あれこれ面倒ごとが起きていたものの、どうにか人垣の中心にたどり着いた俺達。
そこで待ち受けていたのは、両手のバチを華麗に操り、フラメンコっぽい躍りを交えながら、画面を流れる譜面に合わせて太鼓を叩いている謎の金髪美少女。
……パフォーマーかなにかかな?
というような感想を抱く俺だが、それにしては周囲の熱狂度が違うような。
「……なるほど、これは強敵」
「え?強敵?もしかして戦おうとしていらっしゃる?音ゲーで?」
「残念だけど……今の私では勝てないかもしれない」
「TASさんが弱気になっている……!?」
そんな風に首を傾げる俺だが、小脇に抱えたTASさんから衝撃的な言葉が。
なんと、戦う前から負けそうかも、というような旨の言葉を発したのである。
灰皿が飛んできても動じない彼女が!なんなら飛んできた灰皿を綺麗に受け流して、相手に返したり他の人に飛び火させたりできる彼女が!!
「……ええと、怒ってるのお兄さん?」
「いいえー?全然一向にまったくもって怒っていませんがー!?向こうの過失百パーセントだし、その癖俺にキレてくる辺りに『はっ、所詮猿は猿か』みたいなことは一欠片も思っておりませんがーっ!?」
「すごく怒ってる……」
……おほん。
まぁともかく、勝負事においては基本負け知らず、なんなら変な現象待ちとでも言わんばかりに、相手を密かに煽りもするTASさんが、勝負を挑む前から弱気な宣言をするというのは、それがなにか別のフラグのための準備でもない限り、珍しいを通り越して奇怪でさえあるわけで。
それゆえに、この金髪美少女が一体何者なのか?
ということが気になってくるのもまた、当然の現象なのであった。……見た目もなんか対照的だしね、この二人。
こっちのTASさんは、確かに美少女ではあるものの──眼鏡で低身長、綺麗な黒髪も野暮ったくおさげにしてあったりと、言っては悪いがちんちくりん感がある。
対する目の前の彼女、こちらはウェーブ掛かった金髪に、俺よりも高い背丈。
それから体型の方も、出るとこ出て引っ込むところ引っ込んでいる……という、女性として完成された『美』って感じの見た目をしている。
……まぁ、ゲーセンでドレス姿だったり、なんかテンションがやけに高かったりと、多分変な人だろうな、という予感も同時に漂わせているわけなのだが。そういう点でも、こっちのTASさんとは対照的というか。基本的に真面目だからね、この子。
「……それは下げてから上げている、ってことでいいの?」
「へ?なにが?」
「……もういい。お兄さんはいつも通りだった」
「えー……?」
なお、そうして分析していたら、なんか知らんけどTASさんからは呆れられることとなるのだった。
……あれ、俺なにか変なことした?一応相手の戦闘力確認のためにまじまじと見つめたりしたけど、邪な気分は一切なかったよ???
「お兄さんの不潔、って言っておいてあげる」
「……あーうん、墓穴掘った感があるけど、まぁ甘んじて受けるとして。……で、結局どうするの?戦うの?音ゲーで?」
「……今のままでは厳しい。もう一押しなにかが欲しい」
話を戻して。
相変わらず太鼓の前で乱舞している金髪少女だが、そろそろラストスパートということなのか、その動きも更に激しいものに……って、ん?
「……可だったな、今」
「あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛、またですわー!!もーっ!!」
「うおっ!?」
一瞬、完全に叩くタイミングが合っていることを示す『良』ではなく『可』の文字が表示されたことに、踊る余裕もある感じだったのに恥ずか……もとい、先ほどまで全部『良』だったのにそこでミスるのかー、と単純な感想を思い浮かべてしまう俺。
それと同時、彼女の口から漏れたのは汚い悲鳴で、思わずビックリして小脇のTASさんを取り落としてしまう。……いやまぁ、当のTASさんは華麗に着地していたわけなのだけれど。
なお、当の奇声をあげた彼女はと言えば、なんか色々と小声で愚痴を溢しながら、踊ることも忘れて普通に太鼓を叩いていたのだった。
そうして最後まで曲を終えて出てきた結果は、可が一つというもの。
……意気消沈していたように思えたが、そのあとの連打などは一つも取り落としていない辺り、流石と言うべきかもしれない。
いやまぁ、だったら最初から躍りを交えず普通にやっていれば、普通に成功していたんじゃ?……なんて風に思わなくもないのだが。
「それは違う。恐らく、あれは避けられない」
「……んん?そりゃどういうこってで……?」
だが、そんな俺の疑問は、隣に立っているTASさんによって否定される。
理由はよくわからないが、彼女のアレはどういうプレイスタイルだったとしても、必ずあそこで失敗してしまうものらしい。……いや、どういうこと?
そんなこちらの疑問には答えず、TASさんはしくしくと項垂れる彼女に向かって近付いて行き、
「──とても奇遇。ご飯、一緒に食べない?」
「……は、はい?いきなりなんですの貴女?」
なんでか知らんけど、一緒にランチでもどうか?……というお誘いをかけ始めるのだった。……いやなんで?