カンストエンジョイトレーナーは頂に届く夢を見るのか   作:流々毎々

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いざ、決戦のバトルフィールドへ

 

「お帰り、マックス。実はお父さん、仕事クビになっちゃた」

「ファ!?」

「何、馬鹿な事やってるんですか貴方。ああ、お帰りなさい。マックス」

 

 あの後、さんざん悩んだ結果、俺は実家に帰ることにした。半端に疑問をほったらかしにする位ならしっかり確認しようと思ったからだ。てか、そうしないとチャンピオンシップに集中できん。

 なので俺は家に帰る一報を母に送った後、いくつかのモノレールを利用し久しぶりに我が家に訪れることにした。そして玄関の扉を開けて迎えてくれた第一声が、父からの衝撃的な一言であった。

 それに対して素っ頓狂な声を上げてしまったが、母のツッコミ具合からして質の悪い冗談だったようだ。心臓が飛び出るかと思ったぞ。

 それはそれとして、どうして昼間の今の時間に父が家にいるのだろうか?

 

「ああ、今日、マックスが帰ってくると母さんから連絡が来てね。会社を早退させて貰ったんだよ」

「当日によくそれが通ったね」

「マックス。社会と言うのは真面目に仕事を熟して、そこそこ良い地位にいればまあまあの融通が効くんだよ」

「そんな生々しい話、親の口から聞きたくないんだけど!」

 

 つまりこの父親は俺を揶揄う為だけにわざわざ仕事をサボって家で待ち構えていたのだ。いい歳した大人がである。

 とんでもない親父だな!

 

「いや、今日の分の仕事はおおよそ終わらせて来たさ。僕は出来る社会人だからね~」

「あの^^;、出来る社会人はこんなクソガキ染みたイタズラ、しないと思うんですけどぉ?」

「社会にロクに出た事のないエアプJrが、僕ら(社会人)の事について語ろうなんて片腹が痛いねぇ^^」

「俺の心の一番脆い部分を刺激するのは止めて貰えませんか?」

 

 それを言われちゃ俺は何も言い返せないだろうが。流石俺の父親。何を言われたら嫌なのか、息子の弱点をバッチリ把握しているらしい。

 畜生、家族を養うために働きガラル地方にも貢献している仕事に就いてる社会人がそんなに偉いのかよ!偉いわ。

 

「二人ともご飯が出来たから運んでくれる?」

「分かったよ」

「はーい」

 

 俺と父がじゃれている間に母は料理を作り終えたらいし。3人分の食事を手分けしてテーブルに運ぶと、俺たちは少し遅めの昼食を食べ始める。しばらく、久しぶりの母の手料理の味に浸っていると先にある程度食べ終わった父が話しかけてきた。

 

「そう言えばマックスは、セミファイナルを勝ち抜いたんだからチャンピオンシップに出れるんだよね。遅くなったけど、おめでとう」

「小さい頃からの目標でしたもの。ようやく叶って良かったわね」

「うん、ありがとう」

 

 父と母は俺に祝いの言葉を投げ掛けてくれた。俺としても、両親の二人にはかなりの心配を掛けていた自覚がある。それに対して今回の結果で、最低限報いることが出来たのではないかと考えている。

 しかしチャンピオンシップにこのまま無事に出場できるのかは少し怪しい。そこがネックになっているせいか、少し暗い表情をしてしまう。

 

「どうしたの?浮かない顔して」

「いやチャンピオンシップ、ちゃんと出れるかな?って思ってさ」

「セミファイナルに勝てたのでしょ?なら大丈夫じゃないの」

「いや、まあ、うん。普通ならそうなんだけど」

「煮え切らないわね〜」

 

 母の言う通り通常ならセミファイナルで勝ち抜けば、チャンピオンシップに出場できるか否かで悩む事は起きない。だが、俺のバトルの方法はお世辞にもまともとは言い辛いし、俺にもその自覚がある。

 なのでどうしても返答は歯切れが悪いものになってしまう。

 

「ははは、それなら特に問題ないから安心して良いと思うよ」

「え?何で?」

「マックスは僕が何の仕事に就いてるのか忘れたのかな」

「ま、まさか、袖の下(ワイロ)!?」

「なわけないでしょ。僕も会社じゃそこそこの地位だからね。そう言った情報は他の人より入って来やすいんだよ」

「あら、そうなの。じゃあ安心ねマックス」

「あ、うん」

 

 何だろう、この安心したと同時に肩透かしを食らった気分は。自分の受験発表の結果を知人からネタバレをされた前世の学生時代の事を思い出してしまった。こう、うれしいんだけどテンションが振り切れないもどかしい状態だ。

