うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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歴史とは織物のようなもの

「……今のところ、あのサンタさんがまたやってくる、なんてことはないみたいだな」

「極力座標とかは確認しないように送り返したから、正直彼女がここにやってくるかは微妙」

 

 

 例のサンタ騒動から早一週間。

 件のサンタの袋は、相も変わらず我が家に鎮座している。

 

 一応、例の送り返しは『向こうの世界のアイテム』である『サンタ袋』を介し、『このアイテムの元々あった世界に中身を送り付ける』……という、パラメーターが明確に定まっている部分を利用しての返却、ということになるらしい。

 

 意味がよくわからん?じゃあまぁ、サンタの袋に住所が書いてあったので、その住所を使って送り返した……くらいに思っておけばいいと思う。

 まぁ、細かいことを言えばこっちから送り返したってより、返品処理のために配送会社に投げた、という感じの方が正解なのだろうが。

 

 

「迂闊に向こうの座標を知ってしまうと、彼女の世界がこちらに融合してしまう」

「……サンタが本物になるくらいなら、大した変化じゃないんじゃないのか?」

「そんなことはない。サンタクロースの大本は聖ニコラウス。それが実際に神秘を行使するようになるとすれば、他の聖人達も凄いことになる。……具体的に言うと、バレンタインが凄いことになる」

「いまいち解り辛い脅威だ……」

 

 

 とはいえ、既に超能力者とかが跋扈しているらしいこの世界で、高々サンタクロースが特殊な存在になったとして、一体どんな不利益があるのか?……みたいな気分も沸いてこなくもなかったのだが。

 特に、目の前のTASさん自体が、わりと厄ネタっぽいことがわかっているのだからなおのこと……というか。

 

 だが、彼女の言うところによれば、彼女単体とあのサンタさんとでは、重要度は向こうの方が遥かに高いのだという。

 TASさんはあくまでも今代限りの突然変異だが、サンタさんの方は『サンタクロース』という、聖人に端を発するモノを基礎としているため、それが顕在化した時に及ぼす影響の範囲が広いどころの話ではない……とかなんとか。

 

 正直、宗教には明るくないので分かりにくいのだが──例えば、海外におけるジョージという名前は『聖ゲオルギウス』から取られた名前であり、国によっては『ゲオルク』『ジョルジュ』というような読み方をしたりする。

 ……言うなれば、向こうの人というのは国の垣根を越えて聖人(有名人)の名前を貰う、というのが普通のことになっているというわけで。

 サンタクロースの元ネタとされる『聖ニコラウス』もまた、『ニコラス』『ニコライ』という形で人々の名前として使用されているわけである。

 

 そんな状況下で、『聖人』が本当に『聖人』であった、などということになればどうなるだろう?

 

 

「下手すると全世界統一宗教になるかもしれない」

「スケール大きすぎて全くわかんねー」

 

 

 今の世の中、数多の宗教が溢れているのは、そのどれもがある程度の信憑性を持ち、そしてある程度信憑性に欠ける部分があるから……というところが大きい。

 大本が『生活の知恵』だったそれらは、教えを広める際に幾つかの脚色を得た。

 その脚色こそが信憑性の根幹であり、あくまでも脚色であるからこそ、人に不信感を生む。

 

 これは全ての宗教に共通の事項であり、信憑性と不信感の片方が欠けるもの、というのは厳密には宗教ではないとも言えるわけで。

 ──件の話は、一つの宗教から不信感を拭い去ることと等しい、ということになるのだ。

 

 

脚色(説話)が本当になる、みたいな。現実に目の前にあるということ、目の前で奇跡を起こせるというのは、なによりも強い説得力を生む。……まぁ、脚色を詐称して奇跡を真実に見せる……そんな新興宗教が多い、というのも本当の話だけど」

 

 

 そういうのは科学的な証明ができず、結果として奇跡が崩されることとなるわけだが……、例のサンタさんがもたらす者は、科学的な証明すら越えてしまうもの、ということになってしまうわけで。

 そうなれば、一つの宗教だけが、()()()()()()()()()()()()()()ということになってしまう。

 

 その先にあるのは他の宗教の淘汰であり、他の聖人達の再考であり──、

 

 

「結果、小説とかによくある宗教母体の秘密組織が一つ増える」

「……着地点のスケールが微妙に小さくないか?」

「小さくない。世界において生活基盤になっているものが、そのまま牙を剥くようになるから、下手をすると世界大戦になる」

「そこまで行く!?」

 

 

 結果、真なる超人となった『聖人』達による、救済のための戦いが始まってしまうだろう……。

 そんな空恐ろしいことを、TASさんは口走るのだった。

 ……たかがサンタ一つから話が飛躍しすぎだが、宗教の暴走は善意の暴走、利権で動くそれより遥かに制御の効かないモノであり、ゆえに必ず、どこかで『全ての人を救おう』という使命感の暴走を生むだろう、と彼女は説くのだった。

 そして、今の時代にそれが起きていないのは、数多の宗教が信憑性と不信感を交えたままあるからだ、とも。

 

 

「……まぁ、一部の過激派を見てれば解る話だと思うけど」

「あー……」

 

 

 最後に危ないところを突いて、彼女は話を終わりにするのであった。

 

 

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