うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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くらえ渾身の手榴弾()

「あっちからやって来るぞ!」

「ひぃー!?」

「今度はこっちだ!」

「ひぃーっ!?」

「上から来るぞ!」

「ひぃーっ……って、上!?

 

 

 やだ、違うゲームしてる気分……。

 

 必死であちこち走り回る同人ちゃんを見ていると、なんだか不思議な気持ちになってくる。まさかこれが……変?

 まぁお決まりのネタはともかく、いい加減気も済んだので対策に本腰を入れ直す俺である。

 

 

「もっと早くから本腰を入れて欲しかったんすけどぉ!?」

「それに関しては本当に申し訳ないと思っている」<キリッ

それ絶対申し訳ないって思ってない顔ぉ!!

 

 

 はっはっはっ、いやいや本当に申し訳ないと思ってるって。

 主にTASさんほどうまく同人ちゃんを誘導できてない、ってことについて。

 それ申し訳なくないって言ってるのと同じじゃないっすかぁーっ!?

 ……と喚く同人ちゃんの背後から急襲してきた下手人を華麗にスナイプし、ソンナコトナイヨー?と言葉を返す俺である。

 

 冗談はさておき、第二波も佳境といったところ。

 生憎俺達なので撃破効率は宜しくないが、その辺りはもう一人のTASとも呼べる読書家ちゃんのおかげでまだなんとかなっている。

 

 

「心が折れそう」

「あれーっ!?」

 

 

 おかしいな読書家ちゃんがヤバイことになってるぞ!?

 

 ……突然のことに取り乱したが、それも仕方のない話。

 だって今の読書家ちゃん、あからさまによぼよぼのしょぼしょぼなんだもの。一瞬おばあちゃんに見えたもの。

 

 流石におばあちゃんに見えたのは錯覚だが、それにしたって疲労困憊すぎるのは確かな話。

 なんでそんなに疲れてるのか、と思わず問い掛けてしまった俺は悪くない……はずだ。

 

 

「コード達の実務量を甘く見てた……こんなに差があるとは……」

「はい?コード?実務量?」

「こっちの話。……とりあえず、後で労災申請しておくね」

「えっ」

 

 

 いやどういうこっちゃ?

 謎の単語を呟いたかと思えば撤回し、代わりに出してきたのは労災申請の話。

 

 ……いや労災て。それ『労働災害』の略で意味としては労働者が業務中に遭遇した災害、みたいなもののはず。

 雑に言うと『無茶苦茶な業務によって酷い目にあった』ということになるわけだが、そもそもこれは業務でもなんでも……。

 

 

「……しまった、TASさん経由だから普通に仕事扱いなんだった」

「報酬八割増しとかでも収まらないレベル」<プンスカ!

「ええと、その辺りの話し合いは本人としてもろて……」

 

 

 そういやそうだった。

 俺と同人ちゃんはともかく、読書家ちゃんに関してはTASさんからの依頼によって参加してる扱いだから、一応定義の上では業務になるんだった。いわゆるバイト扱いというか。

 

 なお、バイト云々の話を聞いた同人ちゃんが「えー!?私は私は!?私にバイト代はないんっすか?!」とかうるさかったため、返答代わりにデコピンをお見舞いすることになりましたが問題はありません。

 

 

「問題しかないんっすけどぉ!?」

「うるさいなー、言っとくけど残機がバイト代代わりだからそれ以外が欲しいならTASさんと直接交渉する以外ないぞー?」

「それは勘弁して欲しいっす……」

 

 

 別にTASさんは守銭奴ってわけじゃないが、それでも彼女から報酬を得たいというのであれば交渉する他あるまい。

 それ即ちTASさんとのバトル開幕のお知らせ、というわけなので、イコール彼女が手を抜くことはまっったく期待できない、ということでもある。

 

 その状況下で彼女から報酬をもぎ取れるのなら、寧ろやってみろ……みたいな話というか。

 無論そんなの無理なので早々に諦めた同人ちゃんであった。

 

 

「……今の状態ならワンちゃんあるのでは?」

「!?なるほどその考えはなかったっす!!今の弱々乙女TASさんなら口八丁手八丁で譲歩を引き出すことも可能って寸法っすよー!!」

「あっちょっま、……行っちゃった」

 

 

 どっこい、それじゃあ面白くない()とばかりに彼女の耳元で囁いたのが読書家ちゃん。

 彼女は『普段のTASさんになら無理でも、今のTASじゃないさん相手ならなんとかなるのでは?』と同人ちゃんを唆し、見事に彼女を尖兵へと変貌させたのだった。これはひどい。

 

 

「……追加報酬とでも言うつもりで?」

「そんなとこ。欲に溺れるものは欲によって身を滅ぼす。──目の前にその成れ果て達がいるのにその事に気付かないのはよくない、ゆえにこれは授業料」

「ものは言いようだなぁ……」

 

 

 なお、同人ちゃんを見送った読書家ちゃんの『してやったり』みたいな顔を見ればわかると思うが、仮に今のTASさんがTASじゃないさんだからといって、交渉事が上手く行くかと言えば別の話。

 そもそも今の彼女は対話をしてくれる状態じゃないうえに、余計な被害が発生しないように自身と自身に触れるモノを夢に閉じ込める特殊な空間を予め用意し、その中に閉じ籠ってる状態。

 そのことを知っているのならともかく、知らない同人ちゃんがどうなるかと言えば……、

 

 

「……あ、あれ?目の前にあった報酬の山は?」

「そんなもの、ここにはないよ……」

 

 

 このように、ありもしない夢の世界に惑わされ、元の場所に戻ってくる結果と相成ったわけなのであった。

 うーん、迂闊にも程がある……。

 

 

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