夜中に思い付いたまま書いたネタ。
2022年夏アニメごっちゃ混ぜ、各々の時系列は気にしない方向で…
「おじさん、どうしたの?ずいぶん遅かったね」
たかふみは帰宅してきた叔父…おじさんに対してそう声をかけた。
ただ、傍から見ればそれは異質としか言えない状況だ。なにしろ、そのおじさんは玄関ではなく、ベランダから帰ってきたのである。しかも、ここは五階。普通ならばそんな所から入ってくるなんてありえない。しかし、たかふみの叔父にはそれが出来た。何故なら彼にはある特殊な経歴があったからだ。
この叔父は交通事故でかなり長い間昏睡し、入院していた。だが、実はその間に彼はファンタジーな異世界へと飛ばされていたのである。そして、その異質な経験から彼は向こうの世界で魔法を習得し、帰ってきたこの世界でも様々な魔法を使う事が出来るのである。そして、彼はその魔法を使って動画を作成してネットに公開し、それを生活の糧としていた。
おじさんは口を開く。
「ああ、それがな…帰って来る最中になんか変な空間に閉じ込められてな」
それを聞いたたかふみは目を見開く。
「何それ、おじさん。その話詳しく!」
だが、おじさんは渋る。
「えぇ…特に何もなかったぞ」
「えー、見せてよ。絶対面白そうなやつじゃん。ほら、コーヒー淹れるから!」
「まったく、仕方ないなあ…」
その会話に、椅子に座ってスマホを見ていた藤宮も視線をおじさんへと向けた。彼女はたかふみの幼馴染である。無論、おじさんが魔法を使える事も知っているし、異世界の話も聞いている。
おじさんはため息を一つ吐き出すと、呪文を唱えた。
「イキュラス エルラン」
記憶の精霊の力によって、空中に映像が映し出される。たかふみと藤宮は期待しながらその映像を見始めた。
「で、結局…ここどこなのよ、たきな」
「わかりません、都内で無い事は確かです…あんまり頭出さないでください。見つかりますよ」
「標識は英語…でも、看板は日本語まで入り乱れてる。しかし、ここが海外だとして…ベイロンシティなんて地名、聞いた事が無いよ」
そこはビルがそびえる大都市のど真ん中だった。しかし、ここは日本では無いらしい。見知らぬ土地である。そんな中、二人の少女は困惑しつつも障害物に身を隠し、周囲の状況を掴もうとしていた。
「状況はそれだけではありませんよ、千束。どこを見ても人っ子一人街にいませんし…それにあの化け物の群れは…」
「映画の中にでも迷い込んだ…なんて事はないよね?」
「ありえません、非科学的過ぎます。大方、何かの生物兵器とか?…まあ、これが効くといいのですが」
そう言いながら、たきなという黒髪の少女は拳銃を構える。二人は一見ただの学生に見えるが、学生ではない。DAと呼ばれる治安維持組織の秘密工作員…リコリスなのである。学生に化けて街に溶け込み、武力を含むあらゆる手段で治安を維持する任務を帯びていた彼女達でもこんな事態は想定していない。なにしろ、彼女達の視線の先には魑魅魍魎と例えられる程の異形が闊歩しているのだ。
「あー、こりゃ…パニックホラーか現代ファンタジー風の夢かな」
「夢ではありませんよ、頬を抓りましょうか?」
「そうは言っても…えっ!?た、たきな…あれ!あれ!!」
「どうしました?え…」
白髪に近い髪色をした少女…千束が指差す先、そこには二人の人影があった。だが、それを見たたきなは絶句する。その二人は高層ビルの壁を蹴って上空へと駆け上がっていたからだ。その内の片方…金髪のシスターがビルの壁に大穴を開ける勢いで蹴って飛ぶ。そして、宙返りした勢いでもう一人の長い赤髪の女性に飛び蹴りを打ち込む。辺り一帯に鳴り響く轟音。だが、蹴られた側も両腕でそれを防ぎきっていた。
「あははっ、凄い!凄いわ!並みの人間にこんな力は出せないわ。ねえ、貴女。もしかしてどっかのS級冒険者?」
