カンストエンジョイトレーナーは頂に届く夢を見るのか   作:流々毎々

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帰って来た挑戦者

 

『さあ、今年もこの瞬間がやって来ました。ジムチャレンジが始まり約一ヶ月、数々の参加者が挑み脱落した中残った猛者達によるセミファイナル戦のファイナリスト決定戦。ここで勝利した者がジムリーダーを含むチャンピオンシップに参加出来る権利を獲得する事が出来ます!!』

 

 一つの会場に集まった見渡す限りの観客。人々は声援なのか野次りなのか定かではないが、皆いちように声を張り上げていた。会場にいる実況者もそれに負けじとマイクを掴み声を全体に轟かす。

 そこにはただ熱狂だけが渦巻いていた。

 

『試合開始まで残り後僅か。実況は私ボイスと解説はトゥーク氏でお送りしたいと思います』

『よろしくお願い致します』

『さてトゥークさん、試合開始までのこの短い時間の中で二人の選手を振り返りたいと思います。トゥークさんから見てそれぞれどの様な印象を受けますか?』

『そうですねー。あのお二人に対して詳しく語ると長くなりそうなので、ここは短く一言で表しますとズバリ”異色の二人”でしょうかね』

『ほう、異色ですか!その心は?』

『はい、まずファスト選手は今大会を含め五回連続でセミファイナル決勝戦まで進み、その内四回は勝利し本戦であるチャンピオンシップに進出しています。言うまでもない事ですが、ジムチャレンジからここまで猛者蔓延る中勝ち続けるのは容易ではありません』

『確かに。ジムチャレンジと言えば彼!と思う方も多いでしょう』

 

 ファスト選手。歳は二十歳になったばかりで五年前のジムチャレンジ大会から四回連続でセミファイナルを制し、ファイナリストとしてチャンピオンシップに名を連ねる常連である。

 ポケモンバトルのスタイルは臨機応変の万能型。手持ちは一タイプで固めず、複数のポケモンで相手の弱点タイプを被せて常に有利に立ち回るテクニックタイプのエリートトレーナーだ。

 

 彼のポケモンバトルには派手さこそないが、豊富な手持ちによる詰将棋の如き戦い方で弱冠にしてジムチャレンジャーの中では最強のトレーナーと呼ばれている。

 

『そしてもう一人のトレーナー、マックス選手。彼についてはなんと言いますか、いちポケモンバトルファンとして様々な思いを抱かされてしまいます』

『あー確かに。彼ほどファンから良し悪しが別れる選手は珍しいですね。個人的にはマックス選手のバトルスタイルは嫌いではないのですが』

『おっと、いけませんよ。我々は中立の立場なのですから。しかしそうですね、彼については言える事は一つ。とてつもなく強い。コレに尽きるでしょう』

『ええ、それだけはきっと誰もが認めています…。おっと、時間になったようです!代表を賭けて戦う両選手が今入場します!!』

 

 どん!、と一際大きな爆発音が会場に響くと向かい合った二つの入り口からそれぞれ選手が顔を見せる。

 

『両選手が今、入り口から入場いたしました!まずはマックス選手。彼の大会出場はなんと十五年ぶり!十五年前の初のジムチャレンジでは炎のジムリーダーに敗退を期し脱落しております』

『炎でですか。あそこは今も昔も変わらずチャレンジャーにとって鬼門なのですね。と言うことはマックス選手は今回で二度目の大会出場になるのですね』

『はい。なので誰のマークも付いていなかったので此処まで勝ち抜いて来た選手の中では完全なダークホース扱いでした』

『歳もおよそ三十代でしょうからね。若きホープのファスト選手が例年通り勝利するのか、それともマックス選手が意地を見せるのか。注目の一戦です』

 

 ボイスとトゥークが互いに話を続けるうちに、二人の選手は会場の中央で相対し睨み合う。

 先にファストが口を開く。

 

「視線があったらポケモンバトル。トレーナーであれば、場所問わずにね。今回も去年と同じく僕が先に進みます。若者らしく時代遅れ(ロートル)の貴方に引導を渡してね」

「お手柔らかに頼むよ、アマチュア最強(銅メダリスト)さん」

「言ってくれますね」

 

