これは、かつての戦いを戦い抜いた、最後の勇者のお話

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青き勇者の隠居生活

「勇者パァァァンチ!」

 

 天の神との300年余りにも及ぶ長き戦いは、人を信じる事を決めた神樹の力と、今まで戦い、散っていった勇者たち(花たち)、そして仲間たちの想い(«たましい»)を込めた少女の拳で幕を閉じた。

 

 その時私は、長年の悲願が果たされた事や久しぶりに本物の青い空を見た感動、そして…神樹様の1部となっていた仲間(友奈)がもうこの再び取り戻された世界のどこにも居ないことを悟り、泣いた。

 こんなに泣いたのはひなたや夫に先立たれた時以来だろうか。

 

 そうして涙を流しながらも、せめて友奈がここに居た証が少しでも欲しくて、花びらとなって消えていく友奈(牛鬼)の最後のひとひらに触れる。

 

 

 すると、頭の中に覚えがない/懐かしい記憶(花結いのきらめき)が流れ込んできた。

 

 

 

 かつて共にバーテックスと戦った仲間たち(のわゆ組)

 

 

 現実では顔を合わせる事さえ無かったが、同じ時代を共に戦った勇者たち(他地方組)

 

 

 勇者が必要とされなくなった時代に、世界の危機を未然に防いだ愛弟子達(象頭組)

 

 

 その小さな体躯に世界を背負い、たったの3人で戦った少女たち(わすゆ組)

 

 

 例え勇者と呼ばれ無くとも、世界を支え、たった1人の犠牲も出さずに戦い抜いた勇者たち(くめゆ組)

 

 

 戦う力は無くても、勇者達を支え続けた巫女たち

 

 

 そして自分の好きなことや夢を叶えることが不可能になりそうになっても誰かの事を思って戦い、遂には神に人間の可能性を認めさせた最後の勇者たち(ゆゆゆ組)

 

 そんな彼女達とともに神樹様の試練である造反神と戦ったり、新たな仲間たち(ふゆゆ組)と共に中立神に打ち勝ったり、そして…そして、ただの中学生としてワイワイ遊んだり、ボランティア活動に励んだり、誕生日をめいいっぱい祝った、そんな幸せな(残酷な)記憶。

 

 忘れてしまっていた、どこまでも暖かな思い出。

 だが…だが、今更こんなものを思い出して何になる!?

 

 かつての仲間たちはもう居ない…美佳も、安芸さんも、球子も、杏も、友奈も、千景もひなたも!みんな、みんな私を置いていってしまった!

 

 四国の外で戦っていた歌野も、水都も、おそらく雪花も棗さんも、バーテックスによって殺された…

 

 300年という長すぎる時間の中でリリエンソールも、柚木も、蓮華も、桐生も、赤嶺も、天馬も、法花堂も…そして銀も!

 

 みんな、みんな死んでしまった!

 

 

 こんな姿()になってまで生き延びて、私は結局なにが出来た?

 

 結城が御霊に触れてさまよっていた時も、結城が天の神から東郷を取り戻しに行った時も、東郷が結城の神婚を防ぎに来た時も、全て私はただ見守り、背中を押しただけだった。

 

 いつも私は、烏の姿とはいえ自発的に動けたのに、自分でなにかを成すことが出来なかった。

 

 そんな私が、私だけが生き残り、残ったのは幸せな思い出(誰も知らぬ記憶)この身体(からっぽのこころ)だけ。

 

 私はこれから、なにを頼りに生きていけばいいんだろう

 

 胸の中には、ただただ空虚な想いだけが残った。

 

 

 

 

 

 それから数ヶ月。

 私は神樹様がいた頃と変わらず、四国の空を飛び回っていた。

 以前と比べて変わったのは、少しだけ讃州中学の周りに向かう頻度が上がったくらいだろうか?

 

 いくら向こうが私の事を覚えて居なくても、私にとって彼女たちは唯一残った仲間なのだ。

 

 何度も様子を見ては、皆元気でいることに安心し、そしてこころにぽっかりと空いた穴を自覚する。そんな生活が続いた。

 

 

 

 ある日、また讃州中学の近くを飛んでいると、随分と懐かしいモノが目に入ってきた。

 それは…

 

「鍬、か」

 

 それはかつての壁外調査の際見つけたもの。白鳥歌野と藤森水都という少女達が確かにそこにいたと示す証拠(遺品)

 

 昔、不安定な通信で、お互いに少しでも日常を思い出して過ごそうと、蕎麦とうどんのどちらが優れているかの論争をした事や、あの世界(ゆゆゆい)でホワイトスワン農場で畑仕事の手伝いをした事などを思い出して、寂寥感でいっぱいになる。

 

 もはやあの鍬を除いて、この世界に歌野たちがいた証は残されていないのか…

 

 そんな事を考えた時、まだ2人が生きた証があることと、それを守り、受け継げるのはいま私しか居ないことを思い出した。

 

 教室を覗くと、なにやら(新部長)がその場を収めているのが見えた。

 

 …もう、私が見守らなくても勇者部は大丈夫だな。

 

 そもそも、神樹様が人間を信じたからこそ天の神を倒すことが出来たのだ。なのに、私がいつまでも仲間の事を心配して四国(壁の中)から出ないというのも変な話だ。

 もう勇者部は、仲間たちは前を向いて歩み始めている。ならば私も、私しか出来ないことをやるためにこの命を使おう。

 

 

 

 私は諏訪に向かって飛び立った。

 

 農業王であり勇者の白鳥歌野と、彼女の野菜を全国に届けるという夢を持っていた巫女、藤森水都が残した、希望の種を育てる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数年後。

 

 奇跡的にバーテックスの侵略から難を逃れた中部地方の人々の間である噂が流れた。

 

 それはかつて勇者がいた諏訪湖のほとりの農場を、1匹の青い烏が管理しているというもの。

 

 人々はそれを面白がり、農業王が残した種が育てられているその農場に、勇者の名前を少しもじってこんな愛称をつけた。

 

ブルースワン(青き水の白鳥)農場と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …なお、しばらくして大赦の調査隊が諏訪にたどり着いた際に、共に同行していた沖縄の勇者である古波蔵棗の姿を見た烏がぽかんと口を大きく開けて「カァッ⁉️」となんとも間抜けな声で鳴いたという話もあるが…それは特段語るようなものでも無いだろう。

 




 はい、という事で私が書いた初めての短編、面白かったでしょうか?

 この小説のテーマは「生き残ってしまったただの少女、乃木若葉を書く」事です。

 勇者であった頃は見せなかった「弱さ」と、それを乗り越えて、新しい生きがいを見つける「強さ」を描けたら良いなと思っています。

 最後に、5年間もの長きに渡って素晴らしいゲームを配信してくれたゆゆゆい運営さん並びに、このような機会を作ってくれた彼岸桜さん

本当にありがとうございました‼️

この小説を気に入ってくれた方は拙作、「弓有香織は勇者をやめた」も読んでくれると幸いです。また、他の方の作品もTwitterで#ゆゆゆいありがとう二次創作祭と検索すると出てきますので、そちらも是非見てみてください‼️

それでは、ご読了ありがとうございました‼️

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