他の世界にも広がる、未明の無……。
彼女の話から想像するに、未来視能力者にのみ見える
「……言葉がややこしいデース」
「まぁ、こういうのって言ってる側が雰囲気を楽しんでるだけ、ってところはなくもないから、ね?」
「それを自分から言っていくのか……」
言い出したのそっちでしょうに……みたいな言葉が飛び出さなかっただけ、私はすごいのでは?
そんな内心を一先ず蓋しつつ、改めて確認。
彼女の言う『未明の無』とは、未来視能力者が未来を見た際、
場所と言っておきつつ、一人の人間がそのままくり貫かれたように見えることもあるらしいが。
「漫画的表現──白く塗り潰された人の姿、みたいに見えると言うことになるかしら。ちょうど、私のことを見ようとしたTASちゃんが見ているもの、というか」
「……そうなん?」
「ん。大体の動きとか移動速度とかはわかるけど、その当人の詳細が何一つ見えない……みたいな感じ。具体的に言うとシルエットだけわかってて本人がどういう表情をしているのか・どんな柄の服を着ているのかとかが全くわかんない」
「……お、思ったより見えてるわね……流石最高位の未来視能力者……」
その実例は、既に間近にある。
それが、TASさんから見た現状の部長さんの姿。
普通に見る分には何の問題もないらしいが、一度未来視のフィルターを通すと、途端に部長さんの詳細を掴むことができなくなるのだとか。
……まぁTASさんの場合、そうして欠損した情報を現在の姿と照らし合わせることで、ある程度実像を推測することもできるらしいが。
とはいえそれ、彼女の口ぶりからするに誰でもできること、というわけではなさそうだ。
「どうしてだい?見えないのは未来であって、TAS君と同じように未来を見つつ現在を照らし合わせればいいじゃないか?」
「まず
「……確たる未来?」
単純そうな話なのに、と声をあげたMODさんに対し、少々得意気に部長さんが語り出す。
まず大前提として、
なぜならば、『未来を視る』という行為自体が未来を変えてしまうため。
未来を知ろうとする行為そのものが、未来を変えてしまうことになるからである。
「そういう意味で、大抵の人間は未来視を持ち合わせているのよ。それが叶うことがないから、誰もそうだと気付かないだけで」
「また斬新な切り口だね……でもわからないでもない。要するに、未来を展望すること自体が未来を実現させなくするということだろう?」
「敢えて言うのなら夢想、ということになるのかしら。実際、夢と未来視は密接に繋がっているし」
正夢とかね、と彼女は言う。
……ともあれ、未来を望むと未来が逃げる、というようなことを言っているのは間違いない。
その上で、未来を当てられる未来視能力者とは、何かしら
その前提で先程の『未明の無』を説明するとどうなるのか?……答えは単純、『未来の情報がわからない』という状況は、すなわち
「そうじゃないと自身の未来視にケチが付く、ということでもあるわね。未来を当てられるということは、すなわちその未来を固定するということ。言い換えればこの場合、
無論、意識的にではなく無意識にだけど、と彼女は締め括る。
……それが一般的な未来視能力者。
未来を先に定めてから視る異能。
それを前提とすると──なるほど、TASさんの未来視はまさしく異端である。
何せ彼女のそれは、一つの未来を決め打ちしたものではない。
数多の未来を積み上げ、一切の例外を無くすことで
それこそがTASさんの未来視であり、それゆえに『自分から視ないようにしている』という扱いになる『未明の無』も、単に白塗りされた何かにしか見えないのだ。
他の未来視能力者が
「……そこら辺の感覚ハ、未来が見えナイ私達にはよく分からナイデース」
「まぁ、それは仕方ない話ね。それゆえに
「……?未来が見えないのがおかしい、という話じゃないのかい?」
「一般的な未来視能力者相手なら、ね。問題となるのは、今回その対象・及び犯人にTASちゃんもしくはその同位体が含まれてるということの方」
「はい?」
「──はっきり言うわ。犯人がもう一人のTASちゃんだからこそ、この話は並行世界を滅ぼすような話になるのよ」
「……はい?」
そしてそこまで説明した上で──彼女は一つの爆弾発言を、私達に向かって投下したのだった。