※同一HNでPIXIVにも投稿済みです。
高校一年の終わり頃、僕―――木村一郎は、水瀬さん…水瀬恋さんに想いを告げた。
水瀬さんとは同じ中学の出身で、綺麗で、清楚で、何より優しい女性だった。
彼女は学校に馴染めているとは言えなかった僕のことを、いつも気に掛けてくれていた。
彼女への感謝は、やがて好意となり、思慕となった。
そして僕は彼女と同じ高校に進学するために、勉学に励むようになったりもした。
その甲斐あって、僕は無事に彼女と同じ高校に進学することが出来た。
高校一年の一年間、僕はなかなか彼女に想いを切り出すことが出来ずにいた。
でも、彼女への思慕は日に日に強くなっていった。
そしてその日、僕はついに水瀬さんに自分の想いを告げた。
結果は…。
「ごめんなさい。」
…僕は想いを遂げることが出来なかった。
「…そっか…ごめん…急にこんなこと言って…。」
「………。」
「あ、でも…ただの友達のままでいいから…これからも水瀬さんのこと、好きでいて良いかな?」
水瀬さんはきっぱり「ごめんなさい」と言ってくれたのに、僕はこの期に及んで未練がましい台詞を口にしてしまった。
「…うん。」
水瀬さんは、こんな僕の未練がましい台詞に、笑顔で応えてくれた。
水瀬さんは友達のままでは居てくれたし、好きで居させてくれると言ってくれた。
でも僕が失恋したということには変わりはない。
失恋したときの心の痛みは、骨折の痛みに匹敵すると聞いたことがある。
それは大げさじゃないかとも思うけれど、僕は心に確かな痛みを抱えたまま春休みを過ごした。
心に微かな痛みを抱えて、僕は二年生になった。
この痛みは本当に微かな痛みだったのだけど、暫くこの痛みが癒えることはなかった。
二年生に上がって間もなく、僕は一年生の女の子と知り合った。
可愛い子だとは思ったけれど、その子とはそこから先には進まなかった。
水瀬さんのことを、まだ好きで居たいと思っていたからだったと思う。
でも、僕は水瀬さんにははっきり振られたのだ。
これ以上水瀬さんに執着しても意味が無いんじゃないか。
僕に粘着されても、水瀬さんは迷惑するだけなんじゃないか。
それなら…。
僕は新しい一歩を踏み出そうとした。
その一歩を踏み出そうとした矢先に…僕は偶然見てしまった。
一年生の女の子の、ハメ撮り画像というものを。
……先にも書いた通り、僕はその子とそれほど親密になっていたわけじゃない。
だから彼女が誰とそういうことをしていようと、僕がどうこう言うことは出来ないのだけれど。
あの画像を見たときの驚愕は、新しい一歩を踏み出そうとした僕の出鼻を挫いてしまった。
痛みが癒えそうになったときに、僕は新たな痛みを受けることになってしまったのだ。
そんな時でも水瀬さんは、友達として僕に接してくれていた。
あくまでも友達として、だけれども。
あるとき、委員会の仕事で僕は水瀬さんと、教室で二人きりになった。
それでその仕事が一段落したとき、水瀬さんは…
「まだ私のこと、好き?」
……僕は戸惑ってしまった。
それで咄嗟に答を返すことが出来なかった。
僕は迷ってしまった。
あのとき水瀬さんははっきり「ごめんなさい」と言ったはずだ…言ってくれたはずだ。
でも、水瀬さんは今「まだ私のこと、好き?」と聞いてきた。
あれから少しだけとは言え時間も経っている。
その間、水瀬さんは―――友達として、だけれども―――僕と接し続けてくれた。
水瀬さんの方に、何か心境の変化があったのだろうか…。
…今「好きだよ」って言えば、受け容れてくれるかもしれない。
迷いに迷った僕がこう思い至ったとき、また大分時間が経ってしまっていた。
…水瀬さんが誰かと付き合い始めたらしいと言う噂が、聞こえ始めてきた。
僕は…焦った。
そして水瀬さんと二人きりになる機会を得て、僕はこの時になってやっと水瀬さんの問いかけに答えた。
「…僕は…今でも水瀬さんのことが好きだよ。」
結果は…
「……ありがと。」
そう言うと、水瀬さんは一息置いてから言葉を続けた。
「……私…今、付き合ってる男の子がいるの。」