 ポケモンバトルの前の舌戦は一種の牽制であり探り合いでもある。故に、余程酷い言葉でなければある程度の挑発は黙認されている。しかしそれもすぐに終わる。

 お互い相手が気後れしていない事を確認すると、同時に背を見せ所定の位置に向け歩き出す。

 

『両選手、気合い充分のようです。さあ両者共に所定の位置に着きました!今、戦いの幕が切って落とされます。それでは皆さんご一緒に』

 

『『『バトル開始ー!!!』』』

ーーーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

 やっと、やっと此処まで来れた。強くなると決意し苦節十五年。俺は無事手持ちの六体のポケモンをレベル百にし、このガラルの大会に舞い戻って来た。

 

 ワイルドエリアで過ごした日々は俺を心身共に強くした。十五年前、俺に決定打を打ち付けた炎のジムチャレンジもその後のジムリーダーもほぼストレートで全勝することが出来た。

 

 最初こそ不安があったが、この快挙が俺の考えたレベル差理論を確かなものにし結果、大いなる自信に繋がった。お陰で二回目にして初参戦であるこのセミファイナル決勝戦にも、特に飲まれることなく堂々と振舞う事が出来ている。

 

 まあ、その過程で俺の評判が色々と表立って言えない有様になってしまったんだが…、見て不健全になりそうなものは見なくてヨシ!

 つまるところの無視である。

 

「マックス選手。お時間となりましたので移動をお願いします」

「あ、はい。分かりました」

 

 どうやらとうとう決勝戦が始まる様だ。にしてもすごいな。控え室にいるにも関わらず外から声援が聞こえて来る。いったい何人の観客がこの会場にいるのだろうか?想像も付かない。

 

 そんな事を考えている内に会場の入口に付く。そしてどん!と言う爆発音が鳴り、それを合図に歩き出す。

 

 内心で火薬の量が多過ぎでは?、と心配しつつ視線は真っ直ぐに固定する。

 すると十歩も歩かない内に対戦相手であるファスト選手の姿が見えて来た。

 

(若いな。いや、二十歳なんだから当然か)

 

 マックスは歩きながら心内でそんな事を思う。

 そもそもジムチャレンジ自体、若者が圧倒的に多い。ファストの年齢でさえ、全体的に見れば上の方だ。

 

 対して自分はどうか。既に全盛期は過ぎ、後は如何に落ち幅を少なくするかの三十代に突入している。ファスト選手のジムチャレンジに挑んだ歳はマックスより一つ上とは言え、序盤敗退の自分とは違い彼は華々しい結果を残している。

 

 彼が活躍をしている間、自分はずっと誰にも目に付けられる事なく黙々とレベル上げをしていた。一体この差は何だろうか。

 いや、分かっている。単純にファスト選手には才能があるのだ。俺なんかと違って…。

 

 そんなネガティブなことを考えている内に両者は互いに向き合う距離にまで来ていた。

 先に口を開いたのはファストである。

 

「視線があったらポケモンバトル。トレーナーであれば、場所問わずにね。今回も去年と同じく僕が先に進みます。若者らしく時代遅れ(ロートル)の貴方に引導を渡してね」

「お手柔らかに頼むよ、アマチュア最強(銅メダリスト)さん」

「言ってくれますね」

 

 開戦前の口撃はジャブのようなものとは言え、苦笑いが出そうになる。レスバで俺に挑もうなど片腹い。この十五年間、娯楽など殆どなく過ごした俺は少しの休憩や寝る時間の僅かな間のネットサーフィンが唯一の癒しであった。

 

 故に、意外とポケモン界隈に付いては詳しい方なのだ。例えばファスト選手がアンチから言われている蔑称とかな!

 

それにー

 

(お互い、こんなんで飲まれちまう程の初心者(ビギナー)であるまい。下らない腹の探り合いは止めようぜ?)

 

 そう、ここに立った時点で両者共に覚悟が決まっているのだ。今更挑発や小さな事での精神的な動揺は決して起きない。

 その肝の座った姿こそ、数多の勝負に勝って来たファイナリスト候補の所以である。

 

『はい。なので誰のマークも付いていなかったので此処まで勝ち抜いて来た選手の中では完全なダークホース扱いでした』

『歳もおよそ三十代でしょうしね。若きホープのファスト選手が例年通り勝利するのか、それともマックス選手が意地を見せるのか。注目の一戦です』

 

今何で歳のこと言ったの???

