カンストエンジョイトレーナーは頂に届く夢を見るのか 作:流々毎々
唐突な話であるが俺は生まれ変わった。それも良くある王道な中世風ファンタジー世界になどではなく前世で有名だったポケットモンスターの世界にだ。
特に神様に会う事もなく、頭をぶつけた訳でもなくある日気がついたら「俺、生まれ変わってんな」と覚った。
前世の俺はただの社会人であった。勤めていた会社は給料は高くないが、かと言って終電まで残らされるようなブラック企業でもない。
繁忙期こそ忙しいが、それ以外は程々にプライベートの時間を取れる独り身の自分にはありがたい会社であった。
特に日々の生活に不満はなく漠然とした将来への不安こそあったが、それなりに現実と折り合いを付けれた満足した生活だった。
「なのに何でこんな事になったのやら」
半年に一度ある会社での健康診断では、運動不足による肥満気味であったもののそれ以外は問題ない健康体だった。
であれば、急な事故か他殺にでもあったかと生まれ変わった自覚を持った当初は考え込んでいたが、思考のリソースの無駄使いだと感じてからはすっぱりと忘れる事にした。
「思い出せないものに何時迄も拘っても無駄だ。俺はポケットモンスターの世界に生まれ変わった。これでヨシ!」
今では前世とは違う体や名前になったのだ。そう色々と振り切ってから俺が次に着目したのは、俺が生まれ変わった場所は何処の地方か確認する事であった。
ポケットモンスターは、シリーズものでいくつものタイトル作品が前世で発売されている。一体自分はどのシリーズの地方にいるか、これを正確に知るのはとても重要な事だ。
俺の姿は人間である為、従来のポケモンを育成しジムバッジを手に入れ殿堂入りを目指すタイプである可能性が高い。しかし、万が一ダンジョン系やレジェンドであったりすると安全に日常生活を送るレベルが跳ね上がる。
故に、俺が住む地方の事を探るのは急務であった。
先に結論から言おう。俺が生まれ変わった、もとい住んでいた場所はガラル地方であった。
勝ったな、風呂入って来る。
個人的にはそう言えるくらいには地方ガチャ成功だ。
理由はいくつかあるが、一番の訳はガラルが舞台となる剣盾は俺がプレイしたポケモンシリーズ中で記憶に残っている方だからだ。俺自身、ポケモンはブラックホワイトを最後に引退したがたまたま見かけた剣盾のキャラデザの良さに衝撃を受け、そのまま衝動買いしてトレーナーに復帰した口だ。
だからこそ、原作のストーリーの多くを覚えている。剣盾は、追加のストーリーを除けばムゲンダイナ関連以外の危険はほとんどない。肝心のムゲンダイナも主人公勢がいればどうとでもなるだろう。
つまり俺は、一部では前世より発展しているガラル地方で比較的安全に暮らせる権利を手に入れたのだ。
やったぜ。
「でもなー、せっかくガラル地方に生まれ変わることが出来たんだし原作のキャラクターに会いたいよなぁ」
人間、余裕ができると欲が出て来る。さっきまで此処が危険な地帯だったらどうしようかと悩んでいたのに、今では自分の望みをどうやったら果たせるのかを考え始めているのだから。
「いや、別にナマにこだわる必要はないか?特にチャンピオンのダンデならテレビで直ぐに観れるじゃん!」
その考えに思い至り、記憶が戻ったせいで若干朧げになっている今世の記憶を頼りに一目散に家へ駆けて行く。
「ダンデのダの字も見えねぇ…」
しかし急いで家に帰りテレビの電源を付けてはみたものの、期待していたダンデの姿はどこにも見当たらなかった。
「ダンデってめちゃくちゃ人気のチャンピオンで、ガラル地方ではいつでもテレビに映ってると思ってたけど違ったのかな」
どうにも諦めきれず、全てのチャンネルを見たがそれも無駄に終わる。であれば、もしかして本編後の世界に来てしまったかとも考えたが、ゲームの主人公の姿も見る事はなかった。
その事実にしばらくテレビを付けたまま放心していると、ジムリーダーの紹介をする番組が始まった。そしてそこにはゲームの剣盾で見知ったジムリーダーは、1人も存在していなかった(ピンク狂の婆さんは除く)。
「流石におかしくないか。何でこんなゲームの主要キャラだけ歯抜けなんだよ」
色々と考えていく内に一つの可能性に辿り着く。まさか自分は原作開始前に生まれ変わったのではないか?と。
いや、その(苦笑い)。それって意味あります?原作キャラにも触れ合えず、かと言って本編後の成長した姿も見ることが出来ないなんて酷くありませんか?ラーメン頼んだら生麺が出て来たみたいな転生にどれ程の価値があると言うのだろうか。
