うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

64 / 728
世間には同じ顔が三人居るという

「……難しい話をしてたらお腹空いた。なにかない?甘いものとか」

「甘いもの?えーと、冷蔵庫になにか……あー、なんにもないな、生憎と」

「むぅ」

 

 

 サンタの存在一つから、世界崩壊の序曲が鳴る羽目になるとは思わなかったが……所詮は起こらなかったこと、今のところは与太噺以外の何物でもないので、スパッと打ち切って日々の生活に戻る俺達である。

 

 で、そんな彼女が開口一番求めたのは、なにか甘いものが食べたい……というリクエスト。

 いつもなら冷蔵庫にプリンなりシュークリームなり、なにかしらストックしてあるのだが……今回はそういうものは一切なし。

 冷蔵庫に詰まっていたのは、日々の食事に使われる食材達だけなのであった。

 

 

「いつもみたいに、冷蔵庫を開け閉めして取り寄せる、とかはしないの?」

「ん……止めとく。嫌な予感がする」

「嫌な予感?」

「また変なところに繋がりそう」

「あー……そりゃ止めといた方が無難だな」

 

 

 で、こういう時のTASさんは、いつもなら冷蔵庫の扉をリズムよく開け閉めすることにより、なにかしらのデザートを錬成……もとい取り寄せするのが常なのだが。

 ……()()()()、というところに引っ掛かりを覚えたのか、止めておくと肩を落としたのであった。

 

 まぁ確かに?

 一応はCHEATちゃんの練習と、TASさんの乱数弄りのタイミングが、奇跡的に被った結果起きたのが『サンタ取り寄せ』という珍事だった、ということになっているわけだが。

 ……TASさんはTASさんである前に未来視能力者。いわば起こることを起こる前に知ることに掛けては、プロフェッショナルと言い換えてもおかしくない存在なのである。

 

 そんな彼女が『確かに目を逸らしたけど、あれは原因がよく分からないことに不甲斐なさを感じた、というのが一番』とあとから弁明した、という今の状況。……取り寄せ、という行為が途端に厄を招く行為に見えてしまう、というのはわからない話でもない。

 

 彼女の未来視範囲外からの、蝶の羽ばたきほどの些細な干渉による変化、みたいな話らしいが……彼女は詳しく話すつもりがないようで、詳細は不明である。

 ……私以外のTASとかなんとか、すごく不穏なことを言っていたので問い詰めはしたけど。問い詰めた結果、『対戦系のTASならよくあること』とはぐらかされてしまったうえ、これ以上知ろうとすると大変なことになる……などと言われてしまえば、俺としてもそれ以上探るのは躊躇われてしまったのだった。

 

 ……ともかく。

 件の『取り寄せ』に纏わる事件が、正確な意味では解決の目を見ていない以上、悪戯に取り寄せるのは自殺行為……というのも確かな話。

 なので、俺とTASさんは連れ立って、近くのコンビニスイーツを漁りにきたのだけれど……。

 

 

「うーん……こっちのプリンは内容量が多いけど値段が高い……こっちのプリンは値段は安いけど評判が良くない……うーん、迷いますねぇ」

「…………」

 

 

 俺達の目の前で、幾つかのプリンを持ってああでもないこうでもない、と悩んでいる一人の少女。

 まぁ、悩んでいるだけならば、そう目を引くモノでもないだろう。喋っている内容は確かに微妙に気が抜けてくるが、だからといって特に注目する必要があるとは思えない。

 

 なのに何故、俺達が──正確には俺一人が彼女を見て固まっているのか。

 それは、彼女の容姿に秘密があった。……ぶっちゃけると、どう見てもサンタさんだったのだ、彼女。

 

 ……いやどういうことだ?

 向こうに送り返す際、こちらの座標を知らせるようなことはしていない、とTASさんは言っていた。

 ゆえに、向こうからこちらにアクセスするには、相応の手段が必要となるはず。そしてそれは、恐らくサンタの袋を介して行われるだろう……とも。

 

 だが、現実はどうだろう?

 件のサンタさんは、袋とは全く無関係の場所で、呑気にプリンなんか選んじゃったりしてるわけで。

 その姿はあまりに普通、こっちの世界に慣れきったスタイル。よもや自分の存在が世界を破滅させうるものだとは、全く気付いていない空気。

 思わず困惑と共に、TASさんに視線を向けたとしてもおかしくはないだろう。

 

 ……が、先程訂正した通り。

 彼女を見て驚愕していたのは俺だけ、横に立っていたTASさんは彼女を見て、驚くでも警戒するでも困惑するでもなく。

 

 

「──お久しぶり。あれから調子はどう?」

 

 

 などと、気軽に声を掛けてしまう始末。……いや、世界大戦がどうとか言ってたのはどうなったんです!?

 そんな風に、俺の内心が疑問符と焦燥感でいっぱいになる中。彼女の言葉を聞いたサンタさんが、目を見開きその手の内からプリンを取り落とし。

 

 

「……こ、こここここであったが百年目!!私の姿()を元に戻しやがれですぅー!!」

「それは無理。それは貴方に与えられた()()だから」

「そんなぁ!?」

 

 

 それが地面に着くよりも早く、彼女はTASさんに詰め寄って来て己の思いの丈をぶつけたのち、彼女にバッサリ切り捨てられてがくり、と項垂れることとなったのだった。

 ……ん?姿?

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。