謎の金髪美少女と、何故か一緒にランチを食べることとなった俺達。
そのため、ゲーセンのある階から移動して、飲食店のある階にやって来たわけなのだけれど……。
「…………」
「ええと、そうまじまじと見つめられると、どうにも照れてしまいますの」
「……え?さっきと同じ人?」
「──もしかして、
「いいいいえいえ滅相もない!!このような下賤の者が御身を見つめる無礼、どうぞわたくしめの命を以てお目こぼし頂ければ!!!」
「ちょっ、そこまで御自身を卑下なさる必要はありませんわよ!?」
先ほどまでの謎のハイテンションは鳴りを潜め、ともすればどこぞのお貴族様のような品のある空気を滲ませ始めた彼女の姿に、思わず『こんなやっすい飲食店に連れてきてよかったんだろうか?』みたいな心配をする羽目になるのだった。
「どどどどどうしようTASさん!これ無礼打ちとかされるやつ!だから俺、先んじて腹かっ捌いた方が良いやつ!?」
「落ち着いて」
「うごっ!?……ちゅ、躊躇なく腹パンは酷いっすよ……」
「貴方には丁度いい薬。もう少し落ち着いて、大人なんだから」
「へーい……」
なお、そうして慌てていた俺を嗜めるのは、無論TASさんである。……目に見えぬ速度のツッコミには毎度驚かされるが、いい加減慣れていきたい俺だけど慣れないげふぅ。
思わずパンチを受けた腹を押さえながら踞る俺。
そんな俺を見て、どう反応していいものか困っている感じの笑みを浮かべる金髪さん。
ただ、TASさん一人だけが、満足そうにふんすと鼻を鳴らすのであった。
「……え、お金持ちとかお偉いさんとかではないんです?」
「いえ、お金持ちの部分に関してはちょっと口を濁すしかありませんけど……それほど権力を持っている家の出ということは有りませんので、どうか普通になさって下さいまし」
「いやでも、
「……つかぬことをお伺いするのですが、この人は万事が万事このような感じなのですか?」
「これがデフォ。ナチュラルに失礼なのがお兄さんの持ち味」
「なるほど……」
「いや納得しないで下さいね?!俺も最低限礼儀くらいは持ち合わせていますからね?!」
「えっ?」
「心底ビックリしたような顔ォッ!!」
なんか知らんけど、いつの間にか俺の評価が地の底!
……いやまぁ、そこに関してはいつものことなんですけどね、初見さん。
まぁともかく、あまり畏まれても困る、と告げてくる金髪さんの言葉に甘えて、普通の態度に戻した俺達。
そんな中、頼まれてきた料理を前にした彼女はと言うと……。
「……やっぱり、良いとこのお嬢様なのでは?」
「え?……あっ、いえ、ちがっ、これはその、私の癖といいま゛っ、ちがっ、そうでもなくっ!!」
(なんか知らんがさっきとは違う意味で面白い人だなー)
頼んだ料理がプレート系のモノだったため、ナイフとフォークを使って食材を一口大に切り分けていたのだが、その所作が綺麗なこと綺麗なこと。
ともすればちょっと見惚れそうになるそれは、やっぱり彼女がそれなりの教育を受けた証に思えて、なるほどと頷くこととなるのだった。
……だったのだが、当の本人は何故か大慌て。
いや、別に食事の仕方が綺麗、ってだけなんだから、そこまで強硬に否定することなくない?……と思っていたのだが、この様子からするとなにか理由がある感じに見えてくる。
なので、彼女が落ち着くのを待ってから、改めて話を聞いてみたのだけれど……(なお、TASさんはこちらを気にせず、頼んでいたメロンソーダを、ストローからリズミカルに啜っていた。多分ムービー短縮の裏技とかだと思われる)。
「……『ルールを守ることが得意』?」
「まぁ、その、あくまで噛み砕いて説明すると、ということになるのですが……」
なんでも彼女、本当に産まれも育ちも庶民の出、ということなのだが、ある時から
例えば、横断歩道。
単純にマナーが良いということもそうだが、意識せずとも
例えば、勉強。
教科書を読むのが好きになったうえ、テストもまず不正解を出すことが無くなったり。
まぁそんな感じで、
「お手本、とでも言えば良いのでしょうか。ともかく、規範となるものが制定されている場合、それらを
「……な、なんか話を聞いてるだけだと怖……っ」
「怖がらないでくださいまし、傷付きますわ」
「あっ、すんません」
この現象、なんと彼女の行動の全てに掛かってくるのだそうで。
ゲームをさせれば教本通りの型に填まった動きを見せ、尚且つそれが最善となり。
会話をさせれば、自然と丁寧語とかお嬢様言葉とか、どちらかと言えば固めの台詞が次々に湧いてくるようになったのだとか。
……で、その結果が、今現在の彼女の格好──どう見ても良いとこのお嬢様、みたいなドレス姿なのだそうで。
なお、これ自体は普通にバイトしてたら何故か手に入れていた、とのこと。……なにそれ怖っ。
「あれよあれよと言う間に、私の接客を気に入ったという御老人方にプレゼントされてしまい……『贈り物は素直に受けとる』のが礼儀、とでも言わんばかりに、自然と私の普段着となってしまい……」
「うわぁ、すっごい流されっぷり」
「言わないでくださいましっ!」
「ああ、すみません」
なんだかとても苦労している様子の彼女。
見た目にはとても恵まれていそうなのに、げに恐ろしきは謎の強制力、ということか。
そうしてさめざめと涙を見せる彼女だったが、うちのTASさんは特に気にした様子もなく。
「──ん、それは貴女がAUTOさんだから」
「……は、はい?おうとさん?」
淡々と、告げるべきことだけを口にするのだった。