カンストエンジョイトレーナーは頂に届く夢を見るのか   作:流々毎々

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気が付いたら8ヶ月の時間が流れていました。申し訳ありません。


修羅が挑む王者の頂き

 

”ぅおおおおおおおおおオオオオオオ!!!!!!”

 

 日も暮れた暗闇の夜の時間。チャンピオンシップのメインイベント。VSチャンピオン(ダンデ)戦。今この瞬間、ガラル地方の全ての住民は老いも若きもダンデの活躍を期待し熱気の渦の中にいた。

 そんな中、俺ことマックスは今シュートシティにあるバトルスタジアムのバトルステージに繋がる通路に立っている。らしくない緊張を抱きながらステージから聞こえて来るバトルを見に来た観客の声援をBGMに、こつ、こつ、と現状を噛み締めるように電灯で照らされただけのその通路をゆっくりと歩く。まるで回帰したかのように、頭の中で溢れ出るこれまでの歩んで来た軌跡を思い出しながら。

 

 俺がこのガラル地方に転生して三十数年。過去に挫折と苦渋を経験しながらも他の挑戦者(ライバル)たちを退け、とうとうここまでやって来ることが出来た。

 最初は軽い気持ちだった。よく考えもせず目指さば何とかなるだろうと舐め切った見切り発車。そして当然の如く厳しい現実(試練)の前に挫折を味わった。

 

 しかしそれでも頂を目指し道半ばで蹴落とされようとも、それを諦めきれず足掻き続けた。

 きっともっと楽な道はあっただろう。俺の持つチート能力(ポケモンのレベルや個体値を見抜く力)を使えば別の人生を歩む事だって出来たかもしれない。

 

 なれども俺はあり得たかも知れない未来を蹴り、未だにここにいる。最強の存在を決める、この勝負の世界に。

 

「成れると思ったんだ。特別な何かに。成りたいと思っちまったんだ・・・」

 

 前世ではごく普通に生きて、平凡に働いて、そして気が付いたらその人生に幕を閉じていた。可も無く不可もないその生き方に何か負い目を持っていた訳ではない。ただ前世では熱狂できる何かには出会えなかった。漫画や映画(身近なファンタジー)のような熱く滾る何かを持ち合わせる機会は終ぞ訪れなかった。

 

 だからこそこのポケモンの世界に転生して初めて出会ったこの燃え滾るような衝動を捨てる事が出来なかった。故に俺は頂を目指した。そしてそれは今、俺の目の前にある。後一歩。たった一歩踏み締める事が出来れば手が届く場所まで俺は上り詰めることが出来ている。

 

「後は勝つだけだ。ダンデに・・・、最強無敗のチャンピオンに!」

 

 俺は自分の中にある熱を吐き出すようにその言葉を口にする。同時にここまで俺について来てくれたパートナーたちの様子をボール越しに観察する。

 

(大体目算で、8割くらいってところか・・・)

 

 ここに到達するまで俺と手持ちのポケモンは数々の強敵たちと戦い打ち勝ってきた。その消耗は決して軽いものではなく、数時間の休憩を挟んだからと言って全て拭えるものではない。その戦力は全体的に見て2割減と言ったところだ。

 万全の状態とは口が裂けても言えない。しかし――

 

「それが何だってんだ。こんなのワイルドエリアじゃよくあったことだろう」

 

 マックスは手持ちのポケモンをカンスト(レベル100)にするために約15年ほどの歳月をワイルドエリアで過ごしていた。レベルを上げる為、より強力な野生のポケモンと戦う為、ポケモン委員会の救助スタッフも入り込まない奥地でサバイバル生活をしながら戦い続けて来た。

 そんな生き方をしていれば自然と疲労が溜まり万全の状態を維持するのは難しくなってくる。

 

 時にはそんな弱り切った状態で縄張りのヌシポケモンや狂暴なポケモンの群れと会敵しピンチに陥ることもあった。脇目も振らず逃げる事もあった。汚泥にまみれながら身を隠しやり過ごすこともあった。さらに追い打ちとばかりに、ポケモンも何も関係ない急な天候の変化は天然の猛威となってマックスたちを苦しめた。