 

 いや、ビックリしたわ。ファスト選手と睨み合ってたら、予想外の所からぶっ刺されたんだが?めちゃくちゃ動揺してしまった。え、顔に出てないよね?

 一応公開されているとは言え個人情報だぞ。こんな大舞台でナチュラルにカミングアウトしないでほしい。

 あの解説供、何が中立の立場だよ。思いっきり敵じゃねーか!

 こんなんほぼ利敵行為だよ、利敵行為!!

 

 本当に歳の事を不意打ちで出すのはやめて欲しい。レベル上げ時代の年々居たたまれなくなる親の眼差しとか、外からの情報により湧き出る劣等感やら嫉妬やらの事とかを思い出して心臓が苦しくなるんだよ。

 

 俺は動揺した事が相手に伝わってない事を祈りつつ、ファスト選手から視線を切り所定の位置に付く。

 

 眼を閉じ深呼吸を一つ。刹那、開眼すると同時に振り向く。

 既にこちらに向いていたファスト選手と視線がぶつかる。それを通じて互いの戦意がどんどん高まって来る。

 

 それがピークに達した時、その瞬間がやって来た。

 

『バトル開始!』

 

「倒して来い、カメックス!」

「行け、バンギラス!」

 

『両選手同時にポケモンを繰り出した!ファスト選手はカメックス。対するマックス選手は今大会初出のバンギラスです』

『マックス選手は今まで初手のポケモンはウインディを必ず出して来ましたがここで変えて来ましたか。タイプ相性だけ見るとファスト選手のカメックスが有利ですね』

 

(バンギラス?今までの初手ウインディが今回の為のブラフだとしたならば、何故水タイプに有利を取れるポケモンを出さないんだ)

 

 マックスは今回のジムチャレンジやリーグ戦で記録に残る公式のバトルは全てウインディを初めに繰り出していた。

 ファスト自身それなりに悩んだが、罠の可能性を疑いつつタイプ有利を取れるカメックスを初手に選んだ。

 

 案の定、マックスは違うポケモンを出して来たわけだが何故かそれは水タイプに不利なバンギラスであった。

 ファストは出て来たポケモンがウインディなら攻め、こちらの弱点タイプなら交代するつもりだった。

 

 しかし、マックスは水タイプに不利な違うポケモンを出して来た。これがファストの思考を混乱させ、手が止まってしまったのだ。

 

『両選手がポケモンを出してから十秒が経ちましたが未だに両者は動きません』

『ファスト選手はどう試合を展開していくか迷っているようですね。対してマックス選手は静かに待ち構えています。果たしてどの様な狙いがあるのか…』

『大会では珍しい膠着状態に陥っております。どちらが先に動くのでしょうか』

 

(どうする?普段なら待ちだがタイプ有利なのだから攻めてーは?)

 

 ファストは頭の中で戦術を考えながらバンギラスを見ているとある事に気付く。

 マックスのバンギラス立派な体格をしていて、その姿は通常個体に比べ一回り大きい。だがその顔に付いているであろう鋭い瞳は今閉じられていた。

 

(眼を瞑っている?)

 

 それを認識した瞬間、ファストの体はカッと熱くなった。バトルの最中に眼を閉じるなど、相手から意識を逸らす以上の愚行だ。

 つまりファストは舐められているのだ。

 

(巫山戯るなよ、ロートルが!)

「カメックス、”ハイドロポンプ”だ!」

「ガメェー!」

 

 馬鹿にされたと思ったファストはその誘いに乗る事に決め、カメックスに攻撃の指示を出す。

 

『沈黙を破ったのはファスト選手!そのまま攻撃は……当たったー!?』

『直撃しましたね。下手をすればコレでバンギラスは戦闘不能になったかもしれません』

 

 ファストのカメックスから放たれた強力な攻撃は外れる事なくバンギラスに吸い込まれていった。

 強力な攻撃が当たった影響かバンギラスの周りに煙が上がり姿を隠してしまう。

 

(手応えはあった。例え耐えていたとしても大ダメージの筈だ)

 

 ゆっくりとだがバンギラスを覆っていた煙が晴れて行く。そこに映っていたバンギラスの姿は…

 

「な、無傷だと!?」

『なんという事だー!マックス選手のバンギラス、”ハイドロポンプ”が直撃したのにも関わらず傷ひとつない!!』

 

