うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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数え上げた奇跡の価値は

「ん、唐突だけど明日世界は滅びる」

「……はい?」

 

 

 いつも突拍子もないことを宣う我が妹だが、その日の彼女はいつもに輪をかけて意味不明な物言いをしていたのであった。

 

 やれ明日は魚が降るから、今のうちに魚を入れておくための網を用意しておくべきだの。

 やれ今日は事故に遭遇するから、外に出るべきではないだの。

 妹が口にする言葉は、そのほとんどができの悪い予知のようなものばかり。

 質が悪いのは、その滑稽な物言いが大抵当たっている……という部分にあるわけだが。

 

 なお「大抵」というのは、悪い未来に関しては何がなんでも邪魔をしてくるため。

 結果的に予言が当たらない方に軌道修正されるので、全体として彼女の予言は「半分当たる」という形に収まっていた。

 

 それだけ凄い予言なら、もっと上手く──例えばお金を稼ぐ方向とかに使えないのか、なんて幼心に考えたものだけど。

 

 

「それをすると、酷いしっぺ返しにあうからおすすめしない」

 

 

 ……などと、にべもなく断られてしまったりもしたのだったか。

 

 じゃあ降ってきた魚はいいのかという話なのだが、そっちに関しては「自分達が食べるならともかく、他人に売るのは無理だから大丈夫」と返ってきたり。

 ……わりと雑なんだなぁ、なんて思ってしまったのは悪くないと思う。

 

 まぁともかく、今回も同じような話なのだろう……なんて風に話し半分に聞いていた私は、それゆえに内容の重大さに気付くのが数秒遅れたのだった。

 

 そもそもの話、彼女の予言に振り回されていたのは幼い頃の話。

 歳を取って別々の家庭を持ってからは、次第に遠縁になっていたのだが……。

 彼女はその日、唐突に私の前に現れ、その突拍子もない予言を告げたわけである。

 そりゃまぁ、反応が数手遅れるのも仕方のない話だと思わないだろうか?

 

 そうして困惑する私を他所に、彼女はいつもの──幼い頃そのままの調子で、言いたいことを言いたいだけ捲し立てていく。

 

 

「多分、私は帰ってこない。だから、お姉ちゃんには娘の親権をお願いしたい」

「……帰ってこない?そりゃどういう……いや待ったなんか今もっとヤバイこと口走らなかったかい妹よ?

 

 

 世界の滅びについて話したその口で、自身が戻れないことを告げる妹。

 それ自体も中々衝撃的な台詞だったが、よくよく考えたらその後に続く言葉の方が衝撃的だったような。

 いや確かに遠縁になってからはどうしているのかよく知らなかったけど、それにしたっていつの間にか子供がいる?

 

 ツッコミ所しかないその台詞に更に私がフリーズする中、彼女は懐から出した書類を私の前に置いて「サインしてくれればそれで終わるから。じゃ」とだけ言って、片手を上げたのち来た時と同じようにフッ、と消えていった。

 

 後に残ったのは、彼女の名前と娘と思わしき相手の名前が書かれた養子縁組の書類と。

 それから、あまりに突然すぎる宣告に事態を飲み込めないまま、暫くの間固まり続ける私の姿だけなのであった──。

 

 

 

・A・

 

 

 

「──と、いうわけなんだよ」

「肝心の部分が欠けてる!!」

 

 

 口頭だけじゃん!証拠ないじゃん!TASさんの母親本当に世界を救ったの!?

 

 いやまぁツッコむべきところは多分そこだけじゃないんだけど、でも一番目につくところはそこだからツッコまざるを得ないというか!

 ……いやでも、仮に彼女が本当にTASさんの母親であるなら、その言動如何から本当にそれを成し遂げたのだ、という嫌な確信もあるのだが。

 

 

「うん、そうだね。証拠は何もない。けど、()()()()()()()()()()だよ、特に彼女みたいな相手だとね」

「……悪い未来……」

「そうそう。自身の名誉を求めないのなら、何もかも事前に終わらせるのがベストだからね」

 

 

 本当に素晴らしい医師は、発症した病気を治すのではなくそもそも発症させない……みたいな話というか。

 その論理に倣うなら、未来視能力者もまた未然に事件を防いでこそ、ということか。

 

 つまり、TASさんの母親は未来視能力者として、未然に世界が滅ぶような()()を解決したと。

 ……そしてその結果、この世界から消えてしまった、と。

 

 

「……おや、その言い種だと私とは違うことを考えていたり?」

「いやまぁ、わりとそういう話に縁があるので……」

「なるほど、それは羨ましいというか大変そうだなというか。私はそういうのとはとんと縁がないからねぇ、妹が居なくなってからずっと、ね」

「…………いや、TASさんいるじゃないですか」

「おっと騙されなかった」

 

 

 いやまぁ、一緒に暮らしてないんだから嘘じゃないだろう?

 ……とウインクする保険医だが、正直げんなりしかしない俺である。

 というか、さっきの話どこまで本気なんだか。

 

 

「おや、信じてない?」

「信じてないというか、本当のことだけ話してるわけじゃないって思ったというか……」

「ううむ、疑われすぎじゃないかな私?とりあえずこの子と義理の親子なのは本当なんだけど」

 

 

 心外そうな顔でそうぼやく彼女だが、とはいえこの辺りは仕方のない話。

 ──何せ彼女もまた、()()()()()()()()()()()()()()()なのだから。

 

 

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