カンストエンジョイトレーナーは頂に届く夢を見るのか   作:流々毎々

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膨れ上がる大地

 

「”リフレクター”!!」

 

 そのダンデの言葉が発せられたのはミロカロスが力を開放した後であったか先であったのか。確かな事はバリコオルはミロカロスの暴進に晒される前に、自身の眼前に5枚の”リフレクター”を展開したことだ。

 そこからは瞬きにも及ばない刹那の間に決着が付いた。

 

「バオオォォォォ!!!!!」

 

 最強の矛となったミロカロスはあらゆる障害をものともせず破壊しバリコオル(目標)に向かって邁進する。埒外の速度を叩き出しすミロカロスの姿は生物の動体視力を振り切る。それは己の間合いにおいて回避を許さぬ死の飛翔だ。

 地面を抉り、空間を割る衝撃波は強かにバトルフィールドに伝播する。それはフィールド覆う残りの氷を砕き切る勢いであった。

 

 そしてバリコオルが展開した”リフレクター”もその被害の例外ではなかった。

 

 バリコオルが繰り出した5枚の”リフレクター”はミロカロスの突撃を防ぐことが出来ず、鈍器で殴られた薄氷のように儚く砕け散る。

 なにものにも妨げる事の出来ないミロカロスの勢いはそのまま止める事なくバリコオルの体を通り過ぎて最後まで突き進んだ。

 

 矛と盾。古事の例に習わず。矛盾は起きず、打ち勝ったのはミロカロスであった。

 

 しかしその代償は安くはなかった。全てを薙ぎ払われたバトルフィールドに残ったもの。ハリケーンが通ったかの様な荒れ地に立つ一体のポケモン。そして横たわるもう一体のポケモン。

 

 バリコオルとミロカロスの勝敗の行方はあまりにも簡単に付いてしまった。

 

 ミロカロス(大質量)が側を通った事により体がふらつきながらもバリコオルは緊張に包まれた体を解してその両足で大地を踏み締めていた。そしてその背後で静かに横たわる大蛇。

 

 倒れ伏したのはミロカロスであった。

 

『ミロカロス対バリコオル、決着です!!マックス選手のミロカロスは倒れたまま動きません!この勝負を制したのはチャンピオン・ダンデのバリコオルです!』

「ハア、フゥ。紙一重だったな・・・、だが良くやってくれた。偉いぞバリコオル!」

「な、何が起きたんだ?確かにミロカロスはバリコオルの”リフレクター”を砕いたはずなのに・・・」

 

 マックスの眼は確かにミロカロスが5枚あったバリコオリの”リフレクター”をものともせずに打ち砕く様を捉えていた。だが同時にバリコオルの”リフレクター”を砕くごとにミロカロスが体のバランスを崩した姿もその眼に映していた。

 そして何が起こったか分からないまま5枚目の"リフレクター"(最後の一枚)を割った瞬間、ミロカロスは完全に身体の制御を失い明後日の方向に突き進んでしまったのだ。

 

 これによりバリコオルから1メートルほどズレてしまったミロカロスはその攻撃を外してしまった。ミロカロスの必殺の一撃から逃れる事が出来たバリコオルは、プレッシャーから解放された事もあり大きく息を吐き出して安堵する。

 

 流石にミロカロスのあの一撃をまともに受ければただで済まないのは容易く想像出来たからだ。

 

 危うくそのまま座り込みそうになるがまだバトルが終わっていない事を思い出したバリコオルは前を向く。

 すると丁度、自身が展開した"リフレクター"の残骸がキラキラと消えていくのが目に入った。

 

 バリコオルが展開した5枚の”リフレクター”には普段とは違う仕込みがあった。もちろん効果自体は従来の”リフレクター”のままだ。違ったのは展開した時のその角度。

 

 普通ならば地面から直角に展開される”リフレクター”のバリア一枚一枚にわずかに角度を付けて、壁が上向きになる様にバリコオルは技を繰り出した。

 

 ダンデが執拗にマックスのミロカロスの攻撃に対して”リフレクター”を使い続けていたのもこのためだ。

 

 バリアーの展開のタイミング。またミロカロスの攻撃を"リフレクター”で防げるかの確認。一瞬しか持たなかったそれは逆に捉えれば短時間でもバリア一枚でミロカロスの突撃に対抗できたとも言える。

 さらに”リフレクター”自体、自身の全力の攻撃には耐えれないとミロカロスの潜在意識に刷り込むことによって、展開された障壁に対する警戒心を無意識の内に下げさせる狙いもあった。

 

 それによって角度の付いた”リフレクター”へ正面からぶつかったミロカロスは、その障壁を一枚ずつ突破する度に前を向いていた顔を上に持ち上げられ顎が浮いてしまったのだ。

 結果、身体のバランスを崩したミロカロスは五枚目の”リフレクター”へ下顎から激突し、自身の勢いも合わさって激しいムチ打ちと脳震盪(のうしんとう)を引き起こした。

 

 そしてバリコオルの体の横を取り過ぎたミロカロスはその脳震盪で目を回し立ち上がる事が出来なかった。

 

