うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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身代わりの扉

「……えーとTASさん?ちょっと詳しい話を聞かせてほしいんだけど」

「その前に、甘いもの選ぶ方が先」

「ふざけるなですぅ!!私のことより甘いものの方が大切なんですかぁ!?」

「──これはお兄さんの奢り」

「ごちになりますですぅ!あっ、二つとも買っていいですかぁ!?」

「変わり身早くねっ!?」

 

 

 どうにも聞き捨てならない単語があった気がして、TASさんにことの次第を尋ねようとした俺だけど。

 彼女は頑なで、甘いものを求めて譲らず。

 ……その姿に、サンタさん(?)がまたもや彼女に詰め寄るわけなのだが……俺の奢りで甘いものが食べられる、ということになった途端、あまりにも見事な話題の切り換えを見せ、俺を驚愕と困惑の渦に叩き込むこととなったのだった。

 

 そして、ここまでのやり取りで俺は確信する。

 目の前に居るのは、確かに見た目はサンタさんと同じ。だがその中身は、俺達の知るサンタさんとは一緒ではなさそうだ……と。

 そんな俺の思考を読んだのか、TASさんはいつもの無表情でぐっ、とサムズアップを向けてくるのだった。

 

 ……ところで、なんでナチュラルに俺の奢りになってるんです?いやまぁ、奢るけどさぁ。

 

 

 

・∀・

 

 

 

「改めまして、私の名前は「おっと手が滑った」ほげぁーっ!!?ホットココアが目にィーっ!!?」

「……あーうん、まるごとじゃなくてよかったね……?」

「そういう問題ですかぁ!?」

 

 

 見た目だけサンタさんである少女を連れて、家へと帰還した俺達。

 

 そうして束の間の甘いものパーティが開催される運びとなったわけなのだが、その中で彼女が自己紹介しようとした途端、横合いからTASさんが人差し指に付いたココアの水滴を彼女の目に飛ばす……という、地味に痛そうな嫌がらせをしていたのだった。

 まぁ、あくまでも着弾したのは目蓋であり、眼球目掛けて飛んでくる水滴そのものにビックリした、というのが本当のところだったみたいだが。

 

 ともあれ、人の目に水滴を飛ばすのは止めなさい、と一応の注意をTASさんにしたのち、改めて話に戻る俺である。

 

 

「……一つ聞くんですけど、自己紹介ってもしかしてNGなんです?」

「そう。いきなりやろうとするから声で止められなかった、ごめんね?」

「ああはい、これはご丁寧に……」

(……これは騙されやすいタイプだな)

 

 

 謝罪されたという事実が優先されて、その他のことが抜け落ちているというか。

 ……悉く悪い話に引っ掛かりそうな予感のする人だが、それが俺に一つの閃きをもたらすのであった。

 

 

「……ええと、もしかしてこの人……」

「その通り。バグって顔が変なこと(モザイク)になってた人」

「そうなんですよぅ。その時はこの人に直して貰ったんですけど、そしたら今度は性別変わっちゃったんですぅ!」

(……んー?)

 

 

 TASさんから聞いていた話と微妙にずれた話がサンタさん(仮)から飛び出し、思わずTASさんの方にジトッとした眼差しを向けてしまう俺。

 ……あれ、確か原因はTASさん自身だ、みたいな話をしてたような気がするんだけど?

 

 

(知らぬは彼女ばかり。でも一応理由はあるから)

(こいつ直接脳内に……!?)

 

 

 そんな眼差しは、突如脳裏に響いた彼女の声によって中断される羽目になる。わぁ悪巧み。

 ……ともあれ、なにか理由があるというのであれば、一応それを確認してから処断しよう、と俺が考えるのは至極当たり前の話であり。

 

 

「それでは改めて。この人はDUMMYさん。気軽にダミ子さんとでも呼んであげて」

「勝手に名付けされてしまいましたぁ!?」

「ええ……(困惑)」

 

 

 次いでTASさんから告げられた言葉に、思わず唖然とする羽目になったのだった。……いや、ダミー(模造/代用)って。

 

 彼女には聞かせられないことがある、ということなのか。はたまた、なにか他の理由があるのか。

 ともあれ、買ってきたプリンをぽーいと投げ付けられ、こちらに割いていた意識をあっという間にそちらへと向けたDUMMYさんは、そのままプリンに夢中になってしまい。

 そうしてまたもや脳内に響いてきた、TASさんの言葉によると。

 

 

「……ええと、顔と性別のアドレスどころの話じゃなかった、と?」

「そう。色々とすごいことになっていた」

 

 

 この元男性、実は大分わけのわからない性質を秘めていたのだそうで。

 気付いたきっかけは、確かにTASさんの乱数調整に巻き込まれたからだが。……どうにもこの人、言うなれば没データの塊みたいなものらしく。

 

 

「一般的にダミーデータというのは、書き込むための領域を最初に確保しておくことを前提としたもの」

「仮想空間上ではどこにでも移動させられるように見えるけど、実際は記録場所を移動するのって結構難しいんだっけ」

「そう。だから、必要となりそうな領域を予め確保しておく、という形になる」

 

 

 一般的なダミーデータとは、彼女の言う通りデータの保存箇所を予め確保するためのもの、という性質が強い。

 プログラムをしていくうちに、なにかしら新しく必要なデータが出てきたとして。それを新たに追加するとなると、データの保存箇所が飛び飛びになり、予想外のバグをもたらすことがある。

 データの先頭からデータの後方の情報を呼び出す、みたいな行為はロード時間が増える原因にもなるし。

 

 なので、データというものは関係性のあるものをできる限り近くに記録する、ということが求められるのだ。

 で、そういう時に差し替え先として予め用意されているのが、ダミーデータというわけで。

 

 これは、『そこにデータがある』という事実自体が重要であるため、基本的にはそれ単体ではなんの意味もない、ということがほとんどなのだが……。

 

 

「彼の場合、それは箱だった」

「……箱?」

「そう。なんでも格納できてしまう箱」

 

 

 この人の場合、それは代入式みたいなものだったのだと、TASさんは告げるのだった。

 

 

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