「この身なりで冒険者とやらに見えるか?…この悪魔め」
「あら、どうして分かったの?普通はただの人間としか見えないはずなのに」
「ほう、理由が分からんか…そんな馬鹿力で大暴れするやつはおおよそ悪魔と相場が決まっているからだ!!」
「馬鹿力なら…貴女も人の事言えないでしょう!このっ!!」
悪魔と言われた女性の拳がシスターの胴を狙う。しかし、シスターの側も回し蹴りでその拳を迎え撃つ。そして、再び轟音が鳴り響く。
そんな戦いが繰り広げられている場所から少し離れた路地裏。一人の青みがかった長髪の女性が小銃を構えながら進む。
「一体どうなっているのよ…街には誰もいないし、通信も途絶。挙句の果てには大量発生した悪魔に現実離れした連中…これがD災害だとしても無茶苦茶よ」
彼女の視線の先には、狼の背に乗った少女と真っ黒な甲冑を着た騎士らしい人物が悪魔の群れを次々と叩きのめすという到底信じられないような光景が広がっていた。あんな所に飛び込んだらどうなるか分からない。サッと別の路地裏へと逃げ込む。
「シュウは無事かしら…」
彼女がそう呟いた時である、進行方向に一人の男性が現れた。見た事のない人物であり、女性は怪訝とした表情を浮かべる。すると、その謎の男が口を開く。
「お前、リコリスか?で、この訳の分かんねえ状況もアンタらの仕業か?」
謎の男はよく分からない質問をしてきた。しかし、女性はそこである点に気づく。相手は武装している、上着のポケットに拳銃を忍ばせているのだ。
「リコリス?そんな名前のPMC知らないわよ。それにこっちも事態は把握出来ていない。それで…出来ればその上着に隠している物を引っ込めてくれるとありがたいのだけど」
「そいつは無理な相談だ…何しろ、周りがこんな有様なもんでなあ。で、PMCだって?面白い冗談だ」
嫌な気配に女性は小銃を構える。相手の動きがただの素人とは思えないからだ。
「日本にそんな物騒な物扱うような会社があるわけねえ。だから、お前はDAのリコリスに違いない」
「言っている意味が分からないわね。ここは日本じゃないわ」
「もうちょいマシな嘘を言えよ」
そんな問答をしていると、謎の男の背後に犬のような悪魔が忍び寄っている姿が目に入る。ちょうどいい、あの男がそれに気を取られた隙にここから退散しよう…そして、悪魔は飛び掛かる。だが、男は振り返るそぶりも見せずに半歩引いて悪魔を躱す。そして、躊躇う事も無くその背に銃弾を叩き込む。
「この手の類には脳髄に二発叩き込めばいいって映画やゲームだと相場が決まってんだ…で、話の続きと行こうか」
女性の額に冷や汗が流れる…完全に死角からの奇襲だったのにどうやって躱した?こいつは只者じゃない。見た事の無い顔だが、名の知れたテロリストや傭兵の類かもしれない。少なくとも、どこぞの暴力シスターや知り合いの某悪魔並みに面倒なのは間違いない。さて、どうやってこの場を切り抜ける?と心の内で考える。
「チッ!!」
何かを感じ取ったのか男は突然伏せた。その刹那、その頭の上を一本の矢が飛び抜けていく。
「え?矢?」
女性はその矢が飛んできた方を咄嗟に見る。しかし、誰もいない。そして、男は呟く。
「仲間を忍ばせてやがった…この一本道じゃどう足掻いても分が悪いか」
すると、男は煙幕弾を投擲。場が煙に包まれると共に走り去る音が響く…相手は引いたようだ。女性がホッと胸を撫で下ろすと、背後から声が飛び込んだ。
「あの…お話を伺ってもよろしいでしょうか?」
突如話しかけられてギョッとした女性は小銃を構えながら振り返る。
「…え?なんでメイドさん?」
そこにいたのは長い金髪の女性。そして、その恰好はメイド服らしきものである。だが、異様だ。普通の人間よりもずっと耳が長いのだ、悪魔憑きか悪魔の類か?と女性が咄嗟に考えると、そのメイドが弓矢を抱えている事に気が付く。
