「いや旨かった。貴殿は料理が得意なのだな」
「まぁそれなりにはね。……そっちは掃除とか問題なかった?」
「新聞部が若干死にかけていたな。肉体労働は専門外とかなんとか」
「いや、基本的に走り回るような部活じゃねぇのそれって?」
特にパパラッチもどきならなおのこと。
……みたいなことを話しながら、風呂場で体を洗っている俺達である。
これ誰向けのサービスなんだろうね?
何を言っているのだ?……と成金君に首を傾げられつつ、湯船に沈む新聞部君の方を見る俺である。
うん、さっきの彼の言葉は本当だったようで、現在の新聞部君は死んだように湯船に浮かんでいる。
流石に仰向けだが……これがうつ伏せだったらマジで死にかねないからそこに関してはよかった、というべきか。
ところで、大幅に外装から内装から変化したこの家、もとい寮だが。
この浴室に関しては、昨日までのそれとほとんど変化していない。
具体的には壁に書かれた絵が富士山から波間に変化しているのだが……これがどういうことかというと。
「まさか風呂が増えているとは……」
「そりゃまぁ、普通はわけるだろう。正直我の目から見ても贅沢な感じは否めんがな」
そう、男女別々・かつ同じタイミングで入ってもトラブルにならぬようにと男湯・女湯に分けられているのである。
これにはお兄さんもびっくり。
いやだって、ねぇ?
前の時点でどこの温泉なのか?……くらいの規模だったのに、これじゃあ完全に銭湯である。いわゆるスーパー銭湯ってやつ。
何せ一歩浴室を出れば風呂屋顔負けの脱衣所があり、洗面台にドライヤーやら扇風機・はたまたマッサージチェアまで備えられているのである。
なんなら自販機まで設置してある辺り、これは一体何を目指して作られたモノなのか感が凄いというか。
「いやまぁ、多分あれこれオブジェクトを置くことでTASさんの有利がごりごり増すから、ってことなんだろうけど」
「ふむ……乱数とやらを調整する先が増える、という解釈であっているか?」
「うん、そういうことになるね」
まぁ、実態としては
モノはあればあるだけ彼女の手数となるし、そもそも彼女が呼び出してるものなので手間暇もそう多くない。
……ってことはこの内装、どっかの風呂屋のそれをそのまま引っ張ってきている可能性が高い、ということになるか。
そうなるとちょっと乱数弄れば元になったところに繋がる、なんてこともあるかもしれない。
移動手段としては結構使いやすい部類なのではないだろうか?
まぁ、タイミングやら使い方やらを間違えると向こうの人がこっちに来てしまう、みたいなことにも繋がりかねないが……TASさんのことなのでその辺りも上手く活用してしまいそうである。
そんな感じのことを成金君に説明したところ、彼はその内容をしっかり吟味したのち、遠い目をしながらこう返してきたのだった。
「貴殿の周りはヤバイ人間しか居ないのだな」
「ははははは」
笑うしかねぇ(白目)
「そうして風呂を出てきた結果、再度髪を洗いに行くべきかなーと思っている俺です」
「
「うわぁ」
はい。風呂出た瞬間終わった俺の髪です()。
TASさんの機嫌が悪いのでここから先には進めません、詰みです。
仕方ないので風呂上がりのコーヒー牛乳で機嫌を取り、彼女が離れた隙にさっと髪を手入れしておく次第であります。
「こういう時短いと手入れが楽でいいよね」
「そういう問題なのか……?」
サッと洗ってがしがしタオルで髪を拭く俺に、ROUTEさんが微妙な顔をしながら声を掛けてくる。
その右手には火の付いた煙草。……こんなところで吸っていいのか、と言われそうな空気を感じたので一応解説しておくと、現在俺達がいるのはリビングルーム。
そこの一画には喫煙所(灰皿とゴミ箱が一緒になったものが設置されてるだけの簡易的なもの)があり、彼女はそこで煙草を吸っているのだった。
「本当なら仮に喫煙所があったとしても吸わないように、って咎めるとこなんだけど……」
「まさか宿題扱いされるとは思わなかったってな……いやまぁ、確かにやろうと思えば出来たのかもしれねぇけどよぉ」
ストレス解消のために吸ってるのに、これじゃあ余計にストレス溜めるだけじゃねぇのか?……とは彼女の愚痴である。
現在の彼女が何をしているのか。
それは、TASさんからの一言に答えがあった。
「これから他の人も多く来るようになる。そうなると喫煙者の肩身は狭くなる。……故に、貴方への宿題。
「……は?」
そう、TASさんがROUTEさんに科したのは、自身の能力の習熟。
選択肢と言う形である程度未来を左右できる彼女ならば、それの繰り返しで煙草の煙を(少なくともこの場にいる誰かの)迷惑にならないように外に排出することが出来るはず……という、ある種の無茶振り。
それが出来なければ貴方に煙草を吸う資格はない、取り上げる……という、あまりにスパルタ過ぎる宿題。
それに逆らえなかったROUTEさんは、ぐちぐち言いながら煙草の煙と悪戦苦闘している、というわけなのであった。
「……個人的には、そこまでして吸いたいものなのか、と思わないでもないのですが……」
「それを言うならそもそもここで学生やらされてる時点で不満まみれなんだよこっちは……!!」
「あっはい」
回避できない問題が多すぎる。
言外にそう告げる彼女に、俺達は苦笑を返す他なかったのであった──。