 書かれた内容は、簡潔に『本日臨時休業、クリスマスは開いてます』の文字。

 TASさんが分身(?)を置いているため、修理業者の対応は彼女に任せることになる。

 ……え?じゃあその間、俺達はどうするのかって?

 

「じゃあ、束の間の休暇と洒落込みましょうか」

い、いいんでしょうか……私達サンタはあまりこちらで勝手をするべきではない、と聞きましたが……

「大丈夫。問題なのはサンタ技術の使用。普通に生きてる分には大したことはない」

「……というか、そうでなければ今頃叩き出されていますわよ、貴女」

ひぃ

 

 

 それは勿論、クリスマスの夜にはいなくなる予定の、サンタさんの思い出作りだ。

 

 

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