サクっと読めるものを目指して書きました。
「おい藤田ぁ~。テメー、チョーシぶっきこきすぎだべ? モノには限度があるっつーかよぉ~」
「ンフフフ、藤田さぁ~~ん。貴方にやられた全治二ヶ月の怪我、身体は治りましたが、私の心はまだ癒えていませんわよぉ~」
「ウチのモンが何人お前に病院送りされたと思ってやがる! 今日こそはぶっ殺してやる!」
「ふっ、藤田くん。出る杭は打たれるというだろう? 君は、余りにも目立ちすぎた」
その光景は、ある意味、壮観であった。
この街の不良とレッテルを貼られた者達が、一同に会している。その総数、100には届くであろう。
彼らは、たった一人の男に恨みを持つ者達だった。
「ケッ、雑魚共が。お手々繋いで協力しあえば、俺を倒せると思ってんのかぁ?」
余裕の表情を浮かべ、首をコキコキとならす。彼に喧嘩で勝てる者は、この街には居ない。
男の名前は藤田 猛。最強の不良と呼び声の高い、その男。
「さっさとかかってこいやぁ! 15分で瞬殺してやるぜぇ!」
割とリアルな時間をあげ、啖呵を切る藤田。それをきっかけに、藤田へ群がる不良達。
喧嘩に明け暮れる毎日、それが彼の日常であった。
「ふぅ~~~、流石に疲れたな。学生服がボロボロだぜ」
そうボヤきながら、近年廃れ気味の商店街を歩く。
結果は藤田の快勝であった。また、彼は喧嘩における伝説を作ってしまったのである。
「ん? あれは」
幼稚園児ぐらいの年であろうか。少年がアイスクリームを片手に、小さく泣いていた。
(おいおい、服にべっちょりとアイスがついちまってるぜ)
だが、泣いている原因はそれではない気がした。見れば、少年の周りには親らしき人物がなかった。
(はぐれちまったのか。ちっ、他の大人は何やってんだ)
そう毒づいて、
「おい、坊主――」
そう、声をかけようとすると、
「大丈夫? 僕? お母さんとはぐれちゃったの?」
と、一足先に、藤田と同い年くらいの女の子が、少年に駆け寄っていた。
膝をついて、服についたアイスをハンカチで優しく拭き取ってあげている。
見れば、その制服は藤田と同じ高校のものだった。
「どこかで見たことあるような……」
「あれ、藤田君?」
二人の横で突っ立ている藤田に気づき、彼女の方が、先に声をかけてきた。
「知ってんのか、俺のこと」
「あはは、私、藤田君と同じクラスなんだけどね」
「む、そうだったか」
どうも、藤田は人の顔と名前を覚えるのが苦手である。
「えーと、それよりも。この子の親を探さなきゃ」
そう言って、女の子は立ち上がり、
「おーい! どなたか、この子の親御さんは居ませんかー!?」
大声を張り上げる。
しかし、大人しそうな外見に関わらず、大胆なことをするものだ、と藤田は関心する。
(仕方がねぇな)
藤田は少年の股に頭を入れ、担ぎ上げた。肩車だ。
「おら、お前の母ちゃん探せ」
「あ、あの、違うの」
ここで初めて、少年が口を開く。
「あ?」
「僕の家、ここのすぐ近くだから、お母さんとは別にはぐれてないんだ……」
「な!? それを先に言えーー!! じゃあ何で泣いてやがったんだ!」
「アイスが、服についちゃって……お洋服、汚しちゃったから」
「結局アイスかよ!?」
藤田と女の子の早とちりであった。
その後、もうアイスをひっくり返すんじゃないぞと、軽く注意をして、少年を見送った。
「ふぅ、いらん事しちまったな」
「あはは、ちゃんと、あの子のお話聞かなきゃだったね。――それよりも、藤田君って優しいんだね。もっと怖い人だと思っていたけど」
そう言って、女の子は微笑む。自分に向けられたその笑顔に、少しドキリとする。
「ふ、ふん。ガキには甘いんだ俺は。っつーか、まだお前の名前聞いていなかったな」
「もう、本当に私の事知らないんだね。そりゃ、地味な方だとは思うけど……田所 瑠奈だよ」
田所 瑠奈――そう言えばと、彼女に対する記憶が思い出される。
クラスでは大人しく、目立たない彼女。だが、花瓶の水を定期的に変えてやったり、クラスで飼っているハムスターに、生き物係でもないのに、影で献身的に世話もしていた。
(優しい奴、だよな)
多分。
面と向かって話したことは、今までなかったが。
今日の、少年に対する行為で、それは確信に近づいたと思う。
(む、よく見れば、可愛い?)