…ああ、やっぱり遅かった、か…。
初めての告白の時も、あの一年生の子と知り合ったときも、そして今回も…。
僕はいつもそうだった。
意味の無い思案を巡らせて、意味も無く躊躇って、自分は慎重なんだと言い訳して。
それで結局、機会を逃してしまうんだ…。
「…ん…そっか……お幸せに、ね。」
僕は水瀬さんの恋に祝福の言葉を贈った。
…そして僕は、踏み出すべき時に踏み出さなかったことの報いを受けることにした。
誰の所為でもない、これは僕自身の所為なんだ。
しかし僕はその日の内に、大きく動揺させられることになった。
僕は見てしまったのだ。
校内で水瀬さんが、誰かと―――多分一年生の男子と―――セックス、しているところを。
一年生の女の子の、ハメ撮り画像を見てしまったとき以上に動揺させられた。
他でもない水瀬さんが、今まさに、僕の目の前で…。
見間違いであってほしかった。
でも…見間違いでは、なかった…。
それから下校時になるまでの記憶は無い。
多分下駄箱に向かうときだったと思う。
僕は廊下で声をかけられた。
「木村。」
声をかけてきたのは、宮原さん…宮原玲於奈さんだった。
宮原さんは、僕と、そして水瀬さんと同じ中学の出身の女子だった。
それで僕とも、水瀬さんとも仲良くしてくれていた。
何と言うか気さくな性格で、僕にもよく気軽に声をかけてくれていた。
例えば…
「校舎の入り口で、あんまりマヌケな童貞顔晒さないでよねー。」
…こんな風に。
こんな台詞を口にしても、これはただの軽口・挨拶なんだとわかる。
宮原さんは、そう言う女の子だった。
その宮原さんが、僕に声をかけてきた。
「……足元、ふらついてるよ。」
「……何か、あったの?」
…いつも気軽に軽口をたたく宮原さんが、今まで見たことのない表情を見せていた。
心配してくれている…らしい。
心配させてしまっている…らしい。
僕は、何とか声を絞り出して、宮原さんに応えた。
「違うんだ、何でも…何にも…ないよ…。」
僕が何とかこう答えると、宮原さんは…僕の手を取った。
「何にも…ないワケないよ…。」
「ずっと見てたんだもん…分かるよ…。」
「宮原さん…。」
やっぱりこの時の宮原さんの顔は、今まで見たことがなかった。
「…ありがとう。」
「もう大丈夫、ホントに平気だから。」
「ホントに?」
「うん。」
僕がもう大丈夫と答えると、宮原さんの顔は、いつもの宮原さんの顔になった。
その後、たまには一緒に帰ろうかという話になったけど、宮原さんに急用が入った。
僕は宮原さんと別れて、その日は一人家路に就いた。
家路の上で、僕は宮原さんのことを考えた。
「ずっと見てたんだもん…分かるよ…。」
…ずっとって…中学の時から…?
宮原さんとも、中学の時から一緒だったのに…気が付かなかった。
もしかして、宮原さんは僕のことを…。
でも…。
……いや…今の僕に「でも」とか、「だけど」とかは無しだ。
宮原さんは良い子だ、間違いない。
それに…ずっと僕を見てくれていた宮原さんに、僕はまるで気づいていなかった。
神様というものがいるのなら、きっと神様はその償いをしろと言っているに違いない。
僕は心を決めた。
僕はまた宮原さんと一緒に下校する機会を得た。
帰り道、僕は宮原さんに…
「ちょっと寄り道をしないかい?」
宮原さんはちょっと戸惑った様子を見せたけど、僕に付いてきてくれた。
僕は宮原さんを、K川の河原に連れ出した。
K川の河原は開けた公園になっている。
人通りは少ない…けれど、見渡せば人の姿はある。
それに何と言っても、K川の河原は「良い」場所だった。
情景が綺麗とか、そこから見える夕陽が美しいとか…「良い」所はいろいろある。
とにかく、K川の河原は「良い」場所だった。
「どうしたの?木村、こんなとこに連れ出して、さ…。」
「………。」
僕は答えない。
宮原さんの反応を、もう少し見守る。
「…でもこうして見ると、ここも結構良い所だよね。」
「いつも通り過ぎてばかりだったけど…こんなに良い所だったんだ。」
宮原さんはこの場所を、良い所と言ってくれた…。
…行ける!