 

「まあ、そう気負わず本番に臨めば良いと思うよ。負けたところで何かがある訳でないし。いや、マックスが大会で活躍すれば会社でデカい顔ができるか?」

「貴方」

「そんな白い目で見ないでよ。冗談だよ」

「いや、勝つよ」

 

 父が母に窘められる中、俺は会話に割り込んで宣言をする。そんな俺の事を両親は互いに目を合わせた後、静かに見つめてくる。

 

「俺が勝って、チャンピオンになるから」

「・・・そうか」

「私たちは応援する事しかできないけど、ちゃんとマックスの事を見てるからね?これまでも、これからも」

「うん」

 

 俺がポケモン世界に転生して31年。加えてこの大会に出る準備に掛けた期間は15年。これまでの人生の約半分だ。ここまでしてようやく俺にもチャンスが巡って来たのだ。これを逃す手はない。

 だからさ、そんな心配そうな表情をしないでくれよ父さん母さん。俺は必要以上に気負っても無ければ、精神的に追い詰められてもいないからさ。

 

「必ず勝つよ」

 

 その言葉を最後に俺たちの会話は途切れてしまった。少し気不味くなった俺は断りを入れてから、家にある自分の部屋へと向かう。ここも子供の時くらいしか使用してなかったが、まめに手入れをしていてくれていたのか汚れや埃も無く綺麗な状態だった。

 

「ここまで準備したんだ。他人からの評価何て今更だ」

 

 あの日に誓った思い。俺は頂を目指し必ずそこに届いて見せる。そう改めて覚悟を決める俺の元へ、大会の運営委員会からポケモンの申請登録が完了した旨が届くのであった。

 

 翌日、俺はチャンピオンシップに出場する為に朝早くから家を出た。両親から見送られながら、最終トーナメントが行われるシュートシティにカイリューに乗り向かう。空を一気に飛んできたおかげか、一時間ほどで俺は実家からシュートシティへ到着することができた。

 シュートシティに降り立った俺はすぐにスタジアムに赴き、スタッフに声を掛けて受付をすます。それから選手専用のホテルで個室を当てがわれた。大会の本番は明日。それまでこのホテルに軟禁状態になるが仕方のない事だろう。

 

 明日。そう明日、ガラル地方のチャンピオンが決まるワンデートーナメントがとうとう開催されるのだ。それまでしっかり英気を養わなければならない。

 俺は食事を済ませた後、特に夜更かしすることもなく早めに就寝に着くのであった。

ーーーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

 

『宣誓!我ら選手代表はこのチャンピオンシップで正々堂々とバトルし、勝利(チャンピオン)を目指す事を誓います!!』

 

 とうとうこの時がやって来た。大会の当日の本番。シュートシティにある試合スタジアムの中央で、ドラゴンタイプのジムリーダーであるキバナが大会の開会式にて、選手を代表して宣誓の言葉を紡いでいた。

 スタジアムの開会式には見渡す限りの人だらけ。その声援と観客の熱量はセミファイナルの時とは比べ物にならない程の盛り上がりを見せていた。

 

 そんな中で他の選手に交じりながら、俺ことマックスもスタジアムにてキバナ選手の宣誓の言葉を聞いていた。チャンピオンシップは一日限りのワンデートーナメントである。その内容は主に午前と午後の二つの部に分けられている。

 午前の部では、チャンピオンであるダンデに挑む俺たちチャレンジャーが勝ち抜きのトーナメントバトルを行う。そしてチャンピオンに挑む最後の1人をここで決めるのだ。ちなみに午前の部での対戦相手はギリギリまで発表はされず、ファイナルトーナメントが始まるまで誰と当たるのか全員が知らされていない。

 これも興行色の強いガラル地方ならではの特色であろう。

 

 余談ではあるが、チャンピオンシップの開会式の宣誓する人物は、現チャンピオンを除いたトーナメントチャレンジャーの中から選ばれる。これもほとんど大会ファンからの投票で決まるので、順当に人気が高い選手が宣誓を行うのだ。

 今回は、キバナ選手が投票トップで次点でルリナ選手などのメディア露出が高い者。後はほとんど団子比べで、俺がダントツの最下位であった。

 

 この投票結果に俺はあまり気にしてはいない。俺は気にしてはいないのだが、周囲からは若干同情の目が向けられる事がある。いくら大会初参戦の新顔とは言えここまで露骨に差が出来るのは珍しいらしい。でもできればその視線は止めてほしい。どちらかと言えばそっちの方が傷付く。

 

