うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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聖夜に一つの奇跡を起こして

 はてさて、サンタさん(と、それを追わせたダミ子さん)が店を出てから早数分。

 店内は相変わらず慌ただしく、俺はサンタの格好で鍋を振るっているのだが。

 

 ……これ、滅茶苦茶辛ぇ!!

 見ただけでサンタです、とわかる格好というと例のあれを思い浮かべるだろうが……そのせいで滅茶苦茶熱がこもるのだ。

 

 普段なら外の寒さに対して中あったかーい、くらいで済むのだろうが……今現在俺が立っているのは厨房、それも高火力のコンロの前!

 そこで熱せられた鉄鍋を大仰に振っているのだから、単純な運動による発汗・発熱と場所そのものの熱、さらにはそれらが服の中で停滞し続けることによる蒸し暑さにより、サウナもかくやという地獄と化していたのだった!

 

 一応、TASさんが仰ぐ……ついでに服の中の空気が効率よく入れ替わるようにしてくれているが、まさに焼け石に水。

 ……サンタパワーみたいなオカルトがないことには、この熱の塊のような状況を覆すにはパワーが足りないらしい。

 

 

「むぅ、そこまで言われては仕方ない。こうなったらあれをこうしてこうやってそうしてああして……」

「いや待った、何をしようとしているのさTASさん?!」

「何って……お兄さんの服の中に極小のワームホールを開いて熱を排出……」

「熱が排出される前に別のものが排出されるわ!?」

 

 

 具体的には店の中のものとか。

 ……ワームホールそのものには周囲のものを吸い寄せる力はない。

 ならば何故吸い込まれるのかと言えば、繋がった先同士で気圧の差などがあるため。

 ……要するに気圧の低い方に気圧の高い方が流れ込むから、結果として吸い込まれているように見えるのである。

 

 つまり、ワームホールを用いて熱を排出しようとすると、勢い余って周りの物ごと吹っ飛ばす可能性が大なのである。

 そうなったら仕事どころの話ではないため、慌ててTASさんの暴挙を止める俺なのであった。

 

 

 

;・A・

 

 

 

「……お、終わった……のか?」

「夕食陣営の終わり、ってところだね。これから夜食組が来るんじゃないかな?」

「束の間の休みってことか……」

 

 

 時刻はおよそ九時くらい。

 夕食を食べに来た人達はほぼ食事を終えて帰ってしまい、店内は再度疎らな人影に落ち着いていた。

 

 ……要するに一端休憩、というわけだが……それも長くは続かないだろう。

 なにせ今日は深夜帯まで開けるとのことで、営業時間はまだ四時間ほど残っている。

 クリスマスの深夜を中華料理店で迎える、というのはムードもへったくれもないような気がするが……それを言ったらクリスマスそっちのけで中華鍋振ってるサンタも大概である。いや、中身は俺だけども。

 

 あと、ここまで時間が経過してもダミ子さんは帰ってこない。

 流石に店長さん達の用事がここまで長引いている、ということもないと思いたいが……トラブルメイカーなサンタさんのことなので、どこまで信用していいものやら。

 

 

「まぁ……十中八九新しいトラブルに引っ掛かっているでしょうね、この分ですと」

「だよなぁ……やっぱりダミ子さん一人に任せるのは無謀だったか……」

「かといってCHEATさん達を引っ張り出すのも……って、あら?」

 

 

 横合いから掛けられたAUTOさんの言葉に、思わず唸ってしまう俺である。

 ……いやうん、ここまで長引くと『だろうね』って感じしかしないけど、でもなぁ……。

 

 なんてことを思いながら唸っていると、突然AUTOさんが店の入り口に向かって駆け出した。

 正確には、その横の道に面した窓の方に駆け寄った形だが……そこに張り付くようにして、空を眺める姿を見て残された俺達は互いに顔を見合わせ、彼女に続くようにして窓に近付くことに。

 

 

「……マジでか」

「なるほどそういう……」

「トラブルはトラブル。でも仕方のないトラブル」

「いや、本当にそうか……?」

 

 

 そうして俺達は、夜空に浮かぶあるものを見た。

 

 それは、本来空なんて飛ばないはずのもの。

 きらきらと輝きのようなものを溢しながら、悠々と駆けていくそれはある種優雅ですらあり。

 シャンシャンと鳴り響く鈴の音は、同時にその音を雪に変えたように周囲を白く染め上げていく。

 

 ──そう、夜空にはサンタクロースのソリが、自由に駆け回っていたのだった。

 そして同じく響いてくる、そこに乗っているはずの人物の声。

 

 

ふぉっふぉっふぉっ。メリー・クリスマース!

「ですぅ!ですぅ!」

 

「ぶふっ!?」

「……トナカイの声、ということなのでしょうか?」

「流石はダミ子。奇怪な変身においては右に出るものがいない」

「いや、奇怪すぎんだろ……」

 

 

 サンタさんの声と、それに合わせるようにして聞こえるダミ子さんの声。

 ……思わずなんじゃそりゃ、とツッコミたくなるようなサンタ一行は雪と共にプレゼントを降らせながら、遠く遠く夜空の向こうへと向かって駆け抜けて行ったのだった。

 

 ところで、ダミ子さんはどっちに変身したんですかね?

 トナカイ?ソリ?

 そんな問い掛けは、戻ってきたダミ子さんの「どっちもですぅ」という答えによって解決?したのだった。

 

 ……いや、ツッコミ処しかねぇよ?!

 

 

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