 

 それでも最後に生き残り打ち勝ったのはマックスと相棒のポケモンたちだ。その経験とワイルドエリアの環境はマックスとポケモンたちの心身を徹底的に鍛え上げてくれたのだ。

 

 つまりこんな状態で戦うのはマックス達にとって慣れっこなのである。

 故に――

 

「勝てるさ、俺たちならきっと・・・」

 

 マックスの言葉に呼応するかのように6つのボールが揺れ動く。それを一瞥したマックスは前を見る。通路の出口はもう目の前だ。バトルステージの入り口から今歩いている通路に漏れ出す光に向かって、マックスは己の中にあった緊張と不安を踏み切る。

 

 人生最大の山場に今、マックスたちは挑む。その胸に必勝を誓って。

 

――――――――――

―――――

―――

 

『やあやあこのシュートシティの会場にお越しの皆様も、そうじゃないお茶の間の皆様もこんばんわ!おそらくはガラル中の皆が待ち望んでいたこの一戦。VS最強無敗のチャンピオン・ダンデ戦がついに始まります!!実況は朝の予選から変わらずこのボイスが担当致します!』

『いやー、盛り上がっていますねぇ。同じく解説のトゥークです』

『ガラル地方のチャンピオン。ダンデの通算9度目の防衛戦。9年前から守り続けて来たこの王者の座、今年もチャンピオン・ダンデは死守する事が出来るのでしょうか!?彼は今、バトルスタジアムの中央でチャレンジャーの登場を待っています!』

 

 チャンピオン・ダンデ。彼はこのガラル地方にてチャンピオン戦の最多勝記録の持ち主だ。あらゆるチャレンジャーを退け、毎度、華麗な勝利を重ねる彼の姿をいつしか人は最強の王者と讃えるようになった。19歳と言う若さでありながらその貫禄は既に若者のそれではない。

 しかし圧倒的人気とカリスマを以て頂点に君臨するダンデの今の心境は決して穏やかなものではなかった。

 

 だが彼はそれを微塵も表に出さず、バトルステージの中央で静かに瞳を閉じて挑戦者(マックス)を待つ。そしてその時はついにやって来る。

 

「ッ」

 

 ぶわり、とダンデの背中に戦慄が走る。ダンデはそれを顔に出さぬようにゆっくりと瞼を持ち上げて、マックスがバトルステージに登場する通路の入り口を見つめる。こつこつ、と一定のペースを保ちながらこちらに近付いてくる一人のポケモントレーナー。

 

 もし強者にオーラと言うものが存在するのならば彼のそれは特大だ。成人しているダンデでも見上げるような身長に筋骨をしっかり纏った肉体。芯が通った歩き方は強大な肉食獣をダンデに幻視させる。

 そして何よりも強く輝いているのがその眼光だ。他のことなど眼中にないと言わんばかりに、その目はただダンデの事だけを射抜く。

 

 ダンデが生きて来た中で、間違いなく最強のポケモントレーナー・マックス。一部の者たちからはその異様な戦い方から魔王と呼ばれ恐れられている存在。

 それを証明するかのように、先ほどまで会場中で声援を上げていた観客の声が消えていく。まるでマックスの纏う異様な雰囲気に飲まれるかのように。

 

 静寂が支配する中で、最強無敗のチャンピオンと最凶のチャレンジャーがバトルステージの中央で向き合う。彼らを見守る観客たちを支配するのは緊張だ。まるで神聖な儀式を見ているかのような、声を上げれば餓狼に嚙みつかれてしまいそうな、そんな緊迫した思いが彼らを縛り付けた。

 

 異様な光景であった。絶対に盛り上がる事が約束されているチャンピオンシップの最後の戦いに置いてありえない状況。それは現地にはいない、映像越しで見ている者たちにまで伝播する。大げさではなく、この時、この瞬間だけガラル地方から人々の音が消える。

 

 そんな音の無い世界でダンデは口を開く。

 