 話を戻すが、午前の部でチャンピオンに挑む選手を決めた後は数時間ほど時間が空く。なので大体、夕方あたりから午後の部である現チャンピオンダンデ戦が始まるのだ。

 

 そして特にトラブルもなく、無事開会式を終えた俺たち選手はスタジアムの中にある控室に下がり初戦の相手が発表されるまで待機する。ここから発表された内容に従いAブロックBブロックにそれぞれ分かれる。そして決勝戦にてそれぞれのブロック代表者が戦い決着を付けるのだ。ここで勝利して漸くチャンピオン(ダンデ)に挑める。とても長い長い道のりだ。

 当たり前であるがトーナメント戦の性質上、自分以外は基本的に大会の勝敗を争うライバルである。故に本来は慣れ合う必要はない。

 

 とは言え、少し居心地の悪さを感じる。ガラルのトップリーグの大会はメンバーの入れ替わりが激しい。だが実力自体は皆ほとんど拮抗してるので、ある程度大会に出るメンツは決まって来る。そうなれば必然的に大体の選手が顔見知り状態となってしまう。現に何人かの選手は、トーナメント表が出て来るまでの時間潰しとして世間話を交わしていた。

 仕方のない事であるが、完全な新顔である俺にとってこの空間は少しアウェイに思えてしまう。

 しかしその弱みを表に出すわけにもいかない。俺としても居心地の悪さから弱みを見せて舐められるよりは、溶け込もうとしない無愛想な奴と思われた方がマシだ。

 

 故に俺は、選手のみんなが集まっている中央にではなく部屋の壁際に置かれたベンチの上に座り、目を瞑って精神統一しているふりをする。寝ていると勘違いされないように、眉間に少し力を入れるのがコツだ。これでそうそう話し掛けてくる人はいない。

 話す事がなければ会話でボロを出す事もないだろう。

 

「こんにちはマックス君。今、話し掛けても良いだろうか?」

「ホウ!?」

「・・・驚かせてしまったようで申し訳ない」

「い、いえ。お気になさらず。えっと、カブ選手」

 

 戦略的沈黙をかましていた俺に声を掛けてきたのはカブ選手であった。正直、かなり驚いてしまった。眠りから起こされたホウホウみたいな声を上げてしまったせいか、他の選手もこちらの様子を窺ってしまっている。

 そんな俺にカブ選手は申し訳なさそうな表情をして続きを話す。

 

「精神統一中に水を差すような事をしてしまい申し訳ない。ただこの機会を逃すと君と話す機会が得られないと思ってね。隣に座っても良いだろうか?」

「・・・どうぞ」

 

 ここで拒否をすればカブ選手はおそらく素直に下がってくれるだろう。だが、俺の中に残っているミーハー根性が勿体なくないか?と顔を出す。別に会話に飢えている訳ではないが、前世持ちの自分としては原作キャラに話掛けられるのは純粋にテンションが上がる。後、普通に会話内容も気になる。

 だから、俺はベンチの端に移動しカブ選手が座れるスペースを作った。カブ選手は俺が空けたそこに腰を掛け話始めた。

 

「ありがとう。隣、失礼するね」

「あ、はい。それでそのぉ?」

「僕自身、凝った言い回しは得意じゃない。だから単刀直入に、君は強い。それもとてつもなく」

「え?」

 

 なんで急に褒めたの?俺の事好きなのか。惚れるぞ。

 

「皆、君の他者を圧倒する力に目を奪われているが、その根底はとてつもなく大きな土台だと僕は感じた。例え大きな衝撃にだってこゆるぎもしない頑丈な下積み」

「・・・」

「そこに至るまでの苦労と努力、僕には想像する事しかできない。だからこそ君に言わせてほしい。このままではマックス君の行く末は修羅の道だ」

 

 修羅の道、か。カブ選手の云わんとすることは何となく理解できる。俺と手持ちのポケモンたちの戦闘スタイルは長年のレベルアップ期間の内に確立していった方法だ。俺も相棒たちも勝つために、このバトルスタイルを貫き通す事を納得済みでこの大会に挑んでる。

 だがそんなものは事情を知ってる身内にしか分からないことだ。はたから俺たちを見れば、まともな感性をしていればその姿は異常者に映るだろう。

 

 自爆特攻を苦にもしないポケモンがいたり、レベル100故の通常個体ではありえない馬力を秘めていたり。それが手持ち6体全てとなれば、誰だって怪しく思う。心無い噂の中では、俺がポケモンを虐待しているのではないかとか、不思議なアメなどのドーピングアイテムを過剰摂取させているのではないかとさえ言われている。

