「オートって……自動って意味の?」
「そうそれ。わかる人には『DJ AUTO』って言えばわかる」
「でぃじぇいおうと?」
突然TASさんが述べた言葉に、思わず二人揃って聞き返してしまう。……どうでもいいんだけど、金髪さんさっきから全部ひらがな英語になってない?
まぁともかく、TASさんは彼女に起きた異変、というものがなんなのかが理解できている様子。
なので、それがどういうものなのかを解説して貰うために、次の彼女の言葉を待っていると……。
「時は西暦二千X年、世界は核の炎に──」
「おいゴルァ?」
「痛いっ」
そんなの知るかとばかりに
「ほ、本当に額が割れたかと思いましたわ……すごい音でしたわ……」
「いや、なんで金髪さんの方が深刻そうになってるんです……?」
実際にダメージを受けたのはTASさんの方なのに、滅茶苦茶痛そうにしてるのが金髪さんの方なのはどうして……?
よもやダメージ移し変えでもやったのか、とTASさんの方を見つめる俺だが、返ってきた視線から読み取れるのは『やってない』の五文字のみ。
それはやってるやつが使う常套句だよ、的な思いも無くはなかったのだが、次第にプルプルと首を横に振り始めてしまったので、渋々彼女の主張を認めることになる俺なのであった。
ともかく。話を戻すと、TASさんが金髪さんに起きたことを理解している、というのはほぼ確実。
その事実を、先ほどの言葉と合わせて考えてみると……。
「ええと、つまりはこの金髪さんは、TASさんみたく後天的に『AUTOさん』になった、ってことに……?」
「その通り。こういう時のお兄さんは理解が早い」
「……まさかこんな短期間に、もう一度あのパワーワードを口にすることになるとは思わなかったよ……」
──後天的超人になった、というのが正解になるのだろう。
……いやまぁ、カッコ付けて『超人』とか言ってみたけど、その実『後天的DJ AUTOさん』とかいう、胡乱以外の何者でもない者への変貌、ということになってしまうのだが。
ともあれ、まるで意味がわからないにせよ、局所的に変なことが起きていた……ということは間違いないだろう。
一人でもお腹いっぱいなのに、二人目登場とか正直勘弁願いたいのだが……この分だと、すぐにでも三人目の『後天的○○』が出てきそうな気がして、思わず頭が痛くなってくる俺なのであった。
「お兄さんが頭痛になるとかならないとかはまぁ、置いといて」
「置いとかないでー?俺の健康を阻害しないでー?」
「大丈夫、あとで調整しとく」
「ねぇ?その調整って勿論俺の病気を治すとか、快癒方面の調整であってるよね?……実は俺が不健康になることとか、望んでたりしないよね?ヒールゼリーを塗り込む隙とか、窺ってたりしないよね……?」
「
「……あ、あれ?」
……おかしいな、いつも通りの軽口の応酬のはずが、どうにも本気で残念がられているような?
俺の体調不良に託つけて、あれこれと試そうとしているのでは?……などというこちらの無用かつ無意味なはずの心配は、彼女に半分くらい肯定されたまま、なし崩し的に次の話が始まったために流されてしまうのであった。
……あとで問いつめ直すべきなんですかね、これ?
「……ええと、結局のところ『でぃじぇいおうと』とは一体なんなのです?」
「『DJ AUTO』──それは、明確にTASに勝つ可能性があるものの一つ。私にとっては、終生のライバルのようなもの」
「……『たす』?らいばる……?」
「いや、流石にライバルはわかるだろ……?」
さておいて、金髪さんが変異したのだと思われるモノ──『DJ AUTO』、もとい『AUTO』さんについての説明に戻るが。
言うなればそれは、音ゲーにおけるお手本・見本のようなモノを指す言葉である。
音ゲーとは、すなわち画面を流れる譜面に合わせて、タイミング良くボタンを押すゲームのこと。
それを基本として、ゲームごとに個性を出している……という作品がほとんどなゲームジャンルだ。
さっき彼女がやっていた太鼓もそうだし、近くにあった十六個の光るボタンが並んでいる筐体や、傍目からだと乾燥機とか洗濯機に見えるような筐体なんかも、件の音ゲーに含まれる物である。
「太鼓がわかりやすいけど──音ゲーは、ある意味音楽の演奏の延長線上にあるもの。だから、演奏の上手さを競うもの、という風にも言えるかもしれない」
そして、TASさんの言う通り……これらの音ゲーと呼ばれるモノは、ある意味では楽器の演奏をしているようなもの、という風に解釈することもできる。
見たまんま楽器である太鼓は言わずもがな、ほかの筐体達も『叩く・触れる』などの操作によって、筐体という楽器を演奏している、と認識することもできなくはない。
そして、楽器の演奏をする際──既にその楽器を演奏したことがある経験者というわけでもなければ、普通は誰かに指導をして貰う──
つまり、それらの話を包括すると──件の『AUTO』さんとは、音ゲーにおける
そしてそれゆえに、必然的に『TAS』さんが勝てないものの一つに数えられてしまうわけである。
「ええと……?」
「正確には『負けないけど勝てない』。こっちが使っている裏技を、公的に使っているようなものだから」
先ほどから言っているように、『AUTO』さんとは手本の一種である。
そして
つまり音ゲーという形式上では、『AUTO』さんは常にトップにいるのである。……いやまぁ、お手本を指してトップ、と言い張るのは変な話だが。
「ともあれ、音ゲーにおいては『完璧』が一番上だから、必然的に『AUTO』さんが一番上というのも間違いではない」
「はへー……」
「いや、はへー……て」
なお、その『AUTO』さんであると目されている彼女の反応はというと、なんというか気の抜けるものなのであった。……その気の抜け方で『AUTO』はないわー。