僕は話を切り出した。
「ありがとう。僕も最近気づいたんだ。」
「…それで宮原さんにも、ここを見てもらいたくなったんだ。」
「えっ?」
「…宮原さん…僕のこと、ずっと見てた…って、言ってたよね。」
「……宮原さんがこう言ってくれてから…気が付いたら、僕も宮原さんのことが気になって気になって…。」
「気になって仕方なくなってきたんだ。」
「…それで、宮原さんにもここを見てもらいたくなって…。」
「……宮原さん…。」
「僕と、付き合ってください。」
僕は宮原さんの答を待った…。
「ごめん。」
「あたし今、付き合ってるヤツが居るんだ。」
……ああ……。
「一年の、野村ってヤツなんだけど…。」
「それにっ…言いにくいんだけど…もう…アイツと…野村と…セックスも…。」
宮原さん、も…。
水瀬さんの時と違って、直接その場を見たわけじゃないけど。
僕は眩暈に襲われてしまった。
立っているのがやっと、という有様になってしまった。
僕は迅速に行動したつもりだった。
それでも駄目だというのだろうか。
僕は、何をどうやっても報われないのだろうか。
一体僕に、何の罪があるというのだろうか。
僕は嘆いた。
けれども次の瞬間、こうして嘆くことが最低最悪に格好悪いことなのだということを、僕は知ることになった。
「…ひどいよ、木村…。」
…えっ?
「あたしも…ずっと木村のこと、見てたんだ…。」
「木村が…もっと早く…そう言ってくれてたら、あたしは…あたしは…。」
「野村なんかに…あんなヤツに…ッ!」
宮原さんは涙を溢れさせ、その場にしゃがみ込んで、絶叫して、号泣した。
「なんで!なんでこんなことに!」
「木村が、木村がやっと…あたしの方を向いてくれたのに!」
「あたしは…あたしのカラダは…!あんなヤツに!あんなヤツに!」
宮原さんは人目も憚らず、絶叫し、号泣した。
僕の嘆きなんて、宮原さんの悲しみや苦しみに比べたら、まるで大したことじゃないと思い知った。
宮原さんを救いたい!
でも、この時の僕はあまりに無力で…ただただ宮原さんの傍に立ち尽くすしかなかった…。
「どうしたら良いの!どうしたらぁ!」
「そんなの簡単デス、遠慮無くそこに居る彼に乗り換えりゃ良いんデスよ。」
気が付くと、僕たちの傍に二人の女性が立っていた。
一人は、頭の両側で髪の毛を団子状に纏めた髪型が特徴的な女性。
もう一人はとにかく大きな…多分身長2メートルはある…銀色の髪・褐色の肌をした女性だった。
一人は艦娘の金剛さんで、もう一人も艦娘の武蔵さんだと、すぐに思い出せた。
二人とも私服だったので、海上防衛隊の艦娘なのか、海上保安庁の艦娘なのか、それともどこか警備会社の艦娘なのかまでは分からなかった。
そして僕たちに話しかけてきたのは、金剛さんの方だった。
「説明が要るようデスね。」
金剛さんはそう言って、宮原さんに一言二言話しかけた…。
…そして僕、宮原さん、金剛さん、武蔵さんは、ファストフード店で席に着いていた…。
どうしてそうなったのかは、今でも思い出すことが出来ない。
僕たちの前には、紅茶とフライドポテトが置かれていた。
注文したのは金剛さんだった。
話し始めたのは、少しだけ落ち着いた宮原さんからだった。
「…あの…金剛さん…乗り換えれば良い、って仰いましたけど…。」
「Yes,悩んだり嘆いたりするくらいなら、アナタはここに居る…ええと、木村クンと言いマシタか…彼に乗り換えた方が良いと思いマスよ。」
「…でも、金剛さん…無関係ですよね…無関係な
「OH!sorry!確かにアナタの言う通りデスよね!」
「デスが、本来無関係のワタシが、乗り換えた方が良いと言う理由は…他ならぬアナタ自身が口にしていたのデスよ?」
「え…あ…あたし、が…?」
「Yes.アナタは木村クンをずっと見ていたと言っていマシタよね?」
「対して、今アナタがお付き合いしている…野村クンについては『あんなヤツ』呼ばわりしてマシタよね?」
「野村クンから木村クンに乗り換えた方が良い理由なんて、これだけで十分じゃありマセンか?」
「そ、それは…!そうです、けど…。」
宮原さんは少し考え込んで、続けた。
