「今回の騒動の元となっているのは、あの大きな木」
「……ああうん、さっきまであれがあることに違和感を抱けなかった辺り、あれが騒動の元なのはなんとなく理解できるな」
厳かな語り口でTASさんが説明したところによると、どうやら今回の騒動はあの大きな木があることで引き起こされたもの、ということになるらしい。
そういえば、あの木の噂もいつの間にか『知っている』ものになっていたし、洗脳電波的なものでも発しているのだろう。……そうなってくると、流石の俺も危機感を覚えてくるというもので。
「そうなの?」
「いや、そりゃそうだろ。精神的に影響を与えてくるとか、どう足掻いても許しておけない大悪だろ」
「そりゃまぁそうだけど……」
「だってさ考えてみろよ、もし仮にあれの洗脳による影響がカップル発生じゃなく、どこまでも速さを追求するとかだったら……」
「……はっ!?
「そういうこと!」
「……お望みなら今すぐにでも増えて見せるけど?」
「アッゴメンナサイジョウダンデスユルシテ……」
……まぁその、あれだ。
今回はカップルが増えるという影響だけれども、その内容如何によってはもっと酷い状況になる可能性も否定できないわけで、そうなってくるとあの大樹の存在は害悪以外の何物でもないわけでね?
……と、ほんのり()キレてるTASさんに弁明しつつ、現状に対して俺が感じている危機感を説明するのであった。
その甲斐あってか、一応機嫌を直してくれた彼女は、こちらの気概?的なものを買ってくれたようで。
「まぁ、あの木をどうにかしないといけない、というのは正解」
「だ、だよねー!……で、やっぱりこう、パパパッと行ってズバッと解決する感じなんだろ?」
「それはできない」
「そうかそうかできないか……なんで!?」
ゆえに、ここから始まるのはTASさんの伐採RTA、だと思っていたのだが。……当の彼女の口から飛び出したのは、私には無理という信じられない言葉なのであった。
「えっ、なんで?こういうのとかTASさんの独壇場なんじゃ???」
「……洗脳電波なのが良くない。具体的に言うと、私があれをどうにかする場合、ゲームストップレベルの遅延と戦いながらということになる」
「そんなに」
詳しく彼女の説明を聞くところによると。
あの大樹が放つ洗脳電波……強制ラブコメ波動は、指向性を持たない無差別型のもの。言うなれば隙間なく敷き詰められた機雷のようなものであり、当たらずに進むことは不可能なのだという。
それによって起こることというのが、一工程ごとの洗脳解除。あの木の下になんの準備もなしに到達してしまった場合、最早木を切ろうなんて意識はどこかに消え去り、そこで出会う運命の人のことしか考えられなくなるのだという。
で、それでカップルが成立してしまえばそこで終わり。最早二度と違和感を抱くこともできず、永久に相手とイチャイチャするだけの存在に成り果ててしまうのだとか。
……まぁ、これに関しては調べたとかではなく、そういう未来を億千通りぶつけられたためとりあえず撤退したTASさんの実体験、ということになるようだが。
「一応、実際に起きたことではないからその演算をカットすればどうにかなったけど……未来視系の封殺方法を意図せずして満たしているあの大樹相手だと、私は単なる一般人みたいなもの。そういう意味では、CHEATとかの方が得意だと思う」
「私が?……あー、洗脳無効みたいなの付与すればいいってことか」
「そういうこと」
大前提として、TASさんの動きは人力でも再現可能、というものがある。
いやまぁ、彼女の場合は『いつかやがての人類が到達するであろう境地』を前提としているため、現行人類に同じ事をやらせようとしても無理があるわけだが……それはそれとして、洗脳に抗うというのは例え時代が進もうとも中々難しい、ということになるらしい。
なので、彼女──TASに対しての洗脳というものは、ある種の特攻となる、と。まぁ、雑に言えばそういうことになるようだ。
だからこそ、わりと無体な『精神系攻撃無効』みたいなことをできるCHEATちゃんの方が、この騒動においてはまだ活躍できる、ということになるみたいなのだが……。
「でも、そっちはそっちで問題」
「えっ」
「CHEATは配信者だから……」
「ああなるほど、CHEATちゃん側が無事でも、その視聴者とかまで無事かと言われると微妙なのか。わりと配信の規模も大きいから、探せば視聴者もそれなりに紛れてるみたいだし」
「……えっ」
彼女に任せる、とするには問題がある、と彼女は告げる。
それは彼女が
要するに、あの大樹のお膝元に向かうまでに想定される妨害が多すぎる、ということが問題になるらしい。下手すると勝手に撮影&配信されてガチ凸されてもおかしくない、みたいな?
……そうなったらまぁ、下手すると刃傷沙汰なので……と、彼女一人に任せる案は敢えなく瓦解するのであった。惚れた腫れたの話は怖いからね、仕方ないね。
なお、話の当人であるCHEATちゃんは、TASさんが役立たずな状況において活躍できる、という話に希望を見出だしていたのか、暫く呆然とした表情で固まっていたのであった。……お労しや。