「いや、落ち着け。自棄になるな。何か、何か現状を好転する方法があるはずだ」
考え方によっては原作開始前の転生でも美味しいかも知れない。ともすれば、未来に影響を与えれる様な面白い生き方をできるだろう。問題があるとすれば、原作のストーリーに影響を与えるような活躍をするのは難易度が跳ね上がるのと、下手をすればそれを見る前に俺の生が終わる可能性もある点だ。
過去編の重要な活躍をしたキャラの大概が本編開始時には物語からフェードアウトするもの。後方腕組おじさんの如く主人公たちの活躍が見れるならまだしも、あの人は今はもう…的な感じでこの世とおさらばしてしまっていたら死んでも死に切れない。
特に俺自身、一度生まれ変わっているのである日唐突に事切れても不思議ではない。そんな未来は流石に遠慮願いたい。仮に本編に影響を与える八面六臂のような活躍をしても、それの影響を確認する事もできないなんて絶対嫌だ。
例えそうだったとしても、事前に知って覚悟を決めておきたい。
「直前になってやっぱりダメでしたは悲しいにも程がある…」
だからこそ今、俺がする事は自ずと決まって来る。
「仮に今が原作開始前だとして、およそ何年前になるんだ?」
あのピンク狂の婆さんがいる事から、いずれはダンデが登場してチャンピオンになるのは確定している。では、いつ頃にダンデが登場するのか?これが一番重要だ。
十年以内の出来事なのか、それとももっと後の話になるのか。
あのピンク婆さんを軸に考えればある程度の年数が絞れるはずだ。
よし、がんばるぞい!
「いや、全く分からん」
どうなってるんだ?あの婆さん姿変わらなすぎだろ。そう言えば、ジムリーダー歴最長だったっけか。お陰で年代があまり絞れない。これはまずい。
「ダンデが活躍するころには、俺は老人になってるかもしれん」
この際、本編に間に合ないのは残念に思うが構わない。だけれども、完全に関われないのかギリギリ関われるのかだけはハッキリさせてくれ。その為には基準が必要になる。
それがまさにあの婆さんなのだが、あの人を基点にすると両方の可能性が消しきれなくて困る。まさしくシュレディンガーの婆。本当に何なんだ、いい加減にしてくれ。
「おのれ妖怪ピンクババアめ」
本人が聞けば全能力ダウンどころか、息の根を止められそうな事を言いつつ悩む。
ワンチャン、ダンデと同世代の可能性が無いとは言い切れないがここまで梯子を外されると、楽観視はしない方が良いだろう。もう俺はゲームの本編時空からすると、だいぶ早い時期に転生したと決め打ちをする。
その上でどう行動するか。そんなの決まってる。
「俺がダンデより先にチャンピオンになる。もしくは裏ボス的な存在を目指す」
即興で思い付いた事だが割と良い気がする。俺がチャンピオンになり、ダンデを迎え撃つ。かなり美味しいポジションだと言える。または、初代主人公のレッドの様な裏ボスの位置に君臨する。これも、ダンデやゲームの主人公が活動する前だからこそ取れる行動だ。
これぞ転生ライフの醍醐味。大胆な原作改変のような行動は
「今から俺のチート転生ライフが始まる。待っていろよダンデ、主人公!俺と言う壁はそう簡単に乗り越える事は出来ないぞ!!」
おそらく、訪れる事になるであろう都合の良い輝かしい未来を見つめながら俺は静かに闘志を滾らせるのであった。
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「前が見えねぇ…」
あれから数年。俺は14歳になり親が大会運営の関係者だったこともあり、その推薦でジムチャレンジに挑める様になった。だが、結果は芳しくない。
理由はいたって簡単。勝てないのだ。ジムチャレンジの草と水は順当にクリアできたが炎タイプのジムリーダーに大苦戦している。ゲームでも炎のジムチャレンジを通れるのは、一握りだけだと言われていたが今まさにその壁にぶち当たっていた。
考える限りの手を尽くしたがそれでも届かない。今のところ三度ジムに挑戦してるがクリアできるビジョンが見えないでいた。
なんでこんな苦戦してんだよ。いったい教えはどうなってるんだ、教えは。こちとらチート持ち転生者だぞわかってんのか。物語の流れとして楽勝出来なきゃおかしいだろ。他はそうなってたぞ。俺のチートエンジョイライフはどうなるんだよ、くそったれが!?