「…でも、ダメです…あたし…もう野村と…アイツと…。」
「…セックスしてしまっている、デスか?」
宮原さんは頷いた。
「ワタシは提督が大好きデス。burning loveデス。勿論提督とも日々セックスに励んでいマス。」
「そしてつい先程まで、ワタシはそこに居る武蔵と滅茶苦茶セックスしていました。」
「それはモウ激しく激しく、ネ。」
艦娘は男の人とだけではなく、女の人とも、他の艦娘ともそう言う関係を持つことがある…ということは、聞いたことがあるけど…。
「え…金剛さん、提督さんのこと好きなんですよね、愛してるんですよね…。」
「それなのに、別の…
「なんで…ですか?」
「なんでって、提督のことも武蔵のことも好きだから、デスよ。」
「好きだから…って…。」
「セックスという営みは、誰かと仲良くなるためにすることデス。」
「想いを断ち切ったり、諦めたりするためにすることではありマセン。」
「だからワタシは、好いた相手とは誰とでも、遠慮無くセックスしマス。」
「だからワタシは、武蔵ともセックスしますし、比叡ともセックスしますし、提督とのセックスも欠かしマセン。」
「好いた相手とは誰とでも、って…。」
「金剛さんたちはそれで良いのかもしれませんけど。」
「あたしたちは…あたしは、そんなこと…。」
「Hmm,セックスはあくまでも、特別なただ一人の相手とだけ…ということデスか。」
「…そして『あんなヤツ』が、アナタにとっての、特別なただ一人の相手…というわけデスか。」
「………ッ!!」
宮原さんは、少しの間沈黙した。
…それから少しだけ僕に視線を向けて、続けた。
「…乗り換えた方が良いって言われても…木村が…。」
ここで金剛さんは、急に僕の方を向いた。
「Hey,木村クン…そういえばアナタはどうしてこの場にいるのデスか?」
「えっ?」
「ワタシはアナタをこの場に招いた覚えはないのデスがネ。」
僕はここに居てはいけないのか?
…そう思ってしまって、僕は席を立とうとしたけれど…。
僕の隣、通路側の席には武蔵さんが座っていた。
「あの…すいません…退いてくれませんか…。」
「………。」
武蔵さんは僕の言葉を無視して、退いてくれなかった。
僕はこの場を離れることが出来なかった。
(宮原さんと金剛さんは、僕と武蔵さんに向かい合って席に着いていた。)
(金剛さんも通路側に座っていて…宮原さんを閉じ込めていた。)
「Oh!sorry!別にここから出て行けと言ったわけではないのデス。」
「ただ本当に知りたいだけなのデスよ。」
「何故アナタがこの場にいるのか、その理由というヤツを、ネ。」
僕がこの場にいる…理由…。
「アナタは何故ワタシたちについてきたのデスか?」
「…それは…。」
「それは?」
「……宮原さんのこと、放っておけなかった、から…。」
僕は言葉を絞り出した。
絞り出して、やっと出てきた言葉。
それでも嘘偽りは無い。
これが本当に、僕がこの場にいる理由、だった。
宮原さんは、食い入るように僕を見ていた。
金剛さんは、僕の答えに満面の…満足げな笑みを浮かべた。
「Good…実にGoodな回答デス。」
「どうやら、これで話はほぼ決まりのようデスねぇ。宮原サン?」
宮原さんは暫く、食い入るように僕を見ていた。
けれど、まもなく僕から目を逸らして、自分の体を抱きしめた。
「どうかしマシタか?宮原サン?」
「でも…ダメなんです…。」
「何がデスか。」
「木村がこう言ってくれても…あたしを…こんなあたしを受け容れてくれても…。」
「あたしは…あたしのカラダは…もう…。」
「貴女の体が…如何したと言うのだ?」
さっき僕の言葉を無視した武蔵さんが、宮原さんに言葉を掛けた。
「…貴女は野村とやらとセックスし続けてきた、ということだが。」
「貴女の体はもう、野村とのセックス無しではいられないと言うつもりか。」
「貴女の体はもう、野村が与えてくれる快楽から逃れることは出来ないと言うつもりか。」
「………。」
「はっきり言おう、それはただの思い込みだ。」
「私は自他共に認める好色淫乱な艦娘だ。求められれば誰とでもセックスする。」
「現に今日も、つい先程まで、ここに居る金剛と激しくセックスをしていた。」