化粧気がなく、割と地味な顔立ちではあるが、でも確かに可愛い部類に入ると思う。
「な、なぁ? お前、今付き合っている奴いんのか?」
「へ? なに突然? いないけど……」
場の流れを無視した発言に、多少面食らっているようだ。
「じゃあさ、俺と付き合わないか?」
一世一代の告白。割と軽いノリで。
しかし、男、藤田 猛。人を好きになったのは生まれて初めてであり、この街一番の不良と言えども、その心は純情そのものチェリーボーイである。
「え、な、なんでそうなるの!? 私の名前も顔も知らなかったのに!」
「い、いや、今思い出したんだよ! お前が優しい奴だってことをよ! なんかチマチマと奉仕活動的なことを飽きもせずしてる今時珍しいメガネとおさげが似合う図書委員的な奴だってことを!」
「え!? ほ、褒めているの? メガネじゃないし、図書委員でもないけど、でも、私見かけによらず、もう経験を済ませた、それどころか何人もの男と関係を持つアバズレビッチかもしれないよ!?」
「ビッチでもいい! 俺はお前のその心意気に惚れたんだ! 絶対に幸せにして見せるぜ! 子供は何人でも作っていい!」
「ちょ、ちょっと飛躍しすぎだよ!」
「で、どうなんだ! 答えを聞かせてくれ!」
「え、えっと……ごめんなさい。藤田君はいい人だと思うけど――他に、好きな人が居るの」
(あ、フられた)
――さらば、俺の初恋。
「そして、その人は女の子なの!!」
「……へ?」
時期は七月中旬。梅雨は、まだ少しだけ、続いていた。
あの出来事から数日が経っていた。
好きな女の子の百合カミングアウト。その衝撃は、藤田の中でまだ続いていた。
(あ、ありえね~、女が女を好きってどういう事だ。まるで理解できんぞ。そもそも、割合的にはどうなんだ。例えば百人の内何人がレズビアンなんだ。俺は何分の一の確率でそれに告白してしまったんだ)
だが、考えても仕方がない。どの道、田所 瑠璃と付き合える可能性は0なのだから。
だって、彼女は女の子が好きなのだから。
(フッ、潔く諦めよう。それが男ってもんだ)
机に突っ伏しながら、教科書を涙で濡らした。
「藤田起きろ~」
男教師の投げたチョークがリーゼントの頭に突き刺さった。
しばらくチョークがボリュームたっぷりの髪の毛から抜けなくて、四苦八苦したという。
HRが終わり、弛緩した空気が教室に流れる。
(だり~、さっさと帰ろ)
藤田は帰宅部である。素早く無駄なく家に帰ることこそが、彼の使命であった。
「あれ、藤田もしかして暇?」
そう声をかけてきたのは、小日向 ミヤ。容姿端麗、誰とでも気兼ねなく話せる明るい性格。ついでにバストは豊満であった。
そのバストのせいか、えらく男子からモテるらしい。
藤田はどちらかと言うと、平坦な胸が好きなので、あまり彼女に興味はなかった。
ちなみに、田所の胸は平坦である。
「まあ、暇だな」
「じゃあ、ちょっと手伝いなさいよ。資料室の整理を頼まれたんだけど」