と、思わず現実逃避をしてしまうが現状は何も変わらない。何故行き詰まってしまったか。その原因は主に三つある。
一つは、俺の思っていたポケモンバトルと現実のそれに違いがあったのだ。転生者の俺は当たり前だがゲームでのポケモンしか知らない。自然とそれが基準になる。するとどうなるか。
素早く入れ替わる攻防。相手の次の手を予測した命令など、アクションゲーム真青のマルチタスクをバトル中瞬間的にこなさなければならない。ゲームの様なターン制の殴り合いとは全くの別物になる。
格下相手なら兎も角、互角以上の相手だと俺がポケモンバトルのスピードについて行けなくなるのだ。
二つめは先の欠点にも掛かってくるのだが、単純にポケモンの知識が足りない事だ。と言うか、ポケモン自体学ぶべき事が多過ぎる。タイプ相性だけでも十パターン以上あるとか頭パンクするわ。
一応ポケモンスクール(前世の記憶が戻った時には既に生徒であった)出ではあるものの、学んだ知識を実戦で咄嗟に出せるかは別問題である。ゲームでは、バトルの間にもそれらの事を調べられる便利機能があったが、現実ではそんなものは無い。必然、自分の頭で処理することになる。
後、ゲームの剣盾をしていたお陰で俺のポケモン知識がある程度更新されているとは言え、その前の知識がもうほとんど覚えていないブラックホワイトである。
俺にとってこのシリーズの開きは結構響いて来ている。他のポケモンシリーズもプレイしておけば良かったと後悔しているくらいだ。
だからさ、当然の顔をしてナチュラルに初見のモンスターを出すのはやめてくれ。対処できねぇんだよ。そのポケモン本当にガラルの入国検査通ってるの?
三つめの理由は、俺のチート能力にある。俺のチート能力は二つあって、それはポケモンのレベルを見れる事とある程度のポケモンの強さ(おそらく個体値と思われる)を感じ取ることだ。
一見、バトルに置いてあまり役立ちそうに無く思えるがなかなかどうして、この二つの能力は使い勝手が良い。レベルを確認した時、相手の方が低ければそれだけで精神的な余裕が生まれる。それにタイプ不利か、種族値に大きな開きでも無い限りレベル差をひっくり返すのは難しい。
強さを感じ取る方も、厄介なポケモンには搦め手を使うなど早めに戦術を固める事が出来る。
ただし、このチート能力もメリットばかりではない。先程言ったのとは逆説的になるが、自分よりレベルが高い相手とバトルする時は返ってプレッシャーを感じて萎縮しやすくなってしまう。また、相手の強さが戦う前から分かってしまう結果、勝敗が予測しやすく闘志を維持するのが難しい。
さらに目に見える形で実力差が感じ取れてしまうため、いつしかそれを負けた言い訳にし、諦め癖が付く自分がいた。
また、ポケモンバトルはレベルや個体値が勝敗に関わってくる要素であるが、それだけでバトルを制せるものではない。
つまり、トレーナーの実力の差も重要になってくるのだ。特にこの能力の天敵が、見た目で強さが推し量れないテクニックタイプの相手だ。例えばポケモン自体が其れ程強なくても、試合運びの上手いトレーナーが相手だとレベル差で押し切れずに思いの外苦戦してしまう。
こう言う時、諦め癖がついてる俺は接戦で踏ん張る事が出来ず負けを重ねる事が多かった。良くない折れ方をしてしまっている。そう考えども、中々この負の窮地から脱する事が出来ない。
「どうしようか」
正直、俺のポケモントレーナーとしての実力は中の下・・・いや、誤魔化すのは止めよう。俺の強さは一番下から数えた方が早い。
こう見えてもスクールでは、優秀な成績を収めていた。同年代にはほとんど勝越していたし、卒業が近づいていた時期にはもっぱら先生にバトルの相手をしてもらっていた。先生や親から良く褒められたし、スクール仲間には何故そんなに強いのかと羨ましがられ子供相手に鼻を高くしていたものだ。
だが、今の俺はどうだ?凄かったのはスクールの間までで、完全に今は20歳からただの人コースを走り抜けている。「昔はすごかったのにね」転生までした人生でそんな風に思われるのだけは絶対に嫌だった。
しかし、現実は残酷で俺がどれほど負けるのを嫌がってもジムリーダーが勝利を譲ってくれる訳もない。
四度目の挑戦で何もいいところがなく一方的に負けた時、俺は人生で初めて膝をつき頭を項垂れた。