「私は金剛とも、提督とも、鎮守府の仲間たちとも、鎮守府外で知り合った男や女ともセックスをする。」
「もっと言えば、私には大和という
「そして私は誰が相手でもイクことができる。」
「見たところ、貴女はあまり自慰というものをしないようだが。」
「自慰によってもイクことは出来る。」
「イクという感覚は…オルガスムスという感覚は、あくまでも貴女の肉体に備わった感覚だ。」
「特定の相手からでなければ得られない感覚ではない。」
「だから野村とセックスしてイケるのなら、ここに居る彼と…木村とセックスしても、貴方はイケるのだ。」
僕と宮原さんがセックスする…という話になって、僕は面食らってしまった。
宮原さんも、明らかに当惑しながら武蔵さんの話に聞き入っていた。
「見たところ、木村は童貞のようだが。」
武蔵さんはいきなり僕を童貞呼ばわりした。
…でも、不思議と嫌な感じはしなかった。
「木村と事に及んだとき、経験の足りない木村は貴方を満足させてくれないのではないか。」
「それが原因で、せっかく結ばれた木村に失望してしまうのではないか。」
「…もし、そんな心配をしているのなら、私に言わせればそんな心配は無用の心配だ。」
「オルガスムスという感覚がどういう感覚なのかがわからず、伴侶とのセックスで満足できていないと悩む女性は結構居るらしいが。」
「貴女は既にオルガスムスという感覚がどういう感覚かを知っている。」
「貴女は如何すれば自分がイクことができるのかを知っている。」
「なら貴女は、彼と事に及んだときに『こうしてくれれば自分は気持ち良くなれる』と、彼を導いてやれば良い。」
「そしてどうすれば彼が気持ち良くなれるのかを、彼の肉体に問えば良い。」
「まずは貴女が彼を貴女の色に染めて、それから貴女は彼の色に染まれば良い。」
「セックスという営みは、本来そう言う営みなのだからな。」
武蔵さんは紙コップの紅茶を一口して、続けた。
「私は、自分をセックスでイかせた男を選び、それまで愛していたはずの男を紙屑のように捨てた女を、何人か見たことがある。」
「…だが貴女は、野村とどれだけセックスをして、野村にどれだけイかされても、木村への想いを忘れなかった。」
「そして先程K川の河原で、貴女は絶叫し、号泣しながら、それこそ血を吐くように、木村への想いを吐き出した。」
「真実の愛ってやつがどんなものなのかは、正直私にも分からない。」
「だがどれだけ他の男にイかされても消えなかった貴女の、彼への想いは、紛れもなく真実だ。」
…武蔵さんは、宮原さんに向かって話していたはずだった。
でも武蔵さんの言葉は、どういうわけか僕の方にも向けられているように思えた。
…宮原さんの想いは、真実なんだ、と…。
…ここで武蔵さんは、僕の方を見た。
本当に見ただけだった。
でも、「お前にはしなければならないことがある」と、武蔵さんの視線は語っていた…。
僕には、そう思えてしまった。
僕は顔を宮原さんに向けた。
「宮原さん、ゴメン。」
「さっき『僕と、付き合ってください』って言ったとき、僕の気持ちは浮ついてた。」
「それで、宮原さんに『付き合ってる人が居る』って言われたとき、僕は我が身の不幸を嘆いてしまった。」
「苦しんでたのは宮原さんの方だったのに。」
「でも、宮原さんは、ずっと僕を見ていてくれていたんだよね。」
「他の人と…その、付き合っていても…僕のこと、想っていてくれたんだよね。」
「僕は童貞で…色々頼りなくて…。」
「通りすがりの金剛さんや武蔵さんに言われるまで、宮原さんの苦しみが分からなかったけれど。」
「改めて、お願いします。」
「僕と、付き合ってください。」
宮原さんは…
「…はい…。」
…僕の気持ちを、受け容れてくれた。
僕と宮原さんの間にあるテーブルが、邪魔に思えて仕方がなかった。
金剛さんは、フライドポテトを囓り、紅茶を一口して、口を開いた。
「Congratulations! これで話は決まりマシタね?」
「ところで宮原サン、アナタがお付き合い
「彼はアナタの学校の一年生…デシタね?」
金剛さんは何故そんなことを確認したのだろう?