「オレの試合はいつも満員になる。だがスタジアムの皆がこれほど静寂になるのは初めてだ。きっと皆が君の強さを実感しているんだろう。そのことにオレは何も言えない。事実だからな」

 

 ダンデの静かだが確かに聞こえる力強い言葉がスタジアムに木霊する。 

 

「でも、これだけは言える。チャンピオンってのはそう言うんじゃない。最強って言うのはこう言うんじゃない。なぜなら王者の戦いって言うのは常にエンターテインメントだからだ!」

 

 ダンデの熱を帯びた言葉が人々に轟く。それはあたかもマックスによって凍り付いた、彼らの心と体を溶かすかのように染み渡る。

 

「皆の応援に支えられ期待に応えるからこそ、頂点は何よりも、誰よりも光り輝く事が出来るんだ!」

 

 そんなダンデの熱に感化され、誰かが頑張れと言葉を溢した。それはやがて二人、三人と増えて行く。

 

「故にオレは負けないッ、オレを支えてくれる皆がいる限り、応援をしてくれる仲間がいる限り、オレは生涯無敗のチャンピオンであり続ける!!」

 

 声援はやがて応援になり、その応援は熱を持った絶叫に代わる。そうとも、ガラルの最強のチャンピオンが、無敗のダンデが負ける筈がない!

 そんな確信を得た観客の彼らはいつもの調子を取り戻す。

 これこそが王道を進む王者(ダンデ)が生まれながらに持ち合わせているカリスマだ。

 

 ダンデは高らかに利き腕を空に向かって掲げると、大きな声で自分を見る全ての者たちに宣下する。

 

「さあ、皆。これから始まるチャンピオンタイムを楽しめ!バトルだ。チャレンジャー・マックス!!」

 

 王者のその言葉にマックスは静かに返す。

 

「あんたの時代を終わらせに来た。その玉座、頂くぞ!チャンピオン・ダンデ!!」

 

 互いに啖呵を切った両者はボールを構える。後に、史上最強の対決と謳われることになるポケモンバトルが今、幕を開けた。

 

――――――――――

―――――

―――

 

「行け!ギルガルド」

「やってこい、カイリュー!」

 

 バトルステージの中央で両者は同時にポケモンを繰り出す。チャンピオンのダンデはギルガルドを。チャレンジャーのマックスはカイリューをバトルフィールドに出す。

 

 ダンデのギルガルドのレベルは62。マックスはチート能力を使いそれを確認する。

 

(よし、高レベルではあるが予想の範囲内だ!)

 

 マックスがこの転生したポケモン世界に置いて、一番避けたいことは原作のゲームと隔離した戦闘力を持たれることだ。

 マックス自身そこまで優れたバトルセンスを持ち合わせていな事も相まって、高レベルのポケモンを保持してるプロリーグの有段者(ポケモントレーナー)はそれだけで天敵となりうる存在だ。

 もしかしたらダンデの手持ちのポケモンは、剣盾のゲーム以上のレベルに達している可能性だってありえたのだ。

 

 だがマックスの眼前に映るギルガルドは原作と変わらないレベル。ひとまず、マックスの心配は杞憂に終わった。

 

「カイリュー、”りゅうのまい”をしながら飛び上がれ!」

「ギルガルド、”キングシールド”だ!」

 

 カイリューはマックスの指示に従い、上空に飛翔しながら”りゅうのまい”を使用する。ゲームに置いてはこうげきとすばやさの強化技である”りゅうのまい”も、現実仕様になった弊害か、基本的にポケモンが使用する積み技はただの全身を強くするバフ効果の技となっている。

 細かく数値化すれば、ポケモン毎に強化されやすい能力値の傾向があるらしいのだが、基本的には全身強化のお手軽技だ。

 

 そんな積み技(”りゅうのまい”)を使うカイリューは、己の中で漲る力を感じながら絶対的優位な場所を陣取りに掛かる。既にダンデのギルガルドは遥か下方。カイリューから見ればスイカ程度の大きさとなっている。

 正直、今までのバトルでマックスは積み技を使う事はほとんどなかった。レベル100個体の火力であればそれを使うより脳筋フルアタックでぶん殴った方が早かったからだ。

 

