うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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地味こそ恐ろしいスパイスもない

「ふぅ……久しぶりに普通に泳いだ気がしますぅ」

「おっ、ダミ子さんだ。きっとダミ子さんならこの空気を崩してくれっ」

「お兄さんの顔が百八十度回った」

「ぐきって言いませんでしたか今?!」

 

 

 ちょっとばかり気まずい空気に(俺が勝手に)なっていると、よく聞いたことのある声が。

 そう、この声はダミ子さん。色気より食い気を地で行く彼女なら、この変な空気を吹き飛ばしてくれる……!

 

 そんな期待を込めて向けた俺の視線は、一瞬も彼女をその視界に納めることなく百八十度回転することとなるのだった。

 ……俺は見てない。俺は見てないったら見てない。

 

 

「だからTASさん、他の人にはやっといて」

「りょ。ててーい、視覚がどーん」

「「「ぬわあぁあぁ、目がー!目がー!!」」」

「だ、大多数の方が目の辺りを押さえて悶絶を!?」

「……いやまぁ、仕方ないよこれは。私もちょっと目が惹かれてしま目がー!!」

「MODさん!?」

 

 

 そう、見てなんか居ないのだ。

 ダミ子さんのその、ゲームとかでしか見ないようなばるんばるんのモノは……!!

 

 

「ふ、ふふ。甘く見てたぜダミ子……扱いとしてはペットとか小動物……そんな素振りは一切なかった……そう、お前が伏兵となるような可能性は……だがどうだ、今人々は恐怖し、恐慌し、お前の一挙一動に関心を置き続けている……月並みな言葉だが、敢えて言おう。──ダミ子、お前がナンバーワンだ……!!」

「え、なんなんですかこの空気……」

「貴方が色々とすごいのが悪い。ガチャの実装はいつ?私も引こう」

「ガチャ狂院(ぐるいん)……って、なにを言わせるんですかぁ!?」

 

 

 ……なんかTASさんまで言動がおかしくなっているが、それも仕方のない話。

 だってねぇ、スイカですよスイカ、まん丸大きなスイカ、それも二つ。

 ……リアルの人にスイカ、って例え方することになるなんて思ってなかったよ俺、なにあれ暴力でしょ、そりゃみんな見るの当たり前だよ。

 

 

「……それはそれとして、俺も視界がジャックされました。対戦宜しくお願いします」

「皆さん敗北で宜しいのでは?」

 

 

 冷たいような呆れたような、そんな声音のAUTOさんの言葉に、違いないと思わず頷いてしまう俺なのであった。

 

 

 

・A・

 

 

 

「よもやローブを羽織わせると逆に目立つだなんて……」

「最終的にプールの中にずっといて、という話になった」

「なんか変な方向に不憫だなあの人……」

 

 

 数分後。

 あれこれ試した結果、ダミ子さんに関してはボディが見えないようにプールの中に居て貰う、ということが決定したわけだが……なんというかこう、変なところで間の悪いというか運の悪いというか、ともかく可哀想なことになる人だなぁと思う。

 いやまぁ、どのパターンにしても本人に落ち度がないのがアレなのだが。

 

 ともあれ、ようやく施設内は落ち着きを取り戻し、こちらも視界が戻って胸を撫で下ろすことができたわけだが……。

 

 

「……わりと真面目に、市民プールじゃなくてよかったな……」

「騒動の規模は、こんなもんじゃ収まらなかっただろうからね……」

 

 

 あんな危険なビキニ、公衆の面前にはとてもじゃないがお出しできたものではない。

 そういう意味で、会員制のプールを選んだこちらには先見の明があった、と言ってしまってもおかしくないかもしれない。

 ……いやまぁ、こっちの事情を知らない一部の人に、女の敵みたいな視線を向けられてる俺を除けば、なんだけどね?

 

 

「でもその辺りは有名税みたいなもんかな、って……」

「有名だからとそういうものに諦めを投げるのは良くないぞ、大抵それを言う相手は調子に乗るものだからね!」

「なんか実感が籠ってるなぁ……」

 

 

 そういうものに巻き込まれる機会でもあったのだろうか、という言葉は口の中に留め置くとして。

 ともあれ、こうなってくると残り一人──CHEATちゃんこそが最後の希望、ということになってくる気がする。

 

 

「ん?……あれ、そういえば居ないね、彼女」

「うむ、先にここのオーナーに話をしに行ったからね、彼女」

「オーナーに?一体なんの話を……」

「それは!全てこの時のため!──とぅっ!!」

 

 

 俺の言葉に、ようやく一人姿が見えないということに気が付いたMODさんが、辺りをキョロキョロと見回しているが……生憎、残りの一人であるCHEATちゃんは、今この場には居ない。

 

 彼女の現在地は、このプールの経営者のところ。そんなところになんの用事が?と首を捻るMODさんだが……それと同時、施設内に響くのは一人の少女の声。

 マイクを通して聞こえてくるその声は、間違いなく今話題になっていた彼女のもの。それに気が付いた俺達は、周囲を見渡し、そしてそれを見付けた。

 

 今俺達が居るプールとは別のプール。

 大人用の深いプールであるそれは、さらに深い部分が存在し、そこ目掛けて飛び込めるように飛び込み台が存在している。

 その飛び込み台の、一番上。仁王立ちでそこに立ち、マイクを持つその人物は。逆光で顔の見えない、その人物は。

 

 

「そう、私こそが今回の主役、CHEAT!──とぅっ!!」

 

 

 持っていたマイクを放り投げ、綺麗なフォームでプールに飛び込んだその人物。

 大きな水しぶきを上げた彼女は、燦然と立ち誇り……立ち誇り?

 

 

「……バカだこいつ沈んでやがる!?」

「泳げないのなら泳げないといいなさいな!?」

「わわわ、助けなきゃですぅ!?」

 

 

 ばしゃばしゃ、たすけ、およげなっ……などと宣う彼女の呼び名はCHEAT。

 ……泳げない癖に、格好付けて最上段から飛び込んだお馬鹿な女の子である。

 

 

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