「そんなわけで、義理の母の保険医です。コンゴトモヨロシク」
「こ、これはどうもご丁寧に……」
……いや、どういう状況だこれ?
ベッドの上で思わず正座した俺と、椅子に腰掛けこちらを向いている保険医の女性。
互いに頭を下げたわけなのだが……いや、何も理解できてないんだけどどういうこと???
「ん、この人は私のお母さん」
「義理の、ね。別に腹を痛めて産んでもないし、ろくに一緒に暮らしてもないけどね」
ほぼ戸籍だけの関係、というか。
そう告げながら苦笑した彼女は、しかして本当に血の繋がりがないのかと疑うほどに似通った見た目をしている。
強いて言えば、保険医さんの方が若干顔色が悪い気がする、というか?露骨に目の下の隈が目立つというか。
「ん?……まいったな、保険医が自分の健康すらろくに維持できないのか、ってまた怒られちゃう」
「怒られて然るべき、お母さんまた徹夜してたでしょ」
「なんで知ってるんだ、って聞くのは野暮だよねぇ」
「ん、とっても野暮」
「いや待って勝手に話を進めないで」
今一緒に暮らしてないどころかそもそも居を共にしたこともない、みたいなこと言ってなかったお二方???
打てば響くというか阿吽の呼吸というか、あまりにも自然に流すものだからお兄さんちょっと困惑しちゃったよ???
そう声を掛けるも、二人は揃って首を傾げるばかり。
だからさっきからのそれ、血縁関係を否定しきれなくなるくらい似てるんだけど???
「ああ、なるほどそういうことか」
「何がです?!」
「確かに私は自分で産んでないし、彼女を養育したこともない。
「え」
自分で産んでないし育ててないけど血の繋がりはある?どういう状況それ?
思わず困惑する俺を前に保険医はへらりと笑みを浮かべながら、懐から取り出した煙草に火を着けつつこう答えたのだった。
「実はこの子は私のクローンなんだ」
「はぁっ!?」
「嘘だ」
「 」
……TASさんとは別ベクトルでやりにくいよこの人!!
「冗談はともかく、私の妹の娘……といえばわかるかな?いわゆる姪、というやつだね」
「い、一応血が繋がってると言えなくもない……」
唖然とする俺を見てニヤニヤしていた彼女は、やがて満足したのか本当の関係性を口にする。
……とはいえ、そうして告げられた間柄が本当である保証はどこにもないわけなのだが。
「おや、短い間で随分と嫌われちゃったみたいだ。こういう時どうしたらいいと思う娘よ?」
「お兄さんは特に何に弱い、みたいなのがないから機嫌取りは結構難しい。身体能力的には雑魚なんだけどね」
「ふむふむ。昔ながらのこぶしで説得が一番効くと」
「ぼ、暴力はんたーい!!っていうかなんでTASさんそっち側に付いてるの?!」
「普通は肉親の肩を持つものじゃないの?」
「……くっ、まさかTASさんに常識を説かれる羽目になるとはっ!?」
「ははは、息ぴったりだね君達」
なお、ご覧の通りその辺りを言及されてもまったく堪えてない様子。
なのでこの時点で俺が彼女に優位に立つのはほぼ不可能になった……にも関わらず、TASさんまで肉親の情とやらで敵側に回る始末。
「面白ついでに話を戻すと、野暮だって思ったのは
「はぁなるほど妹さんに……んん???」
ええと、さっき野暮だなんだと言ったのは確か、彼女が目の下に隈を作っている理由をTASさんが察したことについて、だったか。
これがおかしいのは、二人が居を共にしたことがない=互いの生活環境や生活態度を知りえる機会がない、すなわち野暮だといえるほど相手を知るわけがない、という部分にある。
で、彼女はその理由を「妹に似ている」とした。
それはつまり、彼女の妹さんもTASさんのような人物だった、ということになるわけで……?
「まさかの親子二代TAS!?」
「……お兄さんの想像力は今日も明後日の方向にかっとんでる」
「それTASさんには言われたくな痛たたたたたたたた」
まさか代々TASが輩出される家系?!
……なんて言葉が俺の脳裏を過ったのも仕方がないのではないだろうか?
いやまぁ、即座にTASさん本人に否定されたわけなんだけど。
なお、俺達のやり取りを外から見ている保険医は、ついに腹を抱えて大笑いを始めていた。
何も笑い事じゃないんだが???……という俺の気持ちを察してか、すぐにその大笑いは収まったわけだけど。
「そうだね……妹が世界を救った、と言ったら信じるかい?」
「……はい?」
ただ、その後真面目な顔して放たれた言葉も、正直言ってこちらを困惑させるものだったわけなのだが。
……どういうこっちゃ?