 だが相手は最強無敗のチャンピオン・ダンデだ。念には念を入れた方が良いに決まっている。

 対してダンデはギルガルドを防御形態に移行させる。シールドフォルムとなったギルガルドは前面に盾を構えてどしん、と上空へ飛翔するカイリューとは対照的にその場に居座る。

 

(ダンデの狙いは何だ?ギルガルドも強いポケモンだが流石に上空に居座るカイリュー相手に有効打(届く技)は無い筈だが・・・)

『マックス選手のカイリュー、さっそく空高く舞い上がりいつもの定位置に陣取ります』

『上空と言う陸上にいるポケモンでは手が出せぬ空間に居座る。シンプルが故に強力な戦術です。チャンピオン・ダンデのギルガルドと言えど、流石にあそこまで高空度にいるポケモンは技の射程外と思われますが・・・、ポケモンの交代は行わないようですね』

 

 てっきり同じように空を飛べるドラパルトかリザードン当たりに変えて戦うのではないかと予測していたマックスは、ポケモンの交代を行わないダンデを見て訝しむ。

 

「下手な考えは休むに似たり、か。よし、カイリュー攻めるぞ!」

「来るぞ、ギルガルド。踏ん張ってくれ!」

「ギャオ!」

「オォーン」

 

 ギルガルドとカイリューはそれぞれの主人の指示に従い行動を開始する。

 

 上空に陣取ったカイリューは全身に漲るパワーを貯め淡く発光する。それは情け容赦のない高威力の技を打ち出す前兆の姿だ。

 そんなカイリューを視界に捉えながら、ギルガルドはダンデの言葉通りに守りの構えを崩さない。カイリューの技に耐えるためか全身に力を込めるギルガルド。その姿はシールドフォルムの状態も合わさって全身を鎧で包んだ重装甲の戦士を幻視させる。

 

『まさかチャンピオン・ダンデ。マックス選手のカイリューの技を受けきるつもりか!?』

『これは意外な選択ですね』

 

 このバトルを見ている誰もがダンデの選択を無謀だと思った。あのカイリューが繰り出す技の破壊力はただ守りを固めたからと言って耐えられるものではない。

 まさかギルガルドを無駄死にさせるつもりか。そんな思いに支配された観客をよそに、カイリューは全身に溜めた力を開放する。

 

 ”りゅうのはどう””はかいこうせん”、そして止めの”りゅうせいぐん”

 一つでも十分高威力の技をほぼ三つ同時に使い、ギルガルドにそれらを向けて繰り出す。手加減などしない。叩き潰す。そんなカイリューの強烈な思いが宿った技は、期待に外れぬ破壊力を見せた。

 

 まず体に纏ったオーラを”りゅうのはどう”として打ち出しギルガルドの交換などの隙を与えずに潰す。次に”はかいこうせん”を放ちギルガルドの視界を特大のエネルギー破で埋め尽くた。そして最後にダメ押しの”りゅうせいぐん”がマックス達のいるバトルフィールドに降り注ぐ。

 

 文字通り、数多の隕石の落下はカイリューの眼下の視界に映る全ての物を破壊しつくした。やり過ぎた破壊行為は技の影響によって作り出された噴煙によって、一時的に人々の視界を塞ぐ。

 しかしマックスのバトルを幾度も目撃してきた観客たちは知っている。この煙が晴れた後に残っているのは毎回いくつものクレーターが出来上がったバトルフィールドと倒れ伏した相手のポケモンの姿だと。

 

 まさしく爆撃ジャンボジェットマシーンである。煙に覆われているせいで未だにギルガルドの姿は見えない。だがあれほどの高威力の技の連撃を受けて無事で済む訳がない。

 おそらくあの煙が晴れた後は、今までの対戦相手のポケモンがそうであったように、戦闘不能となったギルガルドが目に映るのであろうと多くの者が想像した。

 

 そんな観客を尻目に、カイリューは黒煙に隠れたギルガルドの姿を確認するようにゆっくりと今いる上空から高度を落とす。その拍子にふと主人であるマックスの姿が目に入った。

 

