カンストエンジョイトレーナーは頂に届く夢を見るのか   作:流々毎々

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最後の献身

 

 目に映る一面の全てを白い焔で染め上げたウインディの一撃であったが、それも時間が経つに連れて徐々に輝きを失い夜の帷を取り戻し始めた。

 

 それに伴いウインディの炎によって視界を塗りつぶされたダンデ達の視力が戻り始める。

 そんな彼らの目に映ったのはウインディの放ったフレアによって溶解した会場の照明やバトルフィールド。

 

 さらにその中心には隕石が落ちて来たかの様な巨大なクレーターが出来上がっていた。

 それは正しく白夜の化身となったウインディが残した破壊の跡である。

 

 それを見た会場の人間が一番最初に思った事が両者のポケモンの安否である。はたしてこの様な残場の衝撃にポケモンが耐える事が出来るのであろうか?

 

 彼等は未だに光が瞬く視界に苦労しながらマックスのウインディとダンデのドラパルトの姿を探す。

 

 程なくして彼らの瞳にそれらが映し出された。

 巨大なクレーターの中心で横たわるウインディと、全身に大火傷を負いボロボロの状態ながらも宙に浮くドラパルトの姿を。

 

『マックス選手のウインディ!倒れたまま動きません。戦闘不能の様です!!対するチャンピオン・ダンデのドラパルトは辛うじてではありますが生存しています!』

『ウインディの最後の一撃はあまりの光量で我々の目に映す事が出来ませんでしたが、ドラパルトは方法は分かりませんが何とかそれいなしたようですね』

 

 ウインディの天墜は隕石の様に突撃した事もあいまって、地面へと激突する結果となった。

 

 その要因となったのは、身の危険を感じたドラパルトがなりふり構わず逃走の選択をしたからである。

 

 感覚器官のほとんどを白炎の光量で封じられていたドラパルトはそれでも賭けに出た。

 

 前が分からぬままに全速で飛んだドラパルトは自身の逃げ場を塞いでいたフレアに突っ込み体を超高温の炎に焼かれる事になってしまったが、後に降り注いだウインディの一撃を避ける事が出来たのだ。

 

 そしてウインディが地面に衝突した時に発生した莫大な衝撃波を"まもる"によって耐え切った。

 

 だがそれでも無傷とはいかず体は火傷と、"まもる"では防ぎ切れなかった衝撃波でボロボロである。

 おそらく継続戦闘はほとんど出来ない状態にまで追い込まれたドラパルトだが、それでもマックスのウインディから白星をもぎ取った。

 

「・・・戻ってくれ、ウインディ。よくやってくれた」

「ドラパルト、大丈夫か!オレの声が聞こえるか!?」

「ド・・ドラァ・・・」

 

 マックスが倒れたウインディをボールに戻す傍ら、ダンデは大声でドラパルトに呼び掛ける。ドラパルトはその声に弱々しくではあるが答えを返した。

 

 あれだけの被害を受けながらもまだ立っていられるのは流石はドラゴン族のポケモンと言うべきか。

 

 マックスのウインディの放った最後の一撃は完全にダンデの予測を超えるものであった。

 それを咄嗟の判断で生き抜いたドラパルトの行動は賞賛に値する活躍である。

 

 本来なら今直ぐに手持ちに戻して勝利を労い、その傷を癒すように尽力すべきである。

 

 だがダンデは敢えてドラパルトの続投を選んだ。

 

 理由は単純。次にマックスが繰り出してくるポケモンが分からないからである。

 

 現在ダンデの手持ちはボロボロのドラパルトと体力を消耗しているリザードンを除けば、無傷のポケモンが一体だけである。

 対してマックスは同じく消耗してるバンギラス以外に、サンダースとミロカロスの二体が控えている。

 

 控えの手持ちの数だけでもダンデが一歩、遅れを取っている現状だ。加えてダンデは選ばなければ行けなかった。

 次に出すポケモンをエースであるリザードンにすべきかもう一体のポケモンにするべきかを。

 