「いや、なんで俺? 女友達とやれよ」
「みんな忙しいのよ。いいでしょ?」
「むう」
見るからに放課後やる事がなく、教室でくっちゃべっている女子がそこらに居るのだが。
何か小日向にも事情があるのだろうと、不承不承、藤田は頷いた。
資料室、中は掃除がロクにされていなく、埃っぽい。窓があり、本来は陽の光が差し込むの筈なのだが、それは棚に遮られていた。
陰鬱な気分になる部屋。余り長居はしたくないなと、藤田はさっさと仕事を終わらせることにした。
「私たちさ、幼馴染だよね」
「まあ、そうだな」
せっせと古本を棚に押し込めながら、藤田は答える。
そう、何気に付き合いは幼稚園からと長い。家も近所なので、昔はよく遊んだものである。
昔の男勝りで、何度も男の子を泣かしてきた小日向を知っているからこそ、藤田は彼女に女としての魅力を感じないのだが。
(女は奥ゆかしく、大和撫子でなければならん。肉食系は駄目だ)
「私達、結構、相談できる仲だよね」
「最近はそうでもないがな」
確かに、昔は、小学校まではよく話をしていた。
中学にあがり、小日向が猫を被るようになるにつれ、不良の道を歩む藤田とは疎遠になっていた。
それでも、藤田にとっては学校で一番話をする女子なのだが。
「でさ、相談なんだけど」
「ん? あ、相談はいいが、手は動かせよ、止まっているぞ」
「……分かったわよ。あんたって、不良の癖に変に真面目だよね。で、さ――私が好きな人が居るっていったら、どうする?」
一瞬の静寂が、部屋に生まれた。
頬を上気させて、見つめてくる彼女。その瞳は、潤んでいて、
「……へ? お、お前まさか……」
――何故!? 今までそんなそぶり無かったのに!?
「うん、そのまさかだよ」
「ま、待て、いや、俺はだな、別にお前の事が嫌いな訳ではないが、そう想われるのはやぶさかではないが、もう少し段階を踏まないか。その、一度二人でどこかに遊びに行くとか――」
「は? 何言ってんのあんた」
「いや、何って、え?」
「も、もしかして私があんたのこと好きだとでも思った訳!?」
「ち、違うのか!? しかし、それっぽい雰囲気を出して勘違いさせたお前も悪いぞ!」
「馬鹿! いや、私も誤解するような発言してごめん!」
「素直に謝る所がお前のいい所だ!」
「って、そうじゃなくて!」
「そ、そうだな、一度落ち着こう」
スーハー、スーハー、二人揃って深呼吸。しかし、この資料室は埃っぽいので、一緒にむせた。
涙目になりながら、話を戻す。
「でもさ、恋の悩みなら、それこそ女友達に話せば良かったんじゃないか」
「は、話せないわよ、こんなこと。絶対、変に思われる」
「なんでだよ。そういう話、女どもは好きだろ」
「だ、だって、私の好きな人は――女の子なんだもん」
「……へ?」
――お前もか、お前もなのか! 小日向!! 百合って流行ってんの!? 今時の子は男に興味ないの!?