 カイリューとマックスの出会いはそれこそ十年以上も前の話だ。元々カイリューはこのガラル地方の出身ではない。

 まだカイリューが野生のミニリュウであった頃。故郷で生活していたミニリュウは普段見慣れぬ美味しそうな食べ物を食してしまい深い眠りに付いてしまった。

 

 次にミニリュウが目を覚ましたのは冷たく頑丈な作りで出来た鉄格子の檻の中であった。人間が運転する車でどこか知らない場所へ運ばれて行く中で、このままではとんでもない事が自分の身に降りかかると本能的に感じたミニリュウは、自分を運んでいる者たちの隙を付き逃げ出す事に成功した。

 そこからどのように迷い、走ったのか。ミニリュウは気が付けばガラルの地へ足を踏み入れていた。

 

 ガラル地方にたどり着いたミニリュウに待っていたのは厳しい野生の洗礼であった。物珍しい自分を追い駆け回すトレーナーたち。見慣れぬ自分(外来種)を警戒し攻撃してくる他の野生のポケモンたち。そして冗談のように急激に変動するワイルドエリアの気候。

 その全てがミニリュウの身体に牙を向いたのだ。

 

 耐えて、隠れて、逃げ続けたミニリュウもいくばかの日数が経つ頃にはすっかりボロボロの状態となり弱り切っていた。そしてボロボロに傷付いた肉体は次第に精神にも影響を及ぼすようになる。

 何故、自分がこんな酷い目に合わなくてはいけないのかと。自分が一体何をしたのかと。

 

 次第に恨みや怒りをその内に溜め込むようになったミニリュウは従来の温厚な性格を塗り潰し、餓狼の如き狂暴な性格へと変貌してしまった。

 

 そんな時だ。ミニリュウがマックスに出会ったのは。

 

 カンストを目指してワイルドエリアでレベルアップ修業の真っ最中であったマックスは、ボロボロのミニリュウと相対し直ぐに治療をしようとした。

 しかしミニリュウは救いの手を差し伸べて来たマックスのそれを払いのけた。

 

 さもありなん。ガラルの地に来てから受けた数々の辛い体験が、ミニリュウに他者を信じ頼る心持ちをすっかりと消し去ってしまったのだ。

 

 故にミニリュウは目の前に現れたマックスを敵と判断した。

 

 かっと血走った眼を見開いたミニリュウは、そのままマックスに向かって声を上げながら襲い掛かる。己が受けた理不尽をやり返すために。野生のポケモンによる人への攻撃。

 

 悲劇が起こる――、事はなかった。

 

 結果から言えばミニリュウは返り討ちにあったのだ。詳しくは覚えていないが背中に何か(・・)が取り付いた後、息が苦しくなったと思った次の瞬間にはミニリュウの意識は落ちていた。

 再び意識を取り戻したミニリュウの目に映ったのは、夜の帳が下りた自然の中で薪の火にあたり座り込んでいたマックスの姿であった。

 

 その姿をぼうっと眺めていたミニリュウの視線に気が付いたのか、マックスはミニリュウに語り掛ける。

 

『乱暴な真似をしてすまなかったな。けど治療をするにはああするしかなかったんだ』

 

 そんな言葉を聞き終わった後にミニリュウは気付く。自分の体に薬などで治療が施されており、包帯も巻かれている事に。また柔らかい人間用の寝袋の上で寝かされていることを。

 

『腹、減ってないか?野菜とジャガイモをぐつぐつに溶かしこんで調味料を混ぜただけのスープだが・・・、傷付いた体に良く効くぞ』

 

 そう言ってマックスはミニリュウに向かってスープが入った器を差し出す。食欲をそそる美味しそうな匂いがミニリュウの鼻孔をくすぐった。

 口の中で唾液が溜まり始める。だがミニリュウはそれを食べるのを躊躇する。見知らぬ食べ物のせいでこの地に迷い込んだミニリュウにとって、それは警戒するには十分過ぎるものであった。

 

『大丈夫だ。俺はお前に何もしない』

 