 そのためにはマックスの続投するポケモンを知ってからとそうでないのとでは、ポケモンの選択が大きく変わってくる。

 これまでのマックスとのバトルに作戦勝ちや逆転勝利をして来たダンデではあるがその実、余裕がある訳ではない。

 

 ほんの少しのアドバンテージ取るためにダンデは辛い選択をする。

 

 正しくダンデの意図を汲んだドラパルトは自分の体に喝を打ち、僅かでも相手の手札を得て後続に託す考えへとシフトする。

 

「頼んだぞ、ミロカロス!」

「次はミロカロスか!それならッ」

「ドラァー!!」

 

 ダンデがマックスのミロカロスを確認し次に出すポケモンを決めた瞬間、ドラパルトはダンデの指示を待たずに突撃をした。

 

『チャンピオン・ダンデのドラパルト、マックス選手のミロカロスに突っ込んだー!息を付かせぬ速攻です!!』

「ドラパルト!?」

 

 この予想外の動きにダンデは驚く。ダンデの考えとしてはマックスのポケモンの確認後にドラパルトの戦闘継続の不可を宣言。そして次の手持ちのポケモンを繰り出す算段であった。

 

 しかしドラパルトはそれを裏切る。自分に出来る最後の一手まで全力で尽くす。どの道これ以上戦えないのであればこの不意打ちに近い速攻で少しでもミロカロスの体力を削れば儲け物。

 

 マックスのポケモンたちがそうである様に、ダンデの相棒たちも彼を勝たせたいのだ。

 

 その思いがドラパルトに最後の特攻を選ばせた。

 

 怪我の巧妙と言うべきか。目を炎の光に焼かれ、衝撃波の爆音によって耳鳴りが激しいドラパルトの聴覚はミロカロスの美貌と美声をシャットアウトしていた。

 

 図らずともマックスのミロカロスの魔性に惑わされずに済んだドラパルトは、今出せる全速を持ってミロカロスに肉薄する。

 

 そんなドラパルトの姿を何処か不満気にミロカロスは片眉を上げながらも迎え打った。

 

「邪ッッッ」

「ギャ、ォ・・・」

『ミロカロスへと迫ったドラパルト!しかしミロカロスの長い尻尾に叩き付けられたー!!』

 

 揺蕩う長い胴体をタメに変換したミロカロスはその反動を利用して、正面より迫るドラパルトに尻尾を叩きつけた。

 

 視力と聴覚が弱っていたドラパルトはそれを捉える事が出来ず、ドンっと重たい音と共に地面と尻尾にサンドされてしまう。

 

 奇跡は起きず、順当に戦闘不能になったドラパルトはしかしその勇姿をダンデに最後まで見せ付けた。

 

 人によっては無謀な行動に見えたとしても相棒のポケモンの献身に奮い立たないトレーナーはいない。

 

「ありがとう、ドラパルト。今は休んでくれ」

『取られては取り返す。先程から両選手の激しい攻防が止まりません!』

『そうですね。しかし着実に決着に近付いています。マックス選手の手持ちは残り三体。対してチャンピオン・ダンデの手持ちは二体。僅かに差がある両者、勝負を制するのはどちらになるのか。注目です』

 

 盤面だけ見れば有利なのはマックスだ。だがそのマックスのポケモンの切り札をいなし続けているのはダンデである。

 つまり字面だけの有利不利は両者の間にはない。

 

 戦術も戦略も経験もポケモンの強さも所詮はバトルの要素の一つ。強いものこそが勝負を制す。

 その頂の冠こそがチャンピオンなのだ。

 

 そして現チャンピオンのダンデは今初めて出す最後の手持ちの一体を繰り出した。

 

「行け!バリコオル!」

『チャンピオン・ダンデ。エースのリザードンではなく六体目のポケモンを選出です!』

『マネネの最終進化であるこおり・エスパータイプのバリコオルですね。こちらもトーナメントバトルでは中々お目に掛からないポケモンですね』

 