 まあ、大会に出るに当たってその手の検査は当然あり俺の手持ちのポケモンたちは問題なくオールクリアしている。なので俺自身、そんな連中に懇切丁寧に説明をする機会を設けるつもりもないし、理解を得ようとも思わない。

 

 ただ、カブ選手はそんな連中とは違い本当に俺の事を心配して忠告してくれているのだろう。確か原作の方でもカブ選手は、リーグ戦での浮き沈みが激しく勝つためにあらゆる戦法を試した人である。ある意味では、俺の先達に当たる。そんな彼だからこそ、今の俺を気に掛けてくれているのではないか。

 

「僕自身、一時期はどうしようもない選手だった。ダンデ君とのバトルがなければきっとそのまま終わってしまっていたと思う。僕は落ちる淵に立って、ギリギリでその事に気付けた。だからマックス君だって遅くはない。手遅れになる前にまだ戻ってこれる」

「・・・、ありがとうございます。正直言ってほぼ関わりのない俺に対してここまで心配をしてくれるのはすごくうれしいです」

「ならば」

「でもね、俺とカブ選手では決定的に違うことがあるんです。この差がある限り、俺は今の戦い方を止めるつもりはありません」

「それは、何だろうか?」

 

 そんなもの決まってる。

 

「トレーナーとしての才能ですよ。カブ選手たちにはあって俺にはないものです」

「そんなことは決してない!現に君はー」

「本気で言ってますか、それ?俺、初めてのジムチャレンジで序盤も突破できなかった雑魚トレーナーですよ」

「・・・」

「まだ幼かったから、バトルの経験が浅かったから。こんなもの何の言い訳にもなりません。現に俺と歳がほとんど変わらないトレーナーで先に進めた人はいるんですから」

 

 分かり易い例で挙げればファスト選手がそれである。チャレンジした歳こそ俺より1つ上とは言え、他はほぼ同条件。それなのに結果に差が出たとするならば、トレーナーとしての才能以外に他ならない。

 そしてカブ選手は才能がある側だ。手持ちのパーティを炎で固めているにも関わらずメジャーリーグで常連の選手なのだから。

 しかも他のトレーナーとレベル差だってほとんどない中でこの結果だ。そんな凄腕のトレーナーを口が裂けたって俺なんかと同列に語るべきではない。

 

「そんな努力する天才トレーナーたちを相手に凡人の俺がどうやったらまともに勝負して勝てるって言うんですか」

「・・・」

「それとも凡人が天才たちに混ざるのは分不相応だと?指を加えてその光景を眺めていろと?俺からすればそっちの方が屈辱的だ」

「それは自分を卑下し過ぎだ、マックス君」

「カブさん俺はね、大会に思い出を作りに来たんじゃないんです。あなた達に勝ちに来たんです。その上でチャンピオンに挑み俺が頂に立つ。そのためなら修羅道だって踏破して見せる。俺は決して堕ちたりなどしない」

 

 俺は隣で座るカブ選手の方を見つめそう宣言をする。カブ選手も俺の視線をまっすぐに受け止めてくれる。

 先に目を逸らしてのはカブ選手だ。

 

「どうやら僕が思い違いをしていたようだ。すまない。マックス君は昔の僕なんかよりずっと強いトレーナーだ」

「いえ、そんな事は」

「試合前だというのに余計な事を言ってしまい、申し訳なかった。もしトーナメントで当たることがあれば、お互い全力でバトルをしよう」

「・・・はい、ありがとうございます」

 

 俺とカブ選手は最後に硬く握手を交わすと、そこで話を打ち切った。ベンチから立ち上がり去って行くカブ選手の背中を眺めながら、改めて負けられないと決意するのであった。

 

 それから数分後に、チャンピオンシップのトーナメント順が発表される。俺の初戦の相手は草タイプのジムリーダーのヤロー選手だ。ちなみにカブ選手は俺と違うBブロックに配置されたのでもし当たるとしたならば決勝戦になる。

 

「ヤロー選手、マックス選手、時間になりましたので移動をお願いいたします」

「「わかりました」」

 

 俺とヤロー選手は、Aブロック一回戦の試合であるため直ぐに試合の時間が来た。試合会場に向かう中、途中の分かれ道でお互い無言でそれぞれの道を歩いて行く。

 薄暗い道が続く中、次第に外の声が聞こえて来る。

 

『さあいよいよチャンピオンシップファイナルトーナメントが開始します!実況と解説はセミファイナルから引き続き、私ことボイスとトゥーク氏でお送りいたします』

『解説のトゥークです。よろしくお願いします』

『はい、お願いします。さてAブロック第1回戦はセミファイナルを勝ち抜いたマックス選手と草タイプのジムリーダーであるヤロー選手です!』

 