「そ、そうか。女の子か」
藤田はなるべく冷静を装って答えた。
「……軽蔑しない? 同性愛者って」
「いや、別に。他に知っているからな、そういう奴。ま、百人の内何人かは同性愛者だからな、たまたまお前がそうだってだけだろ」
「良かった。藤田ならそう言ってくれると思ってた」
告白して、緊張の糸が切れたのか、安心したように息をつく小日向。
「で? どうしたいんだ、お前は」
「え、えっと、出来れば、彼女と恋人になりたいかな」
「告白すればいいじゃないか」
「でも、女の子が女の子のこと、好きって言うのよ? 変態だよ」
「それもそうか……なら、それとなく、探りを入れてみればどうだ? 相手にその気があるのか」
「そ、そうね、分かった、やってみるわ。藤田、着いて来て!」
「え、着いてきてって、俺もかよ!?」
仕事を速攻で終わらせ、どたばたと資料室を出た。
「あの子も今日は委員会の仕事があるって言ってたから、まだ学校に残っている筈だわ!」
小日向に手を引かれ、ズルズルと連れて行かれる藤田。
「俺、必要か?」
「必要よ! だってあの子を前にすると緊張するんだもの! 一体一で向き合うなんて不可能よ!」
「な、情けない奴……」
「あ、見つけたわ!」
どうやら、目的の彼女に出会えたらしい。
だが、
「ち、近づけないわ!」
「な、何故?」
「恥ずかしいから!」
「なんでだ! いつも話しているんじゃないのか!」
「『あなた、女の子好き?』って聞ける訳ないじゃない! 『私のこと、好き?』って言っているのと同じじゃない!」
「だから、それとなく聞けって言っているだろ!」
「そ、そうだったわ!」
「お前ってそんなヘタレだったのか……もういい、誰だ、目標はどいつだ」
「え、えっと」
すっと、小さく指を指す。その行為に、赤面し、俯く小日向。
――って、あれ。あいつって、
数日前、藤田が告白して、玉砕した彼女。同じクラスのちょっと地味目の、優しい彼女。
(田所じゃねぇかぁああぁあぁあぁあ!!!)
思いっきりその気あるよ! あいつレズだよ! 同性愛者だよ!
「あ、小日向さん。と、藤田くん」
あたふたとしている二人に気づいたのか、田所が話しかけてきた。
「あ、あれ、二人共、手繋いでる」
指摘されて、気づく。小日向が藤田を引っ張っていく際に、そうなっていた。
慌てて手を離す二人。
「あ、あははははは違うのよ。これは不可抗力っていうか、磁力の関係でね、こいつの手と私の手は上手い具合にS極とN極なのよ!」
(思いっきりテンパってるぅーー!!)
かつてない、幼馴染の醜態に、驚きと呆れで声もでない。
「二人は、惹かれあっている、ってこと?」
何故か、上目遣いで聞いてくる田所。何故か、その瞳は切なそうで、
「ち、違う! こいつとはただの幼馴染! 惹かれ合う 2人のLove――違う、違うの、そこにLoveはないの!」
「と、とりあえず落ち着け、小日向」
「お、お、お、お、お、お、お、落ち着いているわよ!」
「何回『お』を言うんだ!」
「七回よ! 『落ち着いて』の『お』を足すと八回よ!」
「そこは冷静なのかよ!」
「ぷ、あははははは。仲良いんだね、二人共。じゃあ私、もう行くね。バイバイ」
手を振りながら、去っていく田所。
取り残される二人。
「な、なんか勘違いされたような……」
「私が……私が悪いの……?」
――本当、仲、いいんだ。幼馴染って言ってたけど。
帰路につきながら、田所は思案する。
――悪かったかな。話の途中で、急に帰ったりして。
繋がれていた、二人の手。
――それを見てしまったら、何だか、合わせる顔がなくて、不意に、涙が出てきそうで、
だから、二人から逃げるように、
――小日向さん。
高校に入学したばかりの時。
クラスには、中学から同じ子も居たけれど、でも、大半は話したことない人ばかりで。
馴染めるのかな、と不安だった。自分から話しかけていけるタイプではなかったから。中学の頃も、友達、少なかったし。
そんな時に、
「席、隣同士ね。よろしくね、田所さん」
そう言って、私に笑いかけてくれた。
その一言で、もう、不安はなくなってて、
――綺麗な人。誰とでも仲良く話せて、私とは正反対の人。
住む世界が違う、と思う。
でも彼女は優しいから、そんな私を気遣って、一生懸命話しかけてくれる。
好きになっていた。ずっと、一緒に居たいと思った。
でも、そんなことを言ったら引かれる。この関係は、終わってしまう。
――だから、いいんだ。このままで。
ずっと、胸の内に閉まっておこうと思う。
そうすれば、彼女と、何でもない日常を、過ごすことができるのだから――
「ん? お前、見たことある顔だなぁ?」
「……え?」
他校の制服を着た、柄の悪い男達が校門前で待ち構えていた。
「こいつ……俺たちが藤田にボコられたあの日に……藤田と一緒に居た女だ」
「ふぅん、じゃ、こいつにしようぜ、人質」
「え? え?」
何の話か見えてこない。何なの、このいかつくて頭の悪そうな人たち!
