「……難しい話をしてたらお腹空いた。なにかない?甘いものとか」
「甘いもの?えーと、冷蔵庫になにか……あー、なんにもないな、生憎と」
「むぅ」
サンタの存在一つから、世界崩壊の序曲が鳴る羽目になるとは思わなかったが……所詮は起こらなかったこと、今のところは与太噺以外の何物でもないので、スパッと打ち切って日々の生活に戻る俺達である。
で、そんな彼女が開口一番求めたのは、なにか甘いものが食べたい……というリクエスト。
いつもなら冷蔵庫にプリンなりシュークリームなり、なにかしらストックしてあるのだが……今回はそういうものは一切なし。
冷蔵庫に詰まっていたのは、日々の食事に使われる食材達だけなのであった。
「いつもみたいに、冷蔵庫を開け閉めして取り寄せる、とかはしないの?」
「ん……止めとく。嫌な予感がする」
「嫌な予感?」
「また変なところに繋がりそう」
「あー……そりゃ止めといた方が無難だな」
で、こういう時のTASさんは、いつもなら冷蔵庫の扉をリズムよく開け閉めすることにより、なにかしらのデザートを錬成……もとい取り寄せするのが常なのだが。
……
まぁ確かに?
一応はCHEATちゃんの練習と、TASさんの乱数弄りのタイミングが、奇跡的に被った結果起きたのが『サンタ取り寄せ』という珍事だった、ということになっているわけだが。
……TASさんはTASさんである前に未来視能力者。いわば起こることを起こる前に知ることに掛けては、プロフェッショナルと言い換えてもおかしくない存在なのである。
そんな彼女が『確かに目を逸らしたけど、あれは原因がよく分からないことに不甲斐なさを感じた、というのが一番』とあとから弁明した、という今の状況。……取り寄せ、という行為が途端に厄を招く行為に見えてしまう、というのはわからない話でもない。
彼女の未来視範囲外からの、蝶の羽ばたきほどの些細な干渉による変化、みたいな話らしいが……彼女は詳しく話すつもりがないようで、詳細は不明である。
……私以外のTASとかなんとか、すごく不穏なことを言っていたので問い詰めはしたけど。問い詰めた結果、『対戦系のTASならよくあること』とはぐらかされてしまったうえ、これ以上知ろうとすると大変なことになる……などと言われてしまえば、俺としてもそれ以上探るのは躊躇われてしまったのだった。
……ともかく。
件の『取り寄せ』に纏わる事件が、正確な意味では解決の目を見ていない以上、悪戯に取り寄せるのは自殺行為……というのも確かな話。
なので、俺とTASさんは連れ立って、近くのコンビニスイーツを漁りにきたのだけれど……。
「うーん……こっちのプリンは内容量が多いけど値段が高い……こっちのプリンは値段は安いけど評判が良くない……うーん、迷いますねぇ」
「…………」
俺達の目の前で、幾つかのプリンを持ってああでもないこうでもない、と悩んでいる一人の少女。
まぁ、悩んでいるだけならば、そう目を引くモノでもないだろう。喋っている内容は確かに微妙に気が抜けてくるが、だからといって特に注目する必要があるとは思えない。
なのに何故、俺達が──正確には俺一人が彼女を見て固まっているのか。
それは、彼女の容姿に秘密があった。……ぶっちゃけると、どう見てもサンタさんだったのだ、彼女。
……いやどういうことだ?
向こうに送り返す際、こちらの座標を知らせるようなことはしていない、とTASさんは言っていた。
ゆえに、向こうからこちらにアクセスするには、相応の手段が必要となるはず。そしてそれは、恐らくサンタの袋を介して行われるだろう……とも。
だが、現実はどうだろう?
件のサンタさんは、袋とは全く無関係の場所で、呑気にプリンなんか選んじゃったりしてるわけで。
その姿はあまりに普通、こっちの世界に慣れきったスタイル。よもや自分の存在が世界を破滅させうるものだとは、全く気付いていない空気。
思わず困惑と共に、TASさんに視線を向けたとしてもおかしくはないだろう。
……が、先程訂正した通り。
彼女を見て驚愕していたのは俺だけ、横に立っていたTASさんは彼女を見て、驚くでも警戒するでも困惑するでもなく。
「──お久しぶり。あれから調子はどう?」
などと、気軽に声を掛けてしまう始末。……いや、世界大戦がどうとか言ってたのはどうなったんです!?
そんな風に、俺の内心が疑問符と焦燥感でいっぱいになる中。彼女の言葉を聞いたサンタさんが、目を見開きその手の内からプリンを取り落とし。
「……こ、こここここであったが百年目!!私の
「それは無理。それは貴方に与えられた
「そんなぁ!?」
それが地面に着くよりも早く、彼女はTASさんに詰め寄って来て己の思いの丈をぶつけたのち、彼女にバッサリ切り捨てられてがくり、と項垂れることとなったのだった。
……ん?姿?