うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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プールだからといって泳ぐとは言ってない

「さて、始まりました第ほにゃら回、CHEATバーサスTASの直接対決!解説は私、彼らの兄的存在と、」

「みんなの頼れるお姉さんこと、MODがお送りするよ」

「ななな、なにか始まりましたですぅ!?」

「一応CHEATさんのチャンネル動画ですので、その辺りの協力……ということみたいですわ」

 

 

 どうやら一時的な貸切についても、すでに交渉を終えていたらしいCHEATちゃん。

 プールサイドに設営された解説席に、特に疑問を挟むこともなく座った俺達は、人の居なくなったプールと、そのプールを望む位置で開始の合図を今か今かと待ち望む、二人の戦士の姿を見るのであった。

 ……まぁ、大仰なことを言っているが、つまりはTASさんとCHEATちゃんの二人である。

 

 TASさんの方はいつも通りの様子だが、CHEATちゃんの方は顔面蒼白なのであった。

 

 

「おおっとCHEAT選手、これはどうしたことか!まだプールに入っていないうちからチアノーゼ反応かー?!」

「ううううるさい!静かにしろよ気が散るだろぉっ!!」

「強がりなのかはたまた今さら正気に戻ったのか。……なんにせよ、このままだと彼女の負けは見えているね」

「CHEAT選手、このままプールの藻屑と消えてしまうのかー!?」

 

「……なんでこの人、こんなにノリノリなんですぅ?」

「意外とこういう空気が好き、ということかもしれませんわね」

 

 

 後ろの二人うるさい。

 ……ともあれ、立ち並ぶ二人の様子は対称的、片や泰然自若を体現するかのように不動の構えを以て前を見据えるTASさんに対し、片や壊れてしまって、ずっと振動しているスマホみたいになっているCHEATちゃん。

 現時点では、勝負の結果は火を見るより明らか、といった状況にしか思えないわけなのだが……はたして、本当にそうなのだろうか?

 

 いやまぁ、これが彼女の()()()だとするのならば、迂闊に口にすると全部台無しになる(主に動画撮影の山場的な意味で)ので、基本的には脳内で考察を捏ね繰り回すだけなのだが。

 ともあれ、若干以上にわざとらしい震え方からして、なにか企んでいるのはほぼ確実。

 ゆえに俺はそれに気付かないフリをしつつ、マイクパフォーマンスで場を温めるのが自身の仕事だと把握したわけなのである。

 

 ……なので、この煽っているような言動は演じているもの。

 決して俺が、素の状態で性格悪い人間だということではないので、そこら辺を勘違いしないで頂きたい次第である。

 

 

「?……お兄さんは性格悪いよ?」

「TAS選手、人の脳内を読み取った上で罵倒するの止めてください、イエローカード出しますよ?」

「ちょうだいちょうだい一枚でいいからちょうだい」

「うわあ!?いきなり詰め寄ってくるな心臓に悪い!?っていうかダメです!よくよく考えたら君になにかあげるの不安以外の何物でもないわ!?」

「ちぇー」

「……あの、私を無視しないで欲しいんだけど?」

「おおっと、失礼失礼。では改めまして、両選手はスタート地点についてください」

「はーい」

 

 

 ……脳内会議もおちおちできやしないの、俺どうかと思うよ?

 

 という愚痴はまぁ、一先ず脇に置いておくとして。

 改めて、スタート地点に立ち直した二人を確認し、ストップウォッチと笛の準備をする俺達。

 

 

「位置について、よーい……どん!!」

「い、行くっきゃねー!こなくそー!!」

 

 

 そうしてスタートの合図をすれば、まるで破れかぶれと言わんばかりに、CHEATちゃんが水面へと飛び込んで行ったのだった。

 

 

(──バカめ!私はヤツがこちらを甘く見て、地上で呑気にして居るのを見たぞ!その傲慢が、お前の敗北を招くんだ!)

 

 

 そしてその時、俺は確かに見たのだ。

 どこから取り出したのかはわからないが、CHEATちゃんが例の黒板(ポケコン合成&防水仕様)を取り出し、なにかのコードを打ち込むのを。

 

 そう、彼女はCHEATちゃん。その名の通りチートを操る者。

 なれば、泳げない自身になんらかのコードを適用することで、華麗な泳ぎを見せ付けられるようになってもおかしくはない。……具体的には、見事なフォームのバタフライを見せていた。

 

 

(予め、水中に入っていないとダメ、というようなルールは叩き付けておいた!これで、水上を走っていくなどの裏技(バグ)は使えない!ならばアイツは普通に泳ぐ必要があり──同じように泳ぐのなら、私の方が倍速とかできるから圧倒的に有利だ!)

 

 

 時折水面から飛び出してくるCHEATちゃんの顔は、なにやら不敵な笑みに染まっている。……恐らく、自身の策がうまく行っていることを確信しているのだろう。

 

 確かに、TASさんは泳ぎが得意というわけではない。いや、別に下手だと(なじ)られるような腕前と言うわけでもないのだが、どちらにせよ地上での速度に比べれば遥かに遅い、ということに間違いはない。

 対してCHEATちゃんは、チートコードの適用などにより、すぐに泳げるようになったうえ加速まですることができる。

 

 確かに、これならば勝利を確信してもおかしくない状況、という風に言えてしまうかもしれない。

 TASさんの使うそれは、基本勝負の土俵をずらすもの。

 ずらす土俵が無いように見えるこの状況下において、彼女の負けは揺らがないように思えてくる。

 水の中に居ないとダメ、というのもダメ押しとしては最良のモノだと言えるだろう。

 

 ──だが、忘れていないだろうか?

 TASという少女は、わりと無法者だということを……!

 

 

(もろたでお兄!この勝負、わいの勝ち……ってん?)

 

 

 水面を優雅に大胆に進む彼女は、水中メガネ越しにそれを見る。

 ──それは、水底をまるで平地として扱っているかのように、せっせと走っていくTASさんの姿。

 水の抵抗など一切無い、と言わんばかりにジョギングする彼女は、最早地上での彼女の様子となんら変わりなく。

 

 唖然とするCHEATちゃんの目の前で、彼女はゴールにタッチしながら「勝利。ぶい」と声をあげるのだった。

 

 

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