 そこには初めと変わらず静かに佇むバンギラスの姿があった。

 ワァ、と会場が沸く。弱点タイプの技を受けて殆ど動じないポケモンなどデタラメにも程がある。

 

 興奮に包まれた観客をよそに、ゆっくりとではあるがバンギラスの瞼が開き始めた。その瞳に怒りを宿して…

 

「暴オオおおお◾️◾️◾️◾️▪️▪️▪️▪️▪️!!!!!」

 

 バンギラスの放った咆哮は先程まであったあらゆる音を消し飛ばした。

 ボイスやトゥークも思わず喋る事を忘れ耳を塞いでしまったくらいだ。当然、より近くでその身を咆哮に晒されたファストも怯んで尻餅をついてしまう。

 

(あ、頭がクラクラする。耳も痛い…)

 

 きーん、となる耳鳴りに耐えグラつく視界でファストはバンギラスを捉える。そして気付いた。

 咆哮の終わったバンギラスの口が閉じられず高密度のエネルギーを伴ってにカメックスに向けられているのを。

 

「まずッ、避けろカメックス!」

 

 不調にも関わらず咄嗟に指示を出したファストは間違いなく優秀なトレーナーだ。

 だが、カメックスは先程のバンギラスの咆哮によって意識が呑まれ体が萎縮してしまっていた。

 

 次の瞬間。バンギラスが発生させていた高密度なエネルギーは、”はかいこうせん”となって発射される。

 カメックスはただ上手く動かない体で迫り来るそれを見ることしか出来ない。

 

ー落雷の如き轟音が会場を揺らした。

 

『っうぅ、こ、これはバンギラスの”はかいこうせん”?でしょうか。それがファスト選手のカメックスに向けて放たれました。カメックスの安否の程が分かりません』

『す、凄まじい威力でしたね。仮に先程の攻撃が直撃していたら高確率でカメックスはダウンしているでしょう』

『あ、と。審判がカメックスに駆け寄り様子を伺っております。結果は…ああ、ダメです。戦闘不能です!』

『でしょうね。あの”はかいこうせん”にはそれだけの威力がありましたよ』

 

「カメックス。良くやった、休んでいてくれ」

 

 ファストは労いの言葉を掛けながらカメックスをボールに戻す。しかしその手は震えを隠せないでいた。

 

(何なんだ?あの巫山戯た威力の攻撃は)

 

 元々”はかいこうせん”は高威力の技である。だがそれを加味しても先程のバンギラスのそれは常軌を逸していた。

 兎に角、地上戦はダメだと判断したファストは次のポケモンを繰り出した。

 

「行け!ヨルノズク」

 

 ファストから放たれたヨルノズクはすぐさまバンギラスの射線を切るように大空に羽ばたく。

 対してバンギラスは特に行動をせずその姿を黙って見つめる。

 

『さあ、ファスト選手の次なるポケモンはヨルノズク!随分と空高くに舞い上がりました』

『あの威力の技を見た後ですからね。ファスト選手としては正面からの戦闘を避けたいのだと思います』

『なるほど。空を飛べないバンギラスに対して上空からの撹乱が目的という事ですか。しかしこれに対して、バンギラスもマックス選手も静観しております。一体どのような考えがあるのでしょうか?』

 

(バンギラスの考えか…、いや俺にもわっかんねー)

 

 ファストのヨルノズクが右へ左へと飛びバンギラスを撹乱する中、マックスはそんな事を考えていた。

 実況や解説が色々と自分の事を過大評価してくれているが、マックスは考えがあって静観しているのではない。何もすることがないからボケっと突っ立ってるだけなのだ。

 

 バンギラスはワイルドエリアにてヨーギラスの時に捕まえたポケモンだ。マックスが三番目に手持ちに加えたポケモンで、メンバーの中では古参にあたる。

 

 ヨーギラスの頃はこちらの命令にも素直に従ってくれていたのだが、進化を重ねるごとにマックスの言う事を聞かなくなってしまったのだ。

 今ではバトルに出すと目に付くもの全てを蹂躙する破壊兵器と化してしまった。

 

 そんなバンギラスをマックスは内心ではゴ○ラさんと呼んでいた。

 

(一応、戦えと止めろだけは従ってくれるんだよなぁ)

