うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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姿と形は七変化

「おや、外で会うとは奇遇だね」

「……ええと、どちら様で?」

 

 

 買い物しようとちょっと街まで出掛けた俺。

 生憎財布は忘れなかったが、変わりに偉い美人さんに声を掛けられることになったのだった。

 

 いや、これが本当に美人さんでね?

 ともすれば普通にモデルとして雑誌とかに乗ってそうな、少なくとも俺とは接点も関係も関わりもなさそうな人だったのだけれど。

 なんでか知らんが、すっげーフランクに話し掛けられたもんでね?そりゃもう、すぐ近くにカメラでも仕込んであるんじゃないか、と辺りを確認したってもんですよ。

 ……見えたもの?こんな美人さんに話し掛けられやがって、みたいな男共からの嫉妬の視線くらいのもんですがなにか?

 

 最近は久しく浴びてなかったなぁ、なんて感想が出てくるような、人からの悪意の籠った視線にうんうんと頷いていると。

 

 

「……あ、あはは。前々から思ってたけど、君は変わってるね、やっぱり」

「…………あ、その声はMODさん?」

「当たり。流石にちょっと難しかったかな?」

 

 

 目の前の美人さんから聞こえてきた呆れたような声が、どうにも聞き覚えのあるような気がして……ああこれ、MODさんの声だわ、と気付いた俺がそれを口にすれば。

 彼女(?)はその言葉に嬉しそうにしながら、艶やかな笑みをこちらに向けてくるのだった。

 ……周囲からの視線の温度が明確に下がったので、俺で遊ぶの止めて貰えます……?

 

 

 

・∀・

 

 

 

 こんなところで立ち話もなんだから、という相手の言葉に頷きたくなかった俺だが、無理矢理腕を組まれて引き摺られてしまえば(意外と力が強いのもあって)逃げることも叶わず。

 周囲から立ち上る怨嗟の感情が、物理的破壊力を持ちそう……なんて現実逃避くらいしかできないまま、俺はなんだか高そうなレストランの椅子に座らされていたのだった。

 なお、目の前のMODさんは、相も変わらずファビュラスな感じのドレスを着た美女のまま、である。

 

 

「君は成人してるんだっけ?ワインとか飲む?」

「のーせんきゅーのーせんきゅー、あいむどんとどりんくわいんー」

「なんだいそのエセ英語……」

 

 

 その姿のままで、人にワインとか薦めてくるのだから恐ろしい話である。

 この人高校生なんですよ?なんでこんな手慣れてるんです???

 

 

「まぁ、こういう体質だからね。そういうのにも縁があるかも?……ってことじゃないかな?」

「高校生の飲酒はどうかと思いますがー?」

「あるかも、って言っただろう?実際にはないよ、これがね」

 

 

 ……う、嘘くせー。

 この間は浴衣に変なお面付けたヒーローごっこみたいなキャラしてたのに、今回のこの人余りにもうさんくせー。

 どっちかというと悪役・女ボス的な空気を漂わせる今のMODさんには、正義の味方なんて言葉は欠片ほども似合わない感じである。

 

 

「……あのだね。あのお面の良さについて私は語る言葉を無数に持つけど、それを君に理解させるのは難しいのだろうな、と思っているから語ってないだけでだね?」

「おお、いつもの……って言えるほど長い付き合いじゃないけど、胡散臭さが消えたのはいいと思うぞ俺」

「……君相手だとペースを乱されて困るね、はぁ」

 

 

 まぁそこを突っつくと、いつものMODさんに戻ったのだが。……姿がって意味ではなく、空気感がって意味ね?

 これなら俺が無駄にからかわれることもあるまい。そう思いながらふぅとため息を吐けば、相手もこれ見よがしにため息を吐いていたのだった。

 

 

「もう少し反応して欲しかったんだけどなー」

「人をおもちゃにしようとするのは止めろ、というのは前提として……なにかあった?」

「いやねーちょっと仕事でねー」

「いきなり緩くなったぞこの人」

 

 

 どうやら、MODさんは仕事疲れから癒しを求めていた様子。

 ……だからって俺弄りをしようとするのはどうかと思うが、それくらいには気を許されたということなのかもしれない。

 

 

「警戒する必要のない知り合いって、意外と得難いものだからねー」

「あー、MODさんって能力的に、色んなところに引っ張りだこっぽいもんなー」

「そうなんだよ聞いてくれるかい!?」

「近っ」

 

 

 なお、迂闊に彼女?の苦労について言及してしまったため、暫くMODさんの愚痴に付き合わされる羽目になったのは、明確な俺の疵瑕(しか)だと思う。

 

 

「……美味しいご飯が食べられたのであれば、それはそれで良かったのでは?」

「あのだね、一皿五桁とかの料理を持ってこられて、ちゃんと味を理解できるほど俺はそういうところに慣れてないんですよ???」

「それは自慢気に言うことかなー……」

 

「むー……」

「なんだいTAS君。別に私は彼を取ったりはしないよ?」

「それに関しては心配してない。お兄さんを欲しがる人はいない」

「……ごめん、これに関しては私が悪かった。……今度、みんなで食べに行こうか」

「うん」

 

「……気のせいかな、別になんにもしてないのに俺にダメージが飛んできた気がしたんだけど???」

「いつものことでしょう、スルーなさっては?」

「なんでみんなの扱いがこんなんなんです???」

「見てる方が面白いから……?」

「色々と抗議したいんだが!?」

 

 

 なお、帰ってから色々言われたけど、どっちかと言うと勝手に外でご飯を食べてきた、という事実の方が問題になっている感じだったのは遺憾の意である。

 ……なんか観賞用のペットみたいな扱いになってないか俺?!

 

 


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