「頭の悪いは余計だぜ、お嬢さん。じゃ、ちょっと俺らと一緒に来てもらおうか」
「え、えええええええええ!? 頭悪いって、口にしていないしぃーー!?」
「――と言う訳でだ。田所は同性愛者だ。あいつの口から、確かに聞いたことだ」
藤田は、数日前の田所と出会った一部始終を話した。自分が田所に告白したという部分は、面倒なことになりそうだったので、割愛した。
「な、なんてこと! 最高、最高じゃない。二人は百合キュア! ああ、マリアさまは私を見守っていてくださっていたのね、ウ、ウフ、ウフフフフフ」
「鼻血出ているぞ」
「はっ! でもちょっと待ちなさい! 好きな人が居るって言ったのよね! 田所さんは!」
「そうだな」
「それ、誰?」
「そこまでは聞いてないな」
「……あ~、帰ろ」
「いや、待て! 急にテンションを落とすな!」
「あ、あはははは、いやー早かったわ、私の恋。ま、めげずに生きるわ。あれ、なんで涙が出るんだろう」
「まだ決まった訳じゃないだろ。その好きな人ってのが、お前の可能性だってある」
「うーん、そうかしら」
「そうだよ。お前、結構モテるし。実際バスト豊満だし」
「……そこ? 男の子はそういうの好きそうだけど、女の子はどうだろう」
「大きいおっぱいには夢が詰まっている」
「田所さんには夢は詰まっていないっていうの! ちっぱいよ! ちっぱいなのよ! 彼女は!」
「ま、待て! 小さいおっぱいには希望という名のだな――」
小日向が藤田の胸ぐらを掴んでいた時、一人の男子生徒が駆け込んできた。
「大変だ! 藤田の兄貴! ウチのもんが連れ去られた!」
「な、なにぃぃいい!? どこの連中の仕業だ!」
「そ、それが藤田の兄貴に恨みを持つ奴らで、この間ボコられた腹いせにらしい!」
「それで人質とは、情けねぇ野郎どもだ。ぶっ殺してやる」
手の平に拳を打ち付け、意気揚々にと、報告してきた男子生徒に、連中が指定した場所を聞く。
「ま、待って藤田。もしかしたら、田所さんが――」
「そこまでは分からねぇが、行って確かめるだけだ」
「連れ去られた女子高生は地味めで胸が小さい女らしいぜ兄貴!」
「田所さんよ! 間違いないわ!」
「いや、地味めで胸が小さい女は結構居るんじゃないのか」
「私も行くわ!」
「ま、駄目って言っても付いて来そうだからな……さっさと行くぜ!」
そして、人気のない空き地に二人は来ていた。
そこには大人数の不良達が、田所を人質にとって待ち構えていた。
「ちっ、最悪だぜ」
「田所さん!」
「小日向さん!? な、なんで」
「心配だったから来たのよ。もしかしたら、あなたが連れ去られたんじゃないかって」
「え、なんで、私の為に――」
「あんた達、彼女を離しなさいよ! こんなの卑怯じゃない! 男のやる事じゃないわ!」
不良達の、代表者というべき男が前に出る。
「もう俺たちには、プライドもへったくれもないのさ。何もかもをかなぐり捨てて、ただ、藤田に勝ちたいだけなんだ」
ふっ、と髪をかきあげる男。いかつい顔に、そんなキザな仕草は絶望的なまでに似合っていなかった。
「御託はいい。さっさとやり合おうじゃねぇか」
「おっと待て藤田よ。お前が手を出したら、この少女の顔に傷がつくことになる」
田所を押さえつけている男がナイフを取り出し、その頬に突き付けた。
