「で?結局名前を言ってはいけない、というのはどういうことなんだい?」
というMODさんの言葉に、周囲の視線が自然とTASさんの方に集まる。
AUTOさんの話から想像するに、どうやらサンタさんの名前を聞いてしまうのが宜しくない、ということになるらしいのだが……。
名前を聞くとアウト、という状況に噛み合うモノで思い付くのが、例の名状し難き神性しかなかった俺としては、正直なーんにもわからんとしか言い様がなかったり。
「ものは違うけど……考え方は正解」
「……んん?どういうこってで?」
「
「思った以上にスケールがデカい!?」
どっこい、彼女から返ってきた答えは、思った以上に大事の気配を漂わせていたのであった。
思わず、サンタさんの方に視線を向けてしまうが、彼女は「違います違いますぅっ!!私普通のサンタですぅっ!!」と必死になって首を横に振るばかり。……言いたいことはわかるが、普通のサンタってなんだよ?
……ともかく。
TASさんの話を信用するなら、このサンタさんの名前は
「……それって本当に
「本当ですよぉっ!っていうかなんですか、名前がダメって!だって私の名前h─────あーっ!!今のは私にもわかりました!飛ばしましたね!?原理はわかりませんけど飛ばしましたねーっ!!?」
「私を前後に揺すっても、貴女の番は出てこない」
「なんなんですかもぉーっ!!」
まぁ、厄物扱いされた本人は、さっきからこんな感じでモーモーしか言えてないわけだが。……牛かな?
だがまぁ、おかげで俺もなんとなく事情が掴めて来た気がする。
TASさんは徹頭徹尾、彼女の名前がダメだと言い続けている。そして、それがダメな理由は、どこぞの名状し難い神々のそれと、近しいモノでもあるとも。
彼らの名前は人の声帯では発音できないもの、だとされている。──即ち、人の
これに、先程のTASさんの発言──『貴女の世界の座標が掴めていない』と、先日の彼女が示した事実──『#♂∧∀∇語は異世界の言葉』というものを組み合わせると……。
「この人、他所の世界の人なんだな?」
「そういうこと。……そもそも、こっちの世界に不思議パワーを持ったサンタは居ない」
「……それ、君が言う?」
今、目の前に居るサンタがこの世界の住民ではない、ということにたどり着くのであった。
「え、ここ他所の世界だったんですか?」
「そう。それと実は、貴女の発言にはフィルタを掛けさせて貰っている」
「え゛っ」
「名前がダメなら言葉もダメなはず、というところが引っ掛かっていましたが……なるほど、そういうことでしたのね」
明かされた真実に、思わずといった風にキョトンとした顔を見せるサンタさん。……まぁ、直ぐ様TASさんの言葉に固まることとなるのだが。
とはいえ、名前がダメなら話す言葉ってダメだろう、というAUTOさんの発言に確かに、と頷いていた辺り、わりと図太いなぁと思わされることにもなったのだけど。
「……言語をフィルタできるのなら、名前にもフィルタを掛けて上げれば良かったんじゃないのかい?」
「あっ、そそそそそうですそうです!そんなことができるのなら、そっちもやってくれたらよかったじゃないですかぁ!!」
「それは無理」
「なんでぇ!!?」
そんな中、TASさんの言葉を聞いてから考え込んでいた、MODさんからの疑問の声があがる。
……それに同調してそうだそうだ、と声をあげるサンタさんからは、隠しきれないポンコツの空気が滲み出ていたが……バッサリ切り捨てられ「なんで!?」と叫ぶ彼女には、一つの威厳も残っていないのだった。
「そこのお兄さんは後でお話がありますからね……」
「おお、こわいこわい」
「絶対怖がってないじゃないですかぁ!!……って、そんなことはどうでもよくって!!なんで名前はダメなんですか?!それだと私、いつまで経っても名無しのサンタなんですけど!?なんですか名無しのサンタって、カッコ付けですか良いカッコしいなんですかぁ!!?」
「なんでもなにも、名前は翻訳できない」
「はぁ!?」
前後に揺さぶられながら、TASさんが答えたところによると。
彼女の掛けたフィルタというのは、一種の翻訳機能に当たるらしく。固有名詞や動詞・形容詞など、あらゆる単語や文章を正確に日本語に翻訳してくれる優れものらしい。
「しかも双方向。お互いの言語がお互いの言語として変換されて聞こえる」
「それはまた高性能な……つまり、あちらには私達の声が、日本語ではなく向こうの言葉で聞こえている……ということですわよね?」
「そう。……正確には、心語に変えてるんだけど」
「心語?」
「意味だけ抜き出した言葉。音節を伴わない、意味だけで構築された言葉」
で、その原理というのが、各言語を心語と呼ばれるモノに変換する、ということになるらしいのだが……話が長くなるので割愛。
遥か昔に使われていたものを発掘した、ということだけ覚えておけば、頭の良い人にはわかるだろうとのこと。
「でも、名前は別。名前は翻訳できない。そのまま出力するしかない」
「なるほど。確かに、どの言語も名前はそのまま言うのが普通だね」
例えば『茜』という名前があったとして、それを英語で言う時に『
名前というのはなにかしらの意味を伴って与えられるモノだが、その意味を翻訳する、なんてことは普通しないはずだ。
つまり、このサンタさんの名前に関しては、そのまま出力せざるをえず。
故に、彼女の名前は音節を伴ったまま、そちらの言語として出力されてしまうということに繋がり。
それを防ぐため、彼女の名乗りは悉くスキップされる……という状況に陥っているのだった。
「……じゃあ私、いつまで経っても名無しのサンタじゃないですかぁ!!?」
「そう。貴女はサンタ、おめでとう」
「なにもおめでたくないんですけどぉ!?」
なお、本人はそこまで聞いてもなお、納得できないと駄々を捏ねているのであった。……いや子供か。