少し戸惑いながら、宮原さんは答えた。
「え?…ええ、そうですけど…。」
「なんでそんなことを?」
「ダフィット・ヒルベルトは『我々は知らねばならない、我々は知るであろう』と言いマシタが…。」
「エミール・デュ・ボア=レーモンは『我々は知らない、知ることはないだろう』と言いマシタ。」
「知らなくて良いこと、知らない方が良いことは…厳としてこの世に存在しているのデスよ。」
…僕も宮原さんも、それ以上問わなかった。
そして僕と宮原さん、金剛さんと武蔵さんの話は、これで終わった。
こうして僕と宮原さん…玲於奈は、晴れて付き合うことになった。
それまで玲於奈が付き合っていた一年の…野村君が、何か言ってくるんじゃないか、何かしてくるんじゃないかと覚悟していた。
けれど、結局野村君が僕たちに何かしてくることはなかった。
このことについては、玲於奈も不思議に思い、首を傾げていた。
(宮原さんが別れ話を切り出したら、野村君はあっさり受け容れたそうだ。)
そう言えば、僕は野村君の顔を見たことがない。
玲於奈は僕に「あんなヤツに関わって欲しくない」と言っていた。
それで僕は、今でも野村君がどんな人なのか知らないままでいる。
かつて僕が想いを寄せた水瀬さんについてだけど。
僕が玲於奈と付き合うようになったと言ったら、水瀬さんはちょっと寂しそうな顔をして…
「おめでとう、木村君も、お幸せにね。」
…そう言ってくれた。
実のところ、僕は今でも水瀬さんのことは好きだ。
でも、水瀬さんへの好意が、玲於奈と共に行くと決めた僕の気持ちを動かすことはなかった。
ヘレネのために戦うより、ペーネロペーの傍に居たいと願ったオデュッセウスの気持ちが分かった…と言ったら、格好つけすぎだろうか。
程なくして、僕は玲於奈とセックスもするようになった。
当然と言うか何と言うか、僕は玲於奈にリードされっぱなしだった。
でも僕に跨がって腰を振る玲於奈は…いやらしいんだけど、その、すごく、綺麗で…。
こんなに綺麗な玲於奈を、もっと見ていたいと思っていたら、僕も…思ったより頑張れて…。
玲於奈の中も…ホントに凄くて…こんな中に迎え入れてもらえることが、ホントに嬉しくて…。
それで、玲於奈が僕の上で大きく仰け反ったのを見て、そこで僕も堪らず…。
事が済んだ後、玲於奈は僕を抱きしめてくれた。
それから僕は、玲於奈をもっと悦ばせたくて…体を鍛えたり、健康や栄養に気を遣うようになったりもした。
色々勉強するようにもなったりもした。
玲於奈と色々話し合ったりもした。
他にも色々疎かに出来ないことはあったし、それほど頻繁に玲於奈とセックスすることは出来なかった。
それでも僕と玲於奈は、その他の楽しみや喜びを共にすることが出来た。
そもそも、このセックス以外の楽しみや喜びを共にするということが、何より玲於奈が望んでいたことだった。
高校を卒業して…大学に入って…大学を出て…就職して…。
その間中、僕はずっと玲於奈とともに歩んできた。
水瀬さんとは、大学を出たあたりから疎遠になってしまった。
今、彼女がどうしているか、僕も玲於奈も知らない。
そして僕は今日、改めて、これからも玲於奈と共に生きていくことを誓う…。