代入式というものに関しては、説明はそこまで必要ないと思う。
方程式などにおいて、数字ではない英文字が含まれているような形式のもの。その英文字には、その都度必要な数値が放り込まれる……みたいな感じのものだ。
「彼の場合、色んなデータの検証用の保存領域、みたいな感じだった」
「なる……ほど?」
幸せそうにプリンを頬張る彼女を見ながら、話を続ける俺達。
単なるダミーデータなら、それを呼び出す方法がなければ単に没データとして埋没するだけだが。
彼女はそれが一種の変数に相当するものであったため、特異な発現の仕方をしてしまったらしい。
端的に言うと、TASさんの作った乱数の影響でおかしくなったのではなく、TASさんの作った乱数を
顔がモザイクのようになっていたのは、別の用途のための乱数を無理矢理グラフィックデータに適用したため。TAS動画などでたまに見るバグ画像と、まったく同じ理論だったというわけである。
で、そのおかしくなってしまった画像を、一先ず鑑賞に耐えられるものに直そう、と数値を弄ったら……。
「没個性的な顔と、性別が変わった状態くらいしかまともな数値がなかった……」
「それはまたなんとも……」
がくっ、と肩を落とすTASさん。
……正確には、
ともあれ、目の前のダミ子さんとやらが、非常にあやふやな存在であるということは間違いなかったそうで。
彼女の見解によれば、顔グラがバグる前にも、なにかしら不安定な要素があったのではないか?……とのことなのであった。
「不安定、ですかぁ?……んー、そうですねぇ。とりあえず、くじを買って元が取れなかった、なんてことは一度もなかったですねぇ。代わりに、くじを買いに行くと決まって事故ったりしていたような?」
まぁ、この姿になってからはそういうこともなくなったんですけどぉ、とはダミ子さんの言。
……一瞬
精々ちょっとプラスになる程度、というのではラックがカンストしている、などとは口が裂けても言えないだろう。
いやまぁ、大きな事故を起こすことで、その損失を以てプラマイゼロにしている、という可能性も無くはないが……聞く限りちょっとした事故にしかあってない様子。
これらの事実を、先程TASさんが言っていたことと組み合わせると、元々の彼は『くじを買うと、事故が起きる代わりに極端な負債を負わない』ようになっていた、ということになるわけで。
……変な状態で
で、それらの現象は、彼がこの世界の変数を保存する場所に部分的に繋がっているから起こったこと、というのがTASさんの予想なのだとか。
「顔のモザイクを直したら性別が変わったっていうのも、その本質は彼のステータスのほとんどが、変数によって変化するものだから。……勝手に変動する数値とかも混じってるから、全体の調和を保つのが困難」
「あー……年齢とか?」
「そういうこと」
なにかしらの判定を行うために、一応用意されていた変数領域。
そこに繋がってしまっていた彼は、意図せずしてその変化を自身に受けてしまう存在だった。
……それだけならば、彼は特に問題もなく一生を過ごしていただろう。
だがTASとは、仕様の狭間に残されたバグなども活用し、最速やカッコよさや面白さを求めるもの。
ゆえに、『現状使われていない変数』なんてもの、放っておくわけがなく……。
「そんなものがある、ってことを予測してなかったから、彼女の元の姿に関しては完全に不明。……それと、戻した時の平凡な女の子以外の姿に関しては、見通しが立たなさすぎるから変更は不可能」
「そんなぁ!?」
「……ん?じゃあこの姿は?これ、元の姿とも性別変わった時の姿とも違うんだろ?」
結果、彼女はそこに繋がっている人がいる、なんてことを知らないままにその変数を使い回し。
結果、彼という存在の原型は、最早辿ることも叶わぬ忘却の彼方に消え去ってしまった、ということになるのであった。
……まぁ、実際のTAS動画でも攻略に関係ない要素がどうなろうとしったこっちゃねぇ、とばかりに他人が犠牲になることなんて幾らでもあることなので、正直『あー』くらいの感想しか出てこないわけだが。
とはいえ、先の話を聞く限り、今彼女がサンタさんの姿になっている、ということについての説明はされていない、というのも確かな話。
これについて、TASさんは次のように述べたのだった。
「これはセーフティ。色んな意味で」
「セーフティ……?」
「そう、セーフティ。彼女がこの姿だと、世界の滅亡を防ぐことができる」
「……えっ!?私ヘラクレスみたいなものだったんですかぁ!?」
「わぁ超ポジティブ」
それは、彼女がこの姿になることで、世界の滅亡が防がれるというとんでもない話。
……なのだが、正直当のダミ子さんがあまりにポジティブな解釈をし始めたため、それどころではなくなってしまうのだった。流石にギリシャの大英雄は盛り過ぎだよ!