 俺は今、たくさんの観客と声援がひしめくスタジアムの中央でヤロー選手と向かい合う。お互いに言葉は不要。ここに立った時点で先に進む勝者は一人のみである。

 二人はそれぞれ会場の所定の位置に着くとボールを構える。そして試合が始まると当時に互いのポケモンを繰り出した。

 

「行け、キレイハナ!」

「バンギラス!」

 

 ヤロー選手の初手のポケモンはキレイハナであった。対して俺は最初っから切り札であるバンギラスを繰り出した。タイプ相性だけ見ればまあまあ不利であるが、相手のキレイハナのレベルは50。弱点を突かれても十分に勝てる計算だ。

 

『始まりましたAブロック一回戦。ヤロー選手のキレイハナに対してマックス選手のバンギラスは悠々と構えています』

『これはセミファイナルの時とは変わりませんね。おそらくあのバンギラスは自分の強さに絶対の自信を持ち合わせているのでしょう』

 

 トゥークの言っていることは半分正解だ。もう半分はバンギラスの悪癖が要因だ。俺のバンギラスは自分より相手が弱いと思うと先制の一撃を譲る受けタイプに回ってしまうのだ。生粋の性根故のスロースターターとでも言おうか。だからこそ今のうちにバトルに出しておいて、後半戦に向けてエンジンを暖めておく必要がある。

 相手からの先制攻撃はこの際、必要経費として割り切る。

 

「ふむ。受けてくれると言うなら存分に利用するまでだわ。キレイハナ”つるのむち”で”まとわりつく”じゃ!」

「はあ!?何だそれは!」

 

 ヤロー選手が指示を出すと、キレイハナは4本のムチを体から出し2本をそのままバンギラスに向けて手・口・胴体に巻き付かせた。そしてもう2本を地面の中を通してから足を拘束する。

 今まで直接的な攻撃を受けて来たバンギラスは、キレイハナの毛色の違う技を受けて困惑する。とは言え、すぐさま自分を拘束している鬱陶しいムチを引き千切ろうと力を籠める。

 

『ヤロー選手、キレイハナのムチによる”まとわりつく”でバンギラスを拘束しました!草タイプのジムリーダらしいオリジナル技です。マックス選手のバンギラスもそこから抜けようとしていますが上手く行きません』

『正面と下からの二方向から4本のムチで拘束してますからね。見た目以上にあれは抜け出しにくいですよ』

 

 オリジナル技!?何だそりゃ、ジムリーダーだからってルール無用すぎるだろう!

 俺がそんな事を考えている内にヤロー選手は次の指示を繰り出す。

 

「キレイハナ、続けて”やどりぎのタネ”じゃ。その後に”ギガドレイン”で体力を吸い取るんだわ!」

「ハナー!」

「ぐ、不味い」

 

 キレイハナは拘束で動けないでいるバンギラスに向けて”やどりぎのタネ”を命中させる。すぐさま芽が出た種はバンギラスの体力を吸い取り始める。さらに拘束しているムチを伝って、キレイハナの”ギガドレイン”が容赦なくバンギラスの体を痛めつけ始める。

 

「暴おおお・・・」

『バンギラス、拘束から抜け出すことができない!キレイハナに容赦なく体力を吸い取られ続けています。これは苦しい展開だぞ!』

『流石はジムリーダーのヤロー選手。しっかりとマックス選手のバンギラスに向けて技を用意していたみたいですね』

(チクショウ。これだからバンギラスはセミファイナルで使用しないで、チャンピオンシップまで温存して置きたかったんだ。セミファイナルでバンギラスを見せてから、数日しか経っていないのにしっかり対策を用意してきやがった!)

 

 バンギラスは先程から本気でキレイハナの拘束から逃れようとしているがなかなか上手く行かない。力を籠めれば体に纏わりつくムチが絶妙な力加減でバンギラスの込めた力のベクトルを散らし抜け出すことを許さない。体重差を利用して綱引きをしようとしても、地面を通ったムチがあるせいでかなり引っ張りずらく上手くいかない。

 そうやって間誤付いている間に、”やどりぎのタネ”と”ギガドレイン”によって貯めた力と体力を吸い取られ続ける。口もムチによって塞がれているため、今は唸り声を上げる事しかできないでいた。

 

 はっきり言ってバンギラスはピンチであった。そんなバンギラスにマックスは叫ぶ。

 

「何やってんだバンギラス!お前の力はそんなもんじゃないだろう!?」

 