「君のバトルセンスは決して悪くはない。ただ変化球に弱く、長期戦になると集中力が持たない印象を受ける。言うならばバトルの経験値が足らない」
試合後、あまりに俺が落ち込んでいるのを気の毒に思ったジムリーダーが声を掛けてきてくれた。なんでもジム戦で負けて再戦するものは珍しくないが、それが4回も続くトレーナーはなかなかいないらしい。だからこそ諦めずにまた来年度以降の大会のジムチャレンジに挑戦してほしいとのことだった。
一見励ましとアドバイスの言葉に思えるが、事実上、俺はジムリーダーに見切りを付けられていた。
さもありなん。
鬼門とはいえ序盤のジムチャレンジで連敗が続いているのだ。こんなところで挫けていては後半のジムチャレンジで勝てる訳がない。ゆえに彼は今回は諦めるよう遠回しにこちらに伝えてきたのだ。
ジム帰りの道中、この事実が俺の頭の中に残り続けて消えることがなかった。
残酷ではあるが、同時にこれは優しさでもある。少なくとも経験を積めばまだ可能性があると彼は言ってくれているのだから。
だが、俺は自分の才能にそこまでの可能性を見出せなかった。前世では、成人した社会人であったため劇的な変化を見込めないのが既に分かっていたからだ。
思えば俺は転生とチート能力持ちと言う2つの要素を過信して、今まで楽観的に生き過ぎていた。転生して生まれ変わったのだからきっと何か特別な大きな事が出来る。そんな風に、世界は自分を中心に回っていて何もかも上手く行くと思い上がっていたのだ。そんな傲慢な愚か者が初めてのジムチャレンジで、現実を知る。
「俺は特別な存在なんかじゃないんだ」
スクールではいい成績で勝ち越す事ができた?チート能力と社会人としての経験があったのだから当たり前だ。逆にこの二つを持ち合わせながら子供相手に無双することもできなかった。先生とバトルした時も、結局一度も勝てなかったじゃないか。
親や先生が俺に期待していたのも、彼らの視点からすれば子供が大人のような早熟性を持ち合わせていたのだから才能があると勘違いしてもおかしくない。本来であれば人が時間をかけて育んでいくものを、俺は前世の記憶のおかげでそれらを段飛ばしに出来、スクールでは相対的に優秀に見えていただけっだのだ。
昔勝てていた同級生も日々成長している。今バトルすれば勝てるかどうか分からない。今が成長期の真っ最中の彼らとすでに先が見えている俺ではいずれ勝てなくなるだろう。俺がリードしていた分などすぐ追いつかれる物でしかないのだ。
「俺はチートを持って生まれただけで、物語を動かせる
その言葉がストンと自分の中に落ちて当て嵌まった。俺は俺自身の分と言うものを知った。それを思い知った。
それでも尚、俺は諦めたくなかった。どうしてここまで拘るのかは自分でも分からない。けれどもジムチャレンジで惨敗した時、前世も含めて経験がないくらい本当に悔しいと思ったんだ。ここで終わりたくない。俺は自分でも気づかないうちに、このポケモンの世界にのめり込んでいた。
しかし、俺の思いとは裏腹に急にバトルセンスが良くなったりはしない。現状の改善を試みようとも戦術だけでは限界がある。
結局のところ、ポケモンバトルではトレーナーのバトルセンスが物を言う。俺にはこの才能があまりない。種族値が優秀なポケモンで手持ちを固める手もあるが、根本的な解決方法にはならない。誰だって、できるだけ強いポケモンで手持ちを埋めようとするだろう。
打つ手なしか。最初はそう思ったが、俺は一つだけ現状を打破できる方法を考え付いた。これはある意味では前世の記憶持ちの転生者だから思い至れた事だ。
その方法とは、つまりーーー
人によっては適正レベルを大きく超えて戦闘をするのを邪道と捉えるかもしれないが、これはないない尽くしの俺が勝つためにとれる最後の手段である。それにこれは、実現さえできれば俺のようなへっぽこバトルセンストレーナーでも天才共に常勝できる手段かもしれないのだ。
ゲームのポケモンではストーリー上、レベル100のポケモンは存在しない。チャンピオンのダンデでさえ、殿堂入り後の手持ちのポケモンのレベルは70台だ。単純に考えてカンストまで手持ちを育てればレベル30差で戦うことができる。
レベル差によるバトルの有利不利は言うまでもないだろう。正直、ダンデが無敗のチャンピオンであれたのもこの要素が大きいのではないかと個人的に思う。ダンデと他のジムリーダーの手持ちを比較してみると、おおよそ10レベルほどの開きがあるからだ。
