「……マジかよ『ウィリアム・シェイクスピアの喜劇、史劇、悲劇』の初版本があるぞ……」
「この本は鳥の絵ばっかりデスねー」
「ゲェーッ!!?それは『アメリカの鳥類』!?」
「そういえばこれってなんなんすかね?TASさんが持ってきたはいいものの、それ以来全く触ってない図面?的なやつなんすけど」
「ひぃー!!?まさか『レスター手稿』?!未発見ページ!?ひぃーっ!!?」
ダメだこの部屋!
さっきまでは棚の戦利品にヤバさを感じてたけど、どっちかというと無造作に棚に突っ込まれてる本の方がやべぇ!!
隣のTASさんから「保護機能とかはちゃんとしてるよ?」などという戯言が飛んでくるけど、正直その辺りの本がこんな学園(失礼な物言い)に置いてあること自体が最早ミスだよ!!
「……ふと思ったのですが、何故そこまで稀覯本にお詳しいのです?失礼ながら、あまり貴方様は本を読むほうには見えませんけど……」
「TASさんがちょくちょく変な本読んでるから、流れで覚えちゃったんだよぉ!!」
「あ、なるほど」
稀覯本というのは手に入れ辛いもの。
それは言い換えると
……響きからしてTASさんが好きそう、というのはなんとなくわかるのではないだろうか?
いわゆるレアアイテム、コレクションの類いというか。
とはいえまぁ、それでも以前までは自重してたのである。
精々稀覯本のリストみたいなモノを見て「へー」とか言ってるくらいで収まっていたのだ。
……それが、読書家ちゃんという仲間(?)を手に入れたことにより、自重が弾け飛んだのだろう。
結果、モノによっては億単位になるような稀覯本が跋扈する魔界と化したのだ、この部室は!
そりゃもう、思わず頭を抱えたくなることうけあいである。
幸いにして、棚に飾られている統一感のない戦利品達が異様な空気を発しているため、地味な本棚に視線は向けられていないようだが……。
「価値がわかる人間が見たら卒倒するぞこれ……」
「既に値段を聞いた同人さんが泡を吹いていますが」
「同人ちゃーん!!?」
知らんかったんかーい!あんなに自慢気な空気醸し出しといて!!
自身がどれほどヤバイものに囲まれて生活……生活?していたのかを悟った同人ちゃんは、思わず意識を手放していたのであった。
「そんなヤバいブツだとは知らなくってぇ……隣に私の描いた本とか置いちゃってぇ……」
「ああなるほど……それは卒倒する、俺じゃなくてもそうなる」
ウン億円するような本の横に自分の描いた十把一絡げの本を置いていた、なんてことになったらそりゃまぁ意識を手放しますわ。
寧ろ即座に自分の首を掻っ切りに行かなかっただけ理性的ですわ……。
そんな感想を、気絶から復帰した同人ちゃんの言葉より抱いた俺である。
別に本の価格が価値の全てではなかろうが、それでも知らずにやっていたことが恐れ多すぎて現実を拒否するしかない、みたいな心境に陥るのは無理もない。
なのでその辺りの話は置いておくことにして、改めて読書部自体の活動内容について確認していく俺である。
「読書部なので勿論、本を読むのが基礎的な行動っすね……」
「ダメだこりゃ」
すぐにその行動が失敗であったことに気付いたんだけどね!
そうだった、読書部なんだから本を読むのは当たり前だ!(かなり胡乱な発言)
現状彼女から本の話を引き離すのがベストなのだが、生憎俺達はこの部活について見学しに来た身。
すなわち、さっきのアレを含めた山ほどの本に触れずに話を進めることは不可能に近い!
「……あー、ハイ。同人ガールについては私が保健室に連れていきマスので、他の二人に話を聞くのがいいのデハ?」
「そうした方がいいのは山々なんだけどねー」
「や、止めてくださいっす……読書部のイメージが……私の城が……っ」
「二人に任せるのは不安、っていう同人ちゃんの気持ちもわからなくはないんだよね」
「むぅ、同人もお兄さんも失礼。たかだか一月程度一緒に部活に励んだくらいで、一体私の何がわかるというのか」
「その一月でわかる程度のことでもヤベーってなるってことでしょうが」(周囲の惨状()を見ながら)
「……お兄さんが生意気」
「ぬぉっ!?流石にその流れでの暴力はノーだぞ!?受け入れられぬ!!」
腕っぷしでなんでも解決すると思うなよ!!?
……ってなわけで、ごまかすようにTASさんから飛んできた本を回避。
した後に、今投げたのどの本!?と思わず目で追ってしまう俺である。
いやほらだってさ、TASさん的に金額云々が躊躇の切っ掛けにはならないというか。
それしかないならわりとあっさり放り捨てるのが彼女なので、もし仮にさっきの稀覯本辺りしか手元にないなら普通に投げてくるというか……。
そんな感じで見送った本はどうやら同人ちゃんの描いたモノだったらしく、バサバサと音を立てながら俺の横を通りすぎて行き。
「あっ」
「あっ」
「……いい度胸だなテメェら」
偶然にも部屋の扉を開けて中に入ってこようとしていたROUTEさんの顔に、見事にクリーンヒットしたのであった。
……あっ、これは死んだな、うん。