「……え?はっ??えっ???」
超絶的に困惑しすぎて、最早人の言葉を話すことができなくなっているCHEATちゃん。
……そのままだと風邪を引くので、他の面々に引き上げて貰った彼女は、狐につままれたような表情のまま、小さく首を傾げ続けていたのであった。
「……いつ人類は水中歩行を会得したの???」
「最初の言葉がそれかい」
心底不思議そうに疑問を呈するCHEATちゃんだが、安心して欲しい。別にTASさんは水中歩行をできるようになったわけでも、いつの間にかエラ呼吸ができるようになったわけでもない。
……というようなことを言い返せば、彼女の首の傾きが二度から三度ほど深くなるのであった。
「いや……だって歩いてたじゃん、実際に、水の中を」
「水の中にいたけど、水の中を歩いていたわけではない」
「……?????」
TASさんの言葉を聞いて、さらに困惑するCHEATちゃん。……このままだとずっと困惑しっぱなしだと思われるので、いい加減ネタばらしといこう。
「実は、水面とプールの壁の間のポリゴンを抜けてた」
「……ぽりごんのあいだをぬけてた?」
「そう。見た目上は確かに水の中に居るように見えるけど、実際は入水判定をすり抜けてるから、水の中だけど地上判定。だから、普通に息もできるし動きも地上と同じ」
説明しながら、TASがひょいとプールに飛び込む。
この時のポイントは、壁部分にぶつかるぐらい……というか、寧ろ傍目から見ると完全に足をぶつけるような、水と壁ギリギリの位置に飛び込むこと。
それにより、水中に入ったという判定を避けながら、プールの底に足を付くことができるのである。
……まぁ、事前に壁の接触判定も緩くしておかないと、普通にぶつかったりはたまた単にその場で跳ねただけになったりするので、意外と言葉面ほど簡単な技術ではないみたいだが。
あとはまぁ、彼女が見ていた通り。
水中にいるのだから勝負のルールとしては問題なく、その上でいつものように動けるのだから負ける余地もなし。
また、水中に入っていない判定なので、水の中でもお構い無しに呼吸もできる……という、まさにTASさんの土俵の上、という状態になっていたわけである。
「……ズルじゃん!?」
「水のポリゴンを抜けちゃダメ、と言わなかった貴女が悪い。……まぁ、それでも負けないけど」
「ハーッ!?フザケンナコラーッ!!ダッタラモウイチドショウブダコラー!!」
「うるさいですわ」
「ホゲァーッ!?イタァーッ!!?」
で、最終的にその説明を聞いたCHEATちゃんは大激怒。
こんなん無効試合やと喚き始めた彼女に対し、TASさんは澄ました顔で何度やっても負けないよ、との挑発。
……こうなってしまっては、CHEATちゃんが興奮した猿みたくなってしまうのは避けられようもなく。
そんな彼女をべしり、と後頭部を叩いて嗜めたAUTOさんの取り成しにより、ようやく場の騒ぎは収まりを見せるのでありました。
……あ、配信に関しては「また負けてるw」「懲りねーなーこの子も」などなど、なんというかいつも通りの子を見守るようなコメントが並んでいた、ということをここに付け加えて置きます。
……いや、リスナーも大概だな、マジで。
「……え?さっきのTASの動きとか、そのまま放送して良かったのかって?」
数十分後。
こうなりゃなにを使ってでも勝ってやる、と意気込んだCHEATちゃんが、マントを持ち込んだTASさんにあっさり負けてから暫し。
いつぞやかの異世界旅行の折に披露した、マグマ遊泳に比べれば遥かに楽──とかなんとかいう無茶苦茶な言葉に陥落したCHEATちゃんは、施設内の食事処で大きなパフェを注文することにより、どうにかテンションを取り戻していたのであった。
……まぁ、必勝の時と見越してあれこれ準備していたのに、いつも通り爆散してしまったのだからさもありなん。
そんな彼女だが、そういえばTASさんの異次元殺法とか彼女自身の無茶苦茶な動きとか、世間一般様に公開して良かったのか?……みたいな疑問を俺が抱いていることには、心底不思議そうな顔をしていたのであった。
……いや、なんで俺の方が変なやつ、みたいな反応になってるんですこれ?
「いやだって、これVRだと思われてるし……」
「……なんで?」
「こんな奇抜な格好したヤツ、現実に居るわけないじゃんって思われてる」
「ああ……」
そういえばそうだった(素)。
今の彼女は動画配信者モードなわけだが、そんな彼女の左右には、初めて会った時と同じく謎のレトロゲーがふわふわと浮かんでいる。
水中に入った時でさえ、彼女の動きを邪魔しないようにふわふわ浮いていたのだから、そりゃまぁリアルな存在だとは思わんわな、特に画面の向こうの人々は。
……どっこい、近くに居る人にはごまかせないと思うのだが、そこら辺もどうにかなっているらしい。
「まさかこのレトロゲーに意味があったとは……」
「ジャミング効果、っつーの?内容としては、なんかの撮影用の機材……みたいな感じで、周囲にこれがおかしなモノではない、って印象を刷り込むというか」
俺もすっかり騙されていたが、そもそもこんなものが大した音もさせずに浮いている、という時点で大事件である。
その辺り、最初っから認識改変が起きていたのだな、と知るには丁度良いというか。
……そういうわけで、どうやら少なくとも彼女がこの姿で居るうちは、周囲の目を気にする必要はない、ということになるらしい。
大体負けてるけど、なんだかんだ言って彼女もわりと意味不明の住人なんだなぁ、としみじみ頷く俺なのであった。
……いやまぁ、脇腹に意外と腰の乗ったパンチを受けながら、なんですけどね。
「一言余計なんだよっ、このっ、このっ、このっ!!」
「地味に響くから止めて」