 混濁するミロカロスの意識は半分落ちていたが、それでも無意識の闘争本能のお陰か体が僅かにうごめていた。

 だがミロカロスに出来たのはそこまでだ。

 

 一時的にとは言え脳震盪により深刻なダメージを負ったミロカロスは再び立ち上がる事が出来なかった。

 

「戻ってくれ。ミロカロス」

『ミロカロスが戦闘不能になったことによりマックス選手とチャンピオン・ダンデの残りの手持ち数は2対2となりました。数の上ではイーブンに戻ったと言えるでしょう』

『そうですね。ですがまだマックス選手には無傷のサンダースがいます。それを踏まえるとまだ少しマックス選手の方が有利でしょうか』

 

 ミロカロスの一撃が不発に終わったマックスは顔を苦く歪めながら、ダウンしたミロカロスをボールに戻す。ミロカロスが悪い訳ではないが、決まったと思った決めの攻撃をいなされるのはやはり辛いものがあった。

 

 とは言えまだバトルは終わってはいない。

 自身に残っているポケモンは後2体。サンダースとバンギラス。

 

(そしてダンデの手持ちはバリコオルとリザードンだけ。なら俺が出すのは!)

 

 マックスは腰のホルダーに止めていたモンスターボールを取り出すと次のポケモンを繰り出した。

 

「相手は弱っている。行け、サンダース!」

「ダァス!!」

「サンダースから来たか!もう一踏ん張り頑張ってくれバリコオル!」

「バリバリ!」

 

 サンダースが場に降り立った姿をダンデは警戒心を高めて見つめる。ダンデにとってマックスのポケモンはどれも強敵であるがこのサンダースもその例に漏れず厄介な相手であった。

 心中ともとれるサンダースの自爆戦法はポケモンバトルでかなり凶悪な戦法だ。

 

 強制的に1:1交換を強いる戦いはどのような局面でも逆転の可能性を秘めているため、最後まで油断ならない。さらに常に爆発を警戒しなければならないのでこちらの取れる選択肢を自然と削って来るのも厄介だ。

 

 何よりも爆発による音と強烈な閃光は見る者を圧倒する。

 自爆による大爆発とは成功するだけで大きな精神的負荷を相手に与えるのだ。

 

 さらにバトルフィールドに出ているポケモンを除けばマックスもダンデも残りのポケモンは1体。

 ここでバトルの流れを持って行かれるような状況になるのはダンデとして好ましくなかった。

 

(一番最悪なのは自爆をされてリザードンとバンギラスのラストバトルに持ち込まれる事。だがサンダースのあの強力な大爆発はまずエネルギーを蓄えなければできないはず。そこを狙う!)

 

 サンダースの自爆は確かに強力ではあるがその反面、エネルギーをチャージしなければならないので速射出来るものでない。またチャージに専念する間は他の技も出せないため隙も生じやすい。

 

 サンダースはそれらの弱点を相手に纏わり付くことによって補ってきたが、ダンデには既にそのやり方は周知されている。

 今までの戦いがそうであった様にこれもまた対策を打たれているとみて間違い無いだろう。

 

 故にマックスはまだ公式の大会で見せていない戦法を選んだ。それはまだサンダースが爆発戦法を主流にする前。ワイルドエリアにて野生のポケモンとルール無用の野良バトルの時に使用していたものだ。

 

 マックスのサンダースの戦い方は何も自爆だけではない。

 

「”エレキフィールド”だ、サンダース!」

「ダース!」

「何!?」

 

 サンダースが叫び声を発するのと同時にバトルフィールド全体に雷が走る。バチバチと鳴る電気の奔流は発光を放ちサンダースとバリコオルの足場を包み込む。

 

『マックス選手のサンダース、”エレキフィールド”を使用!会場を瞬く間に電気で覆いつくしてしまいました。おそらく今大会で初の自爆以外の技を繰り出しました!』

『”エレキフィールド”は電気タイプの威力を高める他にねむりなどの状態を防ぐ副次効果のある力場を作る技ですが、爆発一辺倒であったマックス選手のサンダースがこれを使う理由が気になりますね』

 

 初めて見るサンダースの戦い方に否応なしにダンデの警戒心が上がる。バリコオルにもその気持ちが伝わったのかサンダースの動きを見逃さないように集中し始めた。

 

 ダンデとバリコオルは無意識の内に見の構えを選ばされてしまった。二者には先程のミロカロスの変身のインパクトがまだ脳裏に焼き付いていたからだ。

 

 もしかしたらこのサンダースもミロカロスの様なすさまじい変化を見せるのかも知れない。そう考えてしまったが故にサンダースの初見の動きに対して彼等は後手に回ってしまった。

 

 しかしダンデたちの警戒よそに変化が起きたのはサンダース自身ではなかった。

 

 警戒する両者の真下。上空と同じく多くの生物にとっての死角の一つ。”エレキフィールド”で覆われたバトルフィールドが黒く染まりボコりと膨れ上がった。

 

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