 正直に言えば指示とも言えない八つ当たりのような言葉であった。しかしそんな激励が逆にバンギラスの心に火を付けた。

 

「おおオオォォォォ!」

「な、なんじゃ?」

 

 バンギラスは今まで拘束を逃れようとしていた力を全て前進することに集中させる。それを防ごうとキレイハナはムチを操作するが、バンギラスはさらに自分の体重を掛け極端な前傾姿勢を取った

 キレイハナはバンギラスの体を元に戻そうと、結果的に前方に倒れようとするそれをムチで支える形となってしまった。そのことによって柔軟性があったムチがピンと張りつめてしまう。そこにバンギラスはさらに巨万の怪力を込めた。

 

『おーと、バンギラスを拘束していたムチから嫌な音がしております。今にも千切れそうです!』

「おおオオオ!!」

 

 バンギラスは気合の声と共に自分に纏わりついていたムチを引き千切る。

 

「抜けられたのならば仕方なしじゃ。キレイハナ、いったん態勢をー何じゃあれは!」

「暴おおオオォォ!!!」

 

 ヤローは拘束を抜け出すために前へと倒れ込んだバンギラスを見て、立ち上がる時間を利用して次の指示を出そうとした。しかしバンギラスはヤローの予想を裏切り、立ち上がる事をせず手足を高速で動かして這ったままキレイハナに向けて万進する。

 口を開け大声を上げながら地上を泳ぐバンギラス。その異様な姿に思わずキレイハナは行動が遅れてしまった。

 

「轢き飛ばせ、バンギラス!」

「ハナー!」

「しまったわ、キレイハナ!?」

 

 バンギラスはそのままキレイハナに突進。体格差を利用しぶつかると同時にキレイハナをカチ上げる。そして、地面に落ちてきたキレイハナに向けて容赦なく”はかいこうせん”を放った。

 バンギラスは”はかいこうせん”を吐き終わった後、気怠そうにゆっくりと立ち上がる。

 

「キレイハナ!?」

『バンギラスの”はかいこうせん”がキレイハナに直撃!これは・・・駄目です。キレイハナは立ち上がる事が出来ません』

『最初の展開はヤロー選手がリードしていましたが、やはり火力が違いますね。1・2撃で逆転してしまいました』

「良く戦ってくれたわキレイハナ。休んでいてくれなあ」

 

 ヤロー選手がダウンしたキレイハナを戻し次のポケモンを出そうとする。それと同時に俺もバンギラスをボールに戻す。

 

「バンギラス、交代だ」

「暴おおう!?」

「こ・う・た・い・だ!!」

「暴うぅ・・・」

『おっと、マックス選手。ここでバンギラスを手持ちに戻して交代するようです』

『珍しいですね。これでマックス選手は交代権を1度使用したことになります』

 

 公式戦は1回のバトルでポケモンを交代するのは3回までと決められている。今、俺はその貴重な交代権利を使用した。

 バンギラス自体、色々と難があるポケモンではあるが見栄っ張りではない。むしろ性格自体は素直な方だ。そんなバンギラスが肩で息をしている。先程のキレイハナに思ったより体力を削られたしまった証だ。このまま続投すると最悪、バンギラスが倒されてしまう可能性が高いと俺は判断したのだ。

 

 出来る事ならば、もう2~3体はヤロー選手の手持ちを削って置きたかったが俺の見通しが甘かった。バンギラスは不服そうだが、ここはトレーナー権限とした強制的にボールに戻す。

 

「行ってくるんだ、ダーテング!」

「ウインディ!」

『さあ両者2体目のポケモンを繰り出す。ヤロー選手のダーテングに対してマックス選手はウインディだー!』

『相性だけ見ると、炎タイプのウインディが有利ですね』

 

「ダーテング、”にほんばれ”なんだわ」

「?走り回って”かえんほうしゃ”だ」

「バウ!」

 

 ダーテングは”にほんばれ”を行い、試合会場の日差しが増す。対して俺のウインディは初手から加速して、あっと言う間にトップスピードで走り出す。ウインディはダーテングの周りを円状に走りながら、中距離を維持しつつ”かえんほうしゃ”を吐き出す。

 

『ヤロー選手のダーテング、ウインディの攻撃によって火達磨にされています!反撃ができない!!』

『これは良くありません。ともすればこのままでは焼き尽くされてしまいますよ』

「ダーテング、飛び上がるんだわ!」

「ダー!!」

 

 ダーテングはヤローの指示に従い、ウインディの”かえんほうしゃ”の隙間をぬって空高くにジャンプする。ちょうど”にほんばれ”によって強くなった日差しを背に向けるようにして。