 ダンデの手から繰り出されたバリコオルはパドルフィールドに降り立つのと同時に手に持っている氷の杖を目線にまで上げ、その氷の杖で視界を塞ぐ。

 

 そしてカッと目を見開くと杖に反射する自分の瞳に見入る。妖しく光り始めた両の眼を確認するとバリコオルはゆっくりと杖を下ろしてミロカロスを正面から捉えた。

 

 マックスの魔性の美貌を持つミロカロスの姿が視界に映る。ミロカロスの美しさはオスメス問わず、美醜の価値観を持ち合わせる生物に特効が入る優れものだ。

 

 それは幾つかの例外を除き、特にオスのポケモンの理性を溶かす魔薬とも言える代物。ダンデのバリコオルも本来であればその魔手から逃れる事は出来ないはずであった。

 

 だがダンデのバリコオルはミロカロスを見ても理性を飛ばさずに正気を保っていた。

 

『おっと。これは珍しい!マックス選手のあのミロカロスを前に、バリコオルは堂々としております。やはりチャンピオンのポケモンは一味違う!』

『先程のドラパルトのように視覚が潰れた訳でもなく、これは不思議ですね。いかなるタネがあるのでしょうか?』

「何だあのバリコオルは。特別理性が強いのか?」

 

 三者(ボイス・トゥーク・マックス)が疑問に思うその答えは先程の仕込みにある。ダンデのバリコオルは氷の杖を見つめるのと同時に反射して映る自分に催眠を放ち己に自己暗示を掛けたのだ。

 

 その結果、一時的にだがミロカロスの魅力に靡かない状態を生み出した。

 エスパータイプならではの荒技である。

 

 そんなバリコオルの姿を気に食わなさそうにミロカロスは睨み付けるが、いつかのバトルの時の様に赫憤の怒りはまだ見せない。

 

 そして準備が整ったダンデとバリコオルは動き出す。

 

「バリコオル"こおりのつぶて"だ!」

「バアリ!」

「来るぞミロカロス。避けて"ハイドロポンプ"だ!」

「オオン!」

 

 杖を上に掲げたバリコオルはその先端から氷塊を作り、それを飛礫のようにミロカロスに投げ付けた。

 自身に迫る"こおりのつぶて"をミロカロスは危なげなく八艘跳びの要領で横に避ける。

 

 そして反撃の"ハイドロポンプ"をバリコオルに撃つ。

 

「"ひかりのかべ"で防げ、バリコオル!」

「バーリ!」

 

 バリコオルはその場で"ひかりのかべ"を前方に展開し、ミロカロスの"ハイドロポンプ"を受け止める。数枚のバリア突破されながらも防ぎ切ったバリコオルにダンデは矢継ぎ早に指示を出す。

 

「次は"あられ"だ!」

「なに、天候技だと!?」

『おーっと、珍しい。チャンピオン・ダンデ。ここに来てバトルフィールドの環境を変えました!』

『"あられ"はポケモンが持つ力によってフィールドを一時的に特殊な環境に変えてしまう技の一つです。それ故に扱いも難しく、プロトレーナーでも積極的に使うのはキバナ選手などのジムリーダーくらいなものです』

 

 バトルフィールドはバリコオルの"あられ"によって次々に空から氷の塊が落ち始める。

 バリコオルはその氷塊の粒を器用に杖の穂先で捉えると、それらの塊を雪崩れの如くミロカロスに撃ち放った。

 

「な、不味い。避けるんだ。ミロカロス!」

『何とバリコオル。手に持つ杖を指揮者のタクトの様に操り空から降る"あられ"をミロカロスに乱れ打っています!』

 

 先程の"こおりのつぶて"の十倍は有ろうかという物量にさしものミロカロス慌てて攻撃を避ける。

 

 バリコオルの怒涛の連撃を蛇走りによって辛うじていなすミロカロスではあるが、素早い身のこなしで動く度にバリコオルの指揮下に無い降り注ぐ他の"あられ"に当たり体に傷が付く。