「な、汚いわよ! あんたたち!」
「そう俺たちは外道に落ちた……罵られるのは覚悟の上さ」
くね、くねっと腰を捻るいかつい男。どうやら自分に酔っているようだ。
「仕方ねぇ……おら、やれよ。俺を殴りたけりゃいくらでもやれ。気の済むまでな。そうすりゃ、その子を放すんだろ」
そう言って、その場で藤田は胡座をかいた。
「流石だよ、藤田、君は男だ。んじゃ、遠慮なく」
容赦のない、拳、蹴り。数の暴力。
藤田は生まれてこの方、無抵抗にやられた事は一度もなかった。
(初体験、ってやつか)
だが、反撃出来る筈がない。
だって、人質に取られているのは、自分の初恋の人なのだから。
「やめて、もう、やめてよ!」
田所は泣き叫ぶ、だが、その声は届くことはなく、
(へ、そんな顔すんなよ。これでも俺はよ、満足してんだ。好きな女の為に、体を張れてよ)
例え、少女が、他の者が好きだとしても、性別的な意味で自分を好きになることがないにしても、
(ふっ、かっこ良すぎるぜ俺……)
藤田が、うっとりと自己陶酔している閒に――
小日向は、田所を押さえつける男の後ろに回り込んでいた。
「てい」
手刀で、突きつけられていた、ナイフを叩き下ろす。
「あら落としちゃった」
「とう」
「ぐふっ」
あっさりと、人質は解かれた。
「藤田! 田所さんは奪い取ったわよ!」
「小日向さん……」
田所は、まるで王子様を見るように、恋する瞳で小日向を見ていた。
それで、藤田は全てを察した。ああ、そういうことね、と。
「あ、あれ、いつの間に」
「俺は……ピエロだ」
「ふ、藤田さん? そんな怖い顔してどうしたの?」
「今は、暴れさせてくれ」
「は、はい」
そうして藤田は、また喧嘩における伝説を作ってしまった。
死屍累々となった広場。
「い、いてて」
「大丈夫?」
小日向が、水で冷やしたハンカチを、怪我をした箇所に当てていた。
「本当に、ありがとう。こんな、私のために……」
「いいってことよ。元はと言えば、こいつらに恨まれる俺が原因なんだからよ。ま、そんな事よりも、小日向。伝えることがあるだろ、田所に」
二人は相思相愛。それは田所を助ける小日向、その光景を見て、藤田は理解した。
あとは、二人が、自分たちの気持ちに素直になるだけだ。
「え、ええっ!? そ、それ、今言うこと!?」
「? なに? 伝えることって」
「あ、あの、そ、それは……」
「俺が居ちゃ話しにくいだろうから、先に帰っているぜ」
「え、ちょ、ちょっと!」
――部外者はクールに去るぜ。
夕陽を背に、喧嘩無敗の男は、ふっと息をついて二人の少女から離れてゆく。
そして、残された。少女たち。
「あ、あの、田所、さん」
「は、はい」
気恥ずかしい空気が流れる。
――見て、られない。目、合わせられない。
――こんな二人っきりだなんて、今までなかったもの。
――それに、藤田、変なこと言うから、変な空気じゃない!
――ど、どうしよう、何か言わないと。
――え? どうすればいいのこの状況。
――目の前に、私の好きな人。田所さん。
――し、視線を感じる! 彼女の! か、確実にこっちを見ているわ。
――ど、どう思っているのかしら、目を逸らしている私のことを、変な奴と思っているのかしら。
――ええい、ジタバタしても仕方ないわ! ままよ!
