うちの同居人はTASさんである。   作:アークフィア

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唐突なホラー回は物語の華

「まさか……こんなことになるとはな」

「ええ、そうですわね……」

 

 

 途中で合流したAUTOさんと二人、夜の森を駆け抜ける。

 ここが何処なのか、というのは正確には把握できないが──狼の遠吠えが聞こえる辺り、少なくとも日本ではないだろう。

 

 いわゆるキャンプ地に区分されるだろうその森の中では、周囲に人影はなく、それでいて()()()の気配だけは感じる、という薄気味悪い空気を漂わせている。

 ……日本人的な感性で言わせてもらえば、いわゆる『出る』場所の空気、ということになるのだろうが……なにが『出る』のかについては、恐らく日本の()()とは別物なのだろうな、というか。

 

 なにせ、そもそも日本という国において、このような大規模キャンプ場というもの自体が、あまり馴染みがない。

 週末になれば毎度のようにキャンプをする国の実情など、そうではない国からしてみればわからないとしか言い様がないだろう。

 

 ゆえに、ここで出てくる()()()とは、すなわち──、

 

 

「……っ、右ですわっ!」

「うわっとぉ!?」

 

 

 考え事をしていた俺の意識を引き戻すような、切羽詰まったAUTOさんの声。

 それに半ば引っ張られるようにして左に避けながら頭を下げれば、先ほどまで自身の頭があった場所を抜けていくチェーンソーの刃。

 ……今時マジでそんなものを凶器に使ってくるような奴がいるのか、とちょっとツッコミを入れたくもなったが、そんなことを言っている暇があれば逃げるべき、と至極全うな指摘が横から飛んできたため、振り返りもせず更に走る速度を上げる。

 

 とはいえ、こちらは単なる人間である。

 襲ってきている相手とは体力にしろ膂力にしろ、大きな隔たりがあるため単純に逃げているだけではすぐに追い付かれてしまうだろう。

 ゆえに、障害物などを交えながらジグザグに進んでいくのだが……。

 

 

「どぅえらばっ!?」

「貴方様!?……これは、トラバサミ?なんと古典的な!」

「いやそんな悠長なこと言ってる場合じゃいてててて」

 

 

 突然、右足が持ち上がらなくなった俺は、その場で思い切り倒れ込んでしまう。

 俺とは違って引っ掛からなかったAUTOさんが、慌てて引き返してくるが……ああくそ、これはダメだ。

 時間があれば外すこともできただろうが、少なくとも追いたてられているこの状況では、そんな悠長なことをしている暇はない。

 そもそもの話、このトラバサミは意外と深く足に噛み付いており、例え外せたとしても先ほどと同じような速度で逃げることは叶わないだろう。

 

 ──つまりは詰み、だ。

 足手まといとなった俺は、ここで後ろからやって来る()()と無防備なまま対峙せねばならず。

 

 

「……いいえまだです!すぐに外して見せます、ここをこうして──」

「ああいや、逃げてくれAUTOさん。……もう来てる」

「…………っ!」

 

 

 諦めてなるものか、とAUTOさんがトラバサミに手を伸ばすも、時間切れだ。──そのエンジン音は、もうすぐそこまで近付いて来ている。

 

 金属性の刃が、擦り合わされて発生するその耳障りな音は、なによりも対峙する者に恐怖を与えるもので。

 それが、薄暗い森の中にハッキリと浮かび上がる黒い大きな影の、その手元から発せられていることが確かである以上。

 そしてそれが、目視できるほどの近くにある以上。──俺の末路と言うのは変わらないだろう。

 

 ならば、犠牲になるのは一人だけでいい。

 なにも彼女まで、あの金属刃の犠牲になる必要はないのだ。

 けれど、彼女は必死な顔で、そんなことは許さないと声をあげる。生きて帰るのだろうと、外れないトラバサミに挑み続けている。

 

 ──それでも、結末は変わらない。

 どれほど積み上げようとも、届かない場所があるように。

 今、この時この場において、彼女の為せる全ては足りておらず。

 

 ゆえに、もう触れられるほどの近くにまでやって来た()()は、無慈悲なまでの愚直さで、己の為すべきことを──右手のそのチェーンソーをゆっくりと持ち上げ。

 

 ──ああ、目の前の彼女が俺より先に倒れてしまうのは嫌だな、と少なくない後悔を滲ませながら、俺はその運命を受け入れ。

 

 

「ちょあー」

「GYAAAAAAAAAAAA!?」

「「──えっ?」」

 

 

 横合いから、その巨体を蹴り飛ばした彼女。

 ──そう、俺達とは別行動をしていたはずのその少女が現れたことに、思わず呆けたような声をあげ。

 

 

「──大丈夫、私が来た」

 

 

 俺達を庇うように、守るようにその背を向けたその少女が。

 その肩越しに、俺達を安心させるようにサムズアップしたのを見て、俺達は──。

 

 

「「空気読めっ!!」」

「むぅ、折角駆けつけたのに」

 

 

 思わずAUTOさんと一緒になって、彼女の無法を嗜めることとなるのだった。

 

 

 

・∀・

 

 

 

今の……絶対勝ってたじゃん私……なんで逃走者に蹴り飛ばされてるの私……

「そういえばそうだね。逃走者側に直接的な攻撃手段って無かったんじゃ?」

「アレをこうしてこうすることで、追跡者側のモーションを引っ張り出した」

「あのだねTASさん?非対称型対戦ゲームってのは、逃走者側がほぼ無力な存在だからこそ成り立つんだよ。圧倒的な個に対して、多数の人間が知恵と勇気と体力を出し合うことで、どうにか相手を出し抜くってのが本筋なわけ。──それだと単なる対戦ゲームでしょうが」

「むぅ。だってこれ、怪物に襲われるってコンセプト。──怪物如きに負ける私じゃない」

「リアルだとそうだろうねぇ!でもこれゲームだからねぇ!?」

「?ゲームなら余計のこと負けない」

「ああくそそういやこの子TASなんだから本来こっち(ゲーム)の方が主戦場だよねぇ!?」

 

 

 ……はい、突然なにが始まったのかと思われた方もいるでしょうが。

 今回はご覧の通り、みんなでゲームをして遊んでいた次第でございます。

 で、さっき追っかけ回して来てたのはCHEATちゃん。……途中まで「ふはははー!このゲームならボコられることはないぞー!」と終始楽しげにしていた彼女だけど、結果は先ほどの通り。

 

 ……ゲームシステムの縛り如きで彼女(TASさん)を縛れると思っていた俺達の敗北、というやつである。

 もうこれ、ちゃんとやろうとしたらTASさん抜きにするしかないんじゃねーかなー?

 まぁ、そんなことすると露骨に不機嫌になるので、なんとかして彼女も混ぜなければならないのだが。

 

 そんなこんなで、みんなでやるゲーム選びにも、一つ工夫がいるというそんな日常の一コマなのでした。

 

 

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