 

 致命的なダメージでこそないが自身の体の鱗に爪で引っ掻く様な線が出来るたびに、ミロカロスの頭に苛立ちが募る。

 また"あられ"による影響か、周囲の温度がどんどん下がりミロカロスの身体を冷やす。

 

 悴みつつある冷えた筋肉は徐々にではあるがミロカロスから体の自由を奪い始めた。

 

 そして繊細さの欠けたミロカロスにバリコオルの操る礫の攻撃が当たり始める。

 

「仕方ねぇ、一旦"あられ"を上書きする。ミロカロス、"あまごい"だ!」

「オーン!」

 

 ミロカロスの姿に焦りを覚えたマックスは後手に回るのを承知で"あまごい"によって"あられ"から天候を変更する。

 

 氷塊が降り続けていた空は次第に曇りだし、それらを洗い流す雨と化した。

 バトルフィールドはミロカロスの"あまごい"によって、瞬く間に水浸しになる。

 

 必然的にバリコオルは怒涛の攻撃手段を失ってしまった。しかしそれこそがダンデの罠であった。

 

「これを待っていた。バリコオル、"こごえるかぜ"だ!」

「バリバリー」

 

 バリコオルが放った"こごえるかぜ"はマイナスの凍氷となり瞬時に水に浸ったバトルフィールドの表面を凍らして行く。

 その勢いは"あまごい"の為に足を止めていたミロカロスを呑み込む。

 

「ミロカロス!?」

『何と言う事でしょうか!バリコオルの"こごえるかぜ"がバトルフィールドを一瞬で銀世界に変えてしまいました!』

『マックス選手のミロカロスの"あまごい"が最悪の形で利用されてしまいましたね。水に濡れた部分を伝播して全体を凍らせてしまいました』

 

 "あまごい"によりフィールドと同じ様に体が水に濡れていたミロカロスは、バリコオルの"こごえるかぜ"から逃れる事が出来ずに凍る。

 

 それは体の表面だけの被害ではあったが、ミロカロスの動きを完全に止めるには十分であった。

 また、鱗に出来た細かな傷に氷が根を張っているせいか身じろぎでふるい落とす事も難しかった。

 

 そんなミロカロスに向けてダンデは最後の仕込みを終えるべく、バリコオルに指示を出す。

 

「バリコオル、これで決めるぞ!"さいみんじゅつ"と"なりきり"だ!」

「バリー!!」

 

 バリコオルが放った技は、凍った事により身動きが取れないミロカロスに吸い込まれる様に直撃した。

 この"さいみんじゅつ"自体に物理的なダメージはない。その本質は精神への揺さ振りである。

 

 特に脳に直接作用する"さいみんじゅつ"は覚醒状態の精神を落ち着けレム睡眠へと誘う。また副次効果として軽度の錯乱の付与も含まれている。

 

 これをまともに受けたミロカロスは瞼が重くなり微睡の世界に落ちかけた。

 

 しかしミロカロスは歯を食いしばりこれを耐える。"さいみんじゅつ"は瞬間的に効力を発揮出来る代わりに、掛かったとしても強固な意思の力に効果が左右され易いのだ。

 

 レジストによって急速な眠気を振り払ったミロカロスはこの状況を打破する為に渾身の力を体に込める。

 

 未だ"さいみんじゅつ"による影響か、グラつく頭に苛立ちつつも少しずつ氷にひびが入り始める。

 

 このまま良い様に敵にやられっぱなしで終わるのはミロカロスの矜持が許さなかった。

 多少のダメージを覚悟で体を覆う氷を叩き割ろうとしたミロカロスは、しかしそれを叶えられず再び動きを止める事になる。

 

 ミロカロスは呆然となる思考をまとめる事が出来ず、唯一自由に動く目を一杯に広げて目の前を見る。

 

 眼前に佇む、もう一体の自分の姿を(・・・・・・・・・・)

 

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