「さて、当初の予定のクリスマスになったわけだけど。息子さん夫婦っていつ頃来るとか、そういう知らせはあるんです?」
「最初の手紙だけですねぇ。時刻についてはなにも書いてないので、最悪閉店間際になっても来ない……なんてこともあるかもしれないですぅ」
「なるほど、長丁場になりそうですわね……」
さて、束の間の休暇も終わりを告げて、クリスマス当日。
基本的に朝のうちは今までと変わらないが、午後からは忙しくなることが見込まれている。……聖夜に中華食べに来る人が割りといることに驚愕なんだが?
いやまぁ、サンタが中華鍋振ってるんだからそりゃまぁ人もつられるでしょ、と言われればその通りでしかないわけだが。
なお、クリスマス当日ということもあって、微妙に限定メニューが発生していたり。
「中華風に仕上げた七面鳥、というのは物珍しさで売れそうではありますわね……」
「仕込みに時間が掛かるから限定品なのがネック」
ここでの仕事中は珍しくもなくなったポニテ姿のAUTOさんが、下拵えだけされて並べられた七面鳥達を見て微妙な顔をしている。
オーブンに突っ込んで焼く、という手間隙の関係から予め準備をしておかないと時間が足りない……ということで、これから順次突っ込まれていく予定の彼らだが……基本的には普通にクリスマスに出てくる七面鳥と大差はない。
味付けが中華風──辛めのものになっているだけで、オーブンでこんがりと焼くという行程は変わらないわけだ。
まぁ、中華料理店にオーブンがある、というのが割りと珍しいような気もするのだが。
「その辺り、実際どうなのでしょうね?炒め物のイメージが強いのは確かですけど……」
「他所のことは知らない。重要なのは珍しいものに人は引き寄せられる、って一点」
「確かに……って、別に売り上げを気にする必要はないんじゃないのか?凄まじく今さらなツッコミだけど」
「い、一応はお預かりしているお店なので……」
あれか、借り物なのだからしっかりと活用すべき、みたいな?
……元はと言えば店長さんの息子さん夫婦を迎えられればそれでいい、みたいな話だったような気もするのだが。
まぁ、下手に閑散とした様子を見せてしまうと変に気を使わせてしまう、みたいな意味合いも強いのだろうけど。
ともかく、今日も今日とて忙しいだろうことに変わりはない。
その辺りを再度確認して、俺達はいつもの配置に付いたのだった。
「……相も変わらず、結構な人の入りですわね」
「なんやかんや宣伝効果は高いんだろうねぇ」
時刻は午後三時前、昼時が過ぎたこともあって人の姿は疎らとなっている。
……まぁ、あくまでもさっきまでよりは疎らなだけで、この時間帯にこれだけの人数が店内にいる、というのはわりとおかしい状況なのだが。
それもこれも、いよいよクリスマス本番……ということもあって服装をしっかり整えたサンタさんのおかげ……みたいな感じというか。
あの服装で鍋を振るのは危ないとしか言いようがないのだが、そこはさまざまなサンタ加護により防御ないし回避しているとかなんとか。
……ツッコミを入れなかったのかって?今日に限ってはスルーで通すよ……。
なお、TASさんはその姿を見て目を輝かせていた。
……服装によらず万全の動きを保っていること、およびその際に発動しているスキルなどなどが彼女の琴線に触れた、ということになるらしい。
そのまま放置するとサンタ技術を吸収し始めかねない勢いだったため、しっかりと釘を打っておいたが……うん、効果があるかは微妙なところである。
本人が「この技術は危ない、世界を滅ぼす」とかなんとか言っていたのだから、その辺りのブレーキは利いているとは思うのだが……憧れや興味がそのブレーキを踏み壊すこともあるからなぁ、みたいな感じというか?
「なるほどねぇ。だから今日に限っては私たちに『家のことは放置でいいからこっち来てて』などと声を掛けることになったと」
「代わりに昼食も夕食も全部中華だけど勘弁してね?」
「別にその事に否はないよー」
ただまぁ、いつもとは空気感が逆というか別というか、そんな感じを覚えただけさ……と笑いながら呟くのは、昼間から店内で屯しているMODさん、およびその付き添いでやってきたROUTEさんである。
サンタさんがサンタの姿になっているので姿被りはない、ということでダミ子さんもいたりする。……まぁ、こっちは脇目も振らずに中華三昧しているわけだが。
「ふぉふぉふぁふふぁ?」
「何言ってるかわからんのだけど???」
「……んんっ、そもそも私が見てたってよく分からないですぅ。だったら全ての中華を味わい尽くすことを目的に動いた方が遥かに生産的ですぅ」
「やってることは生産どころか単なる消費だがな」
店内禁煙なので、露骨に機嫌悪そうなROUTEさんに諭され、ダミ子さんは舌ぺろしながらごまかしていたが……うん、なんでもいいけど食べるならしっかり代金は払ってね、とだけ。
……この店、意外といい食材使ってるから案外高いんだよなぁ、とあれこれ注文するダミ子さんに冷ややかな視線を向ける俺なのであった。