 

 最低限の命令に従ってくれるなら良し、と放置してしまった結果が今のバンギラスである。

 

「ヨルノズク、”サイコキネシス”だ!」

『ファスト選手が仕掛けた。バンギラスは、何とまたしても避けない!』

 

 先程の”ハイドロポンプ”同様、バンギラスはヨルノズクの技に対して微動だにせず攻撃を受ける。

 そんなバンギラスの様子を見ながらマックスは悪癖が出てるな、と溜息を吐く。

 

 マックスのバンギラスは此方の言う事を聞かない破壊の化身の様なポケモンではあるが、バトルに置いて自分なりのこだわりを持っていた。それは、格下と判断したポケモンの技は必ず一度受けると言うものだ。

 正直、賢い戦い方では無いだろう。

 

 それでもー

 

(ヨルノズクのレベルが45。カメックスが47。このレベル帯ならいくら攻撃を受けようがゴジ○さんは怯まん)

 

 マックスはチート能力を使い、ファストのポケモンの強さを見る。おおよそ、準ジムリーダークラスのレベル帯だ。

 十分高レベルと言えるが、流石に50以上のレベル差があるバンギラス相手では分が悪かった。

 

「暴おおォォ!」

「!避けろヨルノズク。的を絞らせるな」

 

 ヨルノズクの”サイコキネシス”を受けたバンギラスはお返しとばかりに”はかいこうせん”を乱れ撃つ。

 

『おお!マックス選手のバンギラス。”はかいこうせん”をまるで弾幕の如く連続で発射する!!』

『これは凄いですね。普通、”はかいこうせん”はある程度溜めが必要なのですがそれを無視する勢いです』

 

 ”はかいこうせん”(小)あるいは”はかいだん”、とでも言うべきか。マックスのバンギラスは発射する”はかいこうせん”のエネルギーをある程度、調整し小分けにすることが出来た。

 これにより、ほぼ溜めなしで”はかいこうせん”を連射する事を可能にしていた。

 

 無論、威力は従来の”はかいこうせん”に劣るがレベル差を考えれば誤差である。

 事実、”はかいこうせん”の嵐に晒されたヨルノズクはそれに当たるまいと必死に回避を続ける。寧ろ避けることに手一杯でそれ以外の行動が出来ないでいた。

 

「頑張れヨルノズク!必ず息切れを起こす筈だ。それまで避け続けるんだ!」

 

 確かにファストの言うとおり、バンギラスの無尽蔵と言える体力を持ってしてもこの技を撃ち続ける事は出来ない。

 いずれ”はかいこうせん”が止む時が来るだろう。

 しかし

 

「知ってるか?ファスト選手。実はゴ○ラって跳ぶんだぜ」

 

 ファストの読み通り、バンギラスの技が途切れる。それを見たファストはヨルノズクに反撃の指示を出そうとした。

 だが、バンギラスは技を撃ち終わると同時に身体を丸める。その姿はあたかも限界まで縮めたバネの如し。

 

 嫌な予感がしたファストは咄嗟に回避の指示を出そうとしたが、それより一瞬早くバンギラスの体が解放される。

 地面にヒビが入る程の轟音を周囲に撒き散らしながらバンギラスは豪速でヨルノズクに向かって飛翔する。

 

『なんと!バンギラスが跳んだー!?』

「ホゥ!?」

 

 飛翔したバンギラスは寸分違わずヨルノズクに激突する。ヨルノズクも万全の状態なら避けられたであろうが、”はかいこうせん”の回避で体力を消耗していた事もありその身でバンギラスのロケットの様な頭突きを食らう。

 

 会場全体に鈍い音が木霊する。

 まともに頭突きを貰ったヨルノズクは空から失墜し、地面に叩き付けられた。

 

「ヨルノズク!?」

 

 ヨルノズクはファストを悲しませまいと立ち上がろうとするが、同じく空から落ちてきたバンギラスに踏み潰される。

 

 どん!、と音が鳴った後ヨルノズクは立ち上がる事が出来ず審判から戦闘不能を言い渡された。

 

『これは圧倒!マックス選手、圧倒的です!!ファスト選手の手持ちは残り四体となりましたが、マックス選手のバンギラスは未だ健在。ファスト選手は勝つためには厳しい状況に置かれました』

 

