襖の向こうは非公開領域となっているため、もしかしたら時間経過も変なことになっているかもしれない──。
AUTOさんと話をする中で飛び出した、ある種の世迷い言のような説だったのだが。
……途中からCHEATちゃんの悲鳴が、徐々に倍速っぽいものに変化していくのを聞いてしまえば、単なる冗談だと笑い飛ばすこともできず。
ゆえに、最初は彼女達が出てくるまで無視しておくつもりだった俺達二人はと言うと、今や固唾を呑みながら、目の前の襖が開く時を今か今かと待ち続けているのだった。
……え?気になるんなら開ければいいのに?そんなことしたらここら一帯吹き飛びかねないと思うよ?
「……それはまぁ、冗談として。……一体どうなっていると思います?この中」
「精神と時間が加速される部屋、みたいになってると予想」
「なるほど……」
AUTOさんが思わずとばかりに溢した問いに、こちらもさほど考えを詰めぬままに答えを返す。
とある漫画作品に出てくるそれは、周囲とは時間の流れが隔絶された特殊な空間。いわゆる「一日を構成する時間が増える」タイプの場所である。
まぁ、アレの設定通りの場所だとすると、普通の人間は入っただけで死にかねない場所、ってことになってしまうわけなのだが。
……なんかこう、上手いことどうにかしているのかもしれないけども。
「あとはほら、CHEATちゃんの能力向上の確認の手始めとして、特定空間内の時間経過のアドレスを弄るコードを使わせた、みたいなあれかもしれないし」
「……なるほど、途中から悲鳴らしきものが加速していったのは、彼女がコードの入力に成功したから……ということですわね」
まぁ、仮に成功してたら成功してたで、中に居る二人の年齢が唐突に加算されまくっている、なんてことにもなりかねないわけだが。
嫌だよ俺、二人して背丈が大きくなるどころか、ムキムキマッチョとかになって出てきたりしたら。
「……結果にフィット、というフレーズはもしかしてそういう……?」
「BGMは決まったようなもん、ってことだな……」
例の独特な低音と一緒に襖がサーっと開いて、中から二人がお立ち台に乗って競りだして来たりしたら、まず間違いなく吹くだろう。
……などという他愛のない話をしながら、相も変わらず悲鳴らしき謎の声が聞こえてくる襖を見つめる俺達。
「二人とも、なにしてるの?」<モグモグ
「いや、二人がいつ頃出てくるかなー、って待ってるというか」
「なるほど。じゃあ、待ってる間にプリン食べる?」
「おっと、ありがとう。食べる食べ……なんで居んのTASさん!?」
「ん。コンビニ行ってきた」
「どういうことですのー!!?」
そんな俺達の背後から聞こえた問い掛けに、思わずなにを待っているのかを答えたわけだけど。
プリンの入った袋を持って、反対側の手に持ったアイスをモグモグと食べていたTASさんの姿に、俺達二人は大層驚愕する羽目になるのだった。
……いや、ホントになんで居んの!?
「ええとつまり?この中には変わらずCHEATさんがいらっしゃると……?」
「そう。今は移動先フラグの書き換えに挑戦中」
「リアルどこ◯もドア……!?」
彼女の話を纏めるとこうである。
襖の向こうに連れられて行ったCHEATちゃんが、スパルタTASさんから言い渡されたのは、移動先のフラグの書き換え。
この前述べたように、プログラムというのはとにかく短く楽に処理できるようにする、もしくはできるように努力するのが普通だ。
なので昔のゲームなんかだと、内装に条件を設定して使い回すことで、同じマップを使って容量を節約している……なんてことがある。
宿屋のような、何度も出てくる回復ポイントなどがそうだ。
中に居る人や物の種類を『この扉から入った時にはこうなる』みたいな感じで設定すれば、同じマップでも違うもののように扱うことができる。
外に出る時まで『何処から入ったのか』ということを記憶しておけば、出ていく際にも困ることはないというわけだ。
で、このタイプのフロア移動を採用している場合、『何処から入ったのか』というデータを弄ることができれば、同じ扉からでも色んな場所に移動することができるようになる、というわけで。
「なので、そこを弄るコードを作らせた。今回はクローゼットの扉をコンビニのトイレと繋ぐようにした」
「なんで???」
「ホラゲーとかで隠れる場所繋がり」
「あー、なるほど。怪異から逃げる際に狭い場所に逃げ込む……という処理を行うゲームの場合は、『逃げた先』で処理を纏めてしまっている可能性は十分に有りえますわね」
そのゲームは現実ではない、という話は置いといて。
そのコードが上手くいったかどうかを確めるため、TASさんはクローゼットの中に移動し。
そこからコンビニに移動して『いつの間にトイレの中に……?』と困惑する店員さんを尻目に、コンビニスイーツを幾つか購入しながらここまで戻ってきた……というわけなのであった。
……いやまぁ、言われれば『あー』となるのだが。
そうなったあとで『いやそうはならんやろ』みたいな気分が沸いて来るのも仕方ない、みたいな?
「……ウワーッモウツカレタモー!!」
「うわびっくりした」
なお、それから暫くして知恵熱を起こしたCHEATちゃんが襖から飛び出してきたため、彼女の強化計画は一旦お開きになるのだった。