 ウインディは飛び上がったダーテングを空中で撃ち落とそうとして、その背に背負った”にほんばれ”の日差しをモロに見つめてしまい目が眩む。

 

「今じゃ、”ぼうふう”!」

「ダー!!」

 

 ダーテングは目が眩んで思わず足を止めてしまったウインディに向かって、羽団扇のような手で”ぼうふう”を繰り出す。それを避けることが出来なかったウインディは体ごと風に攫われ宙を飛ばされる。このまま受け身も取れずに叩きつけられれば大ダメージは必須だ。

 しかし、ウインディは驚異的なバランス能力を発揮して空中で飛ばされているにも関わらずくるりと態勢を立て直し地面や壁に叩き付けられることなく着地する。

 

「なんちゅう体幹の良さじゃ!?」

「ウインディ、お返しの”かえんほうしゃ”だ」

 

 そして今度は空中にて身動きの取れないダーテングに向けて”かえんほうしゃ”が放たれる。ダーテングはそれを避ける事が出来ずにまともに技を貰ってしまった。

 

『ダーテング、ダウン!ウインディの一撃を耐え切ることができませんでした』

「出番だわ、ワタシラガ!」

 

 ヤローの3体目のポケモンはワタシラガであった。このポケモンもウインディにとっては有利な相手である。故にマックスは先程と同様にヤローのワタシラガの周囲を走らせ攻撃の指示を出す。

 くるくるグルグル狂々と加速したウインディをワタシラガは捉えることができない。

 だが―

 

「姿が捉えられんならそれでもいいんだわ。ワタシラガ、”ソーラービーム”で周囲を薙ぎ払うんじゃ!」

「何だと!?」

 

 ワタシラガは”にほんばれ”によって強くなった日差しのお陰で瞬時にエネルギーをチャージ。”ソーラービーム”を放つ。そしてその状態のままグルリと体を一周させた。

 マックスのウインディはいくら速く走り相手にその影を捉えさせれなくとも、相手の技を通り抜けれる訳ではない。

 必然的に技を食らわないようにするには避けなければならない。

 

「”にほんばれ”の狙いはこっちだったか。ウインディ、跳んで避けろ!」

「かかったんだわ。ワタシラガ、空中じゃ身動きが取れん。”リーフストーム”じゃ!」

 

 迫りくる”ソーラービーム”を飛んで回避したウインディにワタシラガの”リーフストーム”が襲い掛かる。さしものウインディも空中で走ることはできない。先ほどのダーテングと同じ窮地に陥ってしまった。

 

「構わねぇ、ウインディ。”リーフストーム”の上を走れ!」

「は?」

 

 ウインディはワイルドエリアを駆け回るライドポケモンとしてマックスに育て上げられてきた。そしてその期待に応えて、ワイルドエリアのあらゆる場所や悪路を走破してきたお陰か、マックスの手持ちの中で驚異的なバランス能力を持つようになった。その結果、足先にほんの少しの接地面さえあればどのような状態・態勢であってもその上を無理やり駆ける事が出来るようになったのだ。

 ウインディは”リーフストーム”の中で渦巻く木ノ葉に器用に足を引っ掛け踏み締めると、そのまま天を駆けた。

 

「”かえんほうしゃ”だ!」

「ッ、避けるんだわワタシラガ!」

 

 空を走るウインディはそのままワタシラガの真上まで跳び、渾身の”かえんほうしゃ”を頭上から叩き込んだ。ワタシラガは避けることが間に合わずにその体を焼き尽くされる。

 

『なんとワタシラガが戦闘不能!?ワタシラガの”リーフストーム”が空中にいるウインディに当たったと思われましたが、倒れたのはヤロー選手のポケモンでした。正直、ここからでも何が起こったのかよく分かりません!』

『マックス選手のウインディが”リーフストーム”を足場?にしたように見えましたが・・・まさか?どちらにせよとんでもない芸当ですね』

 

「良く戦ってくれたんだわ。しかしこのままでは負ける。ダイマックスを使わねば」

『さあヤロー選手、後がなくなって来た。次なるポケモンは何を使用してくるのか』

「行くんだわアップリュー!」

 

 ヤローの4体目のポケモンは草・ドラゴンタイプのアップリューであった。そしてヤローはアップリューをすぐにボールに戻すと叫ぶ。

 

ダイマックスだ!アップリュー、全ての敵を刈り取るんじゃ!!」

『ヤロー選手、ここでダイマックスの解禁だー!』

「戻れウインディ。行ってこいカイリュー」

 

 俺はヤロー選手がダイマックスを使用するのを目撃すると、ウインディをすぐに手持ちに戻しカイリューを出す。

 