 それはただの言葉であった。何の保証もない音の反響。それでもミニリュウは気が付いたら差し出されたそのスープに口を付けていた。

 

 別にマックスの言葉を心から信じた訳ではない。ただ、自分はもう疲れていたのだ。初めて味わった、このガラル地方での凄惨な生活に。

 故にもうどうにでもなれとマックスの差し出すスープを一思いに食したのだ。

 

 そのスープはとても美味しかった。

 

 それから一か月経ち、ミニリュウの体調は回復した。それまでマックスはずっとミニリュウの看護に付っきりであった。

 

『よーし、快調だな。もうあんな大けがを負うドジを踏むんじゃないぜ』

 

 すっかり元気になったミニリュウの姿を見てマックスは安心する。それと同時に本来の目的である、レベルアップ修業に戻るためにミニリュウに別れの言葉を告げる。特に未練も無くミニリュウの元から去ろうとするマックス。そんな彼をミニリュウは追い駆けた。

 マックスの目の前に移動したミニリュウは、黙って彼の行く手に立ち塞がる。

 

『ん?どうしたよ、ミニリュウ』

 

 ミニリュウはマックスに付いて行くことを決めたのだ。別段、治療を受けた事で絆された訳ではない。今でも人間に対しては消化仕切れない負の感情がミニリュウの中にはある。これから生きていく中で、人の事を心から信じる事はもう出来ないだろう

 しかし今も尚、自分に対してまったく興味を抱いてこないマックスの行動はミニリュウにその一歩を踏み出させる方針にはなった。

 

『俺と一緒に行きたいのか?うーん、そりゃあミニリュウの最終進化は600族のカイリューだから仲間にしたいけどさ。俺はバカみたいな方法で今、天辺(頂き)を目指してるんだ。だからさ、俺の所に来るのはあまりおすすめしないぜ?』

 

 何だったら他の良いトレーナーを紹介しようか?と提案してくるマックスの意見にミニリュウは首を振る。マックスの言う良いトレーナーとは言葉の通り心優しい良い人間なのかもしれない。マックスの仲間になるのはミニリュウにとってベストな選択では無いのかもしれない。

 

 それでもミニリュウが付いて行きたいと思ったのはマックスなのだ。

 

『オーケー。そこまで意思が固いなら歓迎するぜ。よろしくな、ミニリュウ!』

 

 こうしてミニリュウはマックスの仲間になった。その後の事は言うまでもない。レベルアップ(カンスト)修業と言うとんでもない苦行に付き合わされた時は主人(マックス)の正気を疑いもしたが、それを経たからこそ今の自分がいる。弱かった頃の自分では考えられない程の強靭な肉体。半ばあの頃の自分から生まれ変わったとさえ思っているカイリューは、マックスの長年の宿願を叶えて上げたかった。

 

 死に掛け、襲い掛かった自分を助けて強力なポケモンに育て上げてくれたマックス。気恥しさもあり今更面と向かっては言えないが、カイリューはマックスに感謝をしていた。

 自分が受けたこの恩を返したい。そしてマックスの喜ぶ姿をこの目に映したい。自分を拾ったことを後悔させたくない。

 カイリューの行動理念はこのように至ってシンプルなものであった。

 

 だからこそ自分はこのバトルを圧勝しなければならない。他のマックスの手持ちと違い、カイリューは飛ぶ事の出来ないポケモンを一方的に葬れる術を持ち合わせている、明確に有利な存在だ。つまり自分が活躍すればするほどマックスのその願い事に近付くのだ。

 

 あと何体かなどとは言わない。残りの全ての対戦ポケモンを倒す。そんな覚悟を決めるカイリューの耳にダンデの言葉が響いた。

 

「今だ、ギルガルド!」

「ッ、避けろカイリュー!」

 

 舞い上がった噴煙で覆われたバトルフィールドに光が瞬く。それが何なのかを認識する前に、カイリューの体を光り輝く剣が貫いた。




次でダンデ戦が終わると言ったな。あれはウソだ。

フルパのバトルを書こうとするとどうしても長くなりそうだったので分ける事にしました。それに伴い、サブタイトルの方もちょっと前に変更してます。
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