「ええっと…今の矢は貴女が?」
「ええ。申し遅れました、私はエフィルと申します」
「あー、これはご丁寧にどうも。夕桐アヤノです」
「アヤノ様ですね。勇者の皆さんと同じような雰囲気のお名前…なるほど」
エフィルと名乗ったメイドは独り何かに納得したように頷く。すると、エフィルはこう切り出してきた。
「アヤノ様、出来ればこの状況について分かる事を教えていただきたいのです」
「えーっと、それは構わないけど…この事態について教えてほしいのはむしろ私の方だったり…」
アヤノの返事を聞いたエフィルは頭を抱えた。
大破した乗用車に次々と鋭い刺が突き刺さる。
「千束、伏せてください!流石にこれは…」
「へーき、へーき」
潰れた乗用車の残骸から頭を出す千束。その視線の先からは刺のようなものが次々飛んでくる。しかし、千束には当たらない…全てを回避しているからだ。そして、千束の視線の先にいる人型の異形は苛立ったように呻く。
「何だかよく分からない相手だし、見てないと何してくるか分からないでしょ」
千束は優れた動体視力を持っている。それと並外れた観察眼、それらによって飛んでくる刺の軌道を予測して的確に躱すのだ。なにしろ、至近距離の銃撃すら躱す程だ、それより遅い刺を躱す事は容易である。
「まー、光線とかビームとか魔法でも飛んでこなければこれぐらいは…」
千束がそう言ったところで閃光が走る。そして、隣に立っていた標識がバタリと倒れた。
「やばいよ、たきな!レーザー撃ってきた!!」
「まったく…調子に乗るから余計に挑発しちゃったじゃないですか…」
大慌てで頭を引っ込めた千束に対して、たきなは大きな溜息をつく。しかし、万事休すだ。相手は人ですらない化け物だ。こっちの武器は拳銃が二丁だけ。しかも、その内の一丁…千束の銃は非殺傷の弾丸しか装填されていない。目下、対抗火力とたり得るのは自分のみ。たきながそう考えていると、千束が一つの案を出す。
「あれが当たったら流石にこの障害物じゃ無理だわ…撃って逃げよう」
「銃が効くと思いますか?」
「信じるしか無いでしょ」
「でしょうね…私が撃ちます」
すると、たきなは手鏡を使って物陰から相手の位置を把握。その化け物は200m程先にいて、宙に浮いたまま静止している。
「撃ったらそこの建物の影まで走って」
「了解」
たきなは銃だけ物陰から出すと、そのまま連射。一般的に拳銃は至近距離以外では命中精度が落ちる。しかし、たきなはそのずば抜けたセンスで弾を当てた。化け物はそれに怯む。そして、二人は建物の影まで転がり込む。しかし、そこで千束は見た。
一人の冴えない風貌の男性がふらりと建物の間の路地から化け物の前へと現れたのを。
「おじさん!逃げて!!」
「千束!駄目です、今出たら危ない!!」
たきなは咄嗟に飛び出そうとした千束を抑える。そして、銃弾に怒り狂った様子の化け物はそのおじさん目掛けて突っ込んでいく。その後ろにはいつの間にか現れた大量の化け物の群れ。ああ、あのおじさんはもう助からない…たきなは咄嗟にそう考える。
『光の精霊よ……』
しかし、たきなの予想に反してバラバラになったのは化け物の方だった。
「えっ…その、一体何が…?」
「あのおじさん…剣みたいなものでアレを斬ったんだよ…」
「そんな馬鹿な」
そう言いかかったところでたきなは気づく。そのおじさんの片手に光り輝く剣のような何かがある事に。
『炎の精霊よ……』
おじさんのもう一方の腕に炎の塊が現れる。そして、それを残りの化け物の群れへと叩き込む。最早、爆発と例えて言い程の爆炎が化け物達を纏めて消し飛ばす。
「たきな…あのおじさん、魔法使いだよ。間違いない」
「そんな非科学的な…きっと新型のレーザー兵器と火炎放射器ですよ。そうに違いない…」