 ファストは続ける様にして、マンムー・レントラー・カポエラーを繰り出すが先の二体同様にほぼ一撃で葬られる。

 

 あれほど騒がしかった会場も、あまりに一方的で暴力性さえ感じるバンギラスの戦い方に鎮まり却ってしまう。

 

「何なんだよ…お前らは」

 

 ファストは戦闘不能になったカポエラーをボールに戻しつつ目の前の理不尽な存在相手に嘆きを溢す。

 バンギラスの戦法いたって簡単。殴られたら殴り返す。これの繰り返しである。

 戦術もクソもないフルアタックによるどつき合いだ。

 

「こんなの、認められない」

 

 ファストは無意識に奥歯を噛み締める。これは追い詰められた時に出る彼の癖だ。ファストはいつもチャンピオン決定戦の本選で格上のジムリーダーと勝負する時、奥歯を噛み締めてきた。

 ファストは15歳にしてセミファイナルのファイナリストに残った猛者である。間違いなくポケモントレーナーとして一流の才能を持ち合わせている。

 

 しかし、その先の本選においては一度も勝てたことがなかった。いつもジムリーダーの誰かと当たり一回戦敗退を期している。ファスト自身、ジムリーダー達とそこまで明確な差は無いと思っている。だが、その僅かの差で毎度接戦を制することができないでいた。

 

 そんなファストのことを意地の悪い者は銅メダリストと野次を飛ばして来ることもある。アマチュア以上ジムリーダー以下、それがファストの世間からの主な評判である。ファストもおおむね的外れな評価ではないと思っている。

 だがそれでも今までの戦いはここまで一方的なものではなかったはずだ。今までの本選でのポケモンバトルもあくまで対戦相手がファストの戦術を上回ったが故の結果であった。

 

 そこには確かな工夫と努力があった。故にこんな力だけで押し勝つような戦術も何もないポケモンバトルをファストは受け入れることが出来ない。もしこんなものがまかり通る事になってしまえば、ポケモンバトルとは強いポケモンで殴り合うだけのものになり果ててしまう。

 

 そんなバトルに一体どのようにしてポケモントレーナーの存在意義を見出せと言うのか。

 だからこそこの絶望的状況でもファストは諦めない。例えもう逆転の目が残ってないにしろ、せめてあのバンギラスだけでも落とさなければ気が済まない。

 

 再度ファストは目の前の敵を見つめ闘志を滾らす。

 

「終われない。終わってたまるかよッ、だからバタフリー!」

 

 ファストは手持ちの最後のポケモンを繰り出す。そしてすぐさまバタフリーをボールに戻すと同時に叫ぶ。

 

「ダイマックスだ!!」

『ファスト選手、ここにきてダイマックスの解禁だ!どうやらまだ勝利を諦めていない様子。凄まじい闘志です!』

『どちらにしろファスト選手は最後のポケモンですからね。ここはダイマックスの切りどころでしょう』

 

 再びボールから出てきたバタフリーは観客席からも見上げるほどの巨体となってフィールドに君臨する。さらにファストのバタフリーは通常のダイマックス個体とは姿が異なっていた。

 それは一部のポケモンしか持ち合わせていない特性で、ダイマックス時の特殊形態ーキョダイマックスと言われる現象だ。

 

 これはダイマックスが主流のガラル地方においてもかなり珍しい光景であり、静まり返っていた会場の観客がにわかに活気を取り戻す。

 

『これは珍しい。バタフリーのキョダイマックスです。しかしこれに対してマックス選手は今だ不動。まさかキョダイマックスに素の状態で迎え撃つのでしょうか!?』

『ダイマックスに対してダイマックスで返す。所謂ダイマックス合戦と呼ばれる方法が主流の中、あえてダイマックスを温存する選択肢を取ったようです。あるいは、マックス選手のバンギラスならばバタフリーのキョダイマックスに耐えられると言う判断かもしれません』

『なるほど!どちらにしてもこれが最後の攻防になるでしょう。マックス選手がこのままストレート勝ちするのか、はたまたファスト選手が意地を見せるのか注目です!』

 

 会場が熱気を取り戻す中、マックスは相手のバタフリーのキョダイマックスの姿を見て静かにこう思う。

 

(モ〇ラかな?)