『ヤロー選手のアップリューは通常のダイマックス形態とは異なるキョダイマックスへと変貌を遂げました!対するマックス選手はウインディを引っ込めカイリューを選択』

『ダイマックスは・・・しないようですね。キョダイマックスのアップリューに素の状態でどのように立ち回るのでしょうか?』

 

「アップリュー、”ダイジェット”だ」

「オォーン」

「カイリュー、攻撃は後回しで良い。とにかく飛び回れ」

 

 アップリューの”ダイジェット”がカイリューに向けて繰り出される。キョダイマックスに相応しいだけの大質量の一撃であったが、カイリューは技の間を縫うように飛行してこれをやり過ごす。

 続けざまに、”ダイソウゲン””ダイアタック”と技を放つがカイリューは空中を縦横無尽に飛び回りその姿を捉えさせない。

 

『マックス選手のカイリュー、何という飛行能力だ!キョダイマックスのポケモンの技を次々回避していく!!』

『すごいですね。セミファイナルのバンギラスの時でもそうでしたが、マックス選手はダイマックスに対して素の状態でそれを凌げる手段を持つ稀有なトレーナーなのですね』

 

 別段持ち上げられるほどの事ではない。マックスはダイマックスを使わないのではなく使えないだけなのだから。ダイマックスの使用後のポケモンはヘロヘロの状態となったほとんど力尽きたも同然になる。その疲労はすぐに抜けるものではない。

 なのでサブポケモンを登録していないマックスはトーナメントにおいて、おいそれとダイマックスを使用する事が出来ないのだ。だからこそ機動力に優れるカイリューをあのアップリューにぶつけたのだが、今のところそれは成功していると言える。

 

 空を飛び回っているカイリューの様子を窺うが、今だに余力がありそうだ。

 そうこうしている内に、どんどんキョダイマックスの使用時間が過ぎて行く。アップリューも何とかカイリューに狙いを定めようとするが、自分の体の近くを飛び回るカイリューをたびたび見失い下手に技を打てないでいた。

 

「何て事だ。こんな方法でダイマックスをスカそうとするなんて・・・」

 

 そしてとうとうその時がやって来た。アップリューに溜まっていたダイマックス用のエネルギーが霧散し変身が解けてしまう。

 ダイマックス後の後遺症としてアップリューは精魂尽き果てたような状態となる。ダウンこそしていないものの、その場から動くとことすらできそうもない。

 そんなアップリューをカイリューはまだ戦えるのかを確認するように高度を落としつつ見つめる。

 

『あーと、アップリューのキョダイマックスが解けてしまいました。結局ヤロー選手は、マックス選手のカイリューに有効打を与えることができませんでした』

「ダイマックスが敗れたんだわ・・・。アップリュー、良くやってくれたんじゃ」

 

 ヤローは身動きの取れないアップリューをボールに戻すと、右手を握りしめて頭上に向けて腕を上げる。マックスはそれを驚いたように見つめた。

 

『これはヤロー選手、サレンダーです。残りの手持ちはまだありますがリタイヤを選んだようです!』

『ダイマックスが破られてしまった以上、残りの手持ちでは勝利は難しいと判断したのでしょう。中には最後まで戦うべきだと言う人もいるでしょうが、相手と自分の戦力差を冷静に判断するのも優秀なトレーナーの証です』

 

 公式戦のポケモンバトルに置いて、バトルフィールドに自分のポケモンがいない状態で右腕を5秒以上掲げる行為は降参を意味する。ヤロー選手は手を掲げている間、噛み締めるような表情をした後ゆっくりと腕を下した。

 それを見た俺はバトルが終わったと判断して、カイリューをボールに戻す。

 

『チャンピオンシップAブロック第1回戦はマックス選手の勝利に終わりました!』

「いやー完敗なんだわ。強いね!マックス選手は。この後のバトルも僕の分まで頑張ってほしいんだわ」

「ありがとうございます。こちらこそ良いバトルでした」

 

 実況の勝利宣言の後、俺とヤロー選手は改めてフィールドの中央で向き合い握手を交わす。

 序盤こそ危ない部分があったが、終わってみれば俺の勝利ではある。しかし楽観視はしていられない。レベル差が約50もあるのにバンギラスを落とされ掛けたのだ。

 ジムリーダーが相手では戦術次第でレベル差をひっくり返される可能性があると言うのが、今回のバトルで良く分かった。

 

 この勝利に浮かれず、油断せずに次の第2回戦に挑もう。そう考え気を引き締める俺は、とりあえずチャンピオンシップの第1回戦を突破することができたのだった。

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