「むぅ、参考までに聞いてみたかった、私の対応マニュアル」
「表紙で一時間待ってからスタートするけどそれでも宜しいか?」
「……むぅ、隠しコマンド……」
プールの縁に座り、足を水に付けてパシャパシャしているTASさんの横で、真っ赤に腫れた頬を擦りながら頬杖を付く俺。
……うん、いつの間にやらプール内部なわけだが、無論市営プールとかみたいな色々とあれな場所ではない。
じゃあどこなのか、というと市内の会員制のプールの中なのであった。……MODさんってば、色んなところの会員になってるのね、ほんと。
市営プールにこの面々を引き連れて行くとか、好奇の視線に晒されるだけならまだしも、男共の嫉妬の視線で焼き焦がされるわ。
そういう意味で、弁えている人しかいないこういうところの方が、幾分か心の安息が保たれるというものである。……いやまぁ、こっちはこっちで高級すぎて落ち着かない、という問題点もあるのだが。
高級、と言ってもプールが豪華、というわけではない。
俺達以外の利用客がファビュラス過ぎて、場違い感が凄いのが問題なのである。
「ははは。そんなに強張らなくてもいいと思うけどね?」
「そりゃーまー、MODさんは慣れてるし似合ってるから問題ねーでしょうけどねー」
「おやおや、すっかり機嫌を損ねてしまったようだ」
俺がむすっとした顔をしていると、そこに声を掛けてきたのはAUTOさんと水泳対決をし、軽々……ではないものの勝利して、そのまま水から上がってきたMODさん。
ポタポタと水の垂れる長い髪を掻き上げながら、にこりと笑みを溢してくるその姿は、人によっては思わず一目惚れしてしまってもおかしくないかもしれない。
……いやだって、ねぇ?本当にこの人高校生か、みたいな見た目なんだもんよ、今のMODさん。
周囲の客達にも負けず劣らずな、高貴な空気を醸し出すその姿は、どうにもこちらとは別世界の人間である、と主張するかのよう。……本人にそのつもりはないのだろうが、普通に気圧される感じなのである。
ついでに言うと、とてもセクシー。セクハラになりそうだから子細は省くが、周囲の男性客がこっちをこそこそジロジロ見てる辺りで察して頂きたい。
「……TASさん、お仕置きどうぞ」
「心得た。受けよ正義の鉄槌、視覚ジャック~」
「……一応聞いておくけど、一瞬跳び跳ねた彼らはなにを見せられてるんだい?」
「
「……あー、それはそれは……ってん?なんで君が答えたんだい?見せてるのは彼女の方、だろう?」
「俺も見てる」
「えぇ……」
一瞬見惚れたのは確かなので、俺もお仕置き対象というやつである、致し方なし。
……まぁ、一度見たことがあるので、周囲のみんなみたく取り乱すことはないのだが。あと気のせいじゃなければ女の人の一部も悲鳴をあげてない?……あ、その人達もジロジロ見てた?それはそれは……。
まぁうん、周囲に負けず劣らずファビュラスだったからなぁ、今日のMODさん。
そんなことを思いながらうんうん頷いていると、
「貴方様?なんの話をしていらっしゃるのでしょうか?」
「MODさんがこの夏を独占してるって話」
「はぁ?……ってこら!ちゃんと上を羽織りなさいと言ったじゃないですか貴方は!」
「ははは、細かいこと言いっこなしだよAUTO君。それにほら、素晴らしい肢体は見せ付けるが吉、とも言うだろう?」
「どこの変態の格言ですか!いいから、は・お・り・な・さ・い!」
「うわっぷ」
肩を怒らせながら歩いてきたAUTOさんが、好き勝手に周囲の視線を集めていたMODさんに無理矢理ローブを着させていたのだった。……お陰さまで、周囲をお仕置きする必要性がなくなったと判断したTASさんの視界ジャックは終了した。AUTOさん様々である。
で、MODさんがワインレッドのホルターネックワンピースだったのに対し、AUTOさんの方は普通の白いワンピースを着ているのだが、これが中々。
二人してスタイルがとても良いので、並ばれると正直視線を逸らすしかない俺である。……こういうのヤダからプール来たくなかったんだよなぁ。
「?なにか問題が?邪な気分でなければ、別に見ても構わないと思いますけど」
「男が視線からそういうものを一切排除するのは、実際無理なんだよ」
「……なるほど、目のやり場に困ると。君はなんだかんだ紳士的だねぇ」
「紳士的を気取るやつほどヤバイやつはいないぞー」
「……それ、ご自身のことを貶してませんか?」
「そう言ってるー」
「……あー」
「お兄さんがとても困ってる。やっぱり居る?見えるもの全部モザイクになる眼鏡」
「それはそれでいかがわしいからやだ」
いやまぁ、実際そんな気持ちはないのだが。
……ふと脳裏を過る時、というのはどうしても存在するわけで、そこら辺まで考えると見ないのが一番、という話になるというか。
まぁ、見ないなら見ないで想像の中にまで侵食してくることがあるのが、男の悲しい性なのだが。
そんなことをぼやきながら、誰も居ない位置に視線を向け続ける俺なのであった。