「クッキーとはまた、オーソドックスな……」
「お、言ったな?そんな成金君には厳しめ判定を差し上げよう」
「済まんがTASよ、時間を巻き戻してはくれんか?」
「実験台になってくれるなら」
「──よし、諦めるか!」
「むぅ」
いや何言ってるんだこの子らは。
実際に作ったことがあるかは別として、所詮はクッキーとばかりに言葉を漏らした成金君に対し、そこまで言うのならば君は君の所属階級に見合ったモノを作って貰おうではないか。
……とばかりに注意したところ、反省するどころかTASさんに頼んでズルをしようとする彼の姿に、思わず呆れてため息を吐いてしまう俺である。
いやまぁ、その横で『折角の実験台を逃した』みたいな感じに落胆(※当社比)してるTASさんも問題と言えば問題なわけだが。
まぁ、この二人は今回の主題とは微妙に遠い位置にいるので、そこまで強く責めるつもりもないけど。
……なんてことを思いつつ、視線を隣に移せば。
「……か、買えばよくないっすか?クッキーくらいなら」
「ほう、つまり君は店で売ってるものと遜色ないモノを作れるので買えばいいと?」
「誰もそんなこと言ってねぇっすよ!?」
「い、イヤ!仮に遥かに劣るモノしか作れないのダトしてモ、それはそれで出来合いのモノを買う方がよい、というコトになるノデハないかと思うのデスが!!」
「確かに、完成度の面で言えばそれは間違いないな」
「で、デスよね!」
「──だが自分の手で作れ、と言われてる場面で『買えばよい』と返すのは問題の本質を捉えきれてない。日本被れは三点減点」
「三点減点!?イヤそもそも何を減点されたンデス今!?」
「もぅマヂ無理。。。調理実習とかゥチにゎ端から無理だったってコト。。。今生地を捏ねた。。。すなわちこれ、感謝と悔恨を込め至上の命題を果たす道也」
「はーい、ギャル子さんは虚無の表情で生地を捏ねようとするの止めようねーっていうかそれ捏ねるっていうかただの正拳突きだよねー」
「あー!!止めてせんせぃゥチにはもうこぅするしかないのー!!」
なんだこの地獄(真顔)。
わりと感覚的な部分も多い(適量とかのせいで)普通の料理と違い、菓子作りといえば科学に例えられることもあるほどに、きっちりかっちりと決まった手順をこなすだけで出来上がるもの。
ゆえに、料理初心者でもレシピをキチンと守る限り変なことにはならない、寧ろ初心者にこそ優しいモノなのだが……。
「あれですわね、お菓子作りという単語そのものに惑わされている、と」
「うーん認識の差を感じる……」
イメージの問題、というべきか。
……ともあれ、三者三様に困惑するその様をなんとか宥め、調理実習が開始できる状態に持っていくため頑張る俺である。
「いいですか、お菓子を作るのは難しいと思われがちですが、その実レシピを忠実に守る分にはなーんにも難しいことのない、
「NOー!!!」
「OK???」
「い、イエス……」
え?結局怖がってる?対象が違うから問題ないね!()
……まぁともかく、俺から言えることは三つだ。
「レシピを守ること、レシピを守ること、レシピを守ること、だ!」
「え、いやそれ同じことしか言ってない……」
「まず一つ目、レシピに書いてある調理の仕方を守ること!弱火で三分だから強火で一分、なんて阿呆みたいな算数をするな!いいかそれは数学ではなく算数、なんなら算数としても足りてないレベルの暴挙だ!」
「め、滅茶苦茶言ってくるっす……」
一つ目、
強火や弱火などの指定は意味があって行われているもの、ゆえにその意味も理解できないのに勝手に変えるものではない。
食材に火を通すというのは中々難しいことなのだ、それを認知せずに火力を増したところで出来上がるのは単なる炭素の塊である。
「二つ、レシピに書いてある材料の量を変えるな!特にお菓子の場合砂糖とかバターとかの量がエグいことになるけど、それも最終的な出来上がりを見た結果必要な量だと定められたもの!勝手に変えた結果味が薄くなるのはまだマシで、場合によってはそもそも料理が完成しないなんてことになる場合もあるぞ!」
「い、イヤでもやっぱりこの砂糖の量はヤバいって……」
「この、バカもんがー!!」
「げんこつ!?」
二つ目、
お菓子作りの場合、特に砂糖やバターの量に驚いてそれを減らしてしまうパターンがあるが、それらは実のところ味云々より生地の膨らみ・食感・焼き色などに意義を持つもの。
ゆえに迂闊に減らしたり他の代替品に変えたりすると、出来上がっても微妙に美味しくないとか最悪完成しないなどの弊害をもたらす。
なので、例えどれほど量が多く見えたとしても、その材料がどういう効果を持っているのかがわからないうちは素直にレシピに従え、という話になるのだ。
「そして最後!料理初心者たる貴様らに自由意思はない!ゆえに
「横暴だー!」
「横暴だーと言うのなら、今すぐ完璧なクッキーを作って見せろ!」
「……」
「そこで押し黙るからダメなんだよー!!」
(お兄さんのキャラがおかしい。面白いからいいけど)
とまぁ、そんな感じ?の会話ののち、彼女達のお菓子作りは始まったのであった。