これだけでもダンデがかなり有利だ。
では、そこからさらに三倍の差を付ければどうなるか?おそらくだが、ダンデたちのような上澄みのトレーナーにも食らいつくことが出来る筈だ。
しかし、じゃあさっそくカンスト目指してポケモンを育てるかと思ってもそう簡単な話ではない。理由はもろもろ有るが、一番のわけはカンストまでのレベル上げは労力と時間がめちゃくちゃ掛かる事だ。
ポケモンのゲームにおいても、アイテムなどを使用せずにバトルでの経験値のみでレベル上げを行へばかなりの時間が掛かる。俺もゲームの剣盾はそれなりの時間をプレイしたが、ゲームで手持ちのポケモンを100レベルにすることはできなかった。ゲームにおける剣盾は、ポケモン育成においてはほぼ理想的な環境と言えたのにだ。
当然の話であるが、俺が生きるこのガラル地方のポケモン世界とゲームであったポケモン世界ではいくつかの相違点がある。ゲームであれば、何時いかなる時でも適正レベルの野生のポケモンやトレーナーと戦い経験値を得ることができた。
だが現実仕様になったこの世界では、休憩もなしに戦い続けることなどできないしちょうど良い相手と連続でバトルなど机上の空論と言える。
特にワイルドエリアでは、時たまありえない高レベルの野生ポケモンと相対することもあり危険だ。
結局のところ、ゲーム仕様でなければ手持ちの6体のポケモンをレベル100するのは現実的ではない。そう考えるとダンデやジムリーダーたちが、普段の生活で忙しいにも関わらず高レベルのポケモンを持ち合わせている事実が、いかに彼らが優秀なトレーナーなのか証明している。
普通ならこの手も諦めるところだが、俺には他のトレーナーと違いチート能力と前世の記憶による剣盾知識があった。
これがあれば、自分のポケモンが今何レベルなのかが正確に分かる。強いポケモンと不意に遭遇しそうになっても、この能力があればすぐに逃げの一手を打つことができるだろう。何なら、個体値の厳選だって不可能ではない。もろもろと出費が嵩みそうではあるが、これは工夫のやりようでどうとでもなると思う。
あと必要なのは俺の覚悟だ。
この手段を用いれば、俺は長い間表の舞台から姿を消すことになる。だいたいポケモントレーナーの全盛期は10代半ばから20代後半とされている。手持ちのすべてのポケモンをカンストさせるならば、このトレーナにとっての最上期をすべて育成に注ぐことになるだろう。
もしかすれば道半ばで諦め、そこまでかけた時間と労力を無駄にするかもしれない。もっと楽な道を選んだ方が賢い生き方だ。
そもそもレベル100に育てたとして、ダンデたちのような天才ポケモントレーナとまともに勝負できる保証はどこにもない。
それでも、ここは間違いなく俺というトレーナーの分水嶺。
報われなかったとしても、せめて後悔が残らない選択をしたい。だから俺は選ぶ。たとえ険しい道であったとしても悔いのない選択を。
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あれから2年の月日が流れ、16歳となった俺はワイルドエリアの入り口に立っていた。この2年は、準備で忙殺される日々であった。
あの時、一大決心をした俺はジムチャレンジを辞退してすぐに帰宅。その後、両親の説得に試みた。もちろん始めは難しい顔をされたが根気強く説得を続けて、最終的には納得してもらった。
それからは計画に掛かるであろう費用の捻出に取り掛かり、毎月が師走のように感じながらも2年かけておおよその資金を貯めることができた。これに関しては、ジムチャレンジ大会の関係者であった親のコネが大変役に立った。でなければ、当時14歳の俺が割の良い仕事に就くのは苦労していただろう。
何はともあれ、無事準備は整った。ある意味で俺はこのポケモンの世界に転生して初めて最初の一歩を踏み出すのだ。実は今日、ちょうどジムチャレンジの大会が行われる日でもある。
ワイルドエリアの奥地に進む前に俺はジムチャレンジの開会式が行われているであろうエンジンシティを見つめ呟く。
「俺は必ず帰ってくる」
俺の名前はマックス。今日から
九千字越えの文章に、名有りのポケモンが一体も出て来ないのを書き終えてから気付きました。許して。