「……なぁ、あんなでっかい木なんてあったか?」
「んー?……あれ、どうだったっけ?あったような……なかったような……?」
それは、ある日突然俺達の日常に入り込んできた異物であった。
窓を開けて外を見た時、視界の半分ほどを専有する巨大な樹木。それを見た時の違和感は、されどそこまで大きなものではなかった。
……徐々に違和感が小さくなっていく辺り、どう考えてもおかしいのだが、あの大樹を認識すればするほど違和感が減っていくこの状況では、その意識を保ち続けることも困難であり……。
「しっかりして」
「のわーっ!!?」
「うわっ!?なになにいきなりなに!?」
そこに、斜め四十五度の角度からTASさんの飛び蹴りが炸裂。……俺は無様に吹き飛ばされたが、変わりに先程までの『減っていく違和感』そのものに違和感を抱くことができるようになっていたのであった。
「……はっ!?つまり俺は電化製品……!?」
「お兄さん、そういうボケは今はいいから」
「アッハイ」
……どうやら真面目な話だったようで。いつもより真剣さが三割増しくらいのTASさんに、普通に怒られてしまった俺である。
仕方ないので居住まいを正せば、彼女は部屋の中に居た俺とCHEATちゃんを順に見たのち、重々しく子細を語り始めたのだった。
「──大変なことになった」
「いつものことでは?」
「……そういうんじゃない。わりと一大事」
「うーん?いつも一大事では?」
「……しまった。いつも大概なことが起きてるから、お兄さんの危機感が薄れてる……」
大変なことになったと彼女は呟くわけだが、彼女絡みの事件っていつも普通に大変なことばっかりだから、今回だけ殊更に気にする必要性が見えてこないな?……的なことを宣えば、彼女はなんとも言えない空気を滲ませながら、小さくため息を吐くのであった。
……まぁうん、大変なのは大変なのだろうから居住まいを正すが、危機感が共有できないのは確かに問題なので、その辺りを尋ねてみる俺である。
「具体的には最終回じゃないのにみんな発情してる」
「良い年齢の子が発情とか言うの止めない???」
「……仕方ない、現状『発情』って言った方がいいような状況になってるのは、決して間違いじゃないから。──これを見て」
「む?パソコン……?」
「あっ、監視カメラだ。……ハッキングは良くないことだぜ?」
「それを貴女が言うのはどうかと思う」
「む」
……なんか今、短い間に問題発言が多発したような?
とはいえその疑問を解消するような時間は、現在余っていないようで。仕方なしにその辺りは後回しにし、TASさんが弄ったパソコンの画面に注目すれば。
そこに映し出されていたのは、街の中心部を歩く人々の波。……ううむ、確かになんかカップルが多いような気はするが……。
「……いや、秋頃なんてそんなもんじゃない?」
「違う、よく見て」
「んー……?……ん、んんん?」
そんなの特筆するようなものではないのでは?……という俺の疑念は、TASさんが再度画面を注視するように促してきたため中断させられる。
とはいえ、何度見ても至って平穏な街の様子がそこにあるだけなのでは、という俺の気持ちは変わらなかったのだが……よくよく見てみると、確かにおかしな様子になっていることに俺は気付いたのであった。
「……老いも若いも男も女も、全部無秩序にくっついてないか、これ」
「そう。男同士女同士は当たり前、歳の差八十近くのカップルも居るし、そもそもなんだか一対一ですらなかったりする」
「……ああうん、確かにこりゃおかしいわ」
そう、確かにカップルが居るだけならば、さほど問題があるとは言えなかっただろう。
だが、画面内に映る人間が
例えば、そこの二人。見た目は孫と祖母、みたいな見た目でしかないが、その距離感はどう足掻いても歳の差女性カップルである。というか暫定孫側が積極的過ぎるわこれ。
それから、そこの学校帰りとおぼしき二人。
単に手を繋いで歩いているだけだが……それが少年同士である以上、公衆の面前でいちゃつくのが躊躇われるだけで、暗に付き合っているのだと示すには十分な行動だと言えるだろう。
他にも探せば探すだけ、そこにはカップルが転がっている。
少なくとも、つい先日までこんなにカップルが大挙しているなんてことは無かったし、そもそも性別問わずのカップルが溢れている時点で色々とおかしい。
……いやまぁ、別に好きに恋愛はすればいいと思うんだが、それにしたっていきなり先進的に成りすぎというか。
「そう、それこそが問題。──これは、歴とした異世界からの侵略なの」
「……なんかいきなり話が胡散臭くなったんだが?」
「でも、それが事実。これは、明確な侵略戦争なの」
その様子に困惑する俺達に対し、TASさんはこれが異世界からの侵略行為によるものなのだ、と警鐘を鳴らすのであった。