 

 会場やファストの雰囲気とはまるで真逆の、間抜けなことを考えていた。

 しかしこれも仕方のないことだろう。

 バンギラスはひたすらワンマンプレーを続けるし、既にこのバトルはストレート勝ち目前だ。極論、ここでバンギラスが負けても控えの五体で十分バタフリーに勝利できる。頼みの綱のダイマックスもバンギラスから無言で拒否された。

 

 であればマックスに残された選択肢は黙って戦況を眺めている事だけである。

 

「バタフリー、”ダイワーム”だ!」

「フォーン」

 

 そうこうしていると、ファストのバタフリーから大質量の一撃が放たれた。これにはバンギラスも首を窄め、腕を体の前でクロスして防御の体勢で攻撃を受ける。

 

「”ダイワーム”、”ダイワーム”、”ダイワーム”だ!」

 

 2度3度とファストは休みなく攻撃の指示を出す。これにはさすがのバンギラスも体をグラ付かせる。

 

『ファスト選手、とんでもない猛攻だ!これで確実にバンギラスを倒すという気迫が伝わってきます』

『通常のダイマックスの持続時間がおよそ30秒程ですが、これほど技を連発すれば10秒も持たないでしょう。キョダイマックスの持続性を犠牲にした上での連続攻撃ですね』

 

 トゥークの予想通り、ファストは戦いを長引かせる気は毛頭なかった。ただあのバンギラスを倒す。その一念で攻撃を続ける。

 

「バタフリー、これで決めるぞ。ダイワームだああああああ!!!

 

 通算5度目の”ダイワーム”。キョダイマックスの残存エネルギーのほとんどをつぎ込んだ、渾身の一撃がバンギラスに炸裂する。

 5度の”ダイワーム”を受けたバンギラスの体は最初と比べボロボロの状態になってしまっていた。グラつく体。不死身と思われたバンギラスもとうとう倒れるのかとその様子を見た会場の誰もが思った。

 

 バンギラスの主人であるマックスを除いて。

 

「え?」

『こ、これはバンギラス倒れない。あれほどのキョダイマックスの猛攻に晒されてなお倒れない!』

 

 そう、バンギラスは耐えきったのだ。そして技を耐えきったのならこのままでは終わらないのがマックスのバンギラスだ。

 

 体を覆うは陽炎。バンギラスはバタフリーの猛攻に晒されながらずっとずっと我慢し力を貯め続けていた。そのエネルギーが高熱となって体から噴き出ているのだ。

 そして今、バンギラスの動きを邪魔するものは何もなくなった。

 

「暴オオオオオオォォォ!!!!!」

 

 この日、一番の声量と共に吐き出された”はかいこうせん”は灼熱の光線と化してキョダイマックスのバタフリーを貫く。

 

「バタフリー!」

 

 ファストの悲痛な叫びと共に、バタフリーのキョダイマックスは解け戦闘不能となる。

 

『決着!セミファイナルを制し、ファイナリストとして本戦のチャンピオンシップに挑むのはマックス選手に決まりました!』

『いやー、すごいバトルでしたね。私も長らくポケモンバトルを見てきましたがこんなことは初めてです』

 

 ボイスとトゥークの話をよそに、試合会場は鎮まり却っていた。あまりに一方的。あまりに暴力的。これが本当にセミファイナルの決勝戦であろうか。

 人は自分の知る現実と大きく異なるものを直視して時、自己防衛からか拒否反応が起こる。勝利したはずのマックスが讃えられずにいるのも、常識外れのバトルをバンギラスが展開してしまったからだ。

 

 とは言え、いくら認められなくとも時は止まらないしバトルの結果は覆らない。

 マックスは取り合えず、試合の締めとしてバンギラスをボールに戻して唖然として動けないでいるファストの元へ向かう。

 

「その、なんだ。いいバトルだったな」

「ッどこが!・・・、いえ。失礼しました。マックス選手のチャンピオンシップでの健闘を祈ります」

 

 そう言うとファストは握手もそこそこに速足で会場を去って行った。本来であればこの後のセミファイナルの優勝者としての取材やらなんやらで盛り上がるはずなのだが、あのような試合内容と結果のせいかいまいち盛り上がりを見せずに終わりを迎えた。

 

 こうしてマックスのジムチャレンジのリベンジと初めて挑むセミファイナル決勝戦の幕が閉じたのであった。

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