「んー、結構涼しくなってきたかねー」
真夏日も最早遠く、周囲の木々も色付いて秋の訪れを実感する今日この頃。
今日も今日とて家であれこれと掃除をしたり洗濯をしたりしていた俺は、ふと窓から外に視線を向け、抜けるような青い空を仰ぎ見ていたのであった。
いわゆる『天高く馬肥ゆる秋』……というやつである。
「え?
「いやどういう聞き間違いだ……」
で、そんな俺の呟きを耳聡く聞き付けたTASさんはといえば、相変わらずなテンションで目を爛々と輝かせていたのであった(当社比)。
……天を点と聞き間違える辺り、彼女はいつでも絶好調である。
「なにを言うの、秋といえば読書の秋・食欲の秋・ゲームの秋、そんでもって芸術の秋。──様々な文化が花咲く実りの季節なのに」
「んー、いいこと言ってるはずなんだけど、さらりと混ぜられた一文にそこはかとなくいつも通りの空気しかしないなーお兄さんはなー」
なお、彼女は心外です、とばかりにこちらに言葉を返してきたが……隠すまでもなく彼女がしたいことなど一目瞭然、いやこの場合だと以心伝心?
……まぁともかく、常日頃となんら変わらず、いつも通りのゲームのお誘いなのだと理解した俺は、はぁとため息を吐きながらいそいそと着ていたエプロンを外し。
「というわけで、はい」
「……筆?筆コンなんて使うゲームあったっけ???」
「お兄さんはなにを言ってるの?はいキャンバス」
「…………これで壁抜けでもしろと?」
「お兄さんはさっきから熱でもあるの……?」
何故か渡された筆と
……あれ?コントローラーは?ゲーム機は?あ、もしかして体を動かすゲームがいっぱいのあのゲーム機で遊ぶのカナー?
などという俺の言葉は、首を傾げるTASさんの前に無惨に砕け散るばかりである。
……おかしいなー。いつものノリで遊ぼう、って言ってきているだけだと思ってたんだけど、どうやら真面目に絵を描こうって誘われてるだけみたいだぞー?
どうやら今日やるのは油絵のようなので、床に新聞とかを敷いてから窓を開け、換気を十分にできるようにしたのちにとりあえず筆を構え。
「──私が!窓から来た!」
「ところを逃さず絵の具だばー」
「なにやってるのTASさん!?」
「これにより壁に絵の具が飛び散る。この時この絵の具が示す特徴的なパターンは、そこから新たな世界への扉を開くゲートとなる……」
「……やっぱりいつも通りだったじゃねぇか!?」
「えっちょっ、私を無視するのはよくないんじゃないかな君達!?」
なんでか知らんけどヘリコプターに乗って空からやって来たMODさんと、そのせいで室内に吹き込んできた暴風、それから見計らったように宙に撒き散らされた絵の具達。
それらは幾何学的な模様を描き、そのまま後ろの壁にべちゃりと付着して。……何故かは知らんけど突然に輝きだし、俺達をどこか遠い
……結局ゲームじゃねぇか!!
「それで?そのあとどうなったんですの?」
「向こうに着いたら何故かTASさんが付け髭付けててついでにイタリア語喋ってて、現地の言葉が全くわからない俺がおろおろする目の前で向こうの現地の
「なるほど、その結果として『
「色々混ざってないかそれ……?」
はてさて、絵の具のゲートを潜ると、そこは西欧の街並みでした。
……まさかのゴーウエストだったわけだが、ゲートを抜けたTASさんはと言えば、こちらにろくな説明を投げることすらなく、『すぐ終わるからそこで待ってて』とだけ告げて、ペンギンみたいにスイーッと路地を滑り抜けて行ってしまったのであった。
いつの間にかその背中にいつかの異世界旅行時に装備していたペットボトル水噴射器を装備していた辺り、恐らくは
まぁともかく。暫く遠くの方で空高く噴射される水しぶきを眺めながら、現地の優しい屋台のおっちゃんと身振り手振りで談笑したりしつつ、彼女の帰りを待っていた俺は。
お礼なのかなんなのか、ともかく抱えきれないほどのフルーツを山ほど背負ったTASさんが、行きと同じようにスイーッと滑ってくるのを確認し、屋台のおっちゃんに別れを告げて、再び来た時と同じように壁の模様に飛び込んで行った、というわけなのである。
それらの話が事実であると示すように、俺達の周囲には様々な種類のフルーツ達が転がっており、それらにはイタリア語の説明文らしきものが書かれたシールが貼り付けられていたのであった。
……あとついでに、テレビのニュースでイタリアのマフィア達が壊滅的なダメージを受けたこと、及びその事件が起きる前にイタリアの各所で虹色に輝く風が吹き抜けたこと、などが報道されていたが……まぁ多分そういうことである。
「いやはや。頼みに行ったことがここまで早く済むと、私としても文句の言い様がないよ、はっはっはっ」
「……あ、
「ぶい」
なお、一連のTASさんの行動は、MODさんからの頼まれ事を聞く前に終わらせた、といういつものやつだったらしいことが、後の会話によって判明したけど些細なことである。多分。