リコリス二人が呆然とその様子を見ていると、通りの向こうの建物の中から更なる敵が飛び出してきた。その化け物はこちらへと視線を向けている。咄嗟に千束が全弾叩き込む…化け物は被弾した衝撃で仰け反った。だが、非殺傷弾ではそれ以上の効果は望めない。
「チッ!!」
千束が舌打ちする。万事休す…が、思わぬ援軍が現れた。ピンク色に近い長い白髪の少女…問題はその人物が背後の壁を通り抜けてきたという点である。
「え…ええっ!?」
その少女は禍々しい形状と色をした剣を叩きつけると、その化け物をたった一撃で真っ二つに引き裂いた。最早、超常現象と言っていいような事象を見続けたリコリス二人は口をあんぐり開けている。そして、男性の声が響く。
「キサラ!やったか?」
「うん、シュウくん。そこにいた二人も無事。でも…上にまだまだいるよ」
「うわー、なにあれ…ドラゴン?ほんとに悪魔?」
「さあ…でも、厄介な化け物に違いはないかな」
キサラと呼ばれた少女の視線の先には、まさに竜と言っていいような巨大な化け物が複数飛んでいた。そして、キサラはフワリと宙に浮きあがる。
「ちょっと倒してくるね、シュウくん」
「ああ、気を付けて…!?」
そこまで口に出したところでシュウは仰天する。視界の隅にいた冴えない風貌のおじさんまで宙に浮き始めたからだ。流石にキサラも驚いた表情を浮かべる。
「えーっと、あのおじさん…もしかしてあなた達の知り合い?」
「あ、いえ。全くの無関係です」
キサラの問いに対してたきなは即座に否定する。巻き込まれてはたまったものではないからだ。
「じゃあ、あの人は…もしかして悪魔?」
「さあ?話を聞くしか無さそうだ」
そんな話をしていると、頭上で閃光が走る。そして、胴体を引き裂かれた竜が次々落ちていく。一方、下にいた面々は困惑する。今の攻撃は誰がやったのだ、と。
そして、おじさんが何かに気づいたように視線を動かす。その視線の先には一人の人影があった。真っ黒な服装に杖のようなものを持った青年が空に浮いているのだ。すると、その青年は地上へと降りてくる。そして、地上に足を付けると口を開く。
「俺の名はケルヴィン、冒険者を生業としている。で、みんな…この状況を脱する為に手を組まないか?」
「うわ、強そうな人が沢山!おじさん、これでこの人達と力を合わせて脱出するんだね!!」
「あー、いや…この直後に結界を管理している精霊と交渉してな」
「え?」
「脱出した」
「え?共闘する展開は?」
「ない。一人で脱出した」
おじさんがそう語ると、たかふみと藤宮は盛大に頭を抱えた。
(そうだった、おじさんはそういう人だった…)
(一人だけって…一人だけって流石に酷くない…?)
「で、なんで共闘しようと思わなかったの?あの黒い服着た人とかすごい強そうじゃん」
「え?だって、顔がなんかすっげえ怖いし」
「あの宙に浮いていた女の人は?」
「他の人見てる時の目がなんかやばかった。で、一緒にいた男の方もなんか、その…駄目そうな感じがしてな」
「そんな馬鹿な」
おじさんが映像を少し戻す。そこに映っていた少女の顔をたかふみと藤宮は再びよく見てみる。そして、二人に衝撃が走った。
「ほら」
(怖っ!!や、ヤンデレだ!間違いない…)
(うわー…ハイライト消えてる目とはよく言うけどほんとにいるんだ…というか、自分以外の事だけはやたら鋭いな、おじさん)
「じゃあ、あの二人の学生は…助けようとは思わなかったの?」
「ほら、銃持ってて怖かったし…」
「あー…」
たかふみと藤宮は再び盛大に頭を抱えた。
(ああ…やっぱり、おじさんはおじさんだ…)
(相手の記憶消さなかっただけマシか…)
そして、おじさんは映像を閉じると、言った。
「そんな事より、たかふみ。コーヒー飲もうよ」
「うん…」
多分、続かない