「あわ、あわ、あわわわわわわ」
「こ、小日向さん!? 大丈夫!?」
「た、た、た、た、た、た、た、田所さん!?」
「は、はい」
小日向は、とりあえず、テンションに任せて田所の肩を両手で掴んだ。
「バストは、豊満な方がいいですか!」
「は、はい? 確かに私は小さいけど、気にしても仕方ないっていうか――」
「じゃ、なくて! 私の、おっぱい!」
「い、良いと思います。小日向さんの、おっぱい」
「それなら! 揉んでください!」
胸を突き出す小日向。
「……へ?」
「おっぱい! 揉んでください!」
更に胸を突き出す小日向。実際豊満である。
「じゃ、じゃあ私のも、揉んで、くだしゃい」
頬を赤らめて、大事なところを噛む田所。
(も、萌へ……)
「あ、小日向さんが鼻血を出して倒れちゃった!? 小日向さーーーん!!」
「と、言う訳で、お互いの胸を揉み合う約束を交わしたわ」
「なんか関係、えらく進んだな」
「ふっ、まだ揉んでいないけどね!」
「あ、そう」
翌日、学校で小日向は、昨日の報告を藤田に行っていた。
「思いは伝えれた、ってことでいいだな?」
「う、うーん。それはどうだろうか。おっぱい揉んでくださいと、私が頼み込んだだけだし……」
「どうなったらそんな展開になるんだよ」
「でも、田所さんも、自分のおっぱい揉ませてくれるって言ってくれたわ! ――あ、鼻血が」
「おいおい大丈夫か。もしかして、鼻血出して気絶したりしてないだろうな」
「ええ、すっかり気を失っちゃった」
「……はぁ」
――これは、進展したと言えるのだろうか。
頭を抱える藤田。
「あ、小日向さん、藤田くん、おはよー」
と、そこに田所が登校してきた。
「うぃっす」
「お、お、おはよう、田所さん」
「あの、ちょっと、小日向さん、いいかな」
そう言って、手招きをする。
「な、な、何かしら、オホホホホ」
――小日向って、あんな奴だったかなあ。
自分の幼馴染の行く末が、不安になる藤田であった。
「小日向さん、昨日、あんなこと、言っていたけど」
「あ、はは、ごめん、気が動転しちゃって。忘れて忘れて」
「そ、そうだよね。なんか、おかしいと思っちゃった。あんなことが起こったから、ちょっと興奮していたんだよね。
――でも、ちょっと嬉しかったかな」
「う、嬉しかった?」
「うん……あ、もうHR始まっちゃうね。教室に戻らなきゃ」
「え、あ、ちょ」
――ど、どういうことなの!? 嬉しかったって!? どういう意味なのよおぉおお!!
「はっ、そう言えば、田所さんも同性愛者……私を仲間として見てくれたってことかしら。おっぱい揉んでなんて、レズの言葉だもんね。
ま、まあお互いにその理解が深まったなら、良しとしましょう! うん、これで良し! 万事抜かりなし! あはははははは」
(……いいのか、お前はそれで)
影から見守っていた、藤田であった。
――びっくりしちゃった、急にあんなこと言われるだなんて。
授業中、田所の頭の中は、そのことしかなかった。
――どう言う意味だったんだろう、小日向さんは、気が動転していたって言ってたけど。
でも、聞き返す勇気はなくて――
――思わず、私のも揉んでって言っちゃったけど、わ、忘れてるよね、気を失っちゃったし。
それは、しっかりと聞かれていて――
――ちょっとは、仲が、縮まったのかな。
最近、こちらが話しかけても、何故か小日向は異常に動揺して、会話が続くことはあまりなかったのだけど。
――私、嫌われてなくて、良かった。それどころか、身を挺して、私を守ってくれて。
――嬉しかった。
「おい、藤田おきろ~」
スコーンと、男教師の投げたチョークが、藤田の頭に突き刺さる。
「あの、先生、これ取るの大変なんスけど」
「後で手伝ってやるぞ~……二人っきりでな」
「えっ、それってまさか」
新たな恋が、始まろうとしていた。
見直してみると、そこまで面白くないなと思